おとうとの相談ごと byキクミさま


「ちんちんがチコンロになっちゃった」
 ある夏休みの朝、パジャマ姿のまま僕の部屋に駆け込んできて泣きそうな声で訴えた哲也に、僕はマヌケな困惑顔で
「はぁ?」
 としか答えられなかった。
 だって、弟の言葉の意味がぜんぜんわからないもの。
 いや、ちんちんはわかるよ。チンコ、ペニスのことだよね?
 だけど“チンコロ”って何よ?
「お前、何わけのわからないことを言っているの?」
 冷たい声でたずねる僕に、哲也は目に涙を浮かべた。
「あのね、おちんちんが硬くなっちゃったの」
「は、はぁ……」
 え、えーっと。
 小学2年生の弟にこんな相談をされた、小学5年生の兄はどーゆー反応をすればいいのだろう。
 困惑を深めながらも僕は尋ねた。
「おちんちんが硬くなったって、それをチンコロっていうの?」
 完璧に初耳の言葉だけど、まあ、なんとなくイメージはわからなくはないかもしれない。
「うん、ユウくんとか、ヨシくんとか、サヨちゃんとかがそういっていたよ」
 ちなみに、哲也が今あげた3人はいずれも彼のクラスメートである。
 さらにいうと、他の二人はともかくとして、サヨちゃんというのは女の子。
 最近の小学2年生というのは、一体、常日頃どんな会話をしているんだ??
「でね、サヨちゃんがいうには、おちんちんがチンコロになっちゃうのは、エッチなことを考えているヘンタイだからなんだって」
 サヨちゃん、あなたの将来が僕は本気で心配です。
 いや、今は他人の家の子どもの将来よりも、弟の悩み相談である。
 しかし、いったい、こんな相談にどうしろと?
「で、お前は朝起きてみたらオチンチンがたっていた――その、チンコロになっちゃっていたのか?」
 なみだ目でコクッっと頷く哲也。
 弟の股間部をよく見てみると、確かに幼いアレがパジャマを押し上げているように見えなくもない。
「ねえ、僕、ヘンタイなのかな?」
 げ、ついに本当に涙を流し始めたよ。
 マジでどうしよう。
 普通ならこういうとき『お兄ちゃんにもよくわからないからパパに相談しなさい』というあしらい方をするところなのかもしれないけど、あいにくと我が家は母子家庭。
 しかも、母親は未だ20台前半という、世間一般で言うところのヤンママ(死語)だ。
 よーするに、こういう質問には、やっぱりボクが答えるしかないということなのだが……
 さてさて、どうしたものか。
 というか、小学2年生で普通タチますか? チンコ。
 あ、イヤイヤ、でも朝ダチくらい、別にエッチなこと考えなくてもするよね。
 そうだよ。そうそう。別に特別なことじゃないさ。
「哲也はエッチなことを考えたり、エッチな夢を見たりしたの?」
 ここで首を横に振ってもらえれば『じゃあ、たんにオシッコしたいだけでしょ。トイレにいけばだいじょうぶだよ』と言って終わるかもしれない。
「うーんとね。よく覚えていないけど、夢は見たよ」
 オイオイ。
「ど、どんな?」
「お母さんと二人でね、はだかんぼでお布団の中にいるの。でね、二人でキスしたりしてたの」
 えーっと、お兄ちゃんの客観的な意見を言わせてもらうとですね、なんつーか、それは多分立派なヘンタイさんなんじゃないかと。
「そ、それだけ??」
 だんだんと怖くなってきつつも先を促す僕。
「ううん。もっとあるの」
 ……も、もっとデスカ。
「その後ね、お母さんがボクのお腹とか、お尻とか、オチンチンとかをナメナメしたの」
 は、はぁ。
「でね、その後、ボクのおちんちんが硬くなってきてね。お母さんが『てっちゃん、キモチイイ?』って聞いたの」
 …………
「でね、そうしたら、ボクのおちんちんがどんどんチンコロになっちゃったの。
 あれ、お兄ちゃん、どうしたの、頭をかかえちゃって??」
「い、いや、なんでもない。なんでもないよ」
 なんでもないわけがないが、僕は努めて平静を装いつつ答えた。
「と、ところでさ。朝起きたときおかしかったのはオチンチンだけかな?」
「うん?」
「いや、たとえばバジャマがヨレヨレになっていたとか、なんか全身がベタベタしていたとか」
「そういえば、パジャマが半分はだけてたよ。それに、なんか眠ったあとなのに疲れていたし、お腹とか汗をかいていたみたいだった」
「そ、そう。ま、まあ、とにかく、おちんちんはそのうち収まると思うから。
 今日のこととか夢のこととかは、まあ忘れるとして、ほら、今日は学校でプールがあるんだろ? 早くご飯を食べないとおくれちゃうぞ」
「あっ、いけない!!」
 哲也はそういって僕の部屋から駆け出していった。

「お母さん」
 哲也が学校のプールに出かけた後、僕は母を居間につれてきた。
「何よぉ?」
「ここに座って」
 眠たそうな目を擦る母を、僕は無理やり椅子に座らせた。
「昨日の夜、何をした?」
「何をって……会社で残業して、家であんたの作った夕飯食べて、眠ったわよ」
「眠ったあとは?」
「眠ったんだから、眠っていたに決まってるでしょ。今日哲也に起されるまではね」
「ふーん、その割には、今もずいぶん眠そうじゃない?」
「悪い!? あんたたち二人を養うために、毎日毎日会社と家事とで大変なのよ!!」
 いや、食事作りも掃除洗濯も僕がやってるんデスケド。
 まあ、それはいいとしても。
「そう。それは大変だね。
 だけどだ」
 僕はドンと両手で机を叩いた。
「な、なによぉ?」
「だからといって、子どもの貞操を奪ってもいいってことにはならないだろう!!」
「な、なんてこと言うのよ!? だ、だれが貞操って。誰もそこまではしてないわよぉ!!」
 と言って、はっっと息を呑む母。
 やっぱりね。
 要するに、哲也の言った夢の話は、どうやら僕の予想通り夢ではなかったらしい。
 なんつーか、ここまで簡単に白状してしまうって、わが母ながらどうしたものやら。
「ふーん、そこまではしていないってことは、どこまではしたの?」
「そ、それは……その、下着を脱がして……その……」
「その?」
「ああ、もう、うら若き乙女にこれ以上言わせないでよ!?」
「小学2年生の息子を夜這いにかけておいて何をいうかぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょっと、ご近所に聞こえるっ!!」
「だったら、ご近所に顔向けできないようなことするなぁ!!」
 怒鳴りあった後。
 しばいの沈黙。
「……だって」
 やがて僕から目をそらしつつ、母は言った。
「“だって”なに?」
「去年、あの人が家をでちゃってさ、私だってつらいのよ」
 1年前、父は家を出て行った。もともと婚姻届も出していない夫婦だったらしいから、離婚したというのも正しくないかもしれない。
 それ以来数ヶ月間、母はずっと塞ぎこんでいた。
 半年前のあの日までは。
「母さん、言ったよね。半年前、僕に襲い掛かったときに『もうこんな事はしない』って」
 小さく頷く母。

 そう、あれは半年前。父が死んでから3ヶ月後の夜中。
 3ヶ月も塞ぎこみ、鬱が母を包み込んだ時。
 血走った母の目。
 夜中、僕を押し倒した母。
 そして、その夜、僕は母に犯された。
 大好きな母に押さえ込まれ、行為を強要された夜。
 断片的な記憶。
 思い出したくもない思い出。
 その後、われに返った母は亡きながら僕に謝った。
 そして誓った。もうこんな事はしない、と。
 そして、その次の日から、母は僕たちに少しずつ笑顔を見せるようになった。
 僕たち3人を心配して毎日のように顔を出していた祖母も、安心したのか最近は月に1回くらいしか来なくなった。
 母は元に戻ったんだ。そう思っていたのに。

「わかってる。わかっているわよ。こんなこと許されるわけがないことだってことくらい。でもね。あんたも哲也もどんどん似てくるの。哲郎さんに。私、私、まだ24なのよ。小学校の同級生の中には大学に通って、彼氏つくって、それなのに、私は……」
 それ以上言葉にできず、泣き崩れる母。
 自分の中にあった憤りが急速に萎えていく。
「ごめんね、私、母親失格よね」
 一頻り泣いた後、ぼそりとつぶやく母。
「母さん……」
 こんなとき、なんて言えばいいのか。
「いい母親になろうって、ずっと思ってきたけど、でもダメ。14歳で子ども生んでさ。あの人と二人であんたを育てて。そんで哲也が産まれて。やっと結婚できるって思ったのに。肝心なところで男に逃げられちゃって。あとで哲也にも謝るから。だから許して」
 つぶやくように言葉をつむぐ母。
「哲也はね、昨日のこと、夢だと思ってる。だから、謝らなくていい。あのまま忘れさせたいから」
「……そう。わかった」
「その代わり約束して。今度こそ、本当にもう、二度とこんなことはしないって」
「わかった」
 母は頷いた。
「じゃ、お昼ご飯つくるからさ。哲也もプールのあとでお腹すかして帰ってくるだろうし。ほら、もう涙拭いて」
「うん……」
 僕は立ち上がり、お昼ご飯を作るためキッチンに向かった。
「幸也」
 僕の後姿に、母が呼びかけた。
「何?」
 僕は振り向きもせずにたずね返す。
「いつも、アリガトね」
「どういたしまして」
 僕はそう答えてフライパンを手に取った。
 お昼は……そうだな。哲也の好きなオムライスにしようか。

《完》


キクミさんから相互リンク記念にいただいてしまいました。
それも・・・おいらのサイト始まって以来、
始めての異性もの!!

でも、男の方は子供です。
少年です。
少年が無理矢理・・・萌え(爆)

結構、こういうのもありなんだと、
自分でも再発見って感じでつ(笑)

んで、この小説読んだときに、頭に浮かんだのが
「ハレグゥ」のウェダとハレだったり(笑)
ハレがウェダに無理矢理・・・いいねぇ(爆)

と、そっち方面にばかり目を目を奪われてまつが・・・

まともに書くとけっこう重たい内容を
ユーモアをまぶしてさらっと書かれてます。

いやぁなかなか・・・良い物を頂きました(^^)

ってことで、キクミさん、ありがとうございました(^^)/
このお礼は・・・いずれ・・・おそらく・・・
ひょっとしたら(ぉ

ってことで、今後ともよろしくです(^^)/>キクミさん


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