アクシデント
ある都会の小さくもなく、大きくもない雑居ビル。男は2基並んだエレベータの一つに乗る。エレベータはまるで嫌々仕事をしているかのように、ごとごとと音を立てながら男を上階へと運んでいく。 男の目当ては16階にあるデリバリーヘルス。何度か利用しているが、そこに男好みのボーイが居た。一見、高校生か、それ以下に見えるようなボーイ、何度か男はそのボーイを指名していた。今日は予約は入れてないが、思ったより仕事が早く片づいて持て余した時間でそのボーイを抱きたいと感じた。そう思い始めると、少しでも早くボーイを抱きしめたくなる。男は古いエレベータの遅い動きにいらいらしながら、階数表示のランプを見つめていた。 ようやく目当ての階に到着しても、男は望みをかなえることが出来なかった。目当てのボーイにはすでに客がついていた。向こうも商売、指名があればどんな男とも体を合わせる、そんなことはわかっていたし、指名がかち合うこともこれが初めてではなかった。マネージャーと名乗る男が勧める別のボーイを断って、男はその店を出た。 "あいつは今ごろ他の男とどんなことをしているんだろう・・・" 今までそんなことは気にしなかったが、今日に限って嫉妬が心の奥でうずく。嫉妬? 金のためにしてること。俺もたくさんの客の中の一人、そのボーイが見せる俺へのそぶりも「また会いたい」なんて言葉も、すべて言わば営業用の社交辞令だとわかっているのに・・・ エレベータホールに戻る。すでに一人、下りのエレベータを待っていた。 「こいつもあの店の客なんだろうか・・・」男はそれとなく観察する。 別にこのフロアにはあの店以外にも店はある。しかし、彼はその男があの店の客だという確信があった。なんの根拠もなかったが・・・ 「こいつも、ひょっとしたらあいつを抱いたことがあるのかもしれない」そう思うと、また嫉妬と、そして今日望みを叶えられなかった不満が心にわき上がる。エレベータが到着する。先に待っていた男が乗り込む。 男は動かなかった。 「行きますよ?」先客が男に問いかけた。 「先に行って下さい」男は答えた。こんなやつと一緒には乗りたくなかった。男はエレベータの扉が閉まると、下向きの三角形のボタンを押した。 「どうかしてるな・・・俺」小さく声に出してつぶやいてみた。もう1基のエレベータが上に上がっていく。通過するときに、ごとごとという音がエレベータホールにまで聞こえる。 ようやく、下りのエレベータが到着する。扉が開く。誰も乗っていない。なぜか男はほっとしながら乗り込み、1階のボタンを押して、エレベータの隅に寄りかかった。 がくん・・・ごとごと・・・・・ さっき上がって来たときより、振動が大きいような気がした。階数表示のランプを目で追う。と、急にがたがたとエレベータの速度が落ち、ある階に停まった。 乗ってきたのは、中学生くらいの少年だった。少年は「閉」ボタンを押すと、男には目もくれずに携帯電話をいじり始めた。男はまた階数表示ランプに目を戻した。数字にともったランプは、ゆっくりと左方向に移動していた。 がくん・・・・・ さっき、少年が乗り込んでくる前と同じような衝撃があった。 "また停まるのか・・・"男がそう思ったとき、もう一度・・・いや、さっきの衝撃にくらべるとかなり大きいショックがエレベータの中に伝わってきた。 「あ・・・」そのはずみで少年が携帯を取り落とす。男の足下に転がってくる。男はそれを拾い上げ、少年に渡した。 「あ、すみません」小さく頭をさげて携帯を受け取る少年。 "けっこう・・・かわいい顔してるな"そう思う。が、次の瞬間にはそのことを忘れていた。 階数を示すランプが6階で停まったままになっていた。が、ドアは開かない。しばらく時間が経っても、エレベータは動く気配を見せなかった。 「止まったのかな?」男はつぶやいた。少年はまだ携帯をいじくっている。男は口をつぐんだ。 「故障か?」しばらく待ってもエレベータは全く動かなかった。今度は少年も男の方を見る。 「さっきからずっと止まってますよね」そんなこと、分かり切っている・・・そう思いながらも男は少年の問いに答える。 「さっきがくんとなってから、ずっと動かない」そして、男は階数表示のランプを指さす。かすかな不安が頭をよぎる。 「6階になったままだ。なにかあったのかも知れない」男はエレベータの操作板にある緊急連絡用のボタンを押した。 「もしもし・・・もしもし?」男の問いかけに答えは返ってこなかった。ボタンの脇にあるマイク兼スピーカーからは、低いノイズが聞こえるだけだった。 「ったく・・・どうなってんだよ」男はボタンから指を離した。男の横に少年が近づく。そして、少年がボタンを押した。 「エレベータ止まってるんですけど、誰かいませんか?」少年がスピーカーに向かって話しかける。しかし、やはり反応はない。 「動き出すまで、待つしかないってことか・・・」男はそう言って、エレベータの床に座り込んだ。少年も同じように座り込む。男は少年の手の携帯に目を留める。 「それで外に電話してみてくれないか?」しかし、少年は携帯を床に置いた。 「ここ、圏外なんです」 「でも、さっきメールしてたんじゃないのか?」男は少年に問いかけた。 「エレベータ降りたら送信するつもりでメール打ってただけですから」少年は携帯を取り上げる。それを開いて男に見せた。 「ほら、アンテナ立ってないでしょ?」確かにそこにはアンテナのマークの代わりに「圏外」という赤い文字が表示されていた。 「やっぱり待つしかないってことか・・・」男はエレベータの壁にもたれかかった。 エレベータが止まってから、もう数分が経っていた。しかし、状況は全く変わっていなかった。 男は少年に話しかけてみた。 「君は中学生か?」 「中1です」少年は男の向かいの壁にもたれかかっていた。 「今まで、こんな経験したことある?」あるわけないだろうな、そう思いながら男は聞く。 「初めてですよ、こんなの。あなたは?」 「俺も初めてさ。ったく、どうなってるんだ」男は立ち上がって、再び緊急連絡用ボタンを押した。が、さっきと同じく、なんの反応も返ってこない。 「いいかげん、腹が立ってくるな」男は吐き捨てるように言う。 「意味ないですよね、通じないんじゃ」少年が言う。それからしばらく、二人はなにも言わなかった。 "・・・ったく、あいつともできなかったし、おまけにこんなエレベータに閉じこめられるなんて・・・今日は運が悪い" 男は目を閉じてそう考えていた。さっきからどれくらい時間が経ったろう・・・目を開けて時計を見た。エレベータが止まった時間ははっきりしていないが、たぶんもう10分くらいは経っただろう。その間、エレベータは全くぴくりともしない。もちろん緊急連絡用のスピーカーからも何の音も聞こえてこない。 少年は目を閉じていた。少年を観察する。なかなかかわいい顔をしていた。こんな少年とやれたらなぁ、などと思う。薄い唇にしゃぶりつけたら・・・この唇にくわえさせられたら・・・そんなことを思いながら見つめていると、急に少年が目を開いた。男はあわてて目をそらす。少年が立ち上がって、また緊急連絡用のボタンを押す。 「もしもし、もしもし」なんとなくいらだっているような声だった。その体を見つめる。服の上からでははっきり分からないが、なんとなく適度な肉付きの体、そして、その尻・・・少年がスピーカーに話している間、男はずっとそこを見ていた。この尻の中でいけたら・・・男は勃起した。 「もう・・・どうなってんだよ!」少年がいらだち、エレベータの壁に拳を叩きつけた。 「いらいらするなよ。動き出すのを待つしかないんだから」男は少年に言う。少年は狭いエレベータの中を歩き回る。 「おい、いい加減落ち着けよ」少し大きな声でたしなめるように言う。少年はようやく動きをとめて床にあぐらをかいて座り込んだ。男は少年の股間に目をやる。少年がその視線を遮るように股間に手をあてた。男は一瞬自分の考えていることが少年に伝わっているのかと思った。が、少年が小さくつぶやくのを聞いてそうではないことが分かった。 「・・・トイレ行きたい」目の前で股間に手をあて、小便をがまんしている少年・・・男は欲情する。しかし、それを悟られないように話しかける。 「きっともうすぐ動くから、もうちょっとの辛抱だ」 「でも、このまま動かなかったら・・・もう、ヤバいかもしれない・・・」消え入るような声だった。 「何なら・・・俺達だけなんだから・・・隅ででもすればいいさ」少しどきどきしながらそう言う。 「そんなの・・・できないよ、普通・・・」 「でも、この状況は普通とは言えないと思うけどな」男は少し笑って答えた。男の笑顔に少し安心したのか、あるいは男との会話で少し尿意を忘れることができたのか、少年は男に近寄って、その横に座り込んだ。 「こんなこと、テレビの中だけだと思ってた」少年がうつむいたまま言った。 「絶対にあり得ないわけじゃないけど・・・貴重な体験だろうな」すこしふざけたような口調で言ってみる。 「みんなに話しても、信じてもらえないかもね」ほんの少しだけ、少年が男に対して打ち解けた様子を見せる。男は少年の頭を軽く叩いてみる。 「話してみればいいさ、学校ででも」 「そうだね。信じてもらえるかなぁ」少年が顔を上げて、少しだけ笑った。男も笑う。その少年の笑顔が男の中のスイッチを押した。 「お前、中学生か?」そう聞いてから、さっきも同じ質問をしたことを思い出す。 「うん・・・1年」少年は同じように答える。 「そっか・・・」少年は男に少しだけ体を寄せた。男が少年の肩に手を回す。少年はそれをどう感じたのか・・・少なくとも、男の気持ちは少年には伝わっていない。 「大丈夫か?」男がそれとなく尋ねる。 「なにが?」 「トイレ行きたかったんだろ?」男はわざと少年にそれを思い出させる。 「うん・・・あの・・・」 「なに?」 「ほんとにここでしちゃってもいいの?」男の思っている方向に事態が進んでいく。 「ああ。俺だってそのうちしたくなるかもしれないし・・・お互い様だろ?」 「そうだね・・・じゃ・・・・・」少年が立ち上がった。男はその背中を目で追った。 「見ないでね」 「ああ」しかし、男はその様子を凝視した。やがて、少年の放尿する音と、かすかな小便臭さが伝わってきた。男はそっと立ち上がった。 少年の放尿はなかなか終わらなかった。ようやく少年がそれを終えたとき、少年の背後から男が抱きすくめた。 「な、なんですか?」 男は少年の横から股間をのぞき込んだ。股間を少年の手が覆い隠す。男はその手をつかんで後ろにねじ上げた。 「や、やめてよ。痛いよ」しかし、男はそのまま少年をエレベータの床にねじ伏せ、その背中に馬乗りになった。 「こんなところでふたりっきりで、しかも小便までするようなお前が悪いんだからな」男は無理矢理少年のズボンをずり降ろそうとする。少年はもがく。片手が男の手から自由になる。少年はその手で必死にズボンを押さえる。 「な、なにするんですか!」 男が背後から少年の首をしめる。その手を振り払おうとする。すかさずズボンを降ろす。少年の白い尻が露わになった。 「やだっ! やめろ」少年が仰向けになる。男は両手を握ってその腹に振り下ろした。 「がは!!」少年の口が大きく開く、すかさず今度は腹の上に馬乗りになり、むりやりズボンをはぎ取った。少年は男の背中を殴りつける。が、男はびくともしない。男の手が少年のペニスをつかんだ。 「やめろ!」少年が叫ぶのと同時に、男は拳を少年の睾丸に振り下ろした。 「あぐ・・・」少年が床で丸まった。動きが止まる。男はゆっくりと立ち上がり、つま先で少年の体を転がす。そして、脱がせたズボンを使って手を背中で縛り上げた。 「今日は運が悪い日だな」そう言いながら、男は少年を仰向けにし、足を持ち上げてペニスにむしゃぶりついた。 「いやだ、やめろ!」男は少年の叫びを無視して、口でペニスに刺激を与える。かすかに小便の味とにおいがする。唇で包皮をずり下げ、亀頭に刺激をくわえる。 「あ・・・い、いやだ・・・」心なしか、さっきより声が小さくなる。男がさらに刺激をくわえ続けると、少年のペニスは男の口のなかで堅くなっていく。いったん、そこから頭を離す。少年のペニスをじっくりと観察する。ゆっくりと包皮を下ろす。亀頭はまだきれいなピンク色だった。根本には、まばらに毛が生えかけている。男が手を離すと、それはぴくぴくと脈打つように揺れていた。 「勃起させてるじゃないか。え?」そして、男は少年の体に覆い被さり、口に吸い付いた。少年は口を堅く閉ざす。かまわず舌をねじ込んで、少年の歯にそって動かす。その気持ち悪さからか、かすかに少年が口を開くと、すかさず舌をねじ込んだ。 「ぐふ・・・」少年の喉が鳴る。長く激しいキス・・・勃起したままの少年のペニスをしごく。 「や、やめて・・・」少年の声は小さくなっていた。男はそのまま少年のペニスをしゃぶり、睾丸からアナルに舌を這わせた。 「やだ・・・」少年の体から力が抜けていく。男は少年のピンク色のアナルを舐める。 「あ・・・」少年の口から、拒絶とも、あえぎともとれる声が漏れる。男の舌が少年のアナルをこじ開ける。 「い、いやだ」しかし、少年のアナルは男の舌を受け入れていた。男は人差し指を口に含み、たっぷりと唾液を付けるとそのままアナルに差し込んだ。 「んん・・・」少年は目を閉じて歯を食いしばった。人差し指は根本まで少年の中に入る。男は指を2本に増やした。 「い、痛っ」少年の体に力が入る。 「痛くされたくなかったら、力抜け」少年は男の言うとおりにする。 「そうだ・・・早く終わりにしてほしかったら、言うとおりにしろ」少年はこくんと頭を上下に動かす。目にかすかに涙がにじんでいた。 「いい子だ・・・」そして、男は少年の足を離し、髪の毛をつかんで頭を持ち上げた。そのまま自らの股間に押し当てる。勃起したペニスを少年の顔に押しつける。 「いいか、言うとおりにするんだぞ」男はチャックをおろして勃起したペニスを取り出す。 「俺がしたように、口でするんだ」しかし、目の前に突きつけられた男のペニスから、少年は顔を背ける。 「殴るぞ」男は少年の顔を押さえつけた。薄い唇にペニスの先端を押しつける。少年は観念したように目を閉じて口を開いた。 「そうだ。唇と舌でするんだ」男のペニスが少年の口を犯す。男はそのままエレベータの奥の壁にもたれかかり、そして床に座り込む。下半身裸の少年が、男の股間に顔を埋めていた。少年の手を縛っていたズボンが、いつの間にか床に落ちていた。 「このまま動き出して、ドアが開いたらどうなるかな」男がつぶやく。少年の動きが一瞬とまる。 「もし、今ドアが開いたら、お前のけつが丸見えだな」男が少年の頭を押さえつけたまま言う。 「そうなるのがいやだったら、動き出すまでに終わらせないとな」男が少年の頭を股間から引き離す。 「お前が素直にいうことを聞けば、すぐに終わる」そして顔を引き上げる。今度は少年は素直に口を開く。男がその口にむしゃぶりつく。 「はぁ・・・」少年がため息を漏らす。ペニスが脈打つ。 「ほら、立って壁に手をつけ」素直に従う少年。 「力抜けよ」男は少年の後ろにしゃがみ込む。 「あ・・・」アナルを舐められる感覚に、少年が声を上げる。男は丹念に少年のアナルを舌で広げる。たっぷりと唾液を塗りつける。 「入れるぞ」男が背後に覆い被さるように立つ。そして、勃起したペニスを少年のアナルに押し当てた。 「い、痛っ」少年が苦痛の声を漏らす。男はかまわず腰を押しつける。 「痛い、痛いって」少年が腰を引くが、男はかまわず挿入を続ける。少年の体を壁に押しあてるようにして、男は少年の奥まで入った。 「いぃぃ・・・」少年が歯を食いしばる。男が腰を動かす。エレベータがかすかに揺れる。少年の口から苦痛のうめき声が漏れる。 「ほら、どうだ」男が背後から声をかける。腰の動きが早く、力強くなる。少年の体が男の動きにあわせて持ち上がるように動く。そのたびに、少年はつま先立ちになり、その体が壁に押しつけられる。 「く・・・は・・・はぁ・・・」 「今、エレベータが動いたらどうする?」男が少年の耳元でささやく。背後から少年の腰を抱えてエレベータのドアの方に動く。少年はドアに手をつく。そのまま少年は犯される。 「ドアが開いたら、正面から丸見えだな」そう言いながら、男は少年を突き上げる。 「けつ犯されて、勃起させてるとこ、見られたらどうする、え?」そして少年のアナルにペニスをねじ込む。 「う・・・ん・・・」 「ほら、気持ちいいんだろ、もっと声出せよ」男は腰を引き、そして少年のお尻に打ち付ける。 「あぁ・・・ん・・・・はぁあ・・・」少年がうめき声をあげる。ペニスから透明な液体が床にしたたり落ちる。男が少年の奥まで入る度に、少年のペニスはエレベータのドアに打ち付けられ、そこに銀色の跡をなすりつける。 「ほら、行くぞ」男の腰の動きが一層激しくなる。少年はエレベータのドアに体を押しつけた。その少年のアナルの奥で、男が激しく動いていた。 「う・・・あぁ・・・・はぁ・・・」 少年のあえぎ声を聞きながら、男は最後に思い切り腰を少年に打ち当て、その体の奥に放出した。少年はエレベータのドアに体を押しつけ、男のペニスを根本までくわえ込んだまま、ペニスから精液を吹き出した。それはエレベータのドアに飛び散り、ゆっくりと滴り落ちた。 男は少年の体からペニスを引き抜くと、それを少年に舐めさせた。さらにドアに飛び散った少年の精液も舐めさせる。下半身裸のまま、床にひざまづいてドアに付着した自分の精液を舐める少年を見て満足した。 「俺もしたくなったな」男は自分の前に少年をひざまづかせる。 「こぼすなよ」ペニスを少年にくわえさせ、そのまま放尿した。少年はそれを喉をならして飲み込んだ。 少年がズボンをはき、男の横に座り込んだのとほぼ同時にエレベータががくんと揺れ、ゆっくりと動き出した。 「動いたな」 「うん」二人は正面を見たまま言葉を交わす。 「悪かったな」男が少年に謝る。 「うん」少年は気のない返事を返す。 「誰にも言うなよ」 「わかってる」二人の間には、奇妙な連帯感があった。 「大丈夫ですか?」ドアが開くと、そこには警備会社の制服を着た男が3人立っていた。 「ああ、ようやく助かったよ」男が答える。 「大丈夫だったかい?」制服の一人が少年にも尋ねる。 「うん」少年は軽くうなずく。 「申し訳ありませんが、少しお話をお聞かせ願いたいのですが」警備員が男に言った。 「いや、べつになにもなかったし、特に話すこともないので」男は警備員の制止を振り切って歩き出した。少年も同じように男の後を追った。 1階のエレベータホールに取り残された警備会社の男が、エレベータの中に入った。一瞬、異様なにおいに顔をしかめた。あわてて男と少年を呼び止めようとしたが、二人はすでにビルの玄関から出ていくところだった。 玄関を出て、男は左に、少年は右に曲がって歩き出した。少年は途中で立ち止まって、男の方を振り返った。しかし、男は少年に背を向けたまま、歩き去った。 <アクシデント 完> |