雨の日

家を出てほんの数分歩いたところで、この季節にはめずらしく急に降ってきた。まるでシャワーのように雨粒が勢いよく地面を叩く。俺が持っていた折り畳みの傘ではまるで役にたたない位の激しい雨。仕方なく、俺はとあるビルの軒下で雨宿りする羽目になった。
「ったく・・・まるで嵐だな」
誰もいないその場所で一人毒付いた。
「この分じゃ・・・約束の時間には間に合わないか」
しかし、元々あまり気乗りしない約束だったから、そんなに残念とも思わない。俺は携帯でメールを送る。
『雨で足止め中。予定、キャンセルしたい』
すぐに返信があった。
『みんな雨で来れないみたい。来週に延ばそうか』
これで、今日は1日フリーになったわけだ。別に残念とは思わない。さりとてうれしくもない。明日も休みだし、一人暮らしのアパートで散らかり放題の部屋の片づけでもするか・・・そうぼんやり考えながら、空から落ちてくる雨粒を見上げていた。
と、そこに彼が来た。

その少年は傘も持たずにずぶ濡れで走ってきた。髪の毛が雨に濡れて額にへばりついている。
「ったく、もう・・・」
濡れた髪の毛から、雨水が顔を伝って流れ落ちる。それを濡れた袖で拭おうとする。俺はハンカチをその少年の方に突き出した。
「ほら、使えよ」
「あ、ありがとう」
敬語を使わない少年の態度を少し不快に思いながら、それでも俺のハンカチで顔を拭っている仕草には子供らしさを感じる。
「傘、持ってこなかったのか?」
一応、天気予報では急な雨に注意、とは言っていた。だから、俺は折り畳みの傘を持って出たんだけど・・・
「持ってない」
少しぶっきらぼうな態度。いや、物怖じしない、というべきか。
「ありがと」
水を吸ってくしゃくしゃになったハンカチを、畳み直しもせずに俺に突き出す。俺はそれを受け取る。
「家はこの近くか?」
「違う」
「どうやって家まで帰るんだ?」
「電車」
そんな、ほとんど単語しか返ってこないような会話を交わす。
「そんなずぶ濡れで電車に乗るのか?」
少年は、両手を広げて自分の体をながめる。ひどい有様だということに初めて気が付いたようだった。少し足踏みのような仕草。そのたびに、少年のスニーカーからぐちょぐちょと音がする。
「だって・・・仕方ないじゃん」
そう言って、少年はスニーカーを脱いで、ひっくり返す。中に入った水が垂れる。
「ウチに来るならタオルくらい貸してやるよ」
「要らない」
会話がまったく弾まない。俺は、それ以上の会話はあきらめた。

「ね、携帯持ってる?」
突然、少年が言った。俺は鞄の中から携帯を取り出す。
「貸して」
少年が俺に手を突き出す。
「はあ?」
「電話するから、貸して」
まったく、ずうずうしいにもほどがある。大人はそうするのが当然、とでも思っているのだろうか・・・
「電話くらい、自分の携帯ですればいいだろ?」
「電池切れ。貸してよ」
この・・・ガキ。少し頭にきつつも、俺は少年に携帯を差し出した。少年は俺の携帯を受け取ると、電話をかける。
「あ、僕です。うん。そう・・・です。雨宿りしてるから・・・はい、遅くなります」
そして、黙って俺に携帯を突き出す。
俺に対する態度と、携帯で話す態度の違いに驚きながら、腹立ち紛れの皮肉を込めて言った。
「貸してやったんだから、礼くらい言って欲しいもんだな」
「ああ、ありがと」
全く心がこもっていなかった。

しばらくすると、雨が小降りになってきた。俺は折り畳みの傘を開く。
「じゃ、な」
別に無言で立ち去ってもよかったが、なんとなく"俺には傘がある"ことをこの少年に見せつけたくなって、わざわざ声をかける。が、少年は無視だ。
ったく・・・俺は軒下から1歩踏み出した。
「あ、待って」
急に少年が声をかけてきた。
「ね、家で携帯充電させてよ」
最近のガキはみんなこうなんだろうか・・・少しあきれながらも、俺は傘を半分少年に譲った。少年は、さも当然とでも言いたげに傘に入ってきた。相変わらず・・・礼は無しだ。

「きったねーの」
俺の部屋に入ったとたんに少年が吐き捨てた。
「お前・・・もうちょっとなぁ」
俺が文句を言いかけたとたん、また少年が言う。
「ね、充電器どこ?」
「充電器ったって・・・お前の携帯に使えるかどうかわかんないよ」
「大丈夫。さっきの携帯Doconoだったでしょ? だったら使えるから」
図々しいを通り越して・・・なんだろうな、こいつは。
「ほらよ」
俺は充電器を投げてやった。それを受け取ると、ズボンのポケットから携帯を取り出そうとする。しかし、雨がたっぷりとしみこんだズボンからは、なかなか取り出し辛いようだ。
「もう・・・」
そして、急にズボンを脱ぐ少年。
「おい」
俺は少しどぎまぎする。
トランクスのまま、脱いだズボンのポケットから携帯を取り出す。そのままあぐらをかいて座り込むと、床に転がっているティッシュペーパーの箱から勝手に4,5枚引き出して、それで携帯を拭う。充電器を携帯につないで、コンセントに差し込む。
「1時間くらい、いい?」
携帯を脇に置いて、俺の顔を見上げた。
「その間、どうやって時間潰すんだ?」
「ゲームないの?」
「ない」
俺はゲームはしない。すると、床に散乱している様々な物の中からテレビのリモコンを拾い上げて、勝手にスイッチを入れる。適当にチャンネルを切り替えて、お笑い番組を見つけると、そこでリモコンを放り出す。
「お前なぁ・・・」
ほとほとあきれる。しかし、それで終わった訳じゃない。少年は、なにを思ったか、上の服まで脱ぎ始めた。
「ね、乾燥機ないの?」
「ない」
本当はある。一人暮らしの必需品だ。でも、このガキに貸すつもりはない。
「あっそ。これ、干しといてよ」
ガキが俺に服を投げてよこした。
さすがに俺もぶち切れた。俺はガキの腕をつかんで、ドアのところまで引きずった。
「痛えよ、なにすんだよ」
俺はドアを開けて、ガキを外に放り出した。すかさずドアを締めて、鍵をかける。ガキが家の外からドアを叩く。
「なにすんだよ、開けろよ」
俺はタンスの引き出しからタオルと着替えを取り出し、体を拭いて着替えた。その間もガキはドアをどんどんと叩く。もう少し放っておきたいが、このままでは近所迷惑はなはだしい。
「お前、人の家に来て、その態度か?」
俺はドア越しにガキに話しかけた。
「そもそもハンカチを貸しても礼も言わない。携帯も借りて当然って態度。しかも、干しといてだと?」
「なんだよ、それくらいいいじゃんか」
「そうか。じゃ、そこでずっとパンツ1枚でいるんだな」
近所の手前、そうもいかないんだよなぁ・・・そう思いながらも少し脅してみる。
「開けろよ、この・・・」
俺はドアを開けた。ガキが飛び込んでくる。そのガキのトランクスの後ろをつかんで床に押し倒す。うつ伏せになった上に馬乗りになって、俺はガキの頭をかるく小突いた。
「なんだよやめろよ」
「お前・・・何か言うことあるだろ?」
「なんだよ」
「ごめんなさい、は?」
「なんで謝らなきゃならないんだよ」
俺はガキのトランクスをずり下げた。日に焼けた肌の色とは対照的な、白い尻が目の前にあった。俺はそれを平手で叩いた。
「な、なんだよ、変態」
「言うこと聞かない奴はお仕置きだ。親にされなかったか?」
そう言いながら、俺は2度、3度とその尻を叩く。
「わ、わかった、ごめんなさい、ごめんなさいって」
「心がこもってない」
もう一度叩く。
「ごめんなさい!」
俺は叩く手を止めた。
「ったく・・・礼儀知らずだな、お前は」
俺は少年を解放した。
少年は急いで立ち上がると、トランクスを引っ張り上げた。
「この・・・変態」
「なにぃ」
少年は俺から素早く離れた。まるで子犬だな、と感じた。

「あの・・・」
俺が怒ったせいか、ほんの少ししおらしい態度を見せる。
「なんだよ?」
今度は俺がぶっきらぼうに答える。
「タオル貸してよ」
「貸して下さい」
俺が言い直す。
「貸して下さい」
しぶしぶ、という感じだった。
「ほら」
俺はタオルを投げて渡す。少年はそれを受け取って、頭をくしゃくしゃと拭き始めた。
「ねえ、着替え貸してよ」
「貸して下さい」
学習しない奴だ、そう思いながら、また俺が訂正する。
「貸して下さい」
めんどくさそうな声を出す。俺のTシャツを渡してやる。
「これ、ちゃんと洗ったやつ?」
そのTシャツの臭いを嗅ぐ。
「嫌なら返せ」
少年は、黙ってTシャツを着る。そのとき、少年の体にいくつもの痣があることに初めて気がついた。
「ね、今何時?」
「ん・・・4時過ぎ」
「えぇ〜」
少年が大きな声を出す。そのわりにはあわてた様子はない。
「もう・・・間に合わないじゃん」
少年は、充電器につながったままの携帯を拾い上げて、どこかに電話した。
「あ、僕です・・・はい、すみません、今日は行けなくなりました」
さっき携帯で電話したときと同じように、妙に丁寧な言葉使いだった。
「はい、分かってます・・・でも・・・すみません」
そして、俺の方をちらと見て背を向けると、なにやらもごもごと話して電話を切る。
「あーあ、今日の予定がなくなっちゃった」
「だから?」
「泊めて」
俺は驚く前にあきれかえった。
「お前なぁ・・・なんで泊めなきゃならないんだ?」
「いいじゃん、べつに。彼女とかいなさそうだし」
ずばり、嫌なところを突いてくる。
「だからって、なんでお前を泊める必要があるんだよ?」
「家に帰りたくないから」
「それはお前の事情だろ?」
さっきの体の痣を思い出す。ひょっとしたらこいつ、親に虐待されていて、それで家に帰るのがいやなんだろうか・・・だからといって、俺ん家にこんなガキを泊める理由にはならない。俺は床に放り出してあるこの少年の携帯を拾い上げた。
「お前、さっきこの携帯で家に電話したろ? 俺が家に電話してやるから帰れ」
発信履歴から、少年がかけた番号を選ぶ。
「それ、家じゃないよ」
「嘘つけ」
「今日行く予定だったとこ。かけてみれば分かるよ」
どうやら本当らしい。そして、発信履歴には、この番号一つしか表示されていない。
「どこでもいい。とにかく、電話するからお前はそこに行けよ」
「やだ」
「行け」
少年は、少しむっとした表情を浮かべる。
「あのさ・・・そこってどんなとこか知ってるの?」
「そんなことは俺の知ったこっちゃないだろ」
「そこに行ったら、俺、体売らされるんだよ」
「はあ?」
少し声のトーンを落として言った少年の言葉がすぐには理解できなかった。
「おっさんは知らないだろうけど、そういうとこなんだよ」
「女じゃあるまいし・・・」
「おっさん、ホント、知らないんだね」
少年は、俺の手から携帯を奪い取ると、ボタンを押して、俺に画面を見せた。
「こんなことするんだよ」
携帯の画面では、少年が全裸で縛られていた。
画面の少年と同じ顔が、画面の向こうで携帯を俺に見せていた。




「脱げ」
ゲストの視線が少年に集中する。少年はうつむいたまま服を脱いだ。少年が緊張しているのが見て取れる。シャツを脱ぎ、ズボンを下ろす。靴下を脱ぐ。少年がトランクスに手をかけた。
「それはまだ脱ぐな」
男が言った。少年が顔を上げた。びくびくとした表情だった。
「そのままこっちに来い」
男の前に少年が立つ。男は少年の体に縄をかけ始めた。
「昨日は命令に背いたんだから、覚悟しておけ」
少年の体に縄が食い込んでいく。ゲストの視線もその体に食い込む。少年は、なるべくその視線を感じないように目を閉じる。しかし、この程度のことは、自分がこれからさせられる恥ずかしいこと、辛いことに比べれば全然大したことではない、というのも分かっていた。

少年は、縛られたまま、ゲストの前に引き出された。トランクス1枚だけ身につけた少年の体に、荒縄が食い込んでいる。ゲストの男達は、その体をなめ回すように見つめる。少年は、その視線に犯されているような気分だった。
好奇に満ちた視線を送り続ける男達の中に、少年は立っていた。少年を縛った男が部屋の隅に引き下がる。ゲストの男達の手が少年に伸びる。手が触れたその一瞬、少年は目を開いた、しかし、すぐに目を閉じる。今度は堅く。
男達の手が少年の体をなで回す。トランクスに隠された少年の尻やペニスにも手が這い回る。薄い布1枚で隔てられたその部分が、男達の餌食になるのは時間の問題だった。
男の一人が、少年の中心をトランクスの上から軽く触れる。
「ん・・・」
小さなため息のような声が少年の口から漏れる。少し腰を引きかけた少年の体を後ろの男が押し戻す。
「感じるんだろ?」
その声に少年は顔を上げ、目を開く。悲しい目だった。

少年を縛り上げた男が、小さな鞄を持って少年に近づいた。
「や、やだ・・・やめろ」
小さな声だった。少年の目におびえた色が浮かび上がる。弱々しく首を左右に振り、後ずさろうとする少年を、男達が押さえつける。
「さあ、踊ってもらおう」
男が鞄から注射器を取り出し、少年の細い腕に突き立てる。男達よりも先に、注射器の中の液体が少年を犯し始める。
「やめ・・・やめてよ・・・」
少年の声がますます小さくなっていく。男達は少し期待を込めて少年を見つめていた。

少年は、天井から吊されていた。両手がそれぞれ天井の滑車から降りているロープに結ばれていた。足はまだ床からは離れていない。そんな状態で少年は下を向き、荒い息をしている。
男の一人が少年の髪の毛をつかみ、顔を上げさせる。半開きの口にむしゃぶりつくようにキスをする。少年の口の中に男の舌がねじ込まれる。まるで口を犯しているかのようだった。その間にも、別の手が少年のトランクスの上からペニスをなでる。少年の意志とは関係なく、ゆっくりと、徐々にそのペニスは堅さを増していた。
「うぅ・・・」
男の口でふさがれている少年の口からうめき声が漏れる。誰かがトランクスの上から少年のペニスをつかみ、しごき始める。荒々しく、乱暴にしごかれるペニスは、ますます堅くなっていく。トランクスの後ろ側が引き裂かれる。男の手が少年のお尻を押し広げ、アナルを衆目に晒す。
「さて、少し離れていただきましょう」
少年を縛り上げた男がゲストに言った。ゲストの男達は、少年から少し離れ、輪になった。その中心に、少年と男が立っている。男は鞭を手にしていた。
「後ろの方、気を付けて下さい」
鞭を持った男が、鞭を振り上げる。そして、少年の背中めがけて振り下ろした。
パシィ!
部屋に乾いた鞭の音が響いた。同時に少年のうめき声も。
パシィ!
男は何度も鞭を振り下ろす。少年の背中に赤い筋が何本も刻まれる。少年は上半身を仰け反らし、もがいた。
「ほら、もっと踊れよ」
さらに鞭が振り下ろされた。その音に合わせて、少年は体をくねらせて踊り続けた。
「マスター、俺にもやらせてくれ」
ゲストの男達の中の一人、でっぷりと太り、赤ら顔で頭のはげ上がった男が、鞭を持った男に言った。マスターと呼ばれた男が鞭を太った男に渡す。
「ほら、踊れ」
太った男は少年に鞭を振り下ろす。間髪入れずに何度も何度もそれを繰り返す。赤いみみず腫れが、赤い血の筋に変わっても、太った男は何ら躊躇しない。少年は鞭から逃れようと身もだえする。しかし、そんなことでは鞭から逃れることは出来なかった。
ゲストの男達が、順番に鞭を受け取り、少年に振り下ろした。今や、少年の背中は皮膚が引き裂かれ、血塗れになっていた。
「うぅぅぅ」
少年は、うめき声を上げ、震えていた。
「さて、お前のここはどうなっているか、みなさんに見ていただこうか」
マスターと呼ばれた男が、かろうじて体に残っているトランクスだった布きれを引き裂き、はぎ取った。全裸になった少年のペニスは勃起していた。
「こんなにされたのに、感じるんだからなぁ」
マスターがおどけた調子で言い、少年のペニスを平手で叩く。
「ガキのくせに、こんな体になっちまったなんてな」
マスターは、少年の睾丸をつかんだ。
「誰のせいだろうな」
そして、その手に力を込めた。
「うあぁぁ」
少年がもがく。
「誰のおかげでこんな体になっちまったんだ?」
強烈な痛みが少年の股間を襲う。マスターは強く、握りつぶそうかというくらいに力を込める。少年が苦痛の中、声を絞り出す。
「え、なんだって?」
少年は小さな声で、とぎれとぎれに答えた。
「そうだな、あいつらのせいでお前は・・・」
マスターは少年の睾丸を握ったまま言った。
「そして、お前はこういうプレイが大好きになっちまったもんな」
男が少年の睾丸から手を離す。ここまではいつもの儀式のようなものだった。
「ふんっ」
男が少年の股間を思いっきり膝で蹴り上げた。
「がは!」
少年は上半身を折り曲げ、つま先立ちになる。両手を吊り上げられたまま、股間の痛みに耐えるため、体を左右に小刻みに揺らす。
「踊ってる」
ゲストの中の一人が鼻で笑いながら言った。
「みなさんもどうぞ。潰れてもかまいませんよ」
マスターはそう言って、少年の前から離れた。少年の前に、ゲストが列を作る。そして、順番に少年の睾丸を蹴り上げた。少年を踊らせるために。




結局、俺はこの少年を泊めてやることにした。この少年がどういう事情であのような画像を撮られたのか、なぜそんなことに関わっているのか、なぜ家に帰りたがらないのか、疑問はいくつもあった。でも、それでも見ず知らずの少年を家に泊める理由にはならない。それでも泊める気になったのは・・・はっきり言ってしまえば、全く帰ろうとしない少年に根負けしたからだ。もし、俺が無理矢理追い出して、あの画像みたいなことになったら・・・多少、寝覚めが悪いというものだ。1日くらいなら泊めてやってもいいだろう、そう考えたのだが・・・

夜になると、少年が勝手に冷蔵庫を開けて夕食を作り始めた。少年は俺のTシャツにトランクス、その上に台所に吊しておいたエプロンを勝手につけていた。彼の服は、乾燥機の中でぐるぐる回っていた。乾燥機がないという嘘は、少年を泊めてやると決めたすぐあとにばれていた。
やがて、テーブルの上に、それらしい料理が並ぶ。俺が作るより、よっぽど料理らしかった。
「ほぉ・・・それらしいの作るじゃないか」
俺が言うと、少年は少し自慢げな顔をする。
「食べてみなって。けっこううまいから」
確かに、かなりの味だった。まさか、俺の家の食材で、俺の家にある調味料でこれだけの味が出せるとは思わなかった。
「ふぅん・・・態度は最低だけど、料理はうまいんだな」
「んだよ、態度は最低って」
「事実だろうが」
「料理だけじゃないよ、得意なのは」
「他になにが得意なんだよ?」
「おっさんには言わないよ」
そういって笑う。笑顔だけ見ていると、普通のどこにでもいる少年なんだけどな・・・
「ま、とにかく食べよう」
久しぶりの、一人きりじゃない食事だった。




「玉で遊んでもらったら、次はけつだな」
マスターが両手を吊り上げていたロープを少しゆるめ、少年にお尻を突き出すような恰好をさせる。
「ほら、お前からも言うことがあるだろ」
マスターが少年の髪の毛をつかむ。
「ぼ、僕のお尻を使って下さい」
棒読みのせりふだったが、男達にはそれで十分だった。
ディルドが5個用意された。ゲストは6人。くじ引きで順番を決める。
「じゃ、1番はこの一番小さいディルドで」
マスターがそう言ってゲストに渡したディルドは、それでもかなりの大きさだった。マスターが少年のアナルにローションを塗る。指をつっこんで、内側にもしっかりと。そして、1番目のゲストが無言でディルドを奥まで突っ込んだ。
「うぅ」
少年はうめく。しかし、少年のアナルは、そのディルドを受け入れる。
「次、2番の方、お願いします」
2番目のゲストは、1番目のそれより少し太いディルドを渡された。やはり無言でそれを少年に挿入する。そして、少しずつ太いディルドが少年の穴を広げていく。
「最後のゲストの方」
マスターに呼ばれたのは、あの太った男だった。
「最後は、腕を入れてやって下さい」
マスターは、太った男の腕にローションを塗りつけた。
「ひひっ」
太った男はいやらしく笑うと、拳を握り、そのまま少年のアナルに押しつけた。
「いぃぃぃぃ」
太った男が力を込めて、少年のアナルに拳を押しつける。これまで広げられてきた少年でも、簡単には拳は入らない。しかし、太った男は力任せに少年に拳をぶち込んだ。
「ぐあぁ!」
少年の上半身がのけぞる。太った男はさらに腕を押しつける。徐々に、少年のアナルに男の腕が押し込まれていく。それと同時に、少年のアナルから鮮血が滴り落ちる。
「まだ先があるので、ここはその辺で」
マスターが太った男に言う。太った男は、少年のアナルから腕を引き抜いた。
「うう・・・」
少年が気を抜いた瞬間、太った男は再び腕を少年のアナルにぶち込んだ。
「ぎゃぁ」
裂けた少年のアナルは、男の腕を飲み込んだ。と同時に、少年は白目をむいて気を失った。

バケツの水が少年に浴びせられ、少年は意識を取り戻した。
荒縄は解かれていたが、両手、両足にそれぞれロープが掛けられ、うつぶせで大の字のように天井から吊されていた。
目の前に男が立っていた。勃起したペニスが顔面に打ち付けられる。少年は頭を上げ、条件反射のように口を開く。男が口の中にペニスを入れる。少年の頭を抱えて喉の奥まで無理矢理突っ込む。少年が苦しそうにえづいても、男はお構いなしだった。そのまま腰を前後させる。少年が胃の中のものを吐いた。それでも男は喉を犯すのをやめなかった。別の男が少年の開かれた足の間に立つ。腕を少年のアナルに押しつける。少し小柄な男の腕は、あっさりと少年のアナルに飲み込まれた。小柄な男は、腕を引き抜くと、両手を合わせて少年のアナルに押し込んだ。
喉を犯していた男がようやく少年の前から離れた。そして、両手を少年のアナルに突っ込んでいた小柄な男が、その中で手のひらを返し、扉を開くかのように、両手で少年のアナルをこじ開ける。
「いいいいいっ」
少年のアナルが引き裂かれ、血が滴る。別の男がさらに片手をつっこむ。小柄な男は片手を引き抜き、今度は二人がそれぞれに少年のアナルにかけた手を引く。
「ぎいぃぁ」
少年は声にならない悲鳴をあげる。床に血が滴り落ちる。やがて、3人目がアナルに手を入れ、それを少年の背中の方に引いた。
また少年が気を失った。




「さっきの画像のこと、聞いてもいいか?」
1組しかない布団を譲ることまではさすがにしなかった。少年は俺の布団の横で、床の上に横になっていた。この季節、まぁ風邪をひくことはないとは思うが、一応、その体にバスタオルを掛けてやった。
「おっさんもああいうの、したいの?」
昼間の声とは少し感じが違う。昼間は生意気なガキだったが、今は少しおどおどした感じの声だった。
「だから、ああいうのって・・・あれはどういう・・・」
「SMだよ」
俺が少し聞きあぐねていたことをあっさり答える。
「SMって・・・お前、されたのか?」
「見たでしょ、画像」
確かに見た。この少年が全裸で、雑誌とかで見たことがあるような縛られ方をしているのを。確かにSMだ。それは俺にも理解出来る。しかし・・・
「お前、まだ子供だろ?」
見たところ、どう考えても中学生、ひょっとしたら小学生の高学年くらいかもしれないのに。
「子供がいいってやつがいるんだよ」
「しかも、お前、男だし・・・相手は女か?」
「男だよ。男でも、男相手、しかも子供がいいってのがいるんだよ」
「お前、ホントに・・・されたのか?」
「だから、されたから画像があるんでしょ?」
「そりゃ・・・そうだけど」
すんなり信じることができない。確かに画像はあるし・・・
「お前の体の痣とか・・・それもそうなのか?」
「見たんだ」
「ああ」
少しの間、沈黙があった。
「縛られて、鞭とかろうそくとかそういうの・・・」
「なんで・・・」
また少しの沈黙。この少年にとって、あまり話したくないことを俺は尋ねている。それがいいのか悪いのか、俺には判断できなかった。
「・・・言うこと聞かないといけないから」
今度は俺が少し黙り込んだ。聞いていいのかどうなのか・・・わからないまま、俺は聞いた。
「そういうの、親にさせられてるのか?」
「違う!」
その一言だけは大きな声だった。今までこいつが言っていたことを全て信用した訳ではない。しかし、その一言は、なにか事情があるんだということを感じるのに十分だった。俺はしばらくなにも言わなかった。なにを聞くべきか、なにを言えばいいのか分からなかった。
「売られたんだよ」
少年がぽつりと言った。
「売られた?」
「やくざに借金のカタって」
「そんなの・・・昔の話だろ、借金のカタに子供が売られるなんて」
少年は答えなかった。その沈黙が、少年の言葉が真実だと物語っているような気がした。
「親はどうしたんだ?」
「夜逃げしたけど、捕まった」
俺の頭の中に、映画か何かで見た光景が浮かんだ。やくざに捕まって、そして・・・
「まさか・・・そ、その・・・もう・・・」
「生きてるよ」
俺が言えなかったことを察したようだ。
「そうか・・・それは、まぁ、よかった」
「うん・・・でも」
「でも?」
「僕が言うとおりにしないと殺すって」
「言うとおり・・・だから、SM?」
「そう。僕が借金の分だけ体で稼がないといけないんだって」
こんなことなら、多少雨に濡れてでも、気の進まない約束でも、行っておけばよかったと思った。そうすれば、こんな重たいことに関わらずに済んだのに・・・
「今日もそういうことされる予定だったのか?」
「うん・・・でも、行かなかったから、きっと・・・」
そして、少年がごそごそと俺の布団に潜り込んできた。
「なんだよ・・・」
言いかけて、その次の言葉が言えなかった。少年の体は震えていた。
「ちょっとだけ・・・僕のしたいようにさせて」
少年が俺にしがみついてきた。いつの間にか、"俺"から"僕"に変わっているのに気が付いた。俺は黙って少年の体を抱きしめた。
(男にも母性本能ってあるのかな・・・)
少年を抱きしめながら、ぼんやりと思った。




少年が目覚めた時、彼の体は台の上に固定されていた。足が大きく広げられ、睾丸が根本できつく縛られていた。
「うぅ・・・」
アナルの痛みはすでに全身に広がっている。これ以上の痛みなんてあるんだろうか、そんなことすら思っていた。
マスターが、細い鉄の棒を持って現れた。その尖った先端を、少年の縛られた睾丸に当てる。
「ひぃ」
少年はなにをされるのか想像できた。その通りに、鉄の棒は少年の睾丸を貫いた。二つの睾丸が1本の棒で貫かれる。マスターは小さな三脚のようなものを少年の体の左右に置き、睾丸を貫いたままの棒をその上に乗せた。
さらに、もう1本、棒が準備された。マスターは、少年の萎えたペニスを握り、それをしごき始めた。しばらくしごいても、一向に堅くなる気配がない。マスターがなにかを少年のペニスに注射する。すると、少年の体が紅潮し、ペニスが堅くなる。マスターが少年の堅くなったペニスを握り、亀頭の横に棒の先端を当てる。
「俺にやらせてくれ」
取り巻いて見ていたゲストの中から、一人が歩み出た。マスターは無言で棒をゲストに渡した。その男は、同じように少年の亀頭に棒を押し当て、一気にそれを貫通させた。
少年は文字にならないような叫び声をあげた。
少年のペニスを貫通した棒も、二つの三脚のようなものに固定される。二本の鉄の棒に睾丸とペニスを貫かれたまま、少年は台の上に固定されている。
アルコールランプが用意された。マスターはそれに火を点けると、少年の体を貫通している鉄の棒の端の方をあぶり始めた。初めはなにも起こらない。しかし、時間が経つにつれて、鉄の棒の温度が上がっていく。やがて、それは少年の睾丸と亀頭を内側から焼き始めた。
「あぁぁつぅぅぅ」
少年がうめき、体をよじる。しかし、睾丸と亀頭を貫通している鉄の棒はびくともしない。肉が焼かれる臭いが漂い始める。少年の体ががくがくと痙攣する。マスターはアルコールランプの火を消す。分厚い手袋をはめ、まず亀頭を、次に睾丸を貫通していた鉄の棒を一気に引き抜いた。
「ぐは!」
少年の目から涙がこぼれ落ちる。それを男達は笑いながら見ていた。




いつの間にか少年は寝息を立てていた。俺は少年を抱きしめたまま、その寝息を聞いていた。
(こんな子がなぁ・・・)
確かに礼儀を知らないガキだ。でも、こんな子が、あんな目に・・・複雑な気分だった。といっても、俺にはどうしようもない話だ。借金を立て替えてやれるような余裕はないし、そもそも、一体どれくらいの借金なのか・・・そして、この子はそれを体で支払わなければならない。
警察に通報することも考えた。しかし、この子はそれを喜ぶだろうか・・・一時的には解放されるだろう。両親と一緒に暮らすことも出来るかも知れない。しかし・・・やがて、また借金取りに追われるようになるんだろう。
そんなことを考えているうちに、俺もいつの間にか眠っていた。




「親の借金のせいでこんなことされるんだからな。両親が憎いか?」
今度は逆さ吊りにされた少年に、マスターが尋ねた。しかし、少年はかすかに首を左右に振るだけだった。足を開いた姿勢で逆さ吊りにされ、手も左右に広げた状態で固定された少年は、あたかも大の字を逆にしたような状態で吊されていた。
ゲストの一人が歩み出た。手にはバットを持っている。その男は、逆さに吊された少年の左手にそのバットを振り下ろした。
ごきっという音がした。
少年の左手が肩から外れ、異様な有様となった。
「これでもまだ両親が憎くないか?」
マスターが尋ねる。少年はまた首を左右に振る。
「じゃ、もう片方の手も使えなくしてやる」
別の男が同じように少年の右手にバットを振り下ろす。今度は、二の腕の途中で腕が折れ曲がった。
「いぃぃぃぃぃ」
少年はうめき続けていた。
「今日は、お前にいいことを教えてやる」
マスターが、少年の左右の手に足を乗せ、少年を吊しているロープを掴んで少年の体の上に乗る。少年の折れた両手にマスターの体重がかかる。
「お前の両親、生きてると思うか?」
痛みの中で、少年の目が大きく開かれた。
「嘘だ」
はっきりと、少年は言った。
「嘘だ!!」
少年は大きく叫び、暴れ出した。しかし、吊された状態では、せいぜい体をひねることくらいしかできない。
「借金は、とっくに保険金でご返却いただいたよ」
マスターは、暴れる少年から離れて笑った。
「お前はいったいなんのために、こんな辛いことに耐えてきたんだろうな」
「そ、そん・・・そんな・・・」
少年の体から力が抜けた。
「そんな・・・」
少年の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。マスターはそれを見て笑った。ゲストも笑った。少年以外の全員が、少年の涙を見て笑っていた。
「この世で地獄を見たんだから、せめてあの世では天国に行け」
マスターが靴底で少年の顔面を蹴る。
「あの世で両親に会ったらなんて言うか、考えておけよ。残り少ない時間でな」
マスターが少年の前から後ずさる。ゲストが少年の体に群がった。




目が覚めたとき、少年はいなかった。乾燥機に入れておいた少年の服も、充電器につないだままになっていた少年の携帯もなくなっていた。
「帰った・・・のか」
俺はつぶやいた。でも、実際はそう思っていなかった。あの少年は、あの電話した先に行ったのだろう。親の借金を返すために、自分がやらなければならないことをやりに行ったのだろう。
昨日、少年と一緒に食事した時に使った皿や茶碗がきれいに洗って台所に伏せてある。そして、その脇にメモが置いてあった。
「ありがとう」
その一言が、なぜか俺を焦らせた。
(なんとかしないと)
俺は、昨日、あいつに携帯を貸したことを思い出した。あいつが向かった先の電話番号が、発信履歴に残っているはずだ。
俺の携帯は、テーブルの上に置いてあった。発信履歴は1件も残っていなかった。
(これも消していったんだ・・・)
たった1日だったけれど、あの憎たらしいガキと過ごしたわずかな時間で、俺の中にあいつは足跡を残していった。でも、俺にはもうどうすることもできなかった。




少年は床に横たわっていた。
精液と小便にまみれた体には、いくつもの傷があった。片方の乳首は噛みつかれ、食いちぎられていた。もう片方の乳首は黒く焼け焦げていた。
少年のペニスは単なる肉片と化していた。切り刻まれ、針や釘を突き刺され、尿道から引き裂かれていた。
アナルはがばがばにされ、腕をつっこまれ、体の内側から内蔵を切り裂かれていた。
それでも少年はまだ生きていた。体はかすかに痙攣し、まだ意識もあった。
(死ぬんだ・・・)
体の痛みは感じなくなっていた。
(もう、死んでたんだ・・・)
両親の顔を思い出そうとした。しかし、思い出せなかった。その代わりに少年の脳裏に浮かんだのは、昨日の男だった。
『お前、人の家に来て、その態度か?』
(怒鳴られたっけ・・・)
『態度は最低だけど、料理はうまいんだな』
(あのまま、あの人のところにいればよかったのかな・・・)
涙が一筋、少年の目からこぼれ落ちた。

少年の体が動かなくなった。
そして、少年は息絶えた。




その後、俺は二度とその少年と出会うことはなかった。


<雨の日 完>


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