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第三の嗜好



金曜日の帰り道。何だか景色がいつもより少しきれいに見える。
今日のお目覚めテレビの星座占いでは、僕の星座が一番ラッキーだった。"何に挑戦しても大丈夫な日"だそうだ。お目覚めじゃんけんでも2連勝した。こんな日はめったにあるもんじゃない。

だから、目の前を歩く啓人君の肩を指でちょんちょんと突っついた。
すると、啓人君は僕の方を振り向いた。口が開きかける。すかさず、僕は啓人君に向かって拳を掲げて少し大きな声で言った。
「じゃ〜んけ〜ん」
啓人君はほとんど条件反射のように手を胸の前に上げた。
「ぽんっ」
僕はチョキを出した。今日は僕はじゃんけん2連勝だ。そして、僕はこれが3勝目になるって信じていた。星座占いが一番良かったから。でも、それだけじゃない。こういう時、啓人君はとっさにパーを出すことが多い、ということを僕は知っていたから。そして、その通りになった。
「よっしゃあ」
僕は小さくガッツポーズする。啓人君が僕の顔を見る。啓人君が何か言う前に僕は言った。
「負けた方が勝った方の言うことを聞くんだよ、一日ね」
「はあ?」
啓人君が呆れたような声を出す。
「じゃんけんして負けたんだから、啓人君が僕の言うこと聞くんだからね」
「お前が急にするからだろ」
啓人君が文句を言う。
「でも、勝負して負けたんだよね」
「そりゃ、雄ちゃんが、急に・・・」
負けた事実を今更ながら受け入れたようだ。そして、それ以上は何も言わなかった。啓人君は口では僕に勝てない、ということを分かっている。今までもそうだった。何か言い合いをしたら、必ず僕が有利になる。でも、啓人君は負けず嫌いだから反論する。そこを僕が畳み掛ける。そうなると啓人君は何も言えなくなる。そして、渋々って感じで
「分かったよ」
と一言だけ言うんだ。
負けず嫌いの啓人君は、そんなふうに負けたくはないんだろう。今日はそれ以上反論しなかった。でも、納得していないのは顔を見れば分かる。僕は、そんな啓人君を僕の家に連れて行った。

「じゃ、ベッドに上がって」
僕の部屋で、二人とも学生服の上着を脱いでいた。
「だから何でだよ」
また蒸し返そうとした。
「だから」
僕が口を開き掛けると、啓人君が遮る。
「ああ、分かってるよ。俺が負けたからだろ?」
僕が笑顔で頷くと、啓人君は僕のベッドに上がる。
「何でこうなるんだよ」
そう言いながら、あぐらをかいた。
「違うよ、立って」
「はあ?」
啓人君が僕を軽く睨む。でも、僕は折れたりはしない。何せ、今の僕は最強だ。今日は"何に挑戦しても大丈夫な日"なんだから。
「一日、僕の言うことを聞くんだからね」
「わぁってるよ」
しぶしぶ、という感じで啓人君が立ち上がった。

「ズボン、下ろして」
「はあ? 何でだよ」
ベッドの上から僕を見下ろして、そして結構本気で僕を睨み付ける。
「じゃんけん、負けたでしょ?」
すると、何かブツブツ言いながら、啓人君がズボンを下ろした。
何だかんだいって、啓人君は約束は守ってくれる。いや、別に約束はしてないけど。でも、何か反論しても、口では僕に勝てないことは十分知っている。たぶん、面倒だから、あるいは反論して僕に口で負けると凹むから言うこと聞いておこう、そんな感じだろう。負けず嫌いの啓人君の性格じゃなかったら、ここで拒否して終わりってこともあるかもしれない。でも、啓人君にとっては、不意打ちだったけどじゃんけんに負けて、そして約束してないけど一日僕の言うことを聞くことになった。それを理由もなく、あるいは嫌だからって理由で拒否することは負けるってことだ。
(啓人君だから絶対拒否できないよね)
僕は心の中でニヤリと笑う。それと同時に、親友の性格を利用してこんなことをする自分にほんの少し罪悪感を感じた。

啓人君は黒いボクブリを履いていた。腰のゴムの所は青色で、ロゴが大きく入っている。
足を上げてズボンから足を抜き、その足でズボンをベッドの端の方に押しやる。
「もう、いいだろ」
僕は首を左右に振る。
「上も脱いであっち向いて」
啓人君がボクブリだけになって背中を向ける。黒いボクブリに包まれたきれいな曲線が見える。
「そのままじっとしててね」
啓人君のボクブリ姿。それをじっくりと観察する。
啓人君の少し筋肉が付いたふくらはぎから、太もも、そして、ボクブリとの境目。ボクブリはきれいな円弧を描いて盛り上がっている。そのきれいな円弧が啓人君のお尻の形だ。僕はスマホを取り出した。
「何してんだよ」
こっちを見ていた啓人君が声を上げた。僕は構わず、カメラアプリでボクブリ1枚履いただけの啓人君の姿の画像を撮影した。
「次、こっち向いて」
「それ、他の奴に見せるなよ」
ここでも本当は拒否したいのに、僕の言うことに従う。今度はボクブリの股間の所だけがぽこっと膨らんでる。そこを中心に画像を撮影した。
「こんなとこ撮ってどうすんだよ」
シャッター音が終わったとたん、そこを手で覆う。
「恥ずかしい?」
「当たり前だろ」
「じゃ・・・四つん這いになって」
股間を晒しているよりはそっちの方がいいんだろう、啓人君は素直に四つん這いになった。
「お尻、こっち」
「何すんだよ」
そう言いながらも僕にお尻を向けた。
僕もベッドに上がる。そして、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「そのまま、動いちゃ駄目だよ」
「わあったよ」
そう答える啓人君のお尻に僕は顔を近づける。ボクブリの生地の畝が見える。それほど顔を近づける。
「何してんだよ」
啓人君が首をひねって僕を見ている。僕は啓人君の顔を見る。
「じゃ、お尻見せてね」
僕がボクブリのゴムの所に手をかけようとした。しかし、さすがに啓人君は体を起こす。
「はあ、何でだよ」
「負けたでしょ?」
「だからって、何でケツ見せなきゃならないんだよ」
不満そうな声だ。でも、怒ってる訳じゃない。その証拠に、そのまま、また四つん這いの姿勢に戻った。
(負けず嫌いの性格ってのも、こういうときは困ったもんだな)
啓人君のボクブリのお尻を見ながら、僕は思った。


啓人君は負けず嫌いだ。それは、体育の時間によく分かる。100メートル走だとかそういうのになると、俄然張り切るし、実はタイム計測に向けて、密かに練習している。僕はそれに付き合わされる。タイムを計ったり、走るフォームをスマホで撮影したり。時には意見も言う。オリンピックとかの選手の走りの動画と見比べて、こうした方が良いんじゃないか、とか。
でも、僕は走りは苦手だ。というか、スポーツ全般あんまり得意じゃない。どっちかと言えば、身体を動かすことよりも数学とかの方が得意だ。そして、そっちは啓人君は苦手だった。
そんな人に見せない姿を、啓人君は僕には見せてくれる。それは、僕を親友と認めてくれているからだ。だから、僕に口で挑もうなんて思わない・・・んじゃないかと思うんだけど、やっぱり性格上、どうしても一旦反論はしてしまうんだろう。

性格も得意科目も全然違う僕達だけど、僕達はお互いに認める親友だ。小学五年の時に僕がこの街に引っ越してきて、最初に出来た友達。あれから二年半くらい。その間、ずっと一緒の学校で同じクラス。たぶん、共働きの僕の両親よりも、啓人君と一緒にいる時間の方が長いんじゃないか、それくらいの親友だ。


僕は四つん這いの啓人君ににじり寄って、ボクブリのゴムに手をかける。啓人君の体が少しだけ動く。僕はゆっくりと、そのボクブリをずらしていく。啓人君のお尻の割れ目が少し見える。僕はまた唾を飲み込む。更にずらしていくと、日に焼けた上半身と違って、白っぽい啓人君のお尻が少しずつ露わになる。僕はその円弧にそってボクブリを滑らせ、かなり時間をかけて、啓人君のボクブリを下ろした。でも、脱がせる訳じゃない。あくまでもずらしただけだ。たぶん、もう少しずらしたら玉が見えちゃうというその手前で僕はずらすのをやめる。
(きれいなお尻)
僕は少し体を起こし、そのお尻を眺める。啓人君は顔をベッドに押し付けている。きっと、恥ずかしいんだろう。
「お尻出して、恥ずかしい?」
啓人君は、その姿勢のまま頷いた。
「もういいだろ?」
「まだこれからだよ」
一瞬、啓人君が顔を上げた。でも、またベッドに押し付ける。
「変なことすんなよ」
「大丈夫だよ。変なことじゃないし」
(いや、ベッドの上でお尻出してるだけで十分変かな)
そう思った。でも、それをさせているのはこの僕だ。
「じゃ、触るよ」
両手を開いて、そのきれいなお尻に近づけた。
「触るのかよ」
「うん、触りたい」
そして、僕は改めて言った。
「触るよ」
手のひらを啓人君のお尻に沿わせた。

人の肌に触る感覚。それは別に手でも背中でも、そしてお尻でも変わらない筈だ。でも、今、啓人君のお尻を、直接手で触っている。それは特別な感覚だった。人の温かさ。そして、普通は絶対に直接触るなんて出来ない特別な場所。親友のきれいなお尻。僕は円弧に沿って手を動かす。なめらかな感触。まるで・・・何だろう、例えが思い浮かばない。
「くすぐったい」
啓人君が少しお尻を左右に振った。
「動かないで」
お尻に沿って、手のひらで円を描く。なめらかなお尻はすべすべで、全然手に引っかかったりしない。手のひらを押し付けてみる。同じような力で押し返してくる。でも、柔らかい。手に軽く力を入れて、その円弧を揉んでみた。
「揉むな」
でも僕は止めない。止められない。
「俺のケツで遊ぶな」
でも、その柔らかい感触は、まるで・・・きっと、女の人のおっぱいを揉んだらこんな感じなんだろうか。
「おっぱい揉んだこと、ある?」
「はあ? そんなの自分じゃ揉まねぇだろ」
この状況で聞かれたら、そう思うのかも知れない。僕は少し笑った。
「違うよ、女のだよ」
「ねえよ」
「そっかぁ……」
少し残念に思う。もし、啓人君が女の人のおっぱいを揉んだことがあるのなら、さっき思ったことが正しいかどうか分かるのに。
「何考えてんだよ」
啓人君が顔を僕に向けた。僕はその顔を少し見つめた。
「なんかやらしい顔してる」
そう言われて、僕はにやっと笑った。
(さすが親友、よく分かってんじゃん)
そして、僕は答えた。
「啓人君のお尻が、まるでおっぱいみたいに柔らかいからさ」
「んだよ、それ」
また顔をベッドに押し付けた。僕は揉み続けている。手に力を入れると、お尻の割れ目が少し開く。力を抜くと、閉じる。ぎゅっと手に力を入れて、そのまま止めてみた。啓人君のお尻の割れ目の谷底が見える。そこを目で追う。
その奧に、啓人君のお尻の穴があった。

啓人君とは一緒にお風呂に入ったことは何度もある。お尻だって、ちんこだって今まで見たことはある。だから、啓人君のお尻はすっごくきれいな形だってことは知っている。
でも・・・その奥まで見るのは初めてだ。そんなところ、啓人君だけじゃなくて他の誰のも見たことはない。もちろん僕も人に見られたことはない。そんな、お尻の穴が目の前にある。
「ケツ開くな」
啓人君はそう言いながら、でも、僕の手を掴んで止めさせたりはしない。もう、負けず嫌いだけじゃない。何かが僕達二人の間に通じ合っている。その何か・・・誰にも言えない何かが、僕達二人に誰にも言えないことをさせている。
「穴だ」
僕は呟いた。
「見るなよ・・・」
でも、啓人君は動かない。僕がお尻を開いたまま、そこに顔を近づけたまま、二人とも動かない。
「きれいなんだね、お尻の穴って」
そこはピンク色で、たくさんの襞がある。少し縦長になった穴から、筋が玉の方に繋がっていた。
「きれいな訳無いだろ」
「そんなことない。凄くきれい」
尻を開いていた手を持ち替えて、穴の近くを左右に押し広げてみた。その襞の奥にピンク色で少し潤んだようなものが見える。
(啓人君のお尻の中だ)
身体の奥がじんじんする感じだ。
「変なとこ見んな」
啓人君はベッドに顔を押し付けたまま、もう僕の方を見ようとしない。
「恥ずかしい?」
「当たり前だろ」
「何が恥ずかしいの?」
啓人君は答えなかった。
「言うこと聞くんでしょ?」
啓人君の身体から力が抜けたようだ。
「穴見られて恥ずかしい」
少し、いじめてみたくなる。
「穴って、何の穴?」
「ケツの穴」
今度はすぐに答えが返ってきた。
「もうちょっと、お尻こっちに突き出して」
しかし、啓人君は動かない。
「まさか、勃ってる?」
啓人君は答えなかった。でも、きっと勃ってるんだろう・・・僕と同じように。
「ほら、お尻突き出す」
そう言って、啓人君の腰の所に手を掛けて、お尻を引っ張った。啓人君の股間はまだボクブリの中だ。でも、そこが明らかに盛り上がっている。僕は横からそれを覗き込んだ。
「これ、どうなってるの?」
啓人君は答えない。予想通りだ。
「約束したよね」
約束はしていない。でも、もう僕等にとって約束したかどうかなんてどうでも良かった。
「勃ってるんだよ」
そして、付け加えた。
「・・・ちんこが」
さすが僕の親友だ。僕のことを分かってる。
「気持ちいいの?」
「恥ずかしいんだよ」
少し大きな声だった。
「へぇ・・・恥ずかしいと勃つんだ」
「うるさい」
僕はもう一度、啓人君のお尻を撫で回し、そこを開いてその奧に隠されたきれいなピンク色の穴を見た。
そして、その衝動を感じた。


その衝動・・・なんだか急に恥ずかしくなる。そして啓人君に酷いことをした気がしてきた。僕は手を緩め、そして啓人君のお尻を軽く叩いた。
「もう、終わり?」
啓人君が僕に顔を向け、尋ねた。
「何で真っ赤になってんだよ」
啓人君の言う通り、僕の顔が火照っている。
「もう、終わっていいの?」
「え?」
僕は別のことを考えていた。
「だから、言うこと聞くの、もう終わり?」
「あ、うん、取りあえず、今は」
すると、啓人君はベッドの上に丸まっていたボクブリを拾って身に着けた。
「このこと、誰にも言うなよ」
僕に背を向けて、ズボンを履きながら啓人君が言った。
「うん、言わない」
啓人君が服を着終える。
「でも、これで終わりじゃないからね、僕の言うこと聞くの」
啓人君が僕を振り向いた。
「何でだよ、もう言うこと聞いただろ」
「一日、だから24時間だよ」
「まじかよ・・・」
でも、拒否はしない。それがもう、負けず嫌いでは無いことは僕には分かっていたし、僕がそれが分かっているってことを、啓人君も分かっている筈だ。
「はぁ」
啓人君が大きく溜め息を吐いた。そして、急に啓人君が言った。
「じゃんけんぽん!」
そして、チョキを僕の前に突き出した。でも、僕は手を背中に隠す。
「その手には乗らないよ」
僕は勝負を拒否する。
「どうせ啓人君勝ったら、言うこと聞くって約束、無しにするつもりでしょ?」
啓人君は鼻を鳴らす。
「明日、何時に来る?」
唐突な僕の質問だったけど、啓人君は分かってる。
「う〜ん、昼からかな」
「だめ。朝から来て」
「分かった」
それから二人でジュースを飲んで、でもほとんど話はしなかった。お互い、考えていることは同じ筈だ。でも、それを口に出してもいいのかどうか・・・
「じゃあ、帰る」
啓人君が立ち上がった。
「うん。じゃ、また明日」
「また明日、な」
その"また明日"は、いつもの"また明日"とは少し違っていることを、二人とも分かっていた。

そして、次の朝が来た。

<第三の嗜好 穴 完>


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