fetishiSM
第七の嗜好
交
きっと、あの日は違ったんだと思っていた。 あの、啓人君の穴の匂いを嗅いだ日。あの日、啓人君に入れてもらおうとしたけど、啓人君は僕に入れようとすると萎えてしまった。 (あんなに恥ずかしがらせたから、きっと) そう思った。だから、気持ちが疲れちゃったのかな、と。 だから、きっと次の日には、初めて啓人君に入れられることになるんだろうな、と。 でも、あれから1週間近く経つけど、まだ啓人君に入れられてはいない。 毎日会っている。毎日しようとしてる。でも、出来ない。僕に入れようとすると、啓人君のちんこは萎えてしまう。その時以外はずっと勃起してるのに。 なんでだろう・・・ 最初に思ったのは、本当は啓人君はセックスしたくないんじゃないだろうかと。 でも、それは違うと思う。最近は啓人君の方からセックスしたがるし、この1週間だって、誘ってきたのは啓人君のほうだ。 次に思ったのは、僕の命令を聞かなかったんじゃないかって。 僕は啓人君が僕に入れるまでオナニー禁止って命じてた。いや、命じた訳じゃない。でも、啓人君は僕の言うことは聞いてくれるし、その通りにしてくれる。でも、本当は僕のいない所で、例えば自分の家で、オナニーしてて、それでもう、勃たなくなるくらい出してから来てるんじゃないだろうかと。 でも、それも違う。僕とセックスするとき、啓人君のはびんびんになる。びんびんのかちかちだ。でも、僕に入れようとすると萎えてしまう。諦めて僕が啓人君に入れると、またびんびんになる。精液だっていつもと同じくらいは出そうだ。でも、次に出すのは僕の中でって約束だから、出させないけど。 つまり、この二つじゃない。 だから今、僕は三つ目の理由を考えている。それは僕にとってあんまり考えたくない理由。不安になる理由・・・ 本当は、啓人君は僕のことなんか、好きじゃないんじゃないだろうかって。 ただ、入れられるのが気持ちいいから僕としてるし、やりたがってるだけで、僕に入れようと思うと、好きじゃない奴に入れるんだから、勃たなくなる、なんて。 でも、僕なら好きじゃなくても勃つ・・・と思う。あんなに萎えちゃって出来なくなる、なんてことはないだろう。 だから・・・ひょっとしたら、僕は啓人君に嫌われてるんじゃないだろうか。 普段の僕等の関係を考えたら、嫌われてるとは思えない。でも、ひょっとしたら、啓人君は本心をずっと隠してるんじゃないだろうか。学校でも、学校以外でも、ずっと本心を隠してたんだろうか。 そんなことを考え始めると、啓人君のいろんなことがそういうふうに見えてくる。 昨日だってそうだ。なんだか笑顔がぎこちなかったし、僕の顔を見ないし。でも、入れられると気持ち良さそうにしていた。入れられている時だけ、気持ち良さそうだった。 それってつまり・・・ それって、やっぱり。 僕は学校に行く時間を少し早めた。啓人君と一緒に行きたくないからだ。 学校でも話をしなくなった。帰りも、なるべく一人で帰る。啓人君と一緒になっても話をしない。啓人君がやりたがっても、何か理由を付けて、理由が思いつかないときは面倒くさいからって断るようになった。そんなとき、啓人君は寂しそうな顔をする。でも、それはただ、入れて欲しいのに入れてもらえないからだ。僕は、啓人君に嫌われていたんだ。 僕等の関係がそんなふうになってしまってからも、僕は入れられてみたいと思い続けていた。嫌いな奴にでも入れられたくなるほど気持ちいいのなら、そういうことを僕もすれば、その気持ち良さが分かれば、きっと啓人君がどんな気持ちでいたのかが分かる気もする。いや、それは言い訳だ。あの入れられてるときの啓人君の気持ち良さそうな顔。僕もあんなふうに気持ち良くなってみたい、ただそれだけだ。 だからもう、啓人君は関係ないんだ。 ネットで知り合った男の人と、何度かメールのやり取りをした。 悪い人じゃなさそうだし、家も電車で2、30分くらいのところ。そして、僕みたいに入れられたことがない人に入れたことが何度もあって、そのうちの何人かとは、今も時々会って、しているらしい。それなら、安心なのかもしれない、と思った。 なにより、入れられてみたい。 だから、会う約束をした。入れられるために。 駅まで電車で行くと、駅で待っていてくれた。ごく普通の人。年齢は、担任の本条先生と同じくらいって感じだった。 「雄大君は、入れられてみたいんだったよね」 その人が、車を運転しながら僕に確認する。 「はい」 なんだか喉が渇く。 「まだ経験はなかったんだよね?」 「入れられる方は」 そういう話はメールでしていた。 「入れる方は、友達としてたんだっけ?」 「はい」 啓人君としていた、ということだけは伝えてある。でも、それ以外のこと、啓人君に入れてもらおうとしてもできなかったことや、僕は本当は啓人君に嫌われている、なんてことは言ってないし言うつもりも無い。 その人の家は、マンションの12階だった。でも、そんなことはどうでもいい。 その人は、コーヒーを淹れてくれた。でも、そんなこともどうでもいい。 「あの・・・してほしいです」 僕はせっかく入れてくれたコーヒーにも手を付けずに言った。 「するだけってのも、なんだかちょっとね」 その人はそう言い掛けた。でも、自分の前のコーヒーカップを横に押しのけた。 「でも、君がそれを望んでるなら」 そして、僕の手を取って立ち上がらせた。僕はその人に手を引かれて寝室に行く。大きなベッドがある。その手前で、僕は抱き締められた。 「キスも大丈夫?」 僕は顔を少し上に向けた。その人が顔を近づけてキスしてくる。久しぶりのキス。啓人君以外の人とは初めてのキス。 その人の手に抱き締められる。その手が身体を撫でる。前に回って、僕の股間を撫でる。 「もう固くなってるね」 僕は下を向く。そんな僕の顎に手を掛けて顔を上げる。またキスされる。今度は舌が入ってくる。そのまま、ベッドに押し倒された。 僕は全裸で仰向けになっていた。足下にはあの人がうずくまって僕の足を持ち上げている。その人の舌が僕の穴を這い回る。ゾクゾクするような感触。その舌が、僕の穴の入口を突く。僕は身体の力を抜く。その人の舌が入口を舐め回す。 「あ・・・」 声が出る。気持ちいい、という感じじゃない。ゾクゾクする感じだ。 「じゃあ、ゆっくり入れて行くからね」 顔を上げて僕を見る。僕は頷く。穴にローションを塗られる。その冷たい感触が、これから何が起きるのか期待させる。啓人君はあんなに気持ち良さそうにしていた。だったら、僕も・・・ 「あっ」 何かが入ってきた。たぶん、指だ。穴に入ってすぐのところで何度か出入りする。その間に、その人は僕のお腹の辺りをなで回す。 「すべすべだね」 そう言われて、なんと答えるのが正解なんだろう。よく分からない。だから、僕は黙ったままだ。手が僕の毛の辺りに触れる。 「中学・・・2年だっけ?」 「1年です」 すると、その人は僕の毛を摘まむようにする。 「まだ、まばらって感じだね」 そして、ちんこを握る。 「剥ける?」 「少しは」 手に力が入る。僕のちんこの皮が引っ張られる。亀頭の先っちょが少し顔を出した。その部分に指を軽く這わせる。 「あぁ」 その間もずっとお尻の穴には指が入ったままだ。僕のちんこが扱かれる。それに合わせて、お尻の指も出入りする。 「痛くない?」 僕は首を左右に振って言った。 「平気」 「そうか」 その人が指を抜いた。人差し指と中指が揃えられていた。 「2本入ってたの?」 少し驚いて尋ねた。 「そうだよ」 男の人はローションのボトルを手にする。 「入れるよ」 僕の心臓のドキドキが高まる。その人が僕ににじり寄り、穴に押し付ける。僕は啓人君がしていたように、お尻に少し力を入れて穴を開く。そして、それが入ってくるのを感じた。 それは思っていたのとは全然違った。 違和感。そして鋭い痛み。 「い、いっ痛ぅ」 僕は身体を引く。その人が僕を見る。 「痛い?」 「す、少し」 すると、その人は身体を引く。 「もう少し慣らさないと無理かな」 またローションを指に付けて、それを入れてくる。さっきよりも、何となく穴を解されているような、マッサージでもされているような感じだ。 「最初だけ、少し痛いかもね。でも、すぐに慣れると思うよ」 そして、また入ってくる。さっきほどじゃない。でも、やっぱり痛みはある。そして違和感。 「大丈夫?」 僕の顔を見る。僕は少し顔をしかめていた。 「抜く?」 首を左右に振った。 「このまま続けていい?」 上下に頭を振る。その人が、僕の奧に入ってくる。 僕はベッドにうつ伏せになっていた。あの人は、椅子に座って何かを飲んでいる。 僕の初めての入れられる方の体験は、一言で言えば「我慢」だった。痛み。違和感。そういったものを我慢するだけ。気持ち良かった、なんてものではなかった。 「どうだった?」 「なんだか・・・全然違ってた」 すると、その人は笑った。 「初めてだから仕方がないさ。慣れれば気持ち良くなっていくよ」 本当だろうか・・・あんなことが、気持ち良くなるんだろうか。啓人君は気持ち良さそうにしていた。啓人君も同じはずなのに・・・ 「でも、初めから気持ち良さそうにしてた」 僕が呟いたのを、その人は聞き逃さなかった。 「君の彼氏かい?」 僕は首を左右に振る。 「僕は嫌われてるんです・・・たぶん」 そして、今までのことをその人に話し始めた。 一通り話が終わると、その人は僕に笑顔を向けた。 「それは、君の思い違いだよ」 そして、色々と話してくれる。 「アナルセックスは、やっぱり人によって感じ方は違う。本当に気持ち良く感じる人もいれば、好きな人に入れられていることを気持ちいいと感じる人もいる。それは人それぞれさ」 ベッドに上がって僕の横にあぐらをかいて座った。 「そして、入れる方が気持ちいいって人もいれば、入れられるのが気持ちいいって人もいる。どっちも気持ちいいって人もいるけど、どっちかしか出来ない人も多い。君の彼氏は、入れられるのは気持ちいいけど、入れる方はその人のことがどんなに好きでもできない、そんなタイプなんじゃないかな」 僕は想像した。でも、分からない。 「だって、相手のことが好きだったら、入れたいって思うんじゃないですか?」 すると、その人は首を横に振る。 「それは君の場合だ。好きな人には入れられたい。でも、入れる方は出来ないって人だっている。君の基準で君の彼氏のことを判断するのは間違ってるんじゃないかな」 その人が僕の足下に座り込んで、足を持ち上げた。そのまま足を開かれて、お尻の穴を晒される。そして、そこに顔を近づけて穴を舐める。 「俺は君の穴を舐めたいと思う。君は、俺の穴、舐めたいと思う?」 少し考えた。 「あの、何て言うか・・・ちょっと、無理かも」 すると、その人は笑顔になる。 「でも、君は彼氏の穴は舐めたんでしょ?」 そして、穴に指を入れられる。 「相手によって出来たり出来なかったりすることもある。アナルに入れられて気持ちがいいと思う人も、そうじゃない人もいる。人それぞれだし、相手次第でもある」 僕の穴にローションを塗り付ける。そして、また僕に押し付けた。 「自分基準で相手を見ちゃ駄目だよ。相手のことも考えてあげないと」 そして、ゆっくりと入ってきた。さっきのような痛みはない。違和感も少ない。 「君の彼氏だって、きっと君がして欲しいって思ってることをしてあげたいって思ってるはずだよ」 さっきとは違う感触だった。穴が広げられて、そこに相手の存在を感じる。相手と繋がっている感じ。 「だとしたら、君の彼氏もきっと、辛いんじゃないかな。好きな人の想いに応えてあげられないんだから」 そうなんだろうか。そうなのかもしれない。僕は、啓人君に、辛い思いをさせてるんだろうか・・・ 「動かすよ?」 僕の穴でその人のちんこが動く。何かを感じる。熱い何かを。 「君の彼氏は決して君が嫌いなんじゃない。ただ、君とは少し違うってだけだ」 そう言ったあとは、黙って身体を動かした。僕の身体に何かが広がる。 「あぁ」 これが気持ち良さなんだろうか。 「気持ち良くなってきた?」 僕は頷いた。その時、身体の奥で何かが起きた。 「ああっ」 身体が仰け反った。 「ここがいいんだね」 その人が身体を動かす。すると、その奥の所から身体中にその何かが広がっていく。 「うぅ・・・」 声が出る。身体が動く。ちんこがかちかちになって、ビクビクと揺れる。 「凄い先走りだな」 僕のちんこの先からとろとろと雫が垂れている。 「あぁ・・・」 「気持ちいいか?」 僕は首を上下に振る。 「な、なんか、ぎゅっとなってる」 男の人が腰を僕のお尻に打ち付ける。気持ち良さが身体に響く。身体全体が波打つみたいに感じている。 「ああぁ」 そして、僕は射精した。男の人は僕の奧に入れたまま、僕を抱き締め、2、3度小さく震えた。 しばらく動けなかった。 (これが・・・気持ちいいってことなんだ) 啓人君に入れた時も気持ち良かったけど、今日はレベルが違う。身体中が気持ち良かった。 男の人は、何も言わずに僕を見ていた。 「気持ち良かったです・・・凄く」 すると少し笑顔になった。 「入れられるのがこんなに凄いとは思わなかったです」 「でも、君の感じ方と君の彼氏の感じ方はきっと違う。お互い好きでも、お互い別の人なんだからね。それを忘れちゃ駄目だよ」 僕は頷いた。 気持ち良かった。啓人君も僕に入れられて気持ち良さそうにしていたけど、今、僕が感じた気持ち良さ程じゃなかったような気がした。 「こんな風に気持ち良くしてあげられるようになりたい・・・」 すると、男の人は大きな声で笑った。 「そりゃ、俺と君とじゃ経験の数が全く違う。中学生にはまだ無理だよ」 そうなのかもしれない。残念だ。でも・・・ 「じゃ、もっと教えて下さい」 そして、気が付いた。啓人君を抱き締めたいと思っている自分に。啓人君とセックスしたいと思っている自分に。啓人君を愛している自分に。 「教えるって言ってもなぁ」 その人が少し困った顔をする。 「俺も、こうすりゃいいってのがはっきり分かる訳じゃないしなぁ」 「駄目ですか・・・」 僕は啓人君を疑っていた。そんな自分に少し腹も立つ。せめて、啓人君をもっと気持ち良くしてあげられたらって思ったんだけど・・・ 「まあ、何回か経験してみたら、なにか分かるかもしれないね・・・なんて、中学生の君に言うべきことじゃないけどね」 「経験ですか・・・」 経験するといっても、相手は誰でもいいってもんじゃない。会っても大丈夫そうな人・・・そんな人は簡単には見つからない。ネットで探した時だって、いくつもメールは来たけど、半分は画像が欲しいだけ、みたいな感じだったし、この人みたいに安心出来そうな感じの人はほとんどいなかった。 「もっと、僕に経験させてもらえませんか?」 男の人は苦笑した。 「積極的に経験したがる中学生ってのもそそるけど、さすがになぁ・・・」 少し考えている。そして、顔を上げた。 「でも、まぁ放っといたら君は変な人ともやっちゃいそうだし、俺と、俺のパートナーで良ければいろいろしてあげるよ。君が知りたいことを教えられるかどうかは分からないけど」 帰りは僕の家の近くの駅まで車で送ってもらった。次に会うときは、その人とパートナーさんの二人とだ。そして、僕の方もできることなら啓人君を連れて行く。そう約束した。 僕と啓人君の関係が、今までより一歩進むんだ、僕はそう思っていた。 <第七の嗜好 交 完> |