2002年お正月作品
最高のプレゼント Act2
-youthful days-
あのクリスマスの出来事以来、僕と弘はなんとなくぎこちなかった。別に嫌いになったとかそんなんとはちゃうんやけど・・・なんか意識してしもてるっていうか、なんというか・・・ 一応、弘は僕のこと好きやって言うてくれて、ずっと一緒にいたいって言うてくれて・・・そやから、弘が僕に告白したってことになってて・・・で、弘はあの後、僕と会うたんびになんか恥ずかしそうにしてた。僕もずっと前から弘のこと、好きやったって・・・まだ言うてなかった。なんか、それを言わんかったら、弘に対して優位に立ててるような気がした。なんか、恥ずかしそうにしてる弘を見て、少しかわいい、なんて思てたり・・・でも、やっぱり僕も恥ずかしかった。恥ずかしかったし、ちょっと卑怯かなって。せやから、そろそろ、僕の気持ちも弘に伝えたらんと、弘、かわいそうかなって。でも、やっぱりなんか言い出せへんかった。弘は喜んでくれる、それはよぉわかってんのやけど、それでもなかなか勇気が出えへんかった。やっぱり、僕は臆病なんやなって思た。そしてあの夜、弘が僕に言うてくれたとき、すごく弘、勇気出してくれたんやなって。弘、そんなに僕のこと好きでおってくれたんやなって、改めて思た。そんな弘を早く楽にしたあげたい。早く、僕の気持ちも伝えたい、そう思てた。 でも、やっぱり言えへんまま、新しい年になった。 まぁ、べつに嫌いになった訳やないし、弘と一緒におると幸せやと思うから、いっつも一緒にはおったんやけど。でも、新しい年になって、最初に弘に会うときは、少し緊張っていうか、なんというか・・・とにかくいつも少し違う気持ちでいた。今日こそ、今日やからこそ、弘に僕の気持ち伝えよ、とも思てた。 元旦の日、家族で初詣に行った後、僕は近くの神社で弘と待ち合わせてた。いつものこと、毎年のことなんやけど、その日は少しどきどきしてた。人混みの向こうに弘の姿が見えた。どきどきが大きくなる。 「今年もよろしく」それが今年聞いた最初の弘の声。 「おめでとう、今年もよろしく」僕も言う。そして、二人でならんで神社の方へ歩き始めた。 さすがにお賽銭箱の前は、かなりの人がおって、僕と弘はしばらく並んだ後、賽銭箱の正面で二人でお賽銭を投げ入れて、手をたたいた。僕は目をつぶってお願いごとをする。 (家族のみんなが仲良く、健康で過ごせますように・・・そして、弘と・・・このままずっと一緒にいられますように) 弘のつぶやく声が聞こえた。 「今年は大ちゃんとHできますように」 僕は思わず弘の腕をつかんで人混みの外に弘を引っぱり出した。 「ちょ、ちょっと、なに言うとんのん?」 「ええやん、ほんとにそう思てんねんから」笑いながら、弘が答えた。 「他の人に聞こえるやん」僕は少し赤面しながら言うた。 「ええよ、別に、聞こえても。俺は恥ずかしないし」 「僕が恥ずかしいわ」 「今年は、もう恥ずかしがらんことにしたんや」急に弘がまじめに言い出した。 「恥ずかしがってたら・・・せっかく大ちゃんと一緒におる時間がもったいないし。せやから、大ちゃんと一緒におるときは、恥ずかしがらんと自分に正直になろって決めたんや」 「それは、まぁ、ええけど・・・でも、人のおるとこでへんなこと言わんといて」弘がまじめにそう考えてのことなんやったら・・・でも人前では恥ずかしい・・・ 「大ちゃんが恥ずかしいって言うんやったら・・・やめとくわ」 「うん」 「せやけど・・・いやって訳やないんや」なんか、少しニヤニヤしながら弘が言う。 「なにが?」わかってたけど・・・聞き返す。 「Hするってこと」 「なにゆうてんねん、このスケベが」やっぱり僕は自分に正直になれへん。 「H、いやか?」そんなことをまじめな顔で聞く弘。 「そんなん・・・・・」なんて答えよ・・・どきどきしてた。 「どうやねん?」 「好きにし」もう、どうでもええわ、そんな気持ち。 「うん、好きにする」そういって、弘は僕の手を握って歩き始めた。 「今年のお願い、かなうとえ〜なぁ」弘がおっきな声で言うた。僕は心の中で頷いた。 「な、おみくじ引こ!」弘が社務所の前でいう。これも毎年のことやった。お参りして、おみくじを引いて、破魔矢を一つずつ買って帰るのがいつものコースやった。弘が先におみくじを引く。そして、僕。僕が引いたのは17番、社務所の人に番号を伝えておみくじを受け取った。 「お、中吉、今年はええことあるかも」弘が楽しそうに言った。 僕は自分のおみくじを開いてみた。 まさか、と思た。 「大ちゃんなんやった?」弘の質問に答えられへんかった。 「どしたん?」弘が僕のおみくじをのぞき込んだ。僕のおみくじは・・・「大凶」やった。 「うそぉ・・・そんなん・・・あるんや・・・」弘が驚く。僕も、大凶なんて、おみくじに入ってるとは思わんかったから・・・ 「まぁ、ただのおみくじやし、気にせんでええやん」弘が言うけど・・・ 「うん」そうは言うけど・・・やっぱり気になるやん・・・元旦早々・・・大凶やなんて・・・ なんか、ちょっと気持ちがしぼんだような感じになった。いつも通り破魔矢を買って家に帰った。帰り道はあんまり話せえへんかった。 それからしばらくは、お正月の「大凶」を気にしてたけど・・・でも、学校が始まるころにはすっかり「ネタ」になってた。誰に話しても驚いてくれたから・・・そんなわけで、もう全然気にしなくなってた。 そんなある日のことやった。久しぶりにまとまった雨が降って、それがやんだ後、僕と弘は自転車でうろうろしてた。雨のあとの水たまりに自転車でつっこんでみたりして、水しぶきがまるで羽のように広がるのを見て喜んでた。べつに、普段はそんなん見ても全然おもしろいなんて思わへんのに・・・弘と一緒やと、弘がおもしろいって言うと、それがほんとにおもしろく感じられた。そやから、土手の上で何度も何度も水たまりにつっこんで遊んでた。弘が笑う。僕も笑う。幸せやと思た。でも、次の瞬間・・・ ブチッ めいっぱいブレーキをかけた瞬間、そんな音がした。僕の自転車は、スピードがでたまんま、土手から飛び出した。ブレーキワイヤが切れていた。しかも、前輪、後輪ともに・・・ 僕は自転車ごと土手から転がり落ちていった。弘が土手の上から駆け下りてくるのが一瞬見えた。でも次の瞬間、僕は川の水の中にいた。 気が付いたら、河原で弘が僕の体をさすってた。僕の体には、弘のダウンパーカーがかけてあった。ずぶぬれの僕の体にかけてあったパーカーもところどころ水を吸い込んでいた。 (もうこのパーカー、あかへんな・・・)なんとなくそんなことを思った。そして・・・僕の目の前に、あのお正月のおみくじがちらついた。「大凶」・・・やっぱり・・・ 「おい、大丈夫か、大ちゃん」弘が泣きそうな顔で僕に呼びかけた。そんな弘の顔、始めて見た。 「う、うぅん」(大丈夫)って答えようとしたんやけど・・言葉が出えへんかった。しゃべろうとしたら、胸が痛かった。あと、左の足首と、左の肩も痛かった。 「立てるか?」僕は何とか立とうとした。弘が肩を貸してくれる。弘は僕を自転車に乗せた。 「しっかりつかまっとれよ、すぐ家に連れてったるから」そう言って、二人乗りで走り始めた。 僕は、弘の背中にしがみつきながら思った。(やっぱり・・・僕は足手まといなんかな)って。 そして、大凶のおみくじをネタにして笑ったことを少し後悔した。 僕の怪我は大したことなかった。足首は少し捻挫したけど、肩は単なる打撲っていうことやった。それよりも、川の中に落ちたため、僕は風邪をひいて、1週間ずっと学校を休んだ。弘も、びしょぬれの僕にしがみつかれてたからか、その間に数日学校を休んだそうやった。 (やっぱり、足手まといなんや・・・)自分のことより、弘を巻き込んでしもたことがすごくつらかった。でも、弘はずっと毎日お見舞いに来てくれた。自分が風邪ひいて学校休んだ時も、電話してくれた。 「運が悪かっただけやから・・・気にしたらあかんで」そう言い続けてくれた。僕が・・・あのおみくじを気にするようになったことを知ってたから・・・ やっぱり、僕には運がないんとちゃうのかな、そう思い始めていた。こんな僕と一緒にいたら、いつかきっと弘を悪いことに巻き込んでしまうんちゃうんかなって。ずっと弘と一緒におれたら・・・でも、弘を巻き込んでしまうのはいややった。 なんか、そんなことを毎日思うようになってた。でも、弘は相変わらず、ずっと僕と一緒にいてくれた。足首の捻挫が直るまで、僕の鞄を持ってくれて、階段なんかでは手を貸してくれた。 僕がいろいろ考えてること、弘は知ってたみたいやった。でも、なんにも言わんと一緒にいてくれた。そんな弘と二人でいられることがうれしかった。 でも・・・ 学校の帰り、校舎の階段を降りるときやった。他のクラスの奴がはしゃぎながら階段をかけ上ってきた。よけようとした僕は左足に体重をかけてしもた。痛みが走る。僕はバランスを崩した。こけそうになる僕を、弘が支えてくれた。僕は、階段の手すりにしがみついて、なんとか体を支えた。 でも・・・次の瞬間、弘が足を踏み外した。階段を転がり落ちる弘の姿が、僕にはすごくゆっくり見えた。(あぁ・・・やっぱり僕は足手まといなんや)そんなことを思いながら、手すりにしがみつきながら、僕はただ転がり落ちていく弘を見つめていた。 「ひろしぃ!!!!」知らないうちに叫んでいた。足の痛みを忘れて、弘に駆け寄った。 幸い、弘の怪我はかすり傷程度やった。でも、その出来事は僕の心に大きな傷となって残った。(もう、これ以上弘に迷惑かけられへん・・・これ以上、足手まといになったらあかん・・・)いつも二人でいたいけど・・・ずっと二人でおれたらええんやけど・・・ その日は弘のお母さんが迎えに来て、僕と弘は一緒に車に乗せられて家に向かった。車の中で、僕は涙をこらえていた。 僕は決心した。弘のこと、好きやから・・・次の日の学校からの帰り道、人のいない夕方の公園で僕は弘に言うた。 「全部、僕が悪いんや。僕なんか・・・おらへんほうがええんや」涙が出てきた。涙は出始めると、もう止めることができへんかった。 「僕が・・・僕が弘階段から突き落としたんや。全部僕が悪いんや。もう、弘と一緒におったらあかんのや」僕は泣きじゃくった。誰かに見られるとか、そういうことは全然気にならんかった。 「なんでそんなこと言うんや?」少し困ったように、弘が静かに言うた。 「俺は、お前のこと、好きや言うたやんか。せやから、いつも一緒にいたい。昨日のはお前が悪いんちゃうやんか」 「そやけど、僕と一緒におったら、いつか弘にもっと迷惑かける。僕、そんなんいやや。そんなことになるくらいやったら・・・」 「いやや。俺、お前とずっと一緒にいたい。ずっと友達でいたい。約束したやんか。忘れたんか?」少しだけ、弘の声が震えていたような気がする。 「忘れてない。忘れてないけど・・・そやけど、もう迷惑かけたないんや」 不意に、弘が僕を抱きしめた。 「そんなことない、そんなことないって・・・迷惑なんてなんにもかかってないやん」 「そやけど・・・僕がおったらろくなことにならへん。僕は大凶なんや」 「そんなん・・・俺がお前守ったる。これ以上、お前だけ辛い思いさせたないから・・・俺が守ったる・・・」弘は、僕をぎゅっと抱きしめたままそう言うてくれた。 「そやけど・・・」 「俺が信じられへんか?」弘が僕の体を離して、僕の目をまっすぐ見ながら言うた。 「そんなことないけど・・・」少し目を伏せる僕。 「目ぇつぶれ」真剣な顔で弘が言う。 「なんで?」 「ええから・・・目ぇつぶれ」 目をつぶった僕の肩に弘が手をかけて引き寄せた。弘のするまま、僕は弘に引き寄せられて・・・唇に柔らかい感触が・・・弘のにおいがする。目を開けてみた。目の前に弘の顔があった。弘は目を閉じていた。 「これが俺の気持ちや。俺はお前が好きや。そやから・・・絶対お前のこと、俺が守ったる」 そして、もう一度僕を抱きしめる。 「そやから・・・そやから、ずっと一緒におってくれ」 涙は相変わらず流れ続けていた。でも・・・さっきまでの辛い涙ではなくなっていた。僕は・・・うれしかった。弘は・・・こんなにも僕を好きでいてくれてるんやって、それを感じていた。熱い、感激の涙だった。もう、これ以上弘に逆らうことはできへんかった。自分の気持ちに嘘を付くこともできへんかった。僕は、小さくうなずいた。 それからしばらくは、僕はあんまり外に出て行かへんかった。家で一人でいることが多かった。 またなんかあったら・・・そう思うとどうしても消極的になる。でも、少しづつ、弘が僕を引っぱり出してくれた。初めはこわごわやった。また、なんか悪いこと起こるんちゃうやろかって。でも・・・弘がいてくれるから。弘が・・・いつも一緒にいてくれたから、僕は少しづつ元気を取り戻せた。弘がずっと僕を見ててくれるんやから・・・ そしてまた、僕と弘は毎日一緒にいるようになった。 放課後、僕等は二人でもう一度、あの神社に行って、お賽銭を入れて手を合わせた。弘が僕の横で、願い事を声に出して言うた。 「大輔が幸せになりますように・・・」 僕も、願い事を口にした。 「ずっと二人でいられますように。いつまでも弘と一緒にいられますように」 そして、賽銭箱を後にした。僕等は・・・当たり前のように手をつないでいた。 「も一回おみくじ引こ!」社務所の前で弘が言うた。 「いやや」僕は言う。 「なんで・・・今度は大吉かもしれんで?」弘が怪訝そうな顔をする。 「いやや」僕は拒否する。 「どうしたん?」弘が心配そうな顔で僕の顔をのぞき込む。 「また大凶でるかも知れへんから?」 「そやない・・・」僕は小さく答えた。 「なら、なんで?」 「もし、大吉とかでたら・・・弘、もう僕のこと守ってくれへんやろ?」僕の胸の奥の方で、なんか鐘の音がしてた。いまこそ・・・そのときって鐘の音が告げている気がした。 「僕は大凶でもええ。弘が僕を守ってくれるんやったら・・・弘と二人でずっと一緒におれるんやったら・・・いまのままでええ。今が、僕、幸せやから」 そして・・・ 「僕も、ずうっと弘のこと好きやった。ずうっと前から好きやったんや。そやから・・・」言うた。ついに。 「ほんまに、俺のこと?」弘が少しうれしそうな顔をする。こういう弘の顔って・・・大好き。 「うん」ちょっと恥ずかしい・・・かな。 「なんか・・・めちゃめちゃ・・・うれしい」弘もちょっと照れくさそうに、僕から視線をそらして、まっすぐ前を見て言う。 「うん・・・」弘が喜んでくれてる。僕も・・・すごくうれしかった。僕は、弘の横顔を見た。僕の大好きな弘。僕の大切な・・・弘。どきどきした。 「なぁ・・・キスしたい。してええ?」不意に僕の方を向いて弘が言うた。 「うん・・・ええよ」僕は顔が真っ赤になるのを感じた。胸の中の鐘の音が大きくなった気がした。きっと弘にも、この鐘の音が聞こえてるんとちゃうかと思た。 |
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正月とはうって変わって人のいない神社の裏手で、僕等はキスを交わした。 僕と弘の気持ちが一つになった。このまま時間が止まって欲しい、そう思た。 <最高のプレゼント Act2 -youthful days- 完> |