なぞのむぅ大陸
10万Hit記念作品


2005年の発売当初は、人間の子供の代用として、特に子供のいない家庭で購入され、人並みの生活をすることが多かったが、やがて、クローンである、ということで差別され、虐げられるようになった。
2010年ごろから、クローンの不法投棄が始まり、2012年には不法投棄、不法処分がピークに達した。これを重く見た政府は、2013年、クローン基本法を改正し、クローンの譲渡を認め、所有者の責任を緩和することにした。事実上、クローン売買の解禁であった。これにより、クローンを買い集め、貸与することが商売として成り立ち始めた。貸与された先で、クローンは過酷な労働やそのほかの”特別な用途”に使用されることになった。多くのクローンが貸与先で命を失なったが、「故意に死にに至らしめ」たわけではないとの主張がまかり通るようになっていた。つまり、「クローンの使い捨て」が始まったのである。

***************

俺が属する日民党は、この国を10年近く牛耳ってきた。たかが10年、と思われるだろう。しかし、その10年の間に、我々は1党独裁体制を築き上げた。我々に対抗しうる政党はすでにない。我々はこの国を手中に納めたも同然だった。
かくいう俺は、ほんの3年前まで、この党に唯一対抗できる政党である民生党に所属していた。そこで、俺は人気・実力ともトップと言われ、若くして、将来この国を動かす男と呼ばれていた。すでにそのころは、全国ほぼすべての選挙区で、日民党が議席の80%を占めていた。そして、俺が出馬する選挙区だけ、日民党以外の政党所属の者、つまり俺がトップ当選し、その勢いで当時は民生党が議席の過半数を占めていた。
日民党はそこまで議席を確保していたんだから、もう俺の選挙区なんて目に入ってないだろうと思っていたが、奴らはそれでは満足していなかった。奴らが欲したのは100%。つまり、当時の俺が奴らにとって目の上のたんこぶって訳である。
奴らは意外な方法で100%を狙ってきた。俺を自分たちの政党に引き込もうとした。普通なら、そうそううまくはいかないだろうが・・・俺にとって政治はゲームだった。党とか公約なんかどうでもよかった。このゲームに勝ち残り、そしていつかはトップに立つこと。それが俺の政治の目的だった。
この国最大の政党、しかもほぼ1党独裁状態の日民党が、俺にそれなりの地位を示して近づいてきた訳である。勝ち残るチャンスだ、俺は飛びついた。民生党の、個人的にも親交が深かった党首をも裏切り、俺は絶対権力に近づくための道を選んだ。もちろん、そう悟られないように慎重に、だが。
これで、俺のゲームでの勝利に一歩近づいた。いずれはこの党のトップを蹴落とさなければならないが、今とて手の届かないところにいるわけじゃない。いずれ、近いうちに・・・必ず。

そんな我々の政党では、月に1度ほど、議員を集めてパーティーが行われる。もちろん、金を取られる。しかも、それなりの金額を、だ。だが、ほとんどの議員がこのパーティーには参加する。そこで党の上層部と親睦を深め、自分の立場をより堅固にするために。時には彼らの趣味に合わせ、彼らとともにそれを楽しむ。あるいは、彼らの喜びそうな貢ぎ物をするときだってある。そして、いつからかパーティーでのアトラクションとして、あることが行われるようになっていった。誰の趣味だったのかは問題じゃない。今では恒例行事として誰もがそれを楽しむようになっていた。

その日、俺は友人の議員と連れだって、初めてこのパーティーに出席した。今まで誘われなかった訳ではない。しかし、今では日民党一番の人気者である俺のスケジュールはめいっぱいだった。この政党の広告塔として、誰も我々の政党に疑問を抱かないように講演会なんかでいわば洗脳する、そんな重要な仕事をほったらかしてパーティーに出ることは出来なかった。
そして、ようやく今回は、なんとか都合がついた。このパーティーが噂通りなら・・・きっと楽しめるに違いない。

「クローンはオスしかいないのか?」カクテルのグラスを片手に、友人が訊ねた。この友人は今回初めてパーティーに招かれた。信用できるようにならないと、その存在すら知らされない、秘密のパーティーって訳だ。
「ああ。メスがいたらややこしくなるからな」俺はグラスに残ったウイスキーを飲み干してから答えた。
「なにが?」
「クローンのメスが、人間の子供を孕んだら、その子は人間かどうかってことさ」俺は、傍らを通り過ぎる給仕が掲げ持つトレイから、新しい水割りのグラスを取った。
「ああ、なるほど」
「だから、あいつらにメスはいないのさ」グラスを持った手の人差し指を立てて、さっきの給仕を指さした。
「だが・・・俺にはそっちの趣味はないんだがな」友人が少し顔を曇らせた。そう、こいつの趣味は・・・まだ毛も生えていない少女とすることだった。俺ほどではないが、こいつもけっこうな人気者だ。その清潔なイメージで、主婦層から絶大な支持を得ている。だが、そんなイメージとは裏腹に、少女の体をむりやりものにし、そしてぼろぼろにするのがこいつの本性だ。
「それ以外で楽しめばいいのさ。たとえば・・・」俺は、近くのテーブルにグラスを置き、そこにあったフライドポテトの皿を手に取った。
「たとえば?」
「あれさ」俺は、会場の片隅を指さした。そして、その人だかりに俺達は加わった。





目が覚めた。特に目覚ましがあるわけじゃないけど、必ずこの時間には目が覚める。体のあちこちになんとなく鈍い痛みが残っていた。そっと起き出して、鏡を覗き込む。
「よかった・・・」目の回りの腫れは引いていた。
もう一つのベッドには誰もいなかった。僕が仕事に行くときも、仕事から帰ってきたときも空いたままだったから、数日間の長期なのか、それとももう2度とここには戻らないのか・・・・・
ベッドは特に誰の物、とは決められていなかった。空いているベッドは自由に使ってもいい、というのが決まりだった。ベッドだけじゃない。この小さな部屋も、服も、靴も・・・僕の物は何一つなかった。他の子たちも一緒だった。この体すら、自分のものではなかった。僕等は親方の所有物だった。この部屋も、ベッドも、なにもかも親方の物だった。僕等は親方に言われる通りに、なんでもやらなくちゃならない。それが、僕たちが生きていける唯一の方法だった。
クローンとして、親方の奴隷として、生きていくためのたった一つの方法・・・・・

がちゃり、とドアが開く音がした。きしみながらドアが開く。外から薄暗い部屋のなかに光が射し込んだ。親方が、その光の向こうにシルエットを現す。
「出ろ、仕事だ」
この瞬間が僕は吐きそうになるくらい大嫌いだった。もちろん、そのあとの”仕事”も好きじゃないけど、でも、仕事は生きていくためにやらなきゃならないって割り切れる。でも、ほとんど仕事がない子もいるのに、僕にはどんどん仕事が回ってくる。何で僕ばっかり・・・そう思っていても、それは言えなかった。いや、むしろ、仕事がない子が最後はどうなるのか何度も見てきたから、たくさん仕事があることを喜ばないと・・・頭では分かってるけど、でも、やっぱり吐きそうになる。
親方について、薄暗い部屋から明るい通路に出る。通路には、僕がいまくぐったドアと同じようなドアがいくつも並んでいた。
親方が僕の体をチェックする。瞼をめくり、口を開かせてのぞき込み、舌を出させる。腕を上げさせて脇の下をのぞき込み、背中を見る。薄汚れたズボンをずり下げて、その下も。
「大丈夫だな。風呂に入って着替えてこい」親方が僕のむき出しのお尻を手のひらでぱしんと叩いた。僕はその場でズボンを脱いで、それを手に持って浴室に向かった。
洗濯機にズボンを放り込んで、浴室に入る。まず、シャワーを浴びて、ボディシャンプーで体を洗う。いいにおいが浴室を満たす。ここの生活での数少ない気持ちのいい瞬間だった。そのまま頭も洗う。仕事の前には清潔にしておかないといけないので、入念に洗う。そして、再びシャワーで体についた泡を洗い流す。少しぬるめのお湯につかる。

浴室を出ると、体を拭き、置いてある服に着替える。置いてある服はお客さまの指定だったりすることもあって、日によって違っていた。今日の服は、白いブリーフに白いソックスと黒の半ズボン、そして白いカッターシャツ。着替え終わって鏡に写った自分の姿を見る。どこかの私立の小学校の生徒みたい・・・ノリの効いたカッターシャツが、なんとなく凛とした感じで、お金持ちのおぼっちゃんって感じになってる。ちょっとだけいい気持ちになって、親方が待っている部屋に戻った。

親方は、人差し指をくるくると回す仕草をした。僕はそれに従って、親方の前で一回りした。親方が僕に近づいて、半ズボンを少し直す。
「こんなもんだろう」満足げに親方が言う。
「今日は泊まりだからな。しっかりお相手してこい」そう言いながら、僕のカッターシャツの襟を直した。
「はい、行ってきます」そして、僕は、いつのも場所に向かった。

いつもの場所には男の人が3人いた。
(3人も相手にするのか・・・やだな)そう思ったけど、もちろん口に出すことはない。
「あの、ご利用ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」僕は3人に頭を下げた。
そのときまで、今日の僕の仕事はいつもの仕事だと思っていた。いつもの、僕にとって普通の仕事だと・・・・・
「じゃ、車に乗って」
男の人達は、僕を車に乗せた。それ以外はなにも言わない。僕もなにも言わない。誰もなにも言わないまま、車が走り出した。車が走っている間、僕は今日はどんな仕事なのかを考えた。そして、今までの仕事を思い出した。

親方に引き取られて、初めてした仕事。いままでもう思い出せないくらいいろんな仕事をしてきたけど、あれが一番辛かった。今にして思えばそんな大した仕事じゃなかったのに・・・”慣れ”ちゃったのかな、そう思った。
倉庫のなかで、ただ数字の順番通りに荷物を並び替えるだけなんだけど、真夏の倉庫の中はものすごく暑かった。すぐ近くで荷物を運ぶ機械がびゅんびゅん走っていて、ちょっとよろけたりすると、その機械に轢かれそうになる。重い荷物を持ち上げて、箱に書いてある数字を確認する。新しい数字だったら奥に、古い数字だったら手前に積む。ただそれだけなんだけど、朝6時から夜12時まで、全然休ませてもらえなかった。一緒に仕事をしていた子が何人か、荷物を運ぶ機械に轢かれた。ほとんどは大した怪我じゃなかったけど、一人は口から血を吐いていた。でも、仕事を続けさせられた。僕等は仕事をするためにここにきたんだから。仕事が出来なくなったら、用無しだから。用無しになったら・・・処分されるから。

昔はこういうのは機械が自動的にやってたらしいんだけど、そういう機械を買うよりも、僕等クローンにやらせる方が断然安いってことで、こういう危険できつい仕事は僕等の仕事になった。

僕はその仕事を3日やった。3日目はふらふらで、僕も荷物を運ぶ機械に轢かれそうになった。ほんとに危なかったけど、なんとか轢かれずにすんだ。もし、あのまま轢かれてたら、きっともうここにはいなかったろうと思う。”そのうち、死ぬ”って思った。

僕には他の仕事が入ったから、その倉庫の仕事からは解放された。他の子たちはずっとあの仕事を続けていたんだろうか・・・あの、轢かれて血を吐いた子もそのままずっとその仕事を続けていた。
そして、その子は仕事中に倒れて死んじゃったって噂を聞いた。

その次の仕事は、その後一番たくさんすることになる仕事だった。
親方に呼ばれて、今日と同じように体をチェックされた。そして、今日と同じようにお風呂に入って、そして服を着た。あのときの服は今も覚えている。体操服と赤い帽子。これから運動会に行くような、そんな感じ。そのときは、なんだかうれしいような気がした。きれいな白い服なんて久しぶりだったから。普通の子供に戻れたみたいな気がしたから。
でも、そんな幸せな気分はすぐにどこかに行っちゃった。僕は男の人に犯された。服の上から縛られて、猿ぐつわかまされて、動けないようにされて、服を引き裂かれて、そしてアナルを犯された。初めてだったから、めちゃくちゃ痛かった。ぼろぼろ涙を流しながら、猿ぐつわをかまされたまま、うめき続けた。男はそんな僕をビデオに撮影した。僕が痛がれば痛がるほと、その人はうれしそうにしていた。僕の初体験。でも、それだけだった。アナルを強姦されただけ。”死ぬほど痛い”とは思ったけど、”死ぬ”とは思わなかった。

痛みさえ我慢したら、お風呂に入れて、きれいな服が着れた。ときどき、お客さんが食事をさせてくれた。あの最初の仕事みたいに、”死ぬ”と思うことはなかった。辛い仕事だったけど、でも、”死ぬかも知れない”仕事よりはましだった。

でも、それは初めのうちだけだった。親方はこんな仕事をどんどん僕に回してきた。もちろん、逆らったり断ったりなんて出来るわけがない。僕は命令に従うしかなかった。

やがて、僕は自分の立場が分かるようになった。親方のところで一番お金を稼ぐなかの一人になっていた。そんな僕等は、「性奴隷」としてお客さんに売られていた。1日いくらとか、2日でいくら、とか。
普通の人間相手じゃできないようなことをするために、お客さんは僕たちを買っていた。だから、当然、普通のセックスですむ訳がない。僕等は普通じゃないセックスのために売られていた。たとえばこないだのような、普通じゃないセックスのために・・・・・

もう、普通じゃないセックスにもある程度慣れていた。指定場所でお客さんとおち合って、「お前を思う存分いじめてやるからな」って言われたときも、そんなに怖いとは思わなかった。そして、ホテルの部屋に入ると、いきなり殴られた。拳で何発も何発も・・・意識が薄れるまで。
鼻血を流しながら僕が床でぐったりしていると、お客さんはようやく僕の服を脱がせた。僕を裸にして、そしてまた殴られた。お尻の穴に指をつっこまれた。そして、お客さんが持ってきたディルドで僕のアナルを犯し始めた。いきなりかなり大きいディルド、でも、お客さんが持ってきたディルドのなかでは小さいほうだった。僕のアナルにディルドを入れて、そして、殴る。顔、おなか、背中・・・・腕をねじあげられる。僕が悲鳴をあげるといやらしい笑みを浮かべる。アナルにもっと太いディルドがあてがわれる。それを無理矢理挿入する。でも、僕のアナルはそれを受け入れる。もう、僕のアナルはかなり太い物でも平気だった。腕とか入れられてるんだから、ちょっとくらい太いディルドでも平気だった。でも、痛いふりをする。お客さんに満足してもらうために。実際、無理矢理入れられると痛いから、演技って訳でもないけれど。
さんざん殴られて、目の回りとか腫れ上がって、顔の形が変わっていた。紫色に晴れ上がった顔は、火を噴きそうなくらい熱かった。そんな僕の髪をつかんで、お客さんは自分の股間に押しつけた。そして、初めてお客さんが服を脱いだ。僕を殴り、太いディルドで犯した訳がわかったような気がした。小さかった。ほんとに小さかった。僕は、そのまるで子供のようなペニスに口で奉仕した。お尻に太いディルドをくわえ込みながら、腫れ上がった顔で小さいペニスに一生懸命奉仕した。お客さんがイクまで、ずっと・・・何時間かかったかわからないくらい、ずっと・・・・・

車のなかでぼんやりしながら、僕は無意識に目の回りをさわっていた。体中腫れ上がって、あのあと大変だった。しばらく仕事も出来なくて・・・今朝起きたときには、まだ体のあちこちになんとなく鈍い痛みが残っていた。でも、目の回りの腫れは引いていた。そして、親方に呼ばれて、いま、ここでまた新しい仕事をしている。お客さんから感じる雰囲気は、なんとなくいつもと違ってた。いつもの仕事の相手達とは、なにか違和感があった。

「着いたよ」そう話しかけられて、僕は我に返った。車は白い大きな建物の前に停まっていた。
「なにを考えていたんだい?」助手席に座っていた男が後ろを振り向いて、僕に向かって訊ねた。
「あの・・・どんなお仕事なのかなって」男のそぶりから、違和感をさらに強く感じた。
「不安かい?」僕の考えていることを知っているみたいに、そう聞かれた。
「い、いえ」本当は少し不安だったけど、それは言えなかった。
「じゃ、降りて」運転席の男が車を降り、僕が座っていたところのドアを開けた。
「はい」僕は素直に従った。結局、男達は仕事の内容をなにも教えてくれなかった。





「ほら、そこ気を付けろよ」俺は友人に声をかけた。そこには小さな段差があった。
「おっと」友人は俺が声をかけてやったにもかかわらず、その段差に蹴躓いた。俺は友人の腕をつかんで体を支えてやった。
「ああ、ありがとう」そして、友人は人だかりの真ん中にあるものを見た。
「あれは・・・」そこには一人の少年が仰向けに寝ていた。
「あいつは何であんなところに寝てるんだ?」俺を振り返って訊ねた。
「よく見ろ。寝てるんじゃない」俺は足下を指さした。そこには大きな板が置かれていた。さっきの段差はその板のせいだった。そして、その板の中央に、あの少年がいた。少年の手足はその板に固定されていた。
「なるほど。で、これはどういう趣向かい?」俺と友人は板の上の少年に近寄った。

少年は涙目で、床から俺達を見上げていた。口の回りには食べ物がへばりついていた。俺が近づくと、少年は口を開いた。
「ほら」俺は持っていたフライドポテト一皿分を全て少年の開いた口に無理矢理押し込んだ。少年の目から涙があふれた。そして、少年は口一杯のポテトを必死で飲み込もうとした。
「こいつは、口に押し込まれたものはすべて飲み込まなきゃならないのさ」怪訝そうに見ていた友人に俺は説明してやった。
「どんなものでもか?」
「口に押し込まれたものは全部、だ」
「へぇ・・・それはなかなか辛そうだな」友人は薄笑いを浮かべた。
「それじゃあ、こんなのはどうだ?」そして、友人は近くのテーブルに置いてあった誰かの食べかけのフライドチキンを手にした。
「こんな骨付きのものでも全部飲み込まなきゃならない訳だ」少年に近づいた。少年が口を開けた。さっきのフライドポテトがまだ口一杯に詰まっていた。そのポテトの中に、友人はフライドチキンの骨を突き立てた。少年は骨をかみ砕こうとした。なかなかできない。その様子を見ていた友人が、一歩少年に近づいた。そして、右足をあげると、口から出ているフライドチキンの骨に乗せた。右足に力を入れる。少年がうめき、もがいた。そして、チキンの骨は少年の口の中に入っていった。
「喉に刺さったかな?」友人は足を離した。そのとたん、少年が咳き込み、口の中の物を吐き出した。
「飲み込めなかった時はどうなるんだ?」友人が俺に聞いた。
「そりゃ、もちろん」俺は手のひらで首を落とす仕草をして見せた。
「そうか。そりゃ、気の毒に」友人はそう言って笑うと、少年の異常に膨らんだ腹を思いっきり踏みつぶした。
「ぐえぇ」少年が食べたものを吐いた。他の議員達も同じように少年の腹を踏みつけた。少年の顔が、吐瀉物でまみれた。
「おい、この汚ねぇの、片づけてくれ」誰かがそう言って、少年の腹を蹴飛ばした。男が数人やってきて、板ごと少年をパーティー会場から運び去った。

「あいつはこれからどうなるんだ?」酒を取りにテーブルに向かいながら友人が訊ねた。
「処分される」俺はまた水割りのグラスを手に取った。
「殺されるのか?」友人はあいかわらずカクテルだ。
「ああ」俺は頷いた。
「それはかわいそうだな」ちっともかわいそうだとは思ってない表情で言った。
「まぁ、ここにいるクローン全員が、終わったあと処分されるんだけどな。機密保持のために」
「機密保持か・・・なるほどな」
「ほら、あそこではまた別のことやってるぜ」
俺達は別の人だかりの方へと向かった。





英語の授業中、突然僕は放送で校長室に呼ばれた。なんで呼ばれたのかはよく分からないけど、とにかく僕は授業中の誰もいない廊下を校長室に向かった。校長室には、校長先生と、知らない男の人2人がいた。
「そこに座って落ち着いて聞きなさい」校長先生が机の前の椅子を指さして言った。
「はい、失礼します」僕はその椅子に座った。
「君の・・・お父さんが亡くなった」
「え・・・・・・」
「今日、議員会館で急に倒れられて、そのまま息を引き取られたそうだ」先生の言っていることは聞こえていた。でも、理解出来なかった。
「・・・・・」
「信じられないのも無理はない。この人達が君をお父さんの病院まで連れていってくれる。今すぐに行ってあげなさい」そして、僕はなにがおこったのか理解できないまま、いや、理解はしていたけど、信じられない思いのまま、2人の男の人に挟まれるようにして車に乗り込んだ。校長室の窓から、校長先生がこっちをずっと見ていた。

霊安室に父さんは横たわっていた。白い布きれが顔にかぶせてあった。何人かの人が父さんを取り巻いていた。でも、その中に父さんの政党の人はいなかった。知っている顔は一人だけだった。写真でしかみたことない顔だったけど・・・
「突然のことで、お悔やみ申し上げる」写真で知っている顔の人が僕に言った。
「ありがとうございます。でも、これであなたの政党も安泰ですね」僕は皮肉たっぷりに言った。そう、いつかこういう日が来ると思っていた。この国最大の政党である日民党に最後まで抵抗していた父さんの民生党、その党首である父さんの身に、いつかこういうことがおこるだろうということを。
「まだ小学生のくせに、しっかりしているな」写真の男、日民党の党首が、この国を牛耳る男が言った。
「この4月に中学生になりました」僕は男の顔をにらみながら言った。そう、僕は、すべて分かっているんだ・・・
「そうか。君の今後のことは、彼らがいろいろと考えてくれているようだよ」写真の男が、僕を学校から連れてきた2人の男の方を指さした。
「結構です。自分でなんとかしますから」絶対、こんな奴らの世話にはなりたくなかった。
「彼らに任せるんだ。いいね」僕の目の前に、写真と同じ顔を近づけて言った。目が冷たかった。
「大丈夫、殺しはしない」そして、男2人が僕の両脇に腕を回した。最後に僕はちらりと父さんをみた。白い布で覆われた父さんを・・・

僕は病院のベッドで目が覚めた。さっきの病院かもしれない。父さんが安置されている病院。でも、違うだろうと思った。
「目が覚めたか」白衣を着た男が僕に言った。
「なにをするんだ」僕は起きあがろうとしたけど、体が言うことを聞かなかった。
「なにをするんだ、じゃなくて、なにをしたんだ、だな。質問するならな」男はそう言って、僕の体を抱き起こした。
「お前はあの方に目を付けられた。今、こうして生きているだけでも奇跡のようなもんだ」そう言いながら、男は僕をベッドの端に座らせた。
「ほら、持て」男が僕に手鏡を渡した。そして、僕の横に座って、僕の後頭部にさわった。
「よく見ろ」男が僕の後頭部を、もう一枚の鏡で映しだした。髪の毛をかき分けると、そこにアルファベットと数字が刻まれていた。
「こ、これって・・・」
「お前は今からクローンとして扱われる。本物のクローンと同じ認識チップを埋め込んで刻印を施した。もう人間には戻れない。覚悟するんだな」男が僕の手から鏡を取り上げた。
「当然ながら、この刻印は絶対に消せない。君はこれからクローンとして生きて行くしかないのさ」
「そ、そんな・・・」絶句した。クローンとして生きるということが、どのようなことなのかはあまりよくわかっていなかった。でも、クローンといえば・・・人間の奴隷だった。
「心配するな、あの方がお前を飼って下さるそうだ」白衣の男がまた僕の体を抱えて、ベッドに横にした。腕に何か注射された。
「お前ら・・・はじめから・・・」意識が遠のいていった。
”今度目がさめたときには、人間じゃなくなってるんだ・・・”必死に眠らないようにしようと思ったけど・・・

思ったけど・・・・・

思ったけど・・・・・・・





その人だかりの中心には、3人の男がいた。2人は外国人、そして、もう1人は子供だった。3人とも全裸だった。
「おい、あれ見てみろよ」友人が外国人を指さした。その指の先には、それこそ俺達の腕ほどもあるペニスが揺れていた。その外国人は、子供・・・クローンの背後から、その子供に抱きつき、アナルに巨大なペニスを無理矢理挿入しようとしていた。そして、もう一人の外国人がそのクローンを動かないように押さえる。ついに、腕のようなペニスがクローンのアナルを引き裂きながらずぶずぶと入っていく。鮮血がぼたぼたと床にしたたり落ちた。外国人はその”腕”を根本まで押し込もうとする。クローンは、こちらからは見えないが、おそらく猿ぐつわでもかまされているのであろう、くぐもった悲鳴を上げていた。”腕”をいったん引き抜く。
「あんなのが入るんだな」友人は感心したかのように言った。
「それも根本までな」俺は相づちを打った。その間にも、その”腕”は根本まで差し込まれ、そして引き抜かれていた。まるで手品のように、太く長い”腕”がクローンのアナルに消え、そしてまた現れた。彼らの体の向きが少しずつ変わる。もう一人の外国人のペニスも見えた。さらに、見るからに太い。この子はこんな物で犯されるのか・・・少し気の毒な気がした。
「かわいそうにな」思わずそうつぶやいた。
「お前の口からそんな言葉が出るとはな」友人に言われる。
「気の迷いさ」あわててそう答えた。そして、その人だかりから離れようとした。そのとき・・・・・
ちらりと見えたそのクローンの顔に見覚えがあった。確かに、どこかで俺はこいつに会っているはずだった。突然立ち止まった俺を、友人が怪訝そうに見ていた。
「いや、あのクローン、知ってるような気がしてな」なんか、へんに勘ぐられそうな気がした。
「クローンは同じ顔の奴が何人かいるからな」
そして、俺はその顔を思い出した。唐突にすべてを理解した。俺は逃げるようにその場から離れた。友人が何かを言っていた。しかし、耳に入らなかった。
”あの子が・・・”普通ならあり得ないはずだった。だが、あの子ならあり得る。俺が裏切ったあとも、この国を牛耳る男に一人立ち向かった民生党党首の息子なら・・・・・ そしてあの党首が亡くなった(おそらくは殺された)あと、こうしてなぶり物にされて・・・間違いなく、このあと彼も殺されるのだろう。
(人間の子供なのに・・・・いや、奴らならやりかねない。あとに問題を残さない方法で・・・)
心底、政治というものは恐ろしいと思った。いまさら、だが・・・・・





車から降りて、僕が連れて行かれたのは、なんだか大きなホールみたいなところの舞台の上だった。前に幕が下りていて、その向こうは見えなかった。がやがやと声がしていた。何人か、それもけっこう大勢の人がいるのが分かった。
「この台の上に横になりなさい」僕は言われる通りに横になった。そして、服を着たまま台に手足を縛られた。
(見せ物になるのかな)そんなことを考えた。大勢の人からお金を取って、僕が犯されるのを見せるんだろうな。そして、最後は見に来てる人にもされるんだろうな。でも、初めてじゃなかった。だから、平気だった。
しかし、そこから先が少し違っていた。
3人の男が、僕の両手、手のひらに青くて丸いシールを貼った。おなかのところには黒いちょっと大きなシールを。股間、ちょうどおちんちんのところには赤いシール。左右の胸のところにもシール。左は赤で右は青。そして、額に小さな金色のシール。そのほかにもあちこちに黒いシールを貼り付けられた。そして、男が台の下に潜り込んでいたかと思うと、僕の頭の方が台ごと持ち上げられて、僕は立った姿勢で貼り付けにされたみたいになった。
「さぁ、準備完了だ。お待ちかねだぜ」男達は少し離れて僕を見て、満足そうにそう言うと、舞台のそでに引っ込んでいった。





「さぁ、みなさん盛り上がっているところですが、そろそろ時間もなくなって参りました」会場にそんなアナウンスが流れた。正面の舞台で、幕の前に派手な服を着た男が立っていた。
「それでは、恒例の最後のアトラクションと参りましょう」男が大きな手振りで幕の方を指し示した。幕が音もなくするすると上がっていった。舞台には一人の少年がいた。もちろん、クローンだろう・・・・・たぶん。
「さぁ、もうすでにみなさんご承知でしょうが、一応ルール説明です」そして、会場内の客に、ダーツの矢が1本ずつ配られた。
「いつものように、赤の的に刺されば10万、青なら5万、黒で1万、そして、金ならなんと50万です!!」会場が少しどよめいた。
「もちろん、それ以外のところだったり、あるいは的に当たっても刺さらなかった場合は、罰金としてみなさんから3万ずついただきます。さぁ、準備はよろしいですか?」
議員達が列をなして、舞台に上がる階段に並び始めた。クローンの体を的にしたダーツゲームの始まりだった。

俺は列にはつかずに、あの少年、あのアナルを引き裂かれていた、俺の師匠とも言える人の息子の様子を見に行った。その子は、アナルから血を流してうつぶせに倒れていた。近寄ってみると、うつぶせになった口のあたりにも大量に血が流れていた。きっと、舌でも噛み切って、自殺したのだろう。この屈辱から救われる唯一の方法として。
俺は少年の後頭部の髪の毛をかき分けた。そこにはクローンの証拠となる刻印がはっきりと読みとれた。あいつらはこの子に、れっきとした人間の子に、クローンとしての運命を押しつけ、そして、こうして慰みものにしたんだ。少し腹が立った。だが、俺もそういう世界で生きることを、このゲームに勝つことを決めたんだ・・・・・
そっと少年を仰向けにした。口のまわりについている血をハンカチで拭い、そして、屈辱に満ち、怒りで見開いたままになっていた目から流れ出た涙の跡をふき取ってやった。その目をそっと閉じてやり、少しだけ黙祷を捧げた。俺が裏切った民生党に対し、心の中でほんの少しだけ詫びた。

俺はダーツの矢を握って立ち上がった。





「殺される」初めて、本当の恐怖を感じた。いい身なりをした男達が、笑いながら僕に矢を投げつけてきた。すでに、左の肩に1本、右手に2本、おなかに3本と左足にも2本、矢が突き刺さっていた。
「まだみごとに的に的中させた方はおられません。これは、今日は主催者側が大儲けとなりそうですな」派手な服を来た男が馬鹿みたいに言っている。僕が・・・こんな目にあっているのに・・・
目に激しい痛みを感じた。目の前が一瞬真っ赤になった。
「おおっと、残念ながら的ははずしましたが、右目に的中いたしました。おしい、実におしい!」
僕はうめきながら体を動かそうとした。でも、縛られたまま、身動きがとれなかった。体に刺さった矢が揺れるのを感じた。

「さぁ、最後の挑戦者です。我が党の若きホープの登場です!」
俺はゆっくりと矢を構えた。そう、俺がこの国を取るためには、こんなことくらい簡単にクリアしないとな。そして、俺は矢を放った。

その矢はまっすぐに僕に向かって来た。矢の先がゆっくりと大きくなる。それは、僕の目と目の間に深々と突き刺さった。

涙が一筋流れ落ちた。

<episode 3 完>

※本作品に登場する団体、その他のものはすべてフィクションであり、実在する団体やその他のものとは一切関係ありません




BACK