0.プロローグ

暗い地下に僕はいた。
足元からは瓦礫を踏みしめるような音。埃のにおい。誰もいない筈のそんな部屋の奥に、小さな赤い光が見える。怖くなった僕はクラウスを抱き締める。
「大丈夫だよ」
クラウスが言った。
「ホントに?」
でも、クラウスの言うことに間違いはない。僕はその灯りに近づいた。
その灯りは瓦礫の下で微かな光を放っている。それを引っ張り出す。ノートパソコンだ。
「2025年のノートパソコン、骨董品だね」
クラウスが言った。
「でも光ってるよ」
僕は画面を開いてみる。真っ黒だった画面が薄暗く光る。アプリか何かが起動しているのか、それらしきウインドウが表示されていた。その、入力待ちのような画面の隅で、カーソルが点滅している。
「へえ、まだ動くんだ」
少し驚いた。
「電源とかどうなってるんだろ」
僕はそのパソコンを持ち上げてみた。何もケーブルとかは繋がっていない。
「今までスリープしてたのかな」
パソコンの後ろ側を見ても、外部バッテリーのようなものはなさそうだ。
「50年くらい前のパソコンだからね。ひょっとしたら最近まで使われてたのかも」
キーボードを叩いてみる。入力も出来るようだ。僕は自分の名前を入れてみた。ちゃんと『能美(のみ)将馬』と変換出来た。
「将馬君の夢とか入れてみたら、実現するかも知れないよ?」
クラウスが言った。こんな古い、でも今も動いているパソコンだ。不思議な力があったりするのかも知れない。
『僕は世界の支配者、世界を破滅させる』
Enterキーを押した。その途端、パソコンの画面が真っ暗になった。
「バッテリー切れかな」
電源ボタンらしいものを押しても何も反応しない。
「将馬君の夢が大きすぎて、処理出来なかったのかもね」
クラウスが言った。



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