4.エピローグ 〜Fate of Death〜

夜になっても亮ちゃんに送ったLINEに既読が付かない。窓を開けて亮ちゃんの部屋を見ても、灯りが点いていない。
(どうしたんだろ)
少し胸騒ぎを感じる。でも、たまたまかもしれない。今までにも、こういうことはなかったわけじゃない。そういうときは、大抵亮ちゃんは誰かと泊まりでセックスしてるときだ。ただ、いつもなら泊まりでする時はそう言ってくれるのに・・・
(なにかあったのかな)
今日の事を報告したくて、そして、亮ちゃんとセックスしたいって話したいのに・・・
今も泊まりであんな気持ちの良いことをしてるのかもしれない。そう思うと少しくやしくなる。嫉妬心ってやつかな。今までは亮ちゃんが誰かとセックスしていると思っても、こんな風には感じなかった。
「亮ちゃん・・・なにやってんの?」
壁にもたれて、開いたままの窓の向こうの亮ちゃんの部屋の窓を見つめる。
「気持ちいいことしてるんだよね?」
俺は、ズボンとボクブリを下ろして下半身裸になった。そのまま窓に近づいた。もし、今、亮ちゃんが帰って来て、この窓を開けたなら・・・
「亮ちゃん・・・」
俺のちんこは勃起している。今日なら、亮ちゃんに見られながらでも出来るかもしれない。窓を開いたまま、ちんこをしごき始める。もし、亮ちゃんとセックス出来たら・・・

一つ、大切なことに気が付いた。
(亮ちゃんって、入れる方も出来るんだっけ?)
俺は入れられる方しか経験がない。っていうか、今日、初めて経験したわけで。
亮ちゃんはどうだったっけ・・・たくさん経験してるけど、入れる方は出来るのかな。でも、きっと亮ちゃんならなんとかしてくれる。なんなら、亮ちゃんに教えてもらいながら、俺が入れる方をやってみても良い。お互い入れる方も入れられる方もしてみるのが一番良いのかもしれない。
そんなことを考えながら、下半身裸のまま、ちんこをしごく。亮ちゃんとするときのことを想像しながら、亮ちゃんの窓の方に向かってしごき続ける。お尻がなにかむずむずする。手を伸ばして穴を触ってみる。
(あっ)
指で触れただけ電気が走ったみたいに気持ちいい。
(そういや、今まで穴を触りながらしたことってあったっけ?)
たぶん、ないと思う。動画とかで穴に入れられると気持ちいいみたいだってことは知ってる。亮ちゃんも気持ちいい時もあるって言ってた。でも、本当に気持ちいいんだってことを知ったのは、今日だ。だから、たぶん穴を触りながらしたことはない。
指でゆっくりと穴を撫でてみる。ぴりぴりした感覚がそこから広がる。でも、あのとき程じゃない。穴に指を押し当てて、少し力を入れる。あの時みたいにお尻の力を抜いて、指を入れてみる。
(あんまり・・・)
やっぱりあの時ほど気持ち良くない。
(やっぱり自分じゃダメなのかな)
そのまま中で指を動かしてみる。
(亮ちゃんにしてもらったら気持ちいいんだろな)
窓の外の窓を見る。そこに灯りが点くのを想像する。窓に人影が映って、そして窓が開く。亮ちゃんが俺を見つめる。俺は亮ちゃんに見られながら、左手でちんこをしごく。ちんこをしごきながら、右手の指をお尻の穴に入れる。亮ちゃんが俺の部屋に来る。そして、俺を見る。俺を見ながら、亮ちゃんも裸になる。俺はそんな亮ちゃんにキスをする。亮ちゃんは俺の身体を抱き締めて、その手で俺のお尻を掴む。お尻を開かれて、穴を撫でられる。穴に亮ちゃんの指が入ってくる。
(ああ、いきそう・・・)
でもまだだ。まだいっちゃダメだ。四つん這いの俺の後ろに亮ちゃんがいる。そして、俺の中に亮ちゃんが・・・
(あっ)
俺は射精した。亮ちゃんの家の、亮ちゃんの部屋の窓の前で、お尻の穴を触りながら射精した。飛び散った精液をティッシュで拭き取る。それを丸めて、更に2、3枚のティッシュで包んでゴミ箱に捨てた。下半身裸のままで、床に座って窓を見上げた。
(亮ちゃん・・・早く帰って来てよ)
でも、その部屋に灯りが点くことはなかった。





あれから半年が過ぎていた。
亮ちゃんは帰って来なかった。
亮ちゃんに何が起きたのか、警察の捜査は進められてるけど、今のところ犯人も、そして亮ちゃんがどうなったのかも分かっていなかった。
俺も警察にいろいろと聞かれた。亮ちゃんの親にも、俺の親にも秘密にしてもらうことを条件に、知っていることを全部話した。亮ちゃんがいろんな男の人とセックスしていたことを。でも、俺のことは言わなかった。あの日、初めて男の人とセックスしたことは。たぶん、それは亮ちゃんのこととは関係ない。
その後、亮ちゃんが書き込んだネットの掲示板が見つかった。その文面は俺が亮ちゃんと相談して作った文面、俺がネットに書き込んだ文面とそんなに変わらなかった。日付は俺がネットに書き込んだ翌日だった。
警察は、あの日、亮ちゃんがある男と会う約束をしていたということを突き止めた。でも、その先は、海外のサーバを経由してるとかで、詳しいことは分からなかったそうだ。
俺も疑われた。まあ、亮ちゃんとセックスした奴は全員疑われたし、そういうことを全部知っていた俺が疑われたのも当然かもしれない。そして、そういうこと・・・亮ちゃんがいろんな人とセックスしていたことや、俺もネットで相手を見つけてセックスしたこと。そして、亮ちゃんと俺の関係とかも・・・は結局、亮ちゃんの親にも俺の親にも全部バレてしまった。
それ以降、俺の親の態度が変わった気がする。『腫れ物に触るような』って表現がある。そこまでとは言わないけれど、変に俺に気を遣っているのを感じる。特に亮ちゃんの話は避けようとしている。それが嫌だった。親の気持ちも分かるけど、俺の居場所がなくなっていく感じがしていた。

そしていつしか、俺は亮ちゃんと同じように男とセックスするようになっていた。最初は、あの日に会った、俺の初めての相手の人。メールで話をして、また会ってもらった。その時に、色々と事情を話した。俺が好きな人が、たぶん事件に巻き込まれて行方不明になったこと。未だにLINEが既読にならないことから考えて、たぶん・・・そうは思いたくなかったけど、もうこの世にはいないんじゃないかってこと。そして、両親の態度と、俺の居場所のこと。その人は俺の話を黙って聞いてくれた。何も言わなかった。何も言わずに俺を抱き締めてくれた。あの夜、そしてその時まで、俺は泣かなかった。でも、この人に抱き締められていると涙が溢れてきた。涙が溢れて止まらなくなった。それでも、しゃくり上げる俺を、ただ黙ってずっと抱き締めてくれた。それ以来、俺は何度かその人に抱かれた。
久しぶりに自分の居場所を見つけた気がした。

それ以降、俺は、自分の居場所を求めていろんな男とセックスするようになった。亮ちゃんと同じようなことを、亮ちゃんとは別の理由でするようになったってことだ。でも、亮ちゃんがいなくなった心の隙間は埋まらないし、俺の居場所も見つからない。いつかきっと、パズルのピースのように、上手く俺の心に填まる人が現れるんじゃないか、そんな風に思いながら、俺は何人もの男とセックスするようになった。

そして、ある人と、隣の駅で12時待ち合わせの約束をした。

その日、その時間、隣の駅の前には車が1台停まっていた。俺が近づくと、ドアが開いて男の人が降りてきた。
「裕弥君?」
俺は頷く。その人は、助手席側に回り込んでドアを開ける。
「乗って」
俺は言われた通り、車に乗り込んだ。
「飲む?」
その人がペットボトルの水を差し出した。キャップを開けてくれる。
「ありがとうございます」
俺はそれを受け取って、中身を半分ほど飲んだ。
すると、その人はゆっくりと車を発進させた。
「俺は、勇。今日はよろしくな」
「よろしく、お願い・・・します」
突然の睡魔に襲われながら、俺は答えた。
「緊張してる?」
「少し・・・」
眠気と戦いながら、そんな会話を交わした。
やがて、俺は眠りに落ちていった。

<FoD 完>


Index