「行ってきま〜す」
少年は、前に抱えたリュックサックのストラップに腕を通しながら振り返らずに言った。
「何かあったら、携帯で連絡するのよ」
玄関口に出てきていた母親が少年に心配そうに声をかける。
「分かってるって」
少年は少し面倒臭そうに答えると、玄関の脇に停めてあった自転車にまたがった。いつも通学に使っているクロスバイクタイプの自転車だ。
「じゃ」
少年は片手をあげて、自転車をこぎ出した。
とある夏休みの1日、どこまでも青く晴れ渡る空の下で、少年は、軽々とペダルをこいでいた。この自転車は、毎日、片道5キロほどの通学に使っている。そしてこの夏休み、祖母の家までのおよそ200キロを、3日間で走る計画。つまり、1日70キロ程度のちょっとした長距離サイクリングだ。
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