里田先生が逮捕されたことは、テレビやネットでも報じられていた。
シュウちゃんがそれを知ったのは、病室の小さなテレビにそれが映ったからだった。
「里田夏夢偉容疑者(38才)」
テロップにそう書かれていた。
「あ・・・あ・・・・・」
それはちょうど僕と冬樹が病室にいるときに起きた。テレビで里田先生が逮捕されたことが報道され、それを見たシュウちゃんが突然叫びだした。
「夏・・・夏」
「シュウちゃん」
「夏が、夏がいた・・・夏が・・・夏が・・・」
テレビの画面を指差し、震えていた。
「僕・・・僕は・・・」
慌ててナースボタンを押した。看護婦さんが来るまで僕はシュウちゃんを無理矢理抱き締めていた。
そう、僕等3人の繋がり。僕はハル、シュウちゃんが秋、冬樹が冬。夏はいなかった。でも、シュウちゃんをレイプしたあの男の名前は、里田夏夢偉。そこに夏がいた。
僕や冬樹にとってはそんなことはもうどうでもいい。ある意味ただの語呂合わせの遊びのようなものだ。でもシュウちゃんには違った。シュウちゃんを苦しめた奴、それが僕等に欠けていた季節を埋める最後の一人だった。
「僕の・・・運命・・・」
それから、シュウちゃんはときどきそんなことをつぶやくようになった。僕等がどれだけそんなことはないと言っても、シュウちゃんはその考えに捕らわれてしまった。
シュウちゃんは笑わなくなった。
シュウちゃんは前のシュウちゃんとは別人みたいになってしまった。
笑わない。喋らない。一日何も言わず、何もせず、ただ目をきょろきょろさせて、何かに怯えていた。病院の先生もしばらく様子を見るしかないと言っている。
僕が好きになったシュウちゃんはもう、そこにはいなかった。
「これから秋矢をウチに連れて行く」
ある日、突然病室に現れたお父さんがそう言った。
「外泊許可は取ってあるし、秋矢のご両親の承諾も得ている」
ベッドの上のシュウちゃんを抱え上げた。
「嫌だっ」
シュウちゃんが抗った。でも、お父さんはしっかり抱えたまま運んでいく。病院の廊下にシュウちゃんの声が響く。そのまま車に押し込んだ。
「秋矢を押さえててくれ」
お父さんは僕にそう言って、車を出した。
家について、リビングまでシュウちゃんを引きずって行く。
「これからなにがあっても上に来るな。いいな」
お父さんが少し怖い顔をして僕に言った。
「なに・・・するの?」
「俺の・・・いや、なんでもない。とにかく上には来るな。いいな」
僕はうなずくことしか出来なかった。
俺は秋矢をあの部屋に連れ込んだ。
「嫌だ、嫌だ」
秋矢は叫ぶ。そんな秋矢を俺は押さえ付ける。
「先生・・・嫌だ、やめて」
俺を見て、震えながら首を左右に振る。
「秋矢」
無理矢理キスをする。秋矢は歯を食いしばって俺の舌を受け入れようとしない。服を脱がせる。下着を剥ぎ取る。全裸にする。
「嫌だっ」
秋矢が暴れる。俺の腕に爪を立てる。秋矢の手を押さえてまたキスをする。秋矢は顔を背けて俺と唇を合わせようとしない。足を持ち上げる。膝を秋矢の胸に押し付ける。秋矢のアナルが丸見えになる。
「やめて、助けて」
俺はそのアナルを舐める。
「ひっ」
秋矢の顔が引きつる。
「嫌だっ 助けて」
体を捻って逃げようとする。秋矢の太ももに両手を掛けてまた押さえ込む。アナルを舐める。
「秋矢」
声を掛ける。
「やめて・・・助けて」
秋矢が怯える。
「助けて」
繰り返し言う。秋矢の体を引っ張り上げ、立たせる。背中から抱き締める。
「嫌だぁ」
俺の手を引き剥がそうとする。俺は秋矢のアナルにペニスを押し付ける。
「い、痛い、痛い」
まだ入れてもないのに激しく痛がる。
(お前はそんな辛い記憶に捕らわれてたんだな)
腕に力を入れる。秋矢の首筋にキスをする。暴れる秋矢のアナルに無理矢理挿入した。
「痛い、嫌だ、やめろ」
抵抗する秋矢の胸の前で両手をがっしりと組み、アナルを犯す。嫌がる秋矢をレイプする。
「ひぃ、痛い、痛い」
秋矢が泣いている。それでも俺は犯し続ける。
「秋矢・・・秋矢・・・」
犯し続けながら、その頭に頬を押し付ける。
「痛い、嫌だ、助けて」
その声がいっそう大きくなった。
上の部屋からシュウちゃんの悲鳴が微かに聞こえる。僕は慌てて階段を上がった。でも、お父さんは何があっても来るなと言っていた。お父さんには何か考えがあるんだろう。でも、シュウちゃんが悲鳴を上げている。僕はどうすればいいんだろう。
部屋のドアにもたれる。シュウちゃんが叫んでいる。耳を塞ぎたい。でも、聞かなきゃならない気がする。もしシュウちゃんが一生あのままだったら僕はどうするべきなのか。僕に何が出来るのか。そして、今、どうなっているのか。
そのまま座り込む。ドアの向こうで行われていること。それが僕の心に突き刺さる。
「秋矢」
俺は呼び掛けながら掘り続ける。秋矢はそんな俺から逃れようとする。
「先生、やめて、助けて、もう無理です」
秋矢はそう言い続けている。声は少し小さくなっているが、怯えた様子は変わらない。
「秋矢」
俺は全力で掘る。全力で秋矢を貫く。俺の秋矢を突き上げる。
「ああっ」
秋矢の声が変わった。
「ああ、先生・・・」
だが、まだ捕らわれている。抵抗する力が弱まる。ベンチに押さえ付け、さらに掘る。
「ああ・・・」
秋矢の脇腹を撫でる。秋矢が体をくねらせる。秋矢の腰を掴んで、その奥まで全力で突き入れた。
「ああ・・・ぁ」
秋矢の体が仰け反り、固まった。
秋矢が頭を上げた。少し左右を見回す。俺は体の動きを止める。
「ここ・・・」
首を捻って俺を見た。
「陽良・・・さん・・・」
俺はそんな秋矢の胸に手を回し、体を引き上げる。ベンチの上に座った秋矢の後ろに座る。後ろから抱き締める。
「秋矢・・・帰って来た・・・」
「陽良さん」
秋矢が体の向きを変えた。
「僕、どうなってたの?」
俺は秋矢を抱き締める。
「気にするな。もう大丈夫だから」
そして、キスをした。
陽良さんがキスをしてくれた。僕は口を開いて陽良さんの舌を受け入れる。舌を絡める。唾液を交換する。陽良さんが頭を撫で回す。その手が下りてきて僕の背中を撫で回す。陽良さんの胸に顔を押し付ける。陽良さんの鼓動が聞こえる。
「陽良さん・・・愛してる」
ベンチの上に仰向けになって足を持ち上げる。僕のアナルに陽良さんが入ってきた。
数時間後、ドアが開いた。僕は慌てて立ち上がった。
「ハルちゃん」
シュウちゃんが全裸で出て来た。後ろからお父さんが抱き締めている。僕はお父さんの顔を見る。
「もう大丈夫だ」
お父さんが言った。僕はシュウちゃんに抱き付いた。
そのまま部屋に入ってベンチに押し倒したいのを我慢するのは大変だった。もう少しで冬樹との約束を破ってしまうところだった。
「ごめんね、ハルちゃん」
シュウちゃんが僕に謝った。
「覚えてるの?」
「なんとなくね」
シュウちゃんがうなずく。僕はお父さんの顔を見る。
「大丈夫だ。俺が上書きした」
意味はよく分からなかったけど、二人の顔を見る限り、きっと大丈夫なんだろう。
「ココア、飲むか?」
お父さんが僕等に尋ねた。僕はうなずく。
「僕はコーヒーがいいな、陽良さんと同じやつ」
シュウちゃんはそう言った。
シュウちゃんがコーヒーを飲んでいる。お父さんと同じコーヒー。
(なんだかもう、この二人の間には入れないな)
二人の様子を見るとそう思う。ちょっとくやしいけど、仕方がない。
「一つ言っとくけど」
お父さんがシュウちゃんに言った。
「俺の名前は陽良、太陽の陽に良い、だ」
「知ってるよ」
「俺の誕生日、知ってたっけ?」
「8月10日でしょ?」
「ああ」
僕は黙って二人の会話を聞いていた。
「つまり、俺は真夏の太陽が良く照っている日に生まれたんだ。だから、陽良」
立ち上がって僕を見る。僕はお父さんと入れ代わる。お父さんはシュウちゃんの横に座った。
「だから、俺がお前の夏で、お前の運命の相手だ」
シュウちゃんがお父さんの顔を見た。そして、お父さんに抱き付いた。
「うん・・・分かった」
シュウちゃんがお父さんの胸に顔を押し付けながら言った。
「愛してる」
「僕も」
二人がキスをする。口を動かしながら、貪るようなキスを。なんだか恥ずかしくなる。
「あのさ、息子の前で見せ付けないでくれる?」
僕が言っても、二人はキスし続けた。
シュウちゃんは病院に戻った。でも、お父さんもシュウちゃんも、あの部屋でどういうことをしたのかは誰にも話さなかった。
「検査の結果、精神的な障害などは見られません。あとは足の怪我だけですから、ご自宅での療養で充分でしょう」
シュウちゃんの退院が決まった。
もちろん、退院する日は僕と冬樹が病院まで迎えに行く。シュウちゃんのお父さんの車に乗って、一緒に家まで行く。でも、退院したばかりでいろいろあるだろうから、玄関で別れる。
「LINEするから」
シュウちゃんが手を振った。僕等も当たり前のように手を振った。
「えっと、まず、どうする?」
シュウちゃんが退院してから1ヶ月後、シュウちゃんと冬樹が僕の家に来ていた。らせん階段を上がった上の部屋に3人でいる。つまり、3人でデートする、という約束を果たそうとしているんだ。
「どっか行くとかは、シュウの足のこともあるから」
「うん、それはやめとこう」
シュウちゃんの足はほとんど治っていた。だからあんまり気にする必要はないのかもしれないけど、念のためだ。
というのは言い訳だ。僕等はどこにも行かず、ここで3人でいたいんだ。それはつまり、3人でするってことだ。でもお互いそれを言い出せずにいる。
「で、なにする?」
冬樹が言った。
「そりゃあ・・・」
シュウちゃんがそこまで言って、僕の顔を見た。
(あとは僕に言えっていうの?)
僕は溜め息を吐いてから言った。
「セックスしたいんでしょ、シュウちゃんも冬樹も」
「お前なぁ、もうちょっと言い方ってもんが」
そう言う冬樹の太ももにシュウちゃんが手を置いた。
「そういうことでしょ?」
顔を寄せる。二人がキスをする。
「冬樹はシュウちゃんが好きなんだもんね」
キスしながら僕を見た。
「ハルちゃんも好きだよ」
僕の手を引く。僕も二人に顔を寄せる。シュウちゃんが冬樹から少し離れる。冬樹が僕にキスしてくる。舌を入れてくる。シュウちゃんが立ち上がって服を脱ぎ始める。僕と冬樹も同じように服を脱ぎ、全裸になる。3人とも勃起している。
「どうする?」
僕はシュウちゃんに尋ねた。
「どうされたい?」
シュウちゃんが冬樹に尋ねる。
「俺に聞くのかよ」
冬樹の顔が赤くなる。
「分かった」
シュウちゃんが言った。何をどう分かったのかはよく分からないけど、僕もうなずいた。シュウちゃんが冬樹をベンチに押し倒す。僕はそんな冬樹の体の上に跨がって、冬樹のペニスをしゃぶる。シュウちゃんが冬樹の足を持ち上げてアナルを舐める。ローションを手に取ってそれを冬樹のアナルに垂らす。指を入れる。
「あっ」
「初めて?」
冬樹のペニスから口を離して尋ねた。
「うん」
「やられたいんだもんね」
シュウちゃんが言った。
「うん」
冬樹が答える。
「よし。じゃ」
シュウちゃんが指で慣らしたあと、そこにペニスを差し込んだ。
「うっ」
少し痛そうな声が聞こえて、冬樹のペニスが萎える。僕は冬樹の体から下りて、冬樹の横にしゃがみ込んだ。
「大丈夫、力抜いて」
冬樹の胸を撫でる。
「ああ・・・入ってくる」
それに合わせるように、シュウちゃんがゆっくりと挿入する。
「シュウが入ってきてる」
冬樹のペニスが硬くなる。僕はまたそれにしゃぶりつく。
「ハルちゃん、さっきみたいに跨がってよ」
冬樹が掘られながら僕に言う。僕は冬樹の上に跨がって冬樹のペニスをしゃぶる。そんな僕のペニスを冬樹がしゃぶる。
「動くよ」
「うん」
僕の目の前で、シュウちゃんのペニスが冬樹のアナルに出入りする。冬樹のアナルがそれを受け入れている。
(僕も欲しい)
体を起こす。立ち上がって、冬樹の体の上に座り直す。冬樹のペニスを掴んで、僕のアナルに入れる。
「ああっ」
僕が腰を沈めると冬樹が声を上げた。
「冬樹が入ってる」
「すげぇ、入れられて入れてる」
シュウちゃんの動きに合わせて腰を動かす。
(冬樹の、入ってるんだ)
気持ちいい。それはシュウちゃんも同じだ。そして、冬樹も。
「じゃ、交代」
シュウちゃんが僕に言った。僕が立ち上がると、さっきの僕と同じようにシュウちゃんが冬樹の上に跨がった。冬樹のアナルはもう、ぬるぬると指を受け入れてくれる。
「入れるよ」
僕はペニスを冬樹に押し当て、挿し込んだ。
「ああ、ハルちゃんも入ってくる」
冬樹が声を上げた。
そうやって、僕等は入れ合って、入れられ合って、舐め合って、舐められ合った。
夜になるまで、もう出なくなるまで僕等はやり合った。
2028年、僕と陽良さんはスペインに来ていた。
この前の年、僕は18才になった。そして、陽良さんと入籍した。
親の反対とかいろいろとあったけど、ハルちゃんや冬樹が説得するのを助けてくれた。親も陽良さん達があの時、僕を助けてくれたことは知っていたから、思った程の反対はされなかった。まぁ、陽良さんが僕のお父さんとあまり年齢が変わらない、というところがなかなか受け入れてもらえなかったけど。
でも、一つだけ条件を出された。僕が志望している大学に一発合格すること。それが、僕が陽良さんと結婚するための条件だった。
もちろん、僕はその条件をクリアした。だから今年、陽良さんと二人で、大学の夏休みを利用してここスペインに新婚旅行というわけだ。
今年ようやく完成したあの有名な教会を訪れる。教会の中は観光客がたくさんいた。そんな中で、僕と陽良さんは柱の陰で向かい合って立っていた。陽良さんが指輪を出して僕に嵌めてくれる。僕も陽良さんに指輪を嵌める。そして、抱き合ってキスをした。
そんな僕等の様子に気付いた他の観光客が拍手をしてくれた。僕等はあの教会で、永遠の愛を誓い合った。
もちろん、冬樹とハルちゃん・・・いや、今は僕の息子の晴人だ・・・も、僕等が新婚旅行から帰ってすぐに結婚することになっている。
僕等は恋人や親友、あるいは共有物から家族になる。そして、僕等4人は夫婦だとか親子だとか関係なく愛し合っている。
今までも。今も。これからも、ずっと・・・永遠に。
<THE MISSING SEAZON 完> |