弟は怪訝そうな顔をして、俺から受け取った袋を覗き込んでいる。視線を俺に向ける。頭の上に大きな疑問符が浮かんでいそうな表情だ。
「何か、聞きたいことでもあるのか?」
最近は弟も俺との生活に少しは慣れてきたようだと思っていた。でも、それは単なる俺の思い込みなのかもしれない。現に、今の弟の表情が何を意味するのか、俺には全く分からない。
「あの・・・これ・・・」
俺が手渡したポチ袋を俺に向かって差し出す。
「入ってる・・・お金」
不安そうな顔で俺を見上げている。
「お年玉だって言ったろ」
「お、お年・・・玉?」
「お前、ひょっとして、お年玉もらうの初めてか?」
きょとんとしている。そうだ、こいつはこういう奴だった。
俺達の母親はろくでもない女だった。男を取っ替え引っ替えし、俺を捨てて男の元に走り、男に捨てられると俺を連れ戻す、そんな女だ。その上、数百万の借金を俺に押し付けて蒸発した。俺は今、その借金を返すためだけに生きているようなものだった。
そんな俺の前に、突然弟が現れた。
弟はこれまでどうやって生きてきたのか、俺はほとんど知らない。ただ、少なくとも最近は、男相手に体を売って生きてきた。今もそうだ。ただし、今は俺がこいつに体を売らせてる訳だが。
そんな訳で、こいつはまともに育てられていない。学校に行っていないどころか、たぶん、名前すらない。今まで「おい」と呼ばれるだけだった。だから、お正月も、お年玉も知らないのだろう。
「お正月って知ってるか?」
馬鹿な質問だと思った。恐らく、日本中でお正月を知らない奴は赤ん坊くらいのものだろう。
「お、しょう、がつ?」
やっぱりだ。ここに馬鹿な質問があてはまらない奴がいた。恐らく小学校高学年か中学1年、生えかけの陰毛の様子から考えても、まぁそれくらいだろう。それなのに、お正月もお年玉も知らない。一体、どんな人生を歩んできたんだろう・・・恐らく、まともな人生ではなかったろうという見当はつくが、それ以上は想像出来ない。が、体にある無数の痣や傷跡は、親、恐らく父親に虐待されていたんだろうということを物語っていた。
「1月1日のことをお正月と言って、新しい年の初まりをお祝いするんだよ」
俺はお正月について説明した。正しいかどうかは分からないが、大きく間違ってはいないだろう。
「そして、お正月には子供達は親や親戚からお年玉ってのをもらうんだよ」
弟は、口の中でブツブツとお正月、お年玉と繰り返し呟いていた。
「だから、そのお金はお年玉だ。お前にあげたんだよ」
すると、弟が俺を見上げた。
「じゃ、兄ちゃんにお年玉」
俺があげたポチ袋をそのまま俺に差し出した。
「お前はいいんだよ。お前はまだ子供だからもらうだけだ」
すると、少し弟は考えて、またポチ袋を俺に差し出した。
「じゃあ、これ・・・溜まってる分」
俺は弟に1日1万稼いで俺に渡すように言っていた。それが、俺の家に置いてやる条件だ。弟は12月30日の分までは稼いで来たが、31日の分は”貸し”になっている。
「それはいいよ。今の貸しの分の1万と、今日の分の1万は免除してやる。お正月だしな」
実際は、ようさんにもらったお金がある。俺がようさんに抱かれるときの2倍以上のお金だ。少なくとも半分は弟がもらう権利があるが、俺は渡していなかった。
「何か欲しいものがあったらそれで買えばいいよ」
そう言ってやると、弟は少し笑顔になった。
弟が俺の家に転がり込んできてから、まだ1週間程度。初めはほとんどしゃべらなかったし笑顔もなかった。ようやく最近少し話すようになり、笑うようにもなってきた。顔は俺の母親の面影がある。ということは、俺と似ているということだ。俺を抱く男達からは、けっこう”かわいい”などと言われたりするから、若い男が好きなおっさんにとってはかわいい部類に入るんだろうと思う。そして、M顔でもある。実際、最近気付いたが、弟は普通にセックスするより、少し無理矢理っぽく押さえ付けて入れてやったりする方が興奮するようだ。恐らく、俺も。
「お前に名前付けてやらないとな」
俺はクリスマスからずっと名前を考えていた。意外と人の名前を付けるのは難しい。
「お前は聖人だ」
結局、無難な名前にした。俺の名前が聖也だから、聖の字を取って聖人。まぁ、悪くはない、と思っている。
「せい・・・と?」
不思議そうな顔をする。
「そう、聖人。それがお前の名前だ」
「せいと・・・せいと」
俯いて、何度も呟く。
「嫌か?」
俺は少し不安になった。気に入らないなら別の名前にしてもいい。すると、弟が顔を上げた。
「せいと!」
笑顔だった。笑顔のまま、俺の首に抱き付いてきた。
「そう、聖人だ。これからは、お前は川崎聖人だ」
弟の重みで俺は床にひっくり返る。弟が、聖人が俺の腹の上に乗る。そのまま俺に顔を寄せてキスしてくる。俺の首に手を回して俺の口に口を押し付ける。俺が着ているパーカーをたくし上げ、乳首にもキスをする。キスをしながら下りていって、臍にもキスをする。そして、俺のズボンのベルトを外す。
弟には、聖人には、他に俺を喜ばせる方法が分からないようだ。俺が少しやさしくしてやったりすると、すぐに俺とセックスしようとする。まあ、ほとんどの場合はそのままさせてやる。聖人は俺の上になって、自分で俺と繋がろうとする。そのまま腰を上下させながら自分でしごく。俺も聖人の中でいく。でも、今日はお正月、今は元日の朝だ。さすがに年の初めの朝っぱらからそういうことはどうかと思ったので、俺は聖人の腕を掴んで制止した。
「まず、お正月はおせちとお雑煮を食べなきゃな」
また聖人の知らない言葉なんだろう。聖人が俺の腹から下りる。俺はキッチンに行く。
アルバイト先のコンビニで、注文を受けながら誰も取りに来なかったおせち料理を格安でもらっておいた。それをテーブルに運ぶ。まあ、コンビニのおせちだし、そんな凄い訳じゃない。でも、聖人は目を輝かす。そして、お餅をオーブントースターで焼く。お雑煮は、インスタントのお吸い物に焼いた餅を入れただけのお雑煮もどきだ。でも、おせちとお雑煮もどきで一気にお正月感が増す。何も言わなくても、聖人はテーブルに着いていた。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
聖人は珍しく上機嫌だ。何から箸を付けるか悩んでいる。そして、結局紅白のかまぼこの赤い方を口に運ぶ。
「初詣も行ったことないよな」
そう言いながら、ひょっとしたら、神社に行ったことすらないかもしれないと思った。
「うん」
おせち料理を口に詰め込みながら頷いた。
「神社に行ったことは?」
「ここに来る途中で泊まった」
そうか。お参りには行ってなくても、神様のお世話にはなったか。
「じゃ、その時のお礼も含めて、後で一緒に初詣に行こう」
聖人はこくっと頷く。その仕草は容姿に比べると少し子供っぽく感じる。こういう子供が好きな男には“甘えん坊”とでも言われそうだ。
(客に好かれそうだな)
体を売って生きてきた中で、自然と身についたものなのかもしれない。しかし、学校にも行っていなかったし、恐らく同じ年齢の子と比べると成長出来ていないのは間違いないだろう。この子は、弟は、聖人はそういう人生を生きてきたのだろうから。
近くの神社はかなりの初詣客で賑わっていた。参道にはまるで縁日のようにいろいろな店が並び、その中を家族連れやカップルが歩いている。俺と聖人もその中に混じって歩いていた。とはいえ、聖人はこんな人混みは初めてのようで、俺の腰にしがみつくようにしていた。
「なぁ、そんなにしがみつかれると歩きづらいんだけどな」
しかし、聖人は離れようとしない。
「ほら、だったら手を繋ごう。ならいいだろ?」
渋々、という感じで聖人は俺の差し出した手を握った。そして、人を避けながら神社の正面に向かう。賽銭箱までは少し行列が出来ていた。
「ほら」
俺は財布から百円玉を出して聖人に手渡した。
「もうちょっと行ったら賽銭箱があるから、それを投げ入れて、手を合わせてお願い事をするんだ」
ちょうど賽銭箱が見えてきた。それを指差す。
「みんなそうしてるだろ?」
聖人は頷く。そのまま二人で賽銭箱の前に立った。
「まず、2回お辞儀して」
説明しながら実演する。聖人は俺のまねをする。
「2回、手を打って」
俺より少し遅れて聖人が拍手を打つ。
「そして、そのままお願い事」
聖人が手を合わせたまま、何かを願う。
「終わったら、最後にもう一回お辞儀する」
二人で賽銭箱の前を離れる。参道の脇に回ると人はまばらだった。
「帰りはこっちから帰ろう」
聖人は神社のいろいろな建物や石の灯籠に興味があるらしく、歩きながらあちこちきょろきょろしている。参道の人混みの中だったら危ないけど、ここなら大丈夫だろうと放っておく。ちょうど聖人と同い年くらいの少年が4人、向こうから歩いてきた。聖人はそれに気が付くと、灯籠の裏に隠れるようにしてそれをやり過ごす。
「コミュ障だな」
聖人の中に甘えん坊な部分とコミュ障が同居している。それが奇妙な魅力といえばそうかもしれない。早く帰って聖人を犯したい、そんな気持ちがわき上がってきた。
「聖人、帰るぞ」
俺は声をかけた。
家に帰ってドアを閉めるなり、俺は聖人を背後から抱き締めた。まだ靴も脱いでいない。聖人のズボンをずり下げ、尻を出させる。そのまましゃがませて、俺のペニスをしゃぶらせる。しゃぶらせながら、上半身の服を脱がせる。寒い部屋の寒い入口で、聖人はほぼ全裸になる。そのままドアの内側に押し付けて尻を犯す。ドアの前を誰かが通って行く。構わずに俺は聖人のアナルを掘り続ける。ドアのヒンジがギシギシと音を立てる。聖人の抑えた喘ぎ声。背中から手を回し、乳首をつねる。
「くっ」
ドアに体と頬を押し当て、声を出すのを我慢している。俺はそんな聖人を強く突き上げる。何度も繰り返すうちに、聖人の先走りがドアに塗り広げられていた。それを聖人に舐めさせる。もちろん、アナルには入れたままだ。上半身を前に倒して、俺にアナルを犯されながらドアに付いた先走りを舐める聖人。俺は腰を打ち付ける。聖人の頭がドアに当たって音を立てる。構わない。俺はごんごんと聖人の頭がドアに当たる音を聞きながら犯し続けた。
「あっ」
聖人のアナルがぎゅっと締まる。射精していた。聖人の精液が玄関に置いてあった俺の靴にかかる。俺は聖人の中に出す。この年の初めての射精だった。
「靴、舐めてきれいにしろ」
聖人は全裸のまましゃがみ込み、俺の靴を舐める。
「ついでにこっちもだ」
俺は今履いている靴の甲を聖人の前に出した。聖人はそれも舐める。一通り舐めさせた後、足首を曲げて靴底を聖人の方に向けた。聖人はそこにも舌を這わせる。
「靴を脱がせろ」
言う通り、聖人は俺の靴を脱がせる。
「靴下も」
そして、俺は素足になる。何も言わなくても、聖人は俺の足を舐める。足の指と指の間に舌を突っ込み、じっくりと舐めていく。俺が教えた訳じゃない。聖人はどこかの男にこういうことを教え込まれたんだろう。
足を舐め終えると、聖人は俺に背中を向け、お尻を突き出した。
「まだ足りないのか?」
聖人は頷く。自ら尻を広げ、さっきまで俺に犯されていた穴を晒す。
「お正月から性欲全開だな」
などと言っている俺のペニスも再び勃起する。そのまま突き入れる。さっきと同じようにドアに聖人の頭が当たる。ドアに手を突いて、頭が当たらないようにしようとする。しかし、俺は思いっきり腰を聖人にぶち当てる。また頭がドアに当たる。ごん、ごんという音。アナルから聞こえるぬちゃぬちゃという音。聖人が俺に犯されながら自分自身のペニスをしごく音。そして、聖人の喘ぎ声。恐らく、ドアの前に立てばこの4つの音が聞こえるだろう。何をしているのか容易に想像できる音。まるでドアが透明であるかのように感じる。そんな場所で、犯される聖人を人目に晒す。そして、俺は新年2回目の射精をした。
その日の夕方、聖人は何も言わずに家を出て行った。男に買ってもらいに行ったんだろう。今日は免除していたが、それでも客が見つかったときは稼いでおこうということなのか、それとも、まだセックスし足りないのか・・・
聖人には、プリペイドのスマホを持たせていた。もちろん、あいつが稼いだ金で、だが。だから、前よりは買ってくれる客は探しやすくなった筈だ。
俺は夕食におせちの残りと、またお雑煮もどきを作って、一人で食べた。聖人がいないのなら、今日はお風呂はなしだ。そして、いつ帰ってきてもいいように、ドアに鍵を掛けずに眠ることにした。
(今頃、どんな男に犯されてるのやら)
想像すると、勃起した。俺は眠る前にオナニーし、小さなコップの中に射精した。そして、布団に潜り込んだ。
翌朝目が覚めると、隣で聖人が眠っていた。そっと起きだしてテーブルの上を見ると、札が5枚置かれていた。
(まずまずの成果だな)
これで5日分。そして、その上に小さなコップ。昨夜、オナニーして精液を入れたコップが空になって置いてあった。
「おはようございます」
聖人の声がした。振り返ると、上半身を起こして目を擦っている。
「これ、飲んだのか?」
俺が空になったコップを振って見せると、聖人は何も言わずに頷いた。
「そっか」
俺はそのコップを流しに持って行く。すると、背中から聖人が抱き付いてきた。
「直接飲みたい」
俺に抱き付きながら言う。転がし上手なコミュ障だ。
「ケツの中に出してやっただろ」
「飲みたい」
「じゃ、今夜な」
聖人が俺を見上げてニコッと笑う。
(貸しを免除してやるんじゃなかったな)
俺はほんの少しだけ反省した。
その日はいつもの通りアルバイト、そして夜はようさん・・・クリスマスに聖人を抱かせた、俺のお得意様・・・に抱かれ、家路に向かった。家に帰ると、聖人がまだ起きて、俺を待っていた。
「先に寝なかったのか?」
すると、聖人は少し口を尖らせた。
「約束・・・」
(覚えてたか)
今朝、俺は聖人に直接飲ませてやると約束していた。しかし、すでに俺の精液はようさんに搾り取られていた。
「ああ、忘れてた、ごめん。今日はようさんとしたから、もう無理」
「ようさんとしてたの?」
「ああ。お金が要るからな」
聖人は少し寂しそうな顔をする。
「もうすぐ取立屋が来る日だから、お金を準備しておかないと」
もちろん、あの女が金を借りたのは普通の銀行とかではない。前に一度、返済期日にお金が足りなかったことがある。そのときのことは思い出したくないことの一つだ。殴る、蹴るの暴行の後、わずかに残っていた家財道具を持って行かれ、それでも結局足りず、翌月に利子と称してかなり上乗せされて返すはめになった。多少無理してアルバイトを詰め込むなり何なりしてお金を準備した方がよっぽどマシだ、ということは既に経験で分かっている。
「まだ出る?」
聖人が遠慮がちに尋ねた。
「今日はもう無理」
正直、疲れていた。それに、早く風呂に入りたい。風呂の準備は聖人がしているはず。風呂場でそれを確認し、俺は服を脱いだ。
すると、聖人が抱き付いてきた。既に全裸だった。脱衣所で俺の前に回り込み、手を押さえてペニスにしゃぶりついた。
「やめろって」
突き飛ばす気力もなかった。そのまま聖人にしゃぶらせる。が、散々搾り取られた後だけに、もう勃起する気配すらない。
「約束したのに」
俺を見上げる。その目が潤んでいる。それほどまでに俺のを飲みたいのか・・・
「今日は無理だ。また明日な」
「じゃあ、ようさんに中だしされたでしょ?」
急に何を言い出したのか。ようさんとセックスしたことを妬んでいるんだろうか。俺は曖昧に頷いた。すると、聖人は洗面所の床に仰向けに寝転がった。
「ようさんの精液飲ませてよ」
つまり、床に寝そべった聖人の顔の上に跨がって、俺の腸内に種付けされたようさんの精液を口の中に直接ひり出し、飲ませろってことだ。
「精液なら誰のでもいいのか」
俺は少し笑った。
「兄ちゃんの体から出るのだったら何でもいい」
少し意外な答えだった。むしろ、誰の精液でも構わないと言われた方が腑に落ちる。
「糞も出るかもしれないぞ」
冗談のつもりだった。が、聖人は真剣に言った。
「兄ちゃんの体から出るのだったら何でもいいって言ったでしょ」
そして、聖人は口を開け、そこを指差した。
「どうなっても知らないぞ」
俺は聖人の顔の上に跨がった。
正直、俺の方が少し緊張した。本気で気張れば出てしまいそうだった。少し気張っては力を抜き、また気張る、ということを繰り返すと、なんとなく精液が出てきそうな感じになってきた。聖人もそれを感じたのか、俺のアナルに口を付け、吸い始めた。そのまま気張り、力を抜き、また気張る。アナルから液体が漏れ出るような音。聖人が吸い付く。アナルを舌で舐め、俺が気張るのに合わせて舌を入れてくる。
「どうだ、飲めたか?」
腰を少し上げて聖人の顔を見た。
「少し」
「じゃあ、もういいだろ」
俺は立ち上がった。
「明日、朝、飲ませて」
まだ諦めていないらしい。
「ああ。起きたらすぐ・・・でも、小便済ませてからな」
すると、すぐに聖人が言った。
「おしっこも飲ませて」
「え?」
「今出そうなら今でもいいよ」
どうやら本気だ。俺はこいつを少し甘く見ていたのかもしれない。確かに帰ってからトイレに行っていない。小便ならある程度出そうな感じだ。
「じゃ、来い」
聖人を連れて風呂場に入る。
「しゃがめ」
聖人は俺の前にしゃがみ、口を開いて目を閉じた。
「目を開けろ」
言われた通りにする。俺はペニスを持って、聖人の顔に向ける。
小便が出るまで、少し時間が掛かったが、出始めると止まらなかった。聖人の口の中に溜まっていく。ペニスを聖人の目の方に向ける。小便が目に当たる。聖人は目を閉じる。
「目を開けろ」
すると目を開く。そこに小便をかける。一瞬目を閉じ、また開く。その間に口を閉じ、口の中の小便を飲み干すと、また口を開く。そうやって俺の小便を少しずつ、でもかなりの量を飲んだ。
「前に飲んだことあるのか?」
俺は湯船に浸かりながら、全身小便まみれのまま、洗い場に座っている聖人に聞いてみた。髪の毛から俺の小便を滴らせ、少し前屈みになって俯いたまま何も答えなかった。
「あるのかないのか、どうなんだ?」
すると、何も言わずに頷いた。
「どっちだ。あるんだな?」
再び頷く。
「大した変態だな。あの女の血が俺よりも濃いんじゃないか?」
聖人のペニスが勃起していた。それに右手を添える。
「小便かけられて勃起してるのか、この変態は」
そして、ペニスをしごき始めた。
「兄ちゃんのおしっこの匂い・・・」
左手で自分の体を、まるで体にかかった小便を塗り広げるかのようになで回す。その手の臭いを嗅ぎ、舐める。右手はしごき続けている。
「兄ちゃん・・・」
そして、全身小便まみれのまま射精した。精液が壁まで勢いよく飛んだ。
「あ、あぁ・・・」
ほんの少し間を置いて、また精液が飛ぶ。それはあと2回続いた。その様子を俺は湯船に浸かりながら眺めていた。
(こいつは・・・)
最後の射精の瞬間、聖人の横顔にあの女の顔がダブった。聖人があの女に見えた。俺は強い嫌悪感を抱いた。聖人をそのまま風呂場に残し、俺は急いで風呂から上がった。風呂場から出る途中、顔を上げて俺を見るあの女の・・・いや、聖人の顔がちらりと見えた。
それ以来、俺は聖人とセックスしなくなった。
直接飲ませるという約束も、しゃぶらせるのではなく、聖人が俺の前で口を開け、俺はオナニーし、その口をめがけて射精するという形で実行した。
聖人にはあの女の顔がダブったなんてことは一切言っていない。直接飲ませる時にしゃぶらせなかった理由も、「口の中で射精されるより、口を開けて射精を待つ方が飲まさせられる感があるだろ?」などと適当に理由を付けた。俺とセックスしないこと以外は、それまでと何ら変わっていない。1日1万のルールももちろん変えていない。
そしてある日、俺はようさんから男の紹介を受けた。もちろん、聖人の客として、だ。
約束の日、俺と聖人はホテルのロビーでようさんともう一人の男に会った。その男は少し体が大きいが、優しそうな男だった。その男は、荷物を持って、聖人とともにエレベータに乗り込んでいった。
「大丈夫なのか?」
「ええ」
俺はようさんと短い会話をした。そして、別のエレベータでようさんが予約している部屋に向かう。部屋に入ると、俺はようさんに抱き締められた。
「ちゃんと言ったんだろうな」
「もちろん言いましたよ」
ようさんの手がシャツのボタンを外し、直接肌に触れる。それだけで体が反応する。
「ちょっと縛りたいって言ってたよって」
「それだけ?」
「それだけ」
ようさんの指が乳首を摘まむ。
「悪い子だ」
乳首を強く抓られる。
「まあ、今頃楽しんでるんじゃないですか?」
もう一方の手が俺の股間を撫でる。既に勃起している。
「ドSの餌食に弟を差し出すとはな」
ベルトが外され、ズボンを脱がされる。
「聖人はMからドMに進化するんですよ、今日」
「だといいがな」
そして、俺は全裸にされた。アナルにローションが塗られ、ようさんがゆっくりと入ってきた。
ようさんとの行為を終えて、俺は一人でホテルのロビーで聖人達を待っていた。約束の時間からもう1時間以上過ぎている。待っている間に、俺はようさんからのメールを見返していた。
『少年相手に本格的なSMをやりたいそうだ』
『苦痛系とか拷問とかが好きなサディストだから』
そんな文面が並んでいる。それを俺は聖人には告げなかった。ただ、ちょっと男の子を縛りたい、と告げただけだ。
なぜ告げなかったのか・・・理由の一つはお金だ。10万。もうすぐ取立屋が来る。今、少しお金が足りない。10万手に入るのは大きかった。
(借金返すためだ。仕方がない)
でも、それだけじゃないのも分かっていた。
それに考えを巡らせようとしたとき、エレベータからあの男と聖人が出てきた。俺は立ち上がって聖人を迎える。が、男が先に近づいて来た。
「なかなかいい子だよ。気に入った」
「ありがとうございます」
男が封筒を手渡した。
「多少色を付けておいた。次もよろしく頼む」
それだけ言うと、聖人に向き合った。聖人の表情は硬かった。
「次はもっと楽しませてやる。楽しみにしていろよ」
そして、聖人の返事を待たずに足早に出て行った。俺と聖人は二人並んでその背中を見送った。
「帰ろうか」
そう言いながら聖人の方を見る。すると、聖人は床にしゃがみ込んでいた。
「大丈夫か?」
聖人が俺を見る。見る間に涙が溢れてきた。
「に・・・ひぐっ・・・兄ちゃん・・・」
嗚咽が漏れる。俺は黙って聖人を抱き締めた。聖人の体が小さく震えていた。しばらくそのまま抱き締める。少し落ち着いた頃、聖人が小さな声で言った。
「兄ちゃん・・・知ってたの?」
俺は何も答えなかった。
「こ、怖かった」
そして、また泣き出した。
家に帰って風呂に入れてやると、大分落ち着いてきた。俺は今日の事はあまり聞かなかった。聞かなかったが、大体は想像できた。風呂に入れるために脱がせたその体には、真新しいいくつものミミズ腫れや傷跡、赤い何かの跡、そして縄できつく縛られた跡があった。それとなく観察すると、生えかけていた毛がなくなっており、アナルは赤く腫れ上がっている。乳首の回りも赤く腫れていた。さすがにずっと跡が残るようなものではなさそうだが、とても痛々しく、生々しい傷跡だった。
湯船に浸かる聖人をそれとなく見ていた。落ち着いた様子でお湯で顔を洗ったりしていたが、突然涙を流し、嗚咽を漏らす。元々体にあった傷を指で辿り、新しい傷も同じようにしてまた涙を流す。過去の記憶が蘇るんだろう。俺は敢えて何も言わない。男が聖人にした行為に俺も加担しているのだから。俺は聖人が何をされるのかを知った上で、それを聖人に伝えずに、あいつをあの男と二人にしたのだから。
そして、取立屋がやってきた。
幸いなことに、聖人は出掛けていた。取立屋に聖人のことを知られると、きっと良くないことになる・・・そんな確信があった。いつも金さえちゃんと渡せば、取立屋はすぐに帰る。今日だってきっとそうだ。今日は聖人がそれこそ身を犠牲にして作った金もある。いつもの返済額には充分足りていた。
「なんだ、今日は妙に物わかりがいいな」
二人連れで来た取立屋は俺が差し出した封筒を受け取り、すぐに中身を確認する。そして、部屋の中を見渡した。
「いい金儲けが見つかったか?」
少しにやけたような顔で言った。
「いえ、別に・・・何も変わってません」
すると、男が家に上がり込んだ。
「こんなもの、前はなかったよなぁ」
ファンヒータだ。
「あ、それは・・・一番安い奴で」
男は俺の言い訳なんか聞いてなかった。
「じゃあ、来月から今の倍。いいな」
「え、倍って・・・」
今の金額でも、正直一杯一杯だ。そりゃ、聖人が体で稼いだ分はプラスになっているけど、それだって実際のところ、生活費で消えていく。返済金額を2倍にするなんてとてもじゃないけど無理だ。
「今の返済額じゃ、毎月の利息分にすらならないんだよ。お前、どんどん借金増えてるの、分かってんのか?」
それは分かっている。いや、分かっているけど考えないようにしていた。
「来月からは、せめて利息分は返してもらわないとなぁ」
俺は口を開きかけた。が、この男には何を言っても無駄だ。
「なんなら、お前の体、また使ってやってもいいんだぜ?」
もう一人の男に聞こえるような大きな声で言った。そうだ。俺は以前、払いきれない分の補填のため、この男に抱かれた事がある。しかし、それは俺にとって二度と思い出したくない記憶だった。こないだの聖人がそうだったように、縛られ、吊され、鞭打たれ、そしてこいつを含めた複数の男にマワされた。そのことを思い出すだけで、吐き気がしてくる。
と、そこに聖人が帰って来た。
「お、誰だ、こいつは」
もう一人の取立屋が聖人の前に立ちはだかった。
「こいつは関係ないです」
俺は慌ててそう言って、聖人の腕を掴んで引っ張った。聖人を俺の後ろに隠すようにする。
「ふうん、なかなか・・・」
前に俺を買った男の顔がにやけている。
(やっぱり良くないことを考えてる)
そして、俺の耳元に顔を寄せた。
「こいつ、俺に売らないか? 借金帳消しに出来るくらいの金で引き取ってやるぞ」
俺は慌てて首を左右に振る。
「こいつはそんなんじゃありません」
男はにやけたまま、玄関に向かい、靴を履く。そして振り向いてお金が入った封筒をひらひらさせた。
「じゃ、来月から今の倍な。無理なら」
俺はそこで遮った。
「なんとかしますから」
男がドアを開ける。
「そうか。じゃ、来月が楽しみだ」
そう言ってドアを閉める。俺と聖人は少しの間、そのまま突っ立っていた。
「はぁ」
自分が漏らしたとは思えないような大きな溜め息だった。取りあえず今回はお金はなんとかなった。しかし、来月は今の倍、返済しなければならない。そして、聖人の存在を知られたことが心に影を落としていた。
<続く>
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