「他の人ともしてるんですか?』
ホテルを出る前、部屋で御山君のお父さんに尋ねた。
「あと二人くらい時々する友達、セックスフレンドはいるよ」
チラリと御山君を見た。
「その人たちと・・・御山君はしたの?」
「時々ね」
御山君の代わりにお父さんが答えた。
「される方の人は・・・御山君と僕みたいな」
「それは君たちのような子供、という意味?」
今度は若狭さんが言った。
「はい」
「それは君たちだけだ」
「今までは、変態春きんをみんなでマワすって感じだったな」
御山君のお父さんと若狭さんが交代で答えた。
「アナル君も一緒にやりたい?」
またチラリと御山君を見た。なんとなく、少し怒ってるような気がする。でも、黒いオーラは出ていない。
「やりたいっていうか・・・」
僕はうつむいた。
「やられたいです」
小さな声で答えた。
「よし。じゃ、今度からはそうするか」
若狭さんが楽しそうに言った。
「あの・・・若狭さんよりデカい人っているんですか?」
みんなが僕を見た。
「いて欲しい? いて欲しくない?」
「それは・・・」
ちょっと迷った。
「ゆっくり拡げてもらえるなら」
僕は正直に答えた。

「そういや、お尻になるとかって言ってたよね?」
別れ際に、若狭さんが御山君に尋ねた。
「それは・・・」
御山君がにやっと笑って僕を見た。
「まあ、それはいずれ、みんなの前で本人の口から説明してもらおう」
御山君のお父さんが僕を見ながら言った。
「いいよな、変態アナル君」
「変態じゃないです」
今度のみんなとのセックスの時に、みんなの前で、僕が、自分で説明するってことだ。御山君のお尻になったって。つまり、それが僕の、変態アナルの自己紹介だ。

帰り道、一人で歩きながら考えた。
(あれを聞いたら、みんな、僕のこと変態だって思うんだろうな)
人のお尻になって、う○こするとこ見て、いや、僕の口のあたりから御山君のう○こが出て、御山君とお父さんのセックスを見て、そしてそれに引っ張り込まれて気持ち良くなったなんて・・・
(誰が信じるんだよ)
でも、御山君が信じたからこうなった。
(信じてくれたから・・・気持ちいいことできた)
御山君たちの秘密も知った。その秘密に加わることにもなった。後悔はしていない。
(いやいやいや)
もう御山君のお尻になるのは嫌だ。あんなことには、もう・・・
(あんなこと?)
そうだ、あんなことだ。僕は僕として・・・
(僕として、なにしたい?)
分かってる。僕として、御山君たちと一緒にセックスしたいんだ。御山君のお尻としてじゃなくて、僕は僕として、したい。僕に入れられたい。僕として気持ち良くなりたい。僕として射精したい。
(そうだよ、僕は変態アナルなんだ)
それでいい。それがいい。
家に着いた。ご飯を食べて、お風呂に入る。
そして、ベッドに入る。
(結局、なんで僕は、御山君のお尻になったんだろう)
それはいくら考えても分からない。理由なんてなさそうに思えた。



目が覚めた。
真っ暗だった。
(またかよ)
僕はもう驚かなかった。

学校で、僕が来ていない、ということで御山君は気がついていた。その証拠に、授業中とかに僕を撫で回したり、抓ったりして遊んでいた。
「なに人の尻になってんだよ」
そんなことを言われても、答えようがない。いや、答えが分からないってのもあるし、今の僕は御山君のお尻だから喋ることができないからだ。
その日は御山君はまっすぐ家に帰ったようだ。お父さんとホテルで待ち合わせたりはしなかった。残念ながら。
「お前、なんで尻なんだよ」
御山君の部屋で尋ねられる。
「それに、なったりならなかったりって、なんなの?」
それが分かれば苦労はしない。気がついたら御山君のお尻になっているし、朝起きたら戻ってる。何かきっかけがあるのかどうかも分からない。こうやってお尻になっていることにも少しは慣れたので、その間、ずっと真剣に考えることもできるようになった。でも、理由ときっかけは分からない。僕を変態に目覚めさせるためだったのかもしれない、と思ったこともある。でも、誰がそんなことするんだろうか。それに、変態に目覚めさせるためなら、もう目覚めたからこれ以上お尻になる必要はない。だから、今、お尻になってるのは違う理由だろう。
御山君のお尻としてそんなことを考えながら、御山君のベッドで眠りにつく。
目が覚めたら戻っているはず・・・

だった。
けど、真っ暗な中で目が覚めた。
(戻って、ない?)
手を動かしてみる。動かない。声を出してみる。出ない。
(戻らなかった)
昨日に続いて連続二日目だ。二日連続ってのは初めてだ。少し不安になる。それは御山君も一緒だった。
「なんで今日もなんだよ」
学校を終えて家に帰ると、御山君はパンツを脱いで僕に尋ねた。
(そんなの知るかよ)
僕はそう言いたいけど、もちろん喋れない。
「明日、もしまだお尻だったら許さないからな」
それはこっちのセリフだ。三日連続ってのはさすがに嫌だ。
だから、眠る前に神様にお願いした。
(明日は僕に戻してください)
どんな神様に祈ればいいのか分からなかった。
(とりあえず、お尻の神様がいるなら・・・よろしくお願いします)
きっと明日は大丈夫。そして、僕は御山君と一緒に眠りについた。


が、朝になってもお尻だった。
(ま、まさか)
三日連続すると不安が恐怖に変わった。
(待ってよ、おかしいだろ、これ)
お尻のままパニくった。
(どうすんだよ、これ。ヤバいって)
と、どれだけパニくったところで御山君には伝わらない。
(まあ、学校で気がつくだろうから)
そしたら、きっと御山君も何か考えてくれるだろう。
(どっちにしても、今の僕には文字通り手も足も出ないんだから)
パニックが収まる。御山君のお尻として学校に行く。
「今日も阿南は休みか? 誰かなにか聞いてるか?」
先生が言っている。
「授業始めるぞ」
そして、普通に授業が始まっていく。
その日が終わる。相変わらず僕は御山君のお尻のままだ。もう、何回う○こを見たかも分からない。
また不安を感じながら眠りにつく。
明日こそ・・・・・



何も変わらなかった。
(さすがに四日ってのはマズいだろ)
その間、僕の体はどうなってるんだろう。
消えていたなら、親が警察に連絡したりするはずだ。でも、警察だってまさか御山君のお尻まで捜索したりはしないだろう。
(リアルの僕が死んでたりしたらどうするんだよ)
そして思い至った。
(あっ)
そうだ。御山君のお尻になっている間に、リアルの僕が死ぬようなことがもしあったら、絶対元には戻れなくなるだろう。元に戻るってことは、つまり幽霊になるってことだから。それはだめだ。それはまずい。セックスできなくなる。
いやいやいや、そうじゃない。
そういう問題じゃない。
(お尻になってる間にリアルの僕が死ぬってどういうこと?)
そりゃ、可能性はいくつもある。例えば、魂が抜けた僕の体は全然動かなくて、ご飯も食べられないだろうから栄養失調で体が死ぬとか。たった四日でそうなるのかどうかは知らないけど。
あと、魂が抜けた体がふらふらと出歩いて車に轢かれて死んだとか、間違ってどこか高いところから落ちちゃったとか。
あるいは、家が火事になって・・・とか。
不安が募る。
不安しかない。
きっとリアルの僕は死んだんだ。そうとしか考えられない。

でも、学校でそんな話あったっけ、この四日の間に。
いや、そんな話は全くなかった。いくらなんでもクラスの誰かが死んだなら、噂くらいは流れるだろうし、そもそも先生がちゃんと説明するよな、普通。じゃあ、違うのか? 僕は死んでないのか?

考えるのをやめた。
御山君と一緒に・・・御山君のお尻として学校に行く。教室の雰囲気はいつも通りっぽい。別にみんな暗く沈んでるって感じじゃない。まぁ、僕が死んでもみんな気にしないって可能性もあるけど・・・
いやいやいや、友達が多いという方でもないと思うけど、そこまででもない。
だったら、やっぱり僕は死んではいないんだろう。
ちょっと希望が出てきた・・・気がする。


ホームルームが始まった。先生が出欠を取る。
「青木」
「はい」
「飯田」
「はい」
「植村」
「はい」
出欠確認が続き、やがて終わる。
「よし、全員出席だな。授業始めるぞ」
先生が言った。
(あれ、僕が休んでるの、確認しないの?)
そのまま授業が進んでいく。今日は御山君も僕を撫で回したり抓ったりはしないようだ。
学校が終わる。
御山君が歩いている。やがて、声がした。
「お待たせ」
御山君のお父さんだ。ってことは、今日は「する日」なんだ。案の定、ホテルの部屋に向かっているっぽい。やがて、御山君がパンツを脱いで、僕の視界が開けた。いつものようにセックスする二人。そして・・・
「最近、あいつ見ないな」
御山君のお父さんが言った。
「あいつって?」
「ほら、あいつ・・・なんとかいう奴、いなかったっけ?」
「誰のこと?」
(いやいやいや、もうボケはいいから、僕のことでしょ?)
「前に一緒にしたことがあったような・・・お前の友達で」
「なにそれ。お父さん、僕の友達とやっちゃったとかってことじゃないよね?」
「いや、まぁ・・・・・夢でも見てたのかな」
「もう、浮気したら、ママにバラすからね」
(え、ちょっと・・・)
一緒にセックスして、一緒に気持ち良くなったのに、忘れてるってのはありえない。それに浮気どころか、若狭さんとも一緒にしたはずだ。
「ん・・・」
御山君のアナルに、つまり、僕の口に御山君のお父さんのペニスが入ってきた。
「きっと、淫夢だったんだな」
「もう、お父さん変態なんだから」
そのあとは二人の喘ぎ声だけが聞こえた。



それ以来、僕は御山君のお尻になった。
もう、どれ位経ったんだろうか・・・少しずつ、少しずつ、僕の中の、僕が阿南誠一だったという記憶が薄れていっている。やがて、それは消えてしまうんだろう。
そうなったら、僕は本当に御山君のお尻になる。御山君の、変態アナルになるんだ。
そんな僕に、お父さんのペニスが入ってきた。
「ああ、入ってくる!!」
僕はそれを感じていた。
それだけを感じていた。

<転生じゃないけど気がついたら御山君のお尻になってた件 完>


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