駅前にタクシーが停車する。男を残して少年が一人タクシーから降りた。
「じゃ、まだ少し時間があるから、ちゃんと準備しておけよ」
「はい、分かってます」
短く言葉を交わし、男はタクシーで走り去る。少年は駅へと向かう。
少年のスマホにメールが着信する。
『分かってると思うが、今度の仕事は君の将来を左右する大きな仕事だ』
(分かってるって)
少年は画面をタップし、そのメールを閉じる。そして、スマホを改札にタッチした。
少年の名は玉城諒。小さい頃からモデルや子役として活動していた。が、今のところはさほど知名度はなく、一人で電車に乗っていても誰からも声を掛けられることはない。もっとも、仮にある程度名前が知られていたとしても、小柄な彼の顔はその半分がマスクに覆われている。誰も彼が玉城諒だと認識しないだろう。
つまり、その程度の子役俳優だ、ということだ。
そんな彼に大きなチャンスが訪れた。大作と言われる映画に出演、しかも、主役の有名俳優の息子役。来月2日から1ヶ月と少しの間、海外で行われる撮影に参加することになっている。
(台本はだいたい頭に入ってるけど)
ドアの付近で立ったまま、ガラスの外を流れていく夜景を見ながら考えていた。
(もう一度読み込んでおきたいなぁ)
しばらくすると、彼が下車する駅に到着した。彼の家はここから徒歩で15分くらいだ。
(もう、撮影始まるんだなぁ)
歩きながら考える。少しワクワクする。と同時に不安もわき上がる。
その時、歩道を歩く彼の横に車が通り掛かった。その車は彼の横で急停車し、あっという間に開いたドアから車内に彼を引きずり込んだ。
一瞬の出来事だった。周りにいた数人も、誰も何も気が付かない。そのまま、何事もなかったように時間は過ぎていった。
(うう)
少年は目を覚ました。うっすら目を開く。少し頭が痛い。
「起きたぜ」
誰かの声がした。
「こっちに連れてこい」
別の声。そして、何かが少年の腕を掴んで立ち上がらせる。少年は蹌踉ける。そのまま引きずられる。3人の男の前に立たされる。
「誰?」
知った顔じゃない。今日の仕事でもこんな人は見なかった。今度の映画の関係者でもこんな人はいない。
「誰でもいいだろ。お前には関係ない」
男の声がした。誰かが少年の顎を掴んで顔を上げさせる。
「ふぅん、まあまあかわいい顔してるじゃねぇか」
別の男が少年の頭を触る。いや、髪の毛をかき分けているようだ。
「あったぜ」
頭皮を触られる。
「触らないで」
少年は頭を振る。
「じっとしてろ」
前で男が凄んだ。少年は動きを止める。
「間違いなさそうだな」
「ああ」
頭の上で声がする。
「じゃあ、予定通り」
「実験開始だな」
後ろから男が少年を羽交い締めにした。
「な、何するんだよ」
ようやく、少年は何かヤバいことに巻き込まれていると気が付いた。
「離せ、離せよ!!」
「じっとしてろと言っただろ」
男が少年の正面に立つ。そして、少年の腹を拳で殴った。
「っうぐ」
少年の息が詰まる。続けて、男が少年の上半身から衣服を剥ぎ取った。
「まだまだガキの体だな」
裸にされた腹の、先ほど殴った辺りを撫で回す。
「やめ・・・ろ・・・」
少年は声を絞り出す。
「だったら大人しくしてるんだな」
男が少年のズボンに手を掛けた。
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