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辺りが暗くなった頃から、公園内の広場に人が集まり始めていた。いや、すでにそういう行為がそこかしこで始まっていた。
「本番って、こういうことか」
広場の入口の少し手前辺りでその光景を見ながら、健斗がつぶやいた。
広場には大勢の少年がいた。半分は既に全裸で、その半分はすでに誰かと行為を始めている。少し少女も混じっている。年齢は皆同じくらい。あの欠陥チップが埋め込まれている年代、ということなんだろう。しかし、もっと年上と思える様な人達や、もっと幼く見える人達も混じっている。
「欠陥チップじゃなくても、影響を受ける人もいるのかな」
そんな幼い子達も行為に加わっていく。あちこちで別れて行われていた行為が、徐々に集まり、グループでの乱交へと変わっていく。
「ね、僕等も」
遼が健斗の腕を掴んだ。
「そうだな」
健斗が遼を抱き締める。お互い服を脱ぎ捨て、全裸になった。遼の帽子も脱がせて地面に落とす。キスを交わす。堅く抱きしめ合う。
「ね、あっち行こ」
遼が広場の真ん中辺りを指差した。そこでは大勢がひとかたまりになって、やり合っていた。
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「玉城遼は、いつも舞台の真ん中じゃないと気が済まないのか?」
少しおどけて言った。
「玉城遼?」
「えっ玉城遼?」
すると、周りにいた少年達が口々に遼の名を呼び始めた。近寄って顔を覗き込む者もいる。
「玉城遼だ」
「カリスマだ」
「カリスマがいる」
「教祖様降臨だっ」
あっという間に二人を大勢の少年達が取り囲んだ。口々に遼の名前を叫んでいる。
「な、なに」
遼が少し怯え、健斗にしがみつく。
「カリスマが聖地に帰って来た!」
「聖地降臨!」
益々叫び声が増えていく。
「りょぉお、りょぉお、りょぉお」
皆が声を合わせ始めた。誰かが遼の腕を取り、広場の真ん中に連れて行こうとする。
「待って、ね、待ってって」
だが、その声がまるで耳に届いていないかのように遼を引っ張る。
「健斗、健斗ぉ」
健斗は遼を取り戻そうとするが、大勢の人に阻まれて、遼に近づく事すら出来ない。一方、遼の前では自然と人々が道を空けていた。まるで聖書に出て来る話のように。
「カリスマぁ」
誰かが叫ぶ。
「聖地降臨!」
また叫ぶ。
「聖地って、なんだよ」
健斗も叫ぶ。が、誰も聞いていない。
「りょぉお、りょぉお」
皆が叫ぶ。皆が高揚している。
やがて、広場の真ん中に遼が立たされた。
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遼の前に一人の少年が進み出た。あの、さっきファイルについて説明してくれた少年だった。
「あなたは、玉城遼さんだったんですね」
言葉使いまで変わっている。皆を見回す。
「カリスマが、聖地にお戻りになられた」
うぉーという歓声が上がる。
「我々の始まり、玉城遼様」
またうぉーという歓声。
「ちょ、ちょっと待って」
遼が小声で少年に言った。
「せ、聖地って、なんなの?」
少年が遼の顔を見た。
「あの建物、見覚えはありませんか?」
公園の向こう側に立っているビルを指差した。遼はそのビルを見上げる。が、特に心当たりはなかった。
「あのビルの1階、QZホールこそ、あなたが、玉城遼様が最初にあれを成した場所じゃないですか!」
少年が叫んだ。また歓声が上がる。
「え・・・」
QZホールという名に聞き覚えがあった。いや、忘れたくても忘れられない名前だ。あのUHHVA通信開始のイベント、遼が全ての始まりとなるボタンを押したあのイベントが開催された場所の名前だ。あの時、遼は車で地下から入った。だから、ビルの外観は見ていない。あのホールがあるのがこの場所。その近くにある狗路公園。
「あっ」
遼が理解した時、大勢の少年が遼に群がった。
「ちょっと待って。僕はそんなんじゃない」
多くの手が彼に触れる。彼の髪の毛を掴み、彼の体に触れ、撫で回す。皆、同じ目をしていた。異様な目。笑顔のような表情。それもみんな同じだった。貼り付いたような笑顔。そんな少年達が遼に押し寄せ、取り囲む。
「カリスマだ」
「カリスマだ」
「帰って来たんだ、聖地に」
「聖地に」
口々に言っている。
「だから、僕はカリスマなんかじゃない!」
そう叫んでも誰も聞いてくれない。むしろ、遼が何かを叫ぶ度に、皆が歓声を上げる。
(どうなってるんだよ)
体を捻る。背伸びして首を伸ばす。
(健斗、どこだよ)
その姿は見えない。
(助けて)
切実な恐怖を感じた。全てが気持ち良くなったあの日以来、初めてかもしれない。
「助けてっ」
すると、皆が口々に繰り返す。
「助けて」
「助けて」
「助けて」
どこかで誰かが叫ぶ。
「カリスマが助けるって」
「おぉぉ」
歓声がまるで地鳴りのようだ。
「りょぉお、りょぉお」
皆が声を上げる。遼の体を押さえ付ける。遼を押し倒す。
「やめろっ 来るなっ」
誰かが口を押し付けてくる。ペニスを握られる。アナルを触られる。
「やめろぉ!!!」
あの時以来、初めてセックスを拒否する。しかし、誰かが遼のアナルに入ってきた。
「ぐあっ」
それは無理矢理入ってきた。痛みを感じる。あの時以来の痛みかもしれない。さらに誰かが指を突っ込んでくる。別の誰かが無理矢理もう1本ペニスを突っ込む。2本と指。さらに指は増えていく。遼は苦痛で叫ぶ。アナルが引き裂かれ、血が滴る。
「やめろっ」
それは紛れもなく痛みだった。あの、撮影の前に男達に初めて犯された時と同じ痛み。
「ぐあぁぁ」
全てが気持ち良くなっている筈なのに、それを超える痛みが遼の体を襲う。
「カリスマァ」
皆が叫びながら、遼のアナルに入れる。
いったい何が入っているんだろうか。
「りょおぉぉ」
口々に叫びながらアナルに突っ込んでくる。
いったい何本入っているんだろうか。
「俺も」
「俺も」
「俺にも入れさせて」
皆が競うように入れようとしている。
「俺にも」
太い固まりのような物が押し付けられた。
「やめろぉ」
遼は叫ぶ。固まりが強く押し付けられる。
「無理だって、やめろっ」
そんな遼を皆が見る。皆、薄笑いを浮かべている。皆、勃起させている。
「ひっ」
その瞬間、固まりが遼のアナルを突き破った。
「ぎゃあぁ」
「カリスマだ」
「さすがカリスマだ」
皆が歓喜している。が、遼は自分のアナルに何を入れられているのか見えていない。
「俺も」
「僕も」
また皆が叫び始めた。アナルからその固まりが抜かれる。別の固まりが押し付けられる。それが遼を犯す。さらに別の固まり。遼の前に、遼の中に入っていたその固まりが突き出された。
「カリスマのアナルに入った腕だ!」
すると、今度はその腕に皆が群がる。まるでそれに触れるとご利益があるかのように、先を競ってその腕に触れようとする。
もちろん、その間にも遼は犯され続けている。舌、指、恐らくは木の棒と思われる物、ペニス、腕。手近にある物を次々と入れられていた。
「やめて・・・もう、やめてよ」
遼は弱々しく呻いた。が、それでも止まらない。
「もう・・・だめ」
そう思った時だった。
「りょお!」
声がした。
「今助ける」
遼の周りに集まっていた人達の一角がざわついた。その向こうに少し隙間が出来た。その奧から健斗が太い木の枝を振り回しながら突進してきた。
「健斗!!」
遼は立ち上がろうとする。が、誰かがのしかかってくる。
「遼から離れろぉ」
健斗が近づいて来る。が、まだ少し距離があった。誰かが遼の足を掴み持ち上げる。遼のアナルにペニスを押し当てる。
「やめろぉ」
健斗が遼の上にいる奴に向けて、木の枝を振るった。太い枝はそいつの耳の少し上に当たり、首が横に折れ曲がった。遼にはそれがスローモーションのように見えた。
「ひっ」
遼は息を飲んだ。そいつが横に崩れるように倒れていく。
「遼」
健斗が遼の手を掴んだ。
「立てっ、遼」
腕を引き、遼を立ち上がらせる。
「カリスマが」
「逃がすな!」
誰かが叫ぶ。
「早くっ」
健斗が遼の手を引き、走り出した。
二人は一旦公園の最奥部、あの駅の方から見えていた高層ビルの方まで走り、そこから公園の外周に沿った道へと入った。走り続ける。公園にいた奴等が追ってきているが、少しずつ引き離しているようだった。
「健斗」
遼が立ち止まった。
「立ち止まっちゃだめだって」
そういう健斗の背中を遼が指差した。
「血が出てる。酷い傷」
「大丈夫だ。大したことはない」
健斗はそう言うが、遼の目の前の背中には斜めに深い傷があり、そこから血がにじみ出ている。
「全然大したことだよ。来て」
遼は道の横の茂みに健斗を引っ張り込んだ。
「どこ行った」
「逃がすな」
「捕まえろ」
遠くで奴等の声が聞こえている。
「見せて」
しゃがんだ健斗の後ろに遼が回り込んだ。見た目より傷は深そうだ。
「えっと」
遼が周りを見る。が、何もない。
「止血出来るような物、なんにもない」
「大丈夫だって」
「大丈夫じゃない!」
遼が大きな声で言った。
「全然大丈夫じゃない。このままだったら、健斗、死ぬかもしれないよ?」
「もしそうだとしても、今はなにも出来ないだろ」
確かにそうだった。傷に巻くための包帯も、あるいは包帯の代わりに出来るような布や服もない。
「戻ろう。あそこなら、薬もあるし、きっと治療もしてくれる」
「なに言ってんだ」
健斗は立ち上がろうとした。遼が健斗の手を掴んで座らせ、口に指を当てる。
「どこ行った」
「くそっ」
数人の少年達が彼等が隠れている茂みの前を通り過ぎる。
「俺は戻らない」
健斗がささやく。
「あいつら、カリスマとかなんとかって言ってたけど、今じゃ俺達逃亡犯扱いだろ」
「大丈夫、僕がなんとかする」
健斗が遼の肩を掴み、顔を真正面から見た。
「それは、カリスマとして、みんなに犯されるってことか?」
遼は答えることが出来なかった。
「お前、ふざけんなよ」
健斗が立ち上がる。
「お前は・・・」
遼を抱き締めた。
「俺のものだ」
「健斗・・・」
「あいつらにお前を奪われるのは絶対にいやだ。そうなるくらいなら、死んだ方がマシだ」
「健斗・・・」
遼は健斗を座らせた。
「分かったよ」
遼の上に、健斗が覆い被さった。
「遼」
健斗が口を押し付ける
「だめだって、血が出てるのに」
遼は健斗の頭を手で押さえる。
「無理。お前とやりたい」
「あいつらに見つかるよ?」
「それは、お前が喘がなければいいだけだろ」
「そんなの無理に決まってるよ」
今度は遼の方からキスをする。お互いの口を貪る。
「んっ」
「声出すなって」
「無理」
さらに貪り合う。健斗の手が、遼の股間に触れる。
「ああっ」
「だから、声」
「無理」
少し笑いながら、陰毛を撫で、ペニスを握る。
「熱い」
体の向きを変える。お互いのペニスを口に含む。
「んんっ」
今度は健斗が声を出す。
「声出すな」
「うるさい」
しゃぶり合う。
「入れて」
健斗は遼の顔の上に座る。遼は目の前の健斗のアナルに舌を伸ばした。
「入れられたいんじゃないの?」
「どっちも。舐めたいし入れられたい」
「贅沢な奴だな」
そう言いながら、健斗は遼の口にお尻を押し付ける。遼は健斗のアナルをぺろぺろと舐め、舌を入れる。
「俺に、入れる?」
「う〜ん・・・」
遼は少し考える。
「入れられたい」
ふっと健斗が笑う。遼の足の間に座り、足を開かせる。
「はぁ」
遼が溜め息を漏らす。それに合わせるようにペニスがピクンと跳ね上がる。
「まだ入れてないよ」
健斗が言うと、遼が笑う。
「じゃ、入れて」
健斗は遼の足を持ち上げ、遼のアナルに挿入した。
痛みは感じなかった。
奥の一点が、まるで体の中でゆっくりと燃えているかのように感じる。
「ああっ」
その熱が遼の体に拡がっていく。
「動くぞ」
「うん」
健斗が動く。すると、その部分が健斗の動きに合わせるようにして体中に拡がっていく。
「ああっ」
体が仰け反る。それを健斗が押さえる。奥まで入ってくる。奥まで受け入れる。
「あああ」
遼の手が空を切る。まるで健斗を求めているかのようだ。いや、実際、健斗を求めていた。
「遼の中、ぬるぬるで気持ちいい」
「さっき出されたから・・・いっぱい」
「そんなの、俺が上書きしてやる」
健斗は遼の足を持ち上げ、上からのしかかるようにして奥まで入れる。
「うぅ」
健斗を感じる。健斗でアナルが、体が、心がいっぱいになる。
「行くよ」
健斗が腰を動かす。早く、力強く遼を掘る。
「ああ、健斗」
「遼」
健斗が遼にキスをする。遼は健斗の背中を抱き締める。遼の腕が健斗の血に染まる。
「ああ・・・やっぱり」
「やっぱり?」
「やっぱり、僕は健斗のものだ」
「そうだよ。お前は俺のものだ」
遼の尻に激しく腰を打ち付ける。健斗には、もう奴等のことや背中の傷のことはどうでもよかった。ただ、遼を抱きたい。遼を自分のものにしたい。そして、遼を・・・
「僕、僕を」
遼が喘ぎながら言った。
「僕を奪って。僕の全部、奪って」
体が一つになっている。さらに、心も重なって一つになる。
健斗の手が、遼の首に伸びた。
「ああ、遼」
首に手を掛ける。腰を激しく打ち付ける。
「ああっ健斗!」
遼が叫ぶ。
「僕を奪って、健斗!」
大きな声で叫んだ。
「声がしたぞ」
「あっちだ」
奴等の声が聞こえた。が、遼と健斗の耳には入っていなかった。
健斗の手は、遼の首に強く押し付けられていた。
遼は苦しそうに、でも幸せそうに笑っていた。
「僕を・・・」
遼が声を絞り出す。
「分かってる」
健斗が手に力を込めた。
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動かなくなった遼を一人残して、健斗はよろよろと立ち上がった。
そのまま、おぼつかない足取りでふらふらと歩き出した。
「いたぞ!、カリスマだ」
また声が聞こえた。が、健斗はただふらふらと歩いて行った。
やがて、彼の姿は暗がりの奥に紛れて見えなくなった。
臨時ニュースです。今日午後、政府が緊急記者会見を行い、初期型のHVSSTNチップに不具合があったことを認め、謝罪しました。このチップの不具合は、最近急増している児童の異常行動との関係性が指摘されていましたが、その因果関係については第三者機関による調査の結果、そのような事実はないと否定しました。繰り返します、政府は今日、緊急記者会見を行い、初期型HVSSTNチップの不具合を認めましたが、児童の異常行動との因果関係については否定しました。この初期型HVSSTNチップは2080年から2082年の新生児約240万人の脳に埋め込まれ、外科的に取り出すことは不可能とされています。政府は児童の異常行動について、政府としての直接の責任はないとしながらも、国として、これら児童の保護、療養に取り組むことも発表しています。
交差点にある、大きなモニターにニュース映像が映し出された。公園で健斗が姿を消してから、3ヶ月が過ぎていた。
また数ヶ月が経ったころ、ようやく政府は初期型HVSSTNチップの不具合と児童異常行動の因果関係を認め、謝罪し、UHHVA通信の停止を決定した。
彼等異常行動者の為の療養施設が全国に設置され、対象者はそこで治療を受けることとなった。
が、実態は何も変わらなかった。
いや、むしろ悪化した。彼等の治療は不可能であるとされ、彼等240万人は、事実上、国民から切り離されることになった。
物理的にも、人権的にも。 |
ある青年がペットショップの前に立った。その入口のガラス扉には「特殊愛玩動物取扱許可証」が掲示されている。青年はドアを開き、店内に入る。店内には特殊愛玩動物が入った檻が並んでいた。その檻を一つ一つ見て歩く。
「お気に召すのはいましたか?」
店員が青年に声を掛けた。青年は首を振り、店を出る。
「ありがとうございました」
出て行く青年を店員は見送った。
「もう、会えないのかな」
青年は手にしたスマホを見る。その画面の中で、遼が青年の頬にキスをしていた。
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<UHHVA 完>
本作品に挿入している画像はすべてAIで生成したものであり、実在する少年の画像ではありません。
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