UHHVA

13

狗路駅は、意外と大きな駅だった。
が、駅構内から狗路公園の方向が示されており、公園に行くのに迷うことはなかった。
「へぇ」
健斗が声を上げた。
「意外とデカい街なんだ」
確かに、少し向こうには高層ビルがいくつか見える。その周辺にもビルが建ち並んでる。狗路公園はその手前に広がっていた。
「公園も大きいよ」
公園の入口に、看板が立っていた。それを遼が見ている。
「本当だな。どの辺りに集まってるんだろ」
看板を見て、地図を見て、公園の入口から奧を覗く。
「ま、行ってみるしかないね」
遼が言った。なぜか嬉しそうだった。

公園の入口付近はあまり人はいなかった。
いたとしても、普通にスーツを着たビジネスマンだったり、ベビーカーを押した女性だったり。
「ね、ほんとにここなんだろうか」
遼は少し不安になる。
「でも、新聞にもこの公園の名前が書いてあったし」
泰知が指差していた新聞記事を思い出しながら、健斗が答える。
「まあ、朝っぱらからはそういうことはしていないんじゃないかな」
すると、遼が少しもじもじする。
「僕は・・・したいよ。もうずっとがまんしてたんだから」
その気持ちは健斗も同じだった。が、流石に明るい人のいる公園では出来ない。
「トイレ、行く?」
遼がトイレを探して辺りを見渡す。
「あっち、矢印がある」
二人は手を繋ぎ、早足でその矢印の方に向かった。

公園の中程から少し外れた場所に、トイレがあった。
「あそこ」
遼が指差し、小走りになる。健斗は遼に手を引かれ、トイレに走った。
「あっ」
トイレには先客がいた。というよりも、狭いトイレに入りきらないほどの人がいる。
多くは遼や健斗と同い年くらいの少年。中には少女もいる。大人も数人混じっていた。みな全裸だ。そして、誰彼構わず抱き締め、抱き締められ、キスし、キスされ、挿入し、挿入されている。
これまで、自分達以外のそういう光景をほとんど見たことがなかった遼と健斗には、その光景が少し恐ろしく見えた。確かに一人一人見れば、やっていることは遼や健斗と同じ。だが、これだけ人数がいると、まるで全体が一つの生き物のように見える。一つの生き物がうごめき、喘いでいるかのようだ。その光景を見て、遼は一歩下がった。
少年少女と男達は遼をチラリとみた。が、彼等など目に入っていないかのように行為を続けている。明るい公園のトイレの中、灯りは壊れているのか、薄暗い。そこでされている。やり合っている。
(おぞましい)
遼の心にそんな言葉が浮かんだ。
(いや、僕だってきっと・・・)
そう思う反面、自分は違うと思いたかった。が、彼のペニスは勃起している。彼等の中に入って、そのおぞましいひとかたまりの生き物の一部になりたい。
健斗を振り返った。健斗の両脇に人がいた。その人達の手が健斗の股間を這い回っている。一人が健斗にキスをする。大人の人だ。40才くらいの大人の人が、二人で健斗をその生き物の中に引きずり込もうとしていた。
「健斗っ」
遼は慌てて健斗の手を握る。手を強く引き、トイレから離れる。男達は追っては来ない。それでもそのトイレから黒い何かが彼等の方に手を伸ばしているように見えた。
「健斗、大丈夫?」
「あ、ああ・・・」
少し離れたところで健斗の肩を揺さぶった。
「あんなのって・・・」
何と言えばいいのか分からない。ただ、彼が想像していたのとは違う世界だった。
(こんなところに来ちゃったのか)
少し、泰知の言葉に疑いを感じる。その時だった。
「こっちだよ」
誰かの声がした。

その声は、公園の中央寄りの、もっと奥の方から聞こえた気がした。
「誰?」
健斗が言う。
「こっちだ」
別の声がした。同じ方向だ。
「早く」
最初の声が言った。
ちらりと遼の顔を見て、遼の手を取って声のした方に向かった。

声の先には少年が二人いた。
「君達、何年生まれ?」
一人が質問する。
「2080年」
健斗が先に答える。
「僕も、2080年生まれ」
遼も答えた。
「ここは初めて?」
二人とも頷く。
「じゃ、こっちに来て」
彼等二人が公園の奥に向かって歩いて行く。遼と健斗はその後を追った。

しばらく歩くと、ちょっと広場のような場所に出た。何人かの少年がいる。その広場はいくつかに区切られていて、一部にはたくさんの段ボール箱が置かれていたりする。
彼等二人は、その奥の、木の枝に布が掛けられただけの仕切られた場所に入っていく。遼は少し不安を感じながらも彼等の後を追った。
その仕切られた場所は、意外と広かった。そこにさっきの二人を含めて4人の少年がいた。
「まず、いろいろ話す前に一つだけ。あのトイレには近寄らないこと」
一人が言った。
「あそこはこれじゃなくて、本当の麻薬とか使うから」
自分の頭を指差しながら言う。
「言ってる意味は分かるよね?」
健斗も遼も頷く。
「よし。じゃ、ここに来たってことは、この公園がだいたいどんな場所か分かってるってことだね?」
「僕等みたいなのが集まってて、一緒に暮らしてるって」
少年が頷いた。
「そう。僕等は外では見捨てられている。だから自分達で自分達の身を守り、生きて行くしかない」
「でも、体売ってお金もらってるとも聞いたけど」
健斗が言った。
「それも事実だよ。でも、あいつらみたいにヤバいことはしない。ちゃんと合意の上で、だよ」
別の人が話を続けた。
「ここで俺達だけで生きていくためには、お金が必要だ。もちろん寄付してくれる人もいるけど、それじゃ足りない。だから、稼ぐ必要がある。そして、俺達がお金を稼げる手段っていうのは限られてる。分かるだろ?」
健斗は頷いた。
「ここは、HVSSTNチップが埋め込まれていて、帰る場所がなくなった人なら誰でも受け入れる場所だよ。聖地って呼ばれてる」
「聖地・・・」
遼がつぶやいた。
「ここなら君達も安心していられる筈だよ」
彼等はペットボトルを二人に投げて寄こした。
「ここにいれば、飲物も食べ物も困ることはない。贅沢は出来ないけどね」
「うん、ありがとう」
遼が健斗に体を寄せた。
「でも、ほんとはしたくてしたくてたまらないんだ」
「俺も」
遼の腰に手を回す。
「それは僕達だって同じだ。だから、するなとは言わないよ」
最初の少年が言った。
「でも、変なクスリとかには手を出さない。それだけは気を付けて」
その場所の奥の隅からファイルを取り出した。たくさんの紙が入っている。
「これは、僕等が僕等に起きたことを調べた調査結果だよ。もし気になるなら見ればいい。でも、本当かどうかは分からないけど」
健斗がファイルを受け取る。ファイルを開いて最初の紙を見た。あの、玉城遼の痴態を報じる新聞記事だった。すぐにファイルを閉じる。
「いいよ。ここに来る途中で大体聞いた。これが暴走して、脳内麻薬が出まくっておかしくなるって」
健斗が頭を指しながら言った。
「まあね。でも、そのチップの暴走について、人体実験されていたとか、政府とメーカーが癒着していたとか、いろいろ裏ではあったらしいよ、噂だけどね」
健斗は遼をチラリと見た。遼は表情一つ変えずに聞いている。
「ここにあるから。見る時はここにいる誰かに声を掛けて。これは僕等の宝物だから」
健斗は頷く。と同時に遼が尋ねた。
「で、したいときはどうすればいいの?」
見るからにうずうずしている。
「裏ですればいいよ。あそこなら外からは見えないし、この公園にいる奴等しか近づかないから」
遼が健斗の手を引っ張った。
「行こ」
健斗とて気持ちは同じだった。

広場の裏手は木々に囲まれた場所だった。その木々に隠れるように、何人かがしているのが見える。声も聞こえる。遼が健斗の手を引き、手近な木の根元に座った。何も言わずに顔を近づける。
「んっ」
キスを交わす。口を貪り、唾液を交換する。遼はずっと被ったままの帽子を脱ぎ、脇に置く。その頭を健斗が抱き締める。チップがある場所にキスをする。遼は健斗の服を捲り上げ、臍の周りを舐める。そのまま服をずらしながら、毛の生え際、陰茎の付け根、ペニスを口に含む。
「早速やってる」
声がした。チラリと見る。さっきの少年だった。
「本番は夜だから、体力使い切らないようにね」
そう言って去って行く。
「どういう意味だ?」
健斗が言った。
「夜、暗くなったら気兼ねなく出来るってことじゃない?」
遼が健斗を見た。
「今でも気兼ねなくやるけど」
遼は健斗のペニスを再び口に含んだ。

健斗は遼のアナルを舐めていた。遼は仰向けになり、その足を健斗に持ち上げられ、玉の付け根からアナルを全て健斗に晒していた。明るい日差しの下で、その皺まではっきりと見える。そこを丹念に舌で舐め回す。
「ああっ」
遼が呻く。
「遼は入れられるの、大好きだもんな」
顔を上げて言う。
「そうだよ。大好きだ」
そう言いながらアナルをヒクつかせる。
「朝からずっと入れて欲しかった」
「分かってる」
健斗が遼に入っていく。
「ああぁ」
遼が喘ぐ。健斗は奥まで入れると腰を円を描くように動かした。
「ああ」
遼のペニスがビクビクと動く。
「掘って」
遼のペニスから先走りが滴る。健斗はそれを指ですくい取り、舐める。
「ああ・・・健斗」
遼が健斗に腕を伸ばし、体を抱き締める。また口を貪る。口を貪りながら、健斗はアナルを突き上げる。
「ふぐっ」
息が漏れる。さらに突く。
「ああっ、気持ちいい」
遼が喘ぐ。
「遼の中も気持ちいい」
腰を打ち付ける。パンパンと音がする。
「ああっ」
木の向こうで誰かがチラリとこちらを見る。その誰かに見せつけるように遼を犯す。
「あっ、いいっ」
遼の声が変わる。健斗はそこをめがけて掘り続ける。
「あっ、イくっ」
遼のペニスから精液が飛び散った。同時に健斗も遼の中で射精した。

「さっきの人体実験って話」
1回目のセックスが終わって、少し横になって話をした。
「うん」
「あれって・・・」
健斗が遼を背中から抱き締めた。
「お前、誘拐されてたって言ってたよな」
「うん」
「で、鞭打ちとかされてて、途中から全部気持ち良くなったって」
「うん」
「それって・・・」
遼にはもう分かっていた。あの時運び込まれた機械。その後、全てが気持ち良くなった。
「そうだと思う」
健斗の腕に少し力が入る。
「それって、映画の撮影の前って言ってたよな?」
「うん」
「ってことは、その時にはもう、こうなるって分かってたってことか・・・」
つまり、こうなる事が分かった上で、UHHVA通信が開始されたということだ。しかも、その開始のボタンを押したのは玉城遼。人体実験されていた玉城遼だ。
すべて、ああなることが分かった上で・・・
「くそっ」
健斗が拳を握る。遼が頭を持ち上げ、健斗の顔を見た。
「くやしい。全部、遼を苦しめるためみたいで」
遼が健斗の拳を両手で包み込んだ。
「それは偶然だと思うし、それに」
健斗の腕の中で体の向きを変える。
「健斗と出会えたのは、幸せだよ」
遼が健斗に顔を寄せた。キス。そして、またセックスが始まった。

薄暗くなりかけた頃、あの少年が二人を呼びに来た。
「食事の配給の時間だよ」
遼は地面に置いていた帽子を被って立ち上がった。
「もう帽子要らないだろ」
健斗が言う。
「でも、泰知がくれたものだから」
二人は食事の配給場所に向かった。

けっこうな列が出来ていた。
つまり、それだけの人数が、この狗路公園にいた、ということだ。
「何人くらいいるのかな」
列に並んで遼が言った。
「100人や200人じゃ済まなさそうだな」
健斗が言う。と、近くにいた少年が言った。
「だいたい400人近く」
「えっ」
二人は驚く。
「そんなにいるんだ・・・」
「でもね、脳に欠陥品のチップ埋め込まれたのは、全部で数百万人いるらしいから、まだほんの一部だよ」
(あのファイルには、そういう資料も入ってるんだろうな)
健斗は、後でちゃんとファイルを見てみようと思った。
「そんなにいたら・・・」
遼が言った。その顔を健斗が見る。
「お前・・・変なこと考えてるだろ」
「へへっ」
悪戯っぽい顔をして笑う。
「お前はほんとに・・・」
その先は言えなかった。健斗もそれを想像して、少し堅くなっていた。

      


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