UHHVA

12

二人は歩いていた。
一回だけ、そう決めて抱き合ったが、3回射精していた。が、すでに二人の股間は盛り上がっている。
「歩きにくい」
遼が不満を漏らした。パンツを履かずに直接ズボンを履いているため、勃起したペニスがズボンに擦れてしまう。その刺激が彼等を悩ませる。
「今は・・・とにかく」
健斗も同じだった。だが、二人は今は我慢した。どこかに向かうために。
「俺達、どこに行けばいいんだろう」
とにかくあの施設からは脱出したが、その先のことは何も考えていなかった。
「どこかの街まで行って、それから考える」
遼が言う。
「行けばなんとかなるって」
一歩先を歩いていた遼が振り返って手を差し出した。
「お前、意外とたくましいな」
二人は手を繋いで歩き続けた。



どれくらい歩いただろうか。二人はどこかの街にたどり着いていた。が、まだ人影はない。
遠くに見える空と地面の境界線の辺りが、少し赤くなってきた。
「もうすぐ夜が明ける」
健斗が言う。
「昼間はあんまりうろつかない方がいいよね」
遼が自分の服装を見て言った。
「知ってる人が見たら、すぐバレそうだしな」
とはいえ、それだと時間だけが過ぎてしまう。そうなると、捕まる可能性が高くなる。
「少しでもあそこから離れておきたいんだけどな」
遼が健斗の顔を見た。言いたいことは分かっていた。ここまで歩いてくる最中、結局我慢出来ずに二人は3回セックスをしていた。
「分かってるよ。だから我慢してるだろ」
すると、遼がズボンの前を引っ張って、その中の勃起したペニスを健斗に見せた。
「誘うなって」
遼が笑う。健斗はそんな遼の笑顔を見る。そんな遼の笑顔に顔を近づける。
キスをしようとしたその時、視界の隅で何かが動いた。
「あっ」
そっちを見る。遼も何かを感じたのか、同じ方を見た。自転車に乗った人が近づいて来た。
(ヤバッ)
二人は隠れようとした。が、間に合わない。
「おはようございま〜す」
その人物はそのまま通り過ぎようとした。彼等とさほど変わらないか、少し年上に見える少年だった。遼と健斗は顔を見合わせた。
「あ、あの」
遼が声を掛ける。自転車の少年は自転車を停めた。二人は彼に駆け寄った。

自転車のカゴには、折りたたまれた新聞の束が入っていた。
「なんか用ですか?」
少年が言う。
「あの」
衝動的に声は掛けたが、何を言えばいいのか分からない。
「えっと、その、ここ・・・」
遼が言い掛けたのを、健斗が引き継ぐ。
「ここって、どこですか?」
年上らしい少年に尋ねた。
「え?」
少年が遼を見た。
「あっ」
遼の顔を見る。
「玉城・・・遼・・・君?」
(ヤバいっ)
健斗は遼の手を握る。その体を引っ張り、走り出す。
「ま、待って」
自転車の少年が追いかけてくる。
「待ってって」
すぐに追いつかれる。
「ファンなんだ」
「え?」
自転車で前に回り込まれた。
「だから、俺、玉城遼のファンなんだよ」
自転車を降りる。
「あの・・・握手とか・・・してもらえますか?」
手を差し出した。

少し話をすると、本当に玉城遼のファンだった。そして、あのイベントでの出来事もその後のことも知っていた。
「でも、会えてうれしい」
そう言って笑う。
(大丈夫かな)
笑顔で話す二人を見ながら健斗は思う。
「でも、大変だったよね」
うれしいからなのか、少し饒舌に話す。
「俺は君より一つ上だからチップは埋まってないけど、あのチップの第一世代が埋め込まれた人達がみんなおかしくなったって噂で」
「あ、あの・・・」
遼が話を遮った。
「僕は、あれがあって以来、ずっと病院に閉じ込められてて・・・」
少し頭を伏せる。
「なにがなんだかわからないし、だから、自分になにが起きてたのかとか、全然知らなくて」
「そうなんだ」
すると、少年が自転車に積んであった新聞を一つ開いた。
「毎日記事になってる。欠陥チップだとか、国とそのチップのメーカーの癒着だとか、いろいろ」
特集されているのか、四角い枠の中にUHHVA関連の記事があった。それを遼に見せる。健斗も顔を寄せて覗き込む。
「UHHVAの電波で第一世代のチップが暴走して、脳に刺激が伝わって、脳内麻薬みたいなのが大量に出て、その第一世代のチップが埋め込まれた人は頭がおかしくなるって」
そう説明したところで少年は気が付いた。
「あ・・・ごめん」
「いいよ。その通りだし」
「噂だけどね。でも、政府もそのメーカーも因果関係は認めてないって」
(そういうことか)
ようやく、あの監視員が言っていたことが理解出来た。
「そして、そういう人達が、狗路(くじ)公園に集まってるって」
「狗路公園?」
少年が記事を指差す。
「そこでそういう人達が集まって、集団生活してるんだよ」
「どこにあるの?」
「電車で1時間くらいかな。狗路って駅の近く」
少年がスマホを見せた。地図が表示されている。
「行くの?」
「分からない」
少し、少年が黙り込んだ。少し経って口を開いた。
「遼君も・・・そういうこと、するの?」
「そういうことって?」
「その・・・セックス」
(そうか)
健斗は少年をまじまじと見た。
「そこで、みんなで乱交してるとか、抱かれてお金とか食べ物もらってるとかって」
「遼としたいの?」
健斗が口を挟んだ。
「え、い、いや・・・」
「でも、勃ってるでしょ?」
少年のジャージの股間が明らかに盛り上がっていた。
「あ、いや・・・」
「いいよ。しよっ」
遼が立ち上がってズボンを降ろした。勃起したペニスが飛び出す。
「あ、いや、そういうことじゃなくて・・・」
だが、その目は遼のペニスに釘付けになっている。
「いろいろ教えてもらったお礼だよ」
遼が手を差し出す。
「いや、でも、ここじゃ」
確かにそうだ。まだ誰もいないとはいえ、普通に道端だ。
「そうだ、俺の家、すぐ近くだし」
少年が立ち上がる。
「家来てよ。お腹空いてたりする?」
そういえば、施設を出て数時間、何も食べていない。
「取りあえずこれ、配ってくるから、ちょっと待っててね」
そう言って少年は自転車に跨がり、走り去った。

「なんていうか・・・運がいいというか・・・」
健斗が新聞から顔を上げて遼の顔を見る。
「さすが有名人、玉城遼様々って感じだな」
遼が少し照れ笑いを浮かべる。
「とりあえず、ムラつくからズボン履こうな、玉城遼君」
健斗に言われて、ズボンを降ろしたままだということに気が付いた。
「別にここでしてもいいよ?」
健斗は首を左右に振る。
「さっきの奴に悪いだろ、俺達がここでしてちゃ」
二人は笑った。
「でも、助かった。これから行くところが分かったし、なにか食べさせてくれそうだし」
「本当に信用しても大丈夫かな?」
健斗が遼の顔を見た。
「遼としてはどんな感じ? ファンって言ってたけど」
「うん、いろいろ出演作は見てくれてる感じだし、そこは間違いないと思う」
「じゃ、玉城遼として、ファンを信じるかどうかだな」
「そりゃもちろん、信じたい」
「じゃ、それで決まり」
そんなことを話している間に、あの少年が戻ってきた。二人は立ち上がり、彼に導かれて歩き始めた。

その少年は独り暮らしだった。
「誰もいないから遠慮なく」
すると、遼が服を脱ぐ。
「じゃ、遠慮なく」
少年に抱き付く。キスをする。
「ちょ、ちょっと」
少年が遼を制しようとするが、遼は体を押し付け、擦り付ける。
「俺等には欠陥チップが埋まってるからね」
健斗も少年の背中に抱き付き、服の上から股間を撫でた。
「あ、ちょっと」
少年は腰を引く。遼がしゃがみ込み。その股間に顔を埋める。
「やりたいんでしょ、玉城遼と」
健斗が耳元でささやく。
「うん・・・やりたい」
遼は少年のペニスをしゃぶっていた。

少年はもう出なくなるまで遼のアナルを貪った。
その後、3人は眠った。目が覚めた時はすでに夕方になろうとしていた。

「これ、狗路公園までの地図」
印刷した紙を差し出す。
「ありがと」
テーブルに座ってカップラーメンを食べていた遼が受け取った。
「それから、服、そのままじゃまずいんでしょ?」
クローゼットの中からジャージを2組取り出す。
「これ、あげるから」
「いいの?」
「だって・・・」
少年が顔を赤らめる。
「させてくれたから」
小さく言った。
「あと、遼君は顔ですぐに分かるから、これ被った方が」
帽子を差し出す。
「それと、少しだけど」
お金も差し出した。
「要らない。そんなつもりじゃないから」
遼は断った。
「でも、狗路に行くなら電車に乗らないと行けないから、その電車代」
遼が健斗を見る。健斗は頷いた。
「分かった。ありがとう」
遼が受け取った。
「君は・・・って、そいうや、まだ名前も言ってなかったね」
少年が健斗に向かって言った。
「俺は加賀泰知」
「俺は三廻部健斗」
二人は軽く握手した。
「僕は玉城遼」
遼も手を差し出す。
「知ってる」
泰知と健斗が一緒に言い、そして笑った。

「君は、健斗君は、遼君の・・・彼氏?」
「みたいなもののような・・・」
泰知の問いに、健斗は遼の顔をチラリと見て答えかけた。
「僕の大切な人」
遼が言った。
「そうなんだ・・・うらやましい」
「でも」
遼が泰知ににじり寄る。
「加賀さんには、ホントに助けてもらったよ」
「フェラとかアナルとかセックスとかな」
「違うよ」
健斗が茶化し、遼が否定する。
「ホントに、いろいろ教えてもらえて・・・」
泰知に抱き付く。
「うれしかった。ありがとう」
抱き締め、股間を撫でる。
「そうだな」
そんな二人を健斗が抱き締める。そのまま、三人は床に横になった。

行為が終わった頃には、夜になっていた。
「今日は泊まって、明日朝イチで行けばいいよ」
泰知は二人に行った。
「そうだね。そうさせてもらうよ」
「そしたらまたやれるからな」
健斗が言う。
「それもあるけど・・・」
泰知は正直だ。
「お風呂、入るでしょ?」
「お風呂!」
施設の部屋には風呂はなかった。たまに体を拭く程度のことしかしていなかった。
「ありがとう」
健斗が答える。すでに遼は全裸になっている。
「ね、三人で一緒に入ろ」
小さな湯船の中で、三人はお湯に浸かる。いや、むしろ体を寄せ合い、抱き合った。
それはもちろん、お風呂を出た後も続いた。

「じゃ、俺ら、行きます」
早朝、泰知にもらった服に着替え、あの地図を畳んでポケットに入れる。
「待って。この先も食べ物とかいるでしょ?」
泰知が適当にパンやお菓子、ペットボトルをリュックサックに詰める。
「これ、持って行って」
「ありがと」
遼が受け取った。
「狗路公園、行くんだよね?」
「そのつもり」
すると、泰知が遼を抱き締めた。
「いつか、狗路公園に遼君達を探しに行くから、その時は、また」
「うん。また、セックスしよ」
遼がそう言うと、泰知は顔を赤らめる。
「じゃ、そろそろ行くよ。ありがとう」
健斗が言った。
「その前に」
泰知が引き留め、スマホを構えた。
「記念に、写真撮らせてよ」
三人が並ぶ。
「じゃ、撮るよ」
その瞬間、遼が泰知の頬にキスをした。

「じゃあね」
遼が手を振る。
「じゃ」
泰知も手を振った。
健斗はペコリと頭を下げ、駅へと向かって歩き出した。

遼と健斗は始発の電車に乗っていた。それなりに乗客はいたが、泰知がくれた服と帽子のお陰か、彼が玉城遼であることも、彼等が施設からの逃亡者であることも気付かれることはなかった。

      


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