「ほら、うれしいだろ、サンタになれて」
宏が黒板消しを守の頭に何度もこすりつけていた。俺達が取り囲んでいる机に、頭をチョークの粉で真っ白にされた守が座っている。
「お前の家にはサンタが来るんだもんな」
佑が机の上に散らばったチョークの粉を守の方に吹き付ける。守は軽く咳き込んだ。でも、何も言わない。
「ほら、言えよ、サンタさんはいるんだって」
宏が机を蹴る。でも、守はうつむいたまま、やっぱり何も言わない。中2にもなってサンタを信じてる、俺達はそんな守にイラついていた。俺は守を後ろから羽交い締めにする。そのまま守を教室の後ろに引きずっていく。
「脱がせろ」
俺が命令する。宏と佑がにやっと笑いながら、守のズボンに手をかけた。
「やめろ」
守がようやく声を出した。でも、小さな声だ。もちろん、俺達はやめない。体をねじっていやがる守を押さえつけ、ズボンと一緒にボクブリも引きずり降ろした。教室に数人残っていた奴らが、俺達の回りに集まってその様子を見ていた。みんな、薄笑いを浮かべている。
「へぇ、サンタ信じてるくせに生えてるんだ」
守の股間にはまばらに毛が生えている。
「佑、剃れ」
佑は、机からカッターナイフを取り出し、それで守の毛を剃り始めた。抵抗していた守も、カッターナイフの刃が体に触れると、あきらめたのか、それとも怪我が怖かったのか、おとなしくなった。
「サンタさんは・・・」
守が小さくつぶやいた。涙声だった。
「それ、残しとけ」
宏が剃り落とされた守の陰毛を集めて、プリントに乗せて折り畳んだ。
俺が手をゆるめると、守は床に膝をついて股間を手で隠した。泣いていた。
「サンタさんに毛を下さいってお願いしろよ」
俺はそう言って、守に背を向けた。自分の机に戻って、鞄を肩に掛ける。振り返ると、まだ宏と佑が守の手を掴んで、股間をみんなに晒している。俺はしばらく様子を見ていた。二人は下半身裸のままの守を教室中引きずり回している。一周したところで俺は声をかけた。
「行くぞ」
ようやく二人は守を解放した。俺達3人は泣いている守に目もくれず、教室を出た。
ゲーセンで少しうろうろして家に帰る途中、公園でベンチに座っている守を見つけた。
「何やってんだよ」
佑が声を掛けると、守は少し怯えた様子でこっちを振り向いた。
「何やってんだ?」
佑はそんな守の隣に座って肩に腕を回した。
「早く帰らないと、サンタさんが来ちゃうぞ」
宏もそんな守に声を掛けて、髪の毛を掴む。
「なんだ、せっかく白髪にしてやったのに」
俺達が髪の毛に付けてやったチョークの粉はほとんど取れてしまっていた。
「まだ白いじゃん」
髪の毛の根元の方に、少し白い粉が残っている。
「洗ってやる」
俺は守の髪の毛を掴んで、公園のトイレに引っ張っていく。そして、洗面所に頭を突っ込んで水を浴びせた。それでも守は何も言わない。俺達は守の全身に水を浴びせて、その場を後にした。
翌日、守は学校を休んだ。風邪を引いたらしい。そりゃ、12月のこの寒さの中、全身ずぶ濡れでいりゃあ、風邪も引く。別に俺達は気にしない。守は友達じゃないし、単なるターゲットなんだから。
守は小柄で頭は良かったけど、体育は全然ダメなやつだ。イジメのきっかけも、クラス対抗のバレーボール大会で、あいつが足を引っ張りまくって結局クラスが最下位になったからだった。
それ以来、あいつはずっとイジメられてきた。俺達だけじゃない。他の奴らもあいつを無視したりしている。他のクラスの奴までも、あいつをイジメているのを知っている。
でも、学校は何もしない。もちろん、守がイジメられていることは知っている。何人かがあいつを裸にしているのを先生が止めに入ったこともある。でも、学校は知らないふり。事実はともかくとして、『この学校にはイジメはない』、そういう体裁が大事なんだ。大人がそういう対応だから、みんな平気で守をイジメる。
みんなだって、あいつがイジメられなくなったらターゲットは別の誰かに移る、ひょっとしたら自分が次のターゲットになるかもしれない・・・そうなるくらいなら、あいつがこれからもずっとイジメられてればいい、そう思っているに違いない。だから、誰もイジメを止めようとしないんだ。
結局、守は2日間学校を休んだ。あいつが学校に出てきたのは、12月24日、クリスマスイブの日だった。
「なんで出てくんだよ」
宏が守の机を蹴る。
「お前がいなくて良かったのになぁ」
守はいつものように、うつむいている。ただ、声を出さずに何かをつぶやいている。
「え、なに?」
宏は耳を近づける。でも、やっぱり守の声は聞こえない。ただ、口を動かしているだけだった。
「キモっ」
また机を蹴る。
別にいつもと何も変わらない。いつも通りと思っていた。
その時は。
給食の時間、俺達はまた守の机に集まっていた。宏は折りたたんだプリントを持っている。
「今日の給食、もっと美味しくしてほしいよな?」
宏がプリントを広げる。そこには、剃り落とされた守の陰毛があった。宏がその陰毛を守の給食のシチューの器の中に入れた。
「もちろん、残しちゃダメだよな」
佑が守の肩に腕を回す。そして、守の腕を掴んで陰毛入りシチューをスプーンでかき混ぜる。
「ほら、食えよ」
守はシチューを口に運ぶ。もちろん、そこには守自身の陰毛が入っていた。
「おお、チン毛食ってる」
俺はわざと大きい声で言った。
「チン毛守だ」
佑も大声を出す。クラスの奴らがみんな守に注目した。そんな中、守は黙々と自分の陰毛入りシチューを食べ続けていた。もちろん、全部残さず食べ終わるまで俺達が監視した。
その日の夜、つまりクリスマスイブの夜は、いつもと変わらない夜だった。
サンタクロースなんていないってことは、小さいころから知っていた。枕元にプレゼントを置いていくのはサンタではなく父親であることは、あの頃から気付いていた。
今は・・・プレゼントより現金だ。
家ではクリスマスの料理を準備している。でも、俺は宏や佑とゲーセンに行くか、それともどこかを遊び歩いてマックで食べて帰るか、あるいは気が向けば食事に間に合うように帰る。つまり、気分次第ってこと。そして、家に帰るとクリスマスプレゼント代わりのお金をもらう。ケーキなんか別に欲しくない。その分、お金がもらえればそれでいい。
今年はマックで食べて家に帰った。
小さい子供なら、サンタが来るからって一生懸命起きていようと頑張るのかも知れないけど、サンタなんかいないって知ってる俺は、そんなことせずに眠くなったらさっさと寝る。その日の夜もそうだった。別に、何かを考えながら寝たわけじゃない。それなのに、それは夢の中に出てきた。
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