「ああ・・・イきそう」
少年が荒い息で言う。男はそんな少年の腰を掴み、その尻に腰を打ち付ける。
「ああっ」
少年のペニスから精液が迸る。

「ねえ、今度はいつ出来る?」
ベッドの上で、腹に飛び散った自分の精液をティッシュで拭いながら少年は男に尋ねた。
「そうだな・・・しばらく忙しいからな」
少年は男が嘘を言っていることを知っていた。男が少年に飽きてきているということも。
「まあ、また連絡する」
男はさっさと自分だけ服を着た。
「ほら、お前も早く服を着ろ」
その小柄な少年は、わざとゆっくりと服を着る。着終わったら、この部屋から追い出されることが分かっていたから・・・・・





「ねえ、これってどうやって見るの?」
部室でIT。がPCに向かっている。その背後にボスが近づいて画面を覗き込んだ。
「その拡張子って知らないなぁ・・・ググってみたら?」
IT。がそのファイルのアイコンをダブルクリックした。
「なんか出てきた」
その画面には、ウイルス警告が表示されていた。
「もう、なにやってんだよ。なんか感染しちゃったじゃん。どいて!」
ボスが声を荒げた。
「だって」
IT。が立ち上がり、代わりにボスが椅子に座る。かちゃかちゃとキーを打ち、ウイルス対策ソフトでPCをスキャンする。二人で、そのスキャン完了率を示す数字を見つめた。
「ああ、もう」
部室のドアが開いて、もう一人、少年が入ってきた。
「あっ」
その少年は、PCの前で顔を寄せている二人を見て、ドアのところで固まった。
「ご、ごめん」
少し後退った。
「待て待て待て」
ボスが言った。
「なんだか盛大な勘違いをしてないかね、エージェント・スミス君」
エージェント・スミスと呼ばれた少年が二人に近づく。
「大丈夫だよ、俺、そういうの理解してるから」
微妙な距離を開けて立ち止まる。
「だ〜か〜ら〜」
「なんで僕が」
ボスとIT。が同時に言った。
「って、お前が原因だろ」
ボスがIT。の頭を軽く小突く。そして、エージェント・スミスに向かって言う。
「こいつがウイルス持ち込んだからさ、PCをスキャンしてたんだけど」
PCの画面を見る。36%と表示されている。
「なかなか進まないからさ」
エージェント・スミスと呼ばれた少年が画面に顔を近づける。
「って、これ、学校のサーバーに繋がってるんじゃないの?」
「知らない」
IT。が答える。
「だって、このPCでいつも学校の掲示板とか共有フォルダとか見てるでしょ?」
「うん」
IT。が当然のように頷いた。
「ダメじゃん」
ボスとエージェント・スミスがハモった。そして、PCの背面を見て、LANケーブルを引っこ抜いた。
「ヤバいかな」
エージェント・スミスが少し不安そうな声でボスに言った。
「ヤバいかも」
ボスも不安そうな声で言う。
「なにが?」
IT。が二人に割り込んだ。
「学校のサーバーにウイルス感染させちゃったら、もうここからサーバーに繋ぐの禁止されるかもしれないだろ」
「ふうん」
IT。は他人事のように相づちを打つ。
「そうなったら・・・調査できなくなるだろ?」
「そうなの?」
「そうだよ」
少しボスがいらいらしている。
「まあまあ・・・学校もちゃんとウイルス対策してるはずだから」
エージェント・スミスが二人の間に入る。

その部屋・・・使われなくなった古い資料室・・・には、手書きの小さな看板が掲げられていた。彼らの部活は、一応、『探偵部』ということになっている。が、部活動の規定の最小人数5人には二人足りていない。顧問の先生もいない、本来なら同好会レベルだ。が、彼らは勝手に部として活動していた。『探偵部』というのも、彼らの自称だ。他の生徒達はせいぜいトラブル相談窓口程度にしか思っていない。そもそも、この部の存在を知っている生徒はほとんどいない。学校から正式な部活動として認められていないのだから、当然だ。
が、彼らは毎日部活動を行っていた。自称、この学校の平和を守る部、それが彼らの「でてくて部」だ。

「でもさ、これがきっかけで」
ボスが言った。
「あれがバレるって?」
エージェント・スミスが言う。
「うん。非公開の情報にもアクセスしちゃってるって」
「ええ、困るよ」
IT。が大きな声を出した。
「お前のせいだろ」
またボスとエージェント・スミスがハモる。
その時、部室のドアをノックする音がした。



部室のドアを誰かがノックした。少し小さい音、遠慮しているかのような音だった。
「はい、どうぞ」
ボスが大きな声で言った。古い部屋の古いドアがきしみながら開く。そして、少年が顔を覗かせた。
「あ、あの・・・ここって」
「あれ、相原君」
エージェント・スミスが言った。
「やあ」
少年は軽く手を上げる。そして改めて言った。
「ここって、相談係だよね?」
「でてくて部」
ボス、エージェント・スミス、そしてIT。の三人が声を揃えて言った。
「え?」
「まあまあ」
エージェント・スミスが椅子を持ってくる。
「まあ座って、相原君」
椅子を手で示した。相原君が部屋に入ってくる。長身を折り曲げて椅子に座る。
「三澄君も、相談がか・・・じゃなくて、で、でてくて部?・・・なんだ」
「え、エージェント・スミスと知り合い?」
ボスが言う。
「うん、同じクラスの相原君」
エージェント・スミスが答える。椅子に座った相原君は少し困惑したような顔をしている。
「で、なに、どうしたの?」
ボスが相原君に言う。
「えっと・・・その・・・」
少し言いにくそうにした。
「まず・・・エージェント・スミス・・・ってなに?」
「そこかい!」
ボスが言う。
「いや、さ・・・俺、三澄 叡治だろ?」
「知ってる」
「叡治だから・・・エージ、エント。そして、三澄、みすみ、みすみ・・・・・スミス」
「叡治、三澄・・・エージェント・スミス」
相原君が顔を伏せ、小声でつぶやき、そして失笑する。エージェント・スミスが真っ赤になった。
「だからハズいからこの呼び方やめようって言ってるだろ」
エージェント・スミスがボスに言った。
「エージェントには間違いないっしょ」
確かに、エージェント・スミスこと三澄叡治はでてくて部の諜報担当だ。
「それでも嫌だ。エイジでいいじゃん」
と、相原君が笑い出した。
「面白いね、この部」
「でてくて部」
今度はボスとIT。の二人だけだった。
「うん、でてくて部」
相原君が言い直した。
「で、それが聞きたくてここに来たって訳じゃないよね?」
ボスが相原君に尋ねる。
「え、あ、そう・・・」
ちょっと顔を伏せた。
「あの、さ・・・ちょっと調べて欲しいんだけど・・・」
「ちょっと待って。IT。、顧客情報入力して」
IT。が、たどたどしい手つきでPCを操作する。
「まず、クラスと名前」
「2−1、相原 哲」
「えっと、2の1、あいはら・・・・・さ、と、し・・・と」
ぽつぽつとキーを打つ。それを相原君が見ている。
「なんだか・・・まるで初心者っぽい」
相原君がIT。を見ながら言った。
「IT。、PC苦手だから」
エージェント・スミスが言う。
「え、普通、ITって呼ばれてるなら実は凄いハッカーとかそういうんじゃないの?」
「違う。ITじゃなくて、IT。」
IT。が言った。
「僕は2−3の伊東。伊東だからITO」
「え・・・・・」
「だから、ITの後に小さい丸が付いてるんだよ」
IT。がメモ用紙に書いて見せた。
「・・・・・ここ、笑えるあだ名を付ける部なの?」
「でてくて部」
今度はボスが一人で言った。
「三澄君がエージェント・スミスで、伊東君がIT。で・・・」
相原君がボスの顔を見た。
「僕は加賀見 悠仁。ボスだよ」
「それも、ボスって意味のボスじゃないんだよね?」
「ボスの家はお寺なんだよ。だから、坊主」
エージェント・スミスが説明した。
「坊主、坊主、ぼうず・・・・・ボス」
相原君が溜め息を吐いた。
「この部、大丈夫?」
「でてくて部」
今度は、相原君も含めて4人が合唱した。

「で、何で来た?」
エージェント・スミスが改めて問うた。
「ああ、そうそう・・・・・」
少し顔を伏せる。
「その・・・盗まれたんだ」
「盗難事件、と」
IT。がPCに入力する。
「何を盗まれた?」
ボスの質問に、相原君は答えにくそうに答えた。
「その・・・パンツ」
少しの間、皆何も言わなかった。

「そりゃすごい」
ボスが感嘆の声を上げた。
「うん、すごい」
エージェント・スミスも言う。相原君は顔を上げて皆を見回した。皆の目が輝いている。
「すごいって?」
「だって、履いてるパンツを盗まれたんだろ? 不可能犯罪だよ」
IT。がぽちぽち入力しながら言った。
「違うよ。水泳の前に、着替えるのに脱いで置いといたら盗まれたんだよ」
「なーんだ、面白くない」
ボスが溜め息と共に言う。
「で、いつ、どこでどうやって盗まれたの?」
ボスが投げやりな態度で質問する。
「えっと、先週の木曜日、午後イチの授業が水泳だったから、昼休み時間の終わり頃に教室で着替えて、授業終わって帰って来たら無くなってた。どうやって盗まれたのかは知らない」
IT。は相変わらずぽちぽちと入力する。
「教室で裸になった、と」
「ちょっと、その表現やめてくれる? 露出狂みたいじゃん」
「露出狂・・・と」
相原君はボスの顔を見る。
「ねえ、あの、IT。って奴、人の話ちゃんと聞いてる?」
「裸になったんでしょ?」
「そりゃ、そうだけど」
相原君は長身で顔も整っている。学校内では上から数えて3番目くらいの美少年だ。そんな美少年が教室で裸になっていた、ということだ。
「プールだから、みんな脱ぐでしょ」
「みんな脱いだ、と」
またIT。がつぶやいた。
「もういいよ。で、戻ってきて着替えようとしたら、パンツだけ無くなってたんだ」
相原君は気を取り直して話を続けた。
「パンツがなくなってたのに、着替えたの?」
ボスだ。
「ずっと水着でいるわけにもいかないだろ」
「ってことは・・・ノーパン?」
IT。がじとっとした視線を相原君に向ける。
「しかたないだろ」
「ノーパン、と」
またIT。が入力した。

進まない話を要約すると、午後イチの水泳の授業の前に、教室の自分の席で服を脱ぎ、パンツは他の服と一緒に机の上に置いておいた。水泳の授業が終わって教室に帰ってきて着替えようとしたら、パンツが無くなっていた、ということだ。それも、無くなっていたのはパンツだけ。
「誰かが間違えて持ってったんじゃないの?」
「わざわざ人の机からパンツ持っていくか?」
ボスの問いにエージェント・スミスが答えた。
「可能性がないとは言えない」
そうボスが答えると、相原君は反論する。
「人のパンツだったらすぐわかるだろ」
「君はパンツに名前書いてるの?」
みんなが相原君の顔を見た。
「かかか書いてるわけないだろ」
相原君がなぜか真っ赤になる。
「名前は書いてなかった・・・と」
IT。がパソコンに入力する。そして、顔を相原君に向けて口を開いた。
「相原君のパンツが欲しい誰かが持って行ったとか。相原君かっこいいから」
「変態じゃん」
ボスが相原君の顔を見て、少しニヤけながら言う。
「な、なんだよ」
「うん、確かにかっこいい」
ボスが相原君に一歩近づく。
「な、なんだよ」
相原君が繰り返す。
「どうなの?」
ボスがエージェント・スミスの顔を見た。
「う〜ん・・・一般的にはそうなんじゃない? でも、僕の趣味じゃないな」
エージェント・スミスが言った。
「相原君はエージェント・スミスの趣味じゃない、と」
「さっきからなに入力してんだよ」
相原君がIT。の腕を押さえ、肩越しにパソコンの画面を覗き込んだ。相原君の顔がIT。の顔に近づいた。
「あ、やばっ」
ボスが小声で言った。IT。が相原君の頬に唇を押し付けた。
「うわっ なにすんだよ」
相原君が飛び上がった。IT。はニッと笑う。
「相原君が悪い」
エージェント・スミスが言った。
「そうだな。うかつにIT。に顔を近づけるのが悪い」
ボスも同意する。
「な、なんだよ」
「IT。はかっこいい男子が好きだもんね」
ボスが言うと、IT。は少し赤らんで相原君を見た。
「まじやべー奴ばっかじゃん、この部」
「だから」
ボスが言う。そしてみんなで声を合わせた。
「でてくて部」
相原君が大きな溜め息を吐いた。



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