DIVE!
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「や、やめろって」
僕を取り囲み、引きずっているやつらに僕は叫んだ。
「きょ、今日は体調悪いし、ほ、ほら、さ」
でも、誰もなんにも聞いちゃいない。西川くんは少し離れて冷たい目で僕を見ている。
「あ、足、そう、足、つ、つりそうなんだって」
みんな、にやにやしている。僕はそんな奴らに無理矢理プールサイドに引きずられていた。
「やば、やばいって。しゃれになんないって」
そして、後藤くんが僕の脇を抱える。足を柊くんと宮宮コンビが持ち上げる。僕の体がプールに投げ込まれる。
次の瞬間、僕は水の中にいた。足が着かない。僕は浮かぶことも沈むことも出来ずにもがいていた。一瞬、頭が水面に出ると、あいつらの顔が見えた。みんな笑っている。でも、すぐに僕の体は水の中に沈んでいく。そして・・・



気が付いた。
「げほっ」
思いっきり水を飲んでいた。気分が悪い。吐きそうだ。
「ったく・・・いい加減、泳げるようにならないんですか?」
誰かがそう言った。
「僕は・・・小さいときにおぼれて・・・それ以来」
とぎれとぎれに僕は答えた。
「トラウマってんでしょ? もう聞き飽きてますって」
僕の横に跪いてそいつは言った。
「その度に僕がこうやって後始末させられてるんですから」
僕等が通うスイミングスクールの生徒の一人、啓介だ。
僕はこうしていつもいじめられていた。いつまでたっても泳げないから。いつまでたっても水が怖いから。そして、啓介は体が小さいし、子犬みたいでかまうとおもしろいからって、僕と一緒にいろいろされたり、させられたりする。僕がいじめられた後、その後始末とかさせられるのが、この啓介だ。
「ごめん」
横になったまま、僕は僕より一つ年下の啓介にそう言った。
「いいですよ、もう慣れましたから」
啓介が僕にタオルを投げた。ようやく、僕は上半身をおこした。
「あっ」
僕は全裸だった。履いていたはずの水着がなくなっている。
「ああ、あそこ」
啓介がプールの真ん中あたりを指差した。そこに僕の水着が浮かんでいた。
「あいつらが・・・」
別に脱がされるのは今日だけじゃない。それに、啓介にはいまさら恥ずかしいなんて思わない。
「後藤さんが、自分で取ってくるまでは帰らすなってさ」
後藤くんがにやにや笑いながらそう言ってる姿が目に浮かんだ。



このスイミングスクールで、たった一人泳げない僕は、みんなのいじめの標的だった。全国大会なんかでもかなりいいところまで行く、同い年の西川くん。頭も良くてかっこいいから女子にも人気があったりする。でも、この西川くんがいじめのリーダーだったりする。もう一人のリーダー格がやっぱり同い年の後藤くん。後藤くんは体が大きくて、どっちかというと、西川くんがいじめの内容を考えて、後藤くんが実行犯って感じ。そんな二人にいつもくっついていじめられる僕を見て笑っているのが柊くん。この3人が中1、僕と同じでこのクラスでは最年長だ。
そして、啓介を含めて小6が5人。今宮と宮本はいつもつるんでいて宮宮コンビって言われてる。西川くんや後藤くんといっしょに僕をいじめる中心メンバーだ。あとは安西と横山。
それから小5が3人。一番チビで、なんだか西川くんや後藤くんに気に入られてる優希、優希と仲がいい竜也、あとはとっちん。
僕はこの11人みんなにいじめられる。11人みんなの前で脱がされたりおぼれさせられたり・・・



そして、泳げないのに、いや、それどころか水が怖い僕に、プールの真ん中まで水着を取りに行けなんて・・・出来るわけがない。
「取ってきてあげましょうか?」
啓介が言った。
「いいの?」
「どうせ、僕が取りに行くって分かってるし」
そして、啓介は水に飛び込んだ。今、気が付いた。啓介も全裸だった。

「はい、取ってきたよ」
全裸の啓介が僕に水着を差し出した。僕はそれを受け取る。
「お前のは?」
「西川さんが持ってった」
西川くん・・・啓介からその名前を聞くと、僕は少し複雑な気分になる。思い切って聞いてみた。
「あ、あの・・・お前さ・・・」
でも、なんて聞けばいいのか分からなかった。質問する前に、啓介が言った。
「山崎先輩、見たでしょ?」
そう、僕は知っていた。啓介は西川くんとつき合っている。「つき合っている」という表現はちょっと違うけど。
「うん」
今度は僕がそう答えた。
「僕は西川さんのおもちゃだから」
啓介は、それだけ言うと、また全裸のまま、水に飛び込んだ。クロールで水を切って進んでいく。時々、お尻が水面に現れる。僕はその様子をずっと見ていた。
そして、あの時のことを思い出した。



たまたま、僕がいつものようにいじめられて、下着を隠されて、帰るのがだいぶ遅くなった時があった。今日みたいに全裸であちこち探して、ようやく下着をみつけて更衣室の前に戻ったとき、その声を聞いた。
その声は、何か言っている、というのではなかった。うめき声のような、苦しんでいるような声だった。それは更衣室の中から聞こえていた。
僕にはその声がなんだかわからなかった。更衣室の扉を少し開けてみる。そこに、啓介と西川くんがいた。ロッカーとロッカーの間に置かれたベンチに手を突いている啓介の背中に、西川くんが覆い被さっていた。そして、あの声。西川くんが体を動かしながら、あの声を出している。啓介も、小さな声を出している。そして、二人とも全裸だった。僕はそれを見たまま、固まって動くことができなかった。
やがて、西川くんの動きが早くなってきた。啓介が顔を動かして・・・ドアの隙間からのぞいている僕と目があった。僕はどきっとした。でも、体が動かない。そのまま、僕は啓介と目を合わせたまま二人を見つめ続けた。やがて、啓介は下を向き、西川くんは動かなくなった。
「ふぅ」
西川くんが啓介の体から離れた。西川くんのちんこは勃起したままだった。
「ほら、きれいにしろ」
西川くんが啓介の横に立つ。啓介は、西川くんのちんこを口に含んだ。そのまま、ちらりと僕の方を見た。



「まだ気分悪いの?」
いつのまにか、啓介が水から上がっていた。
「あ、いや、そうじゃない」
あのとき、啓介と目が合った。でも、実際はそう思っただけで、啓介は僕が見ていたことに気が付いていないと思っていた。でも、さっきの啓介の言葉は・・・
「なに考えてんだか」
啓介が笑った。
「あ・・・」
自分が勃起してるのに気が付いた。啓介に勃起してるところを見られるのも初めてじゃない。いじめでオナニーさせられたりとかすることもあった。小5とか、オナニーもまだ知らないらしくて、そんな奴らが興味津々で見つめる前でさせられたりとか。だから、今さら後始末係の啓介に見られたからといって・・・
なのに、僕は急に恥ずかしくなって、股間を隠した。
「してあげようか?」
啓介が僕の前にしゃがみ込む。そして、僕の手首を握って、僕の手をそこからどける。
「な、なにを?」
わかっていた。でも、それって・・・
啓介はなにも言わずに僕のちんこを口に含んだ。暖かい感触が僕の股間を包んだ。



「その・・・時々・・・させられてるの?」
帰り道、僕は啓介に訊ねた。
「けっこうね」
啓介はあっけらかんと答える。
「その、あれじゃなくて・・・あっち・・・の方とかも?」
「入れられるの?」
「・・・うん」
啓介の口を見ながら僕はまた訊ねる。僕のちんこをくわえていた口、あの口の中で、さっき僕はいった。そして、それを啓介は飲み込んだ。そんな口を僕は見つめる。
「してるよ」
その口が動いた。今度は啓介のお尻に目が行く。さっきプールで見たお尻。丸くて、きれいなお尻。そのお尻に・・・
「それって・・・西川くんとお前って・・・」
どう聞けばいいのか分からない。今度は啓介はなにも言わない。
「その・・・つき合ってるってこと?」
結局、プールで考えてたのと同じ表現になった。
「つき合ってるってわけじゃないよ。西川さん彼女いるって言ってるし」
「じゃあ、何なの?」
なぜか、少しいらいらする。
「西川さんの言うとおりにセックスする、性処理道具」
「性処理道具って・・・」
そんな言葉を平気で口にする啓介を少しかわいそうに感じる。
「そう言われてる。性処理するから残ってろ、とかね」
「いじめられてるの?」
スイミングスクールには、僕以外、いじめられてる奴はいないと思っていた。でも、啓介も同じなのかもしれない。
「そうじゃないよ」
「でも・・・」
「じゃ、さっき山崎先輩は僕をいじめたの?」
さっき・・・口でしてもらったのは・・・
「そうじゃないけど・・・」
「じゃ、それでいいでしょ?」
「うん・・・」
良いとか悪いとかって問題じゃない。でも、それ以上なにも聞けなかった。聞きたいことはいっぱいあるのに、僕たちは無言で歩いた。
「じゃ」
「じゃ、また明日」
そして、僕等は別れた。何かが心の奥の方に引っかかったままだった。
「あ、あの・・・」
僕は啓介の背中に声をかけた。
「なに?」
啓介が立ち止まって振り返った。
「あの・・・西川くんは・・・僕が知ってるって知ってるの?」
「知るわけないじゃん」
そして、啓介はくるりと背中を向けると、小走りに走って帰って行った。僕はその背中を見送った。心の奥に小さなもやもやしたものがあった。


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