えびら


お昼休み、いつものようにエビラが僕の席にやって来た。
「ななちゃん」
そう言って、これもいつもの通り、僕の膝の上に座る。僕の席の近くにエビラの友達が集まってきた。

エビラは、まぁどっちかというと人気者だ。まだ1年だけど、テニスでは県でもトップクラスで、テニスの雑誌に写真入りで紹介されたりもしている。友達も多い、イケてる奴だ。
僕はと言うと、どっちかというと陰キャラだ。友達は少ないし、あんまり人と話すのも得意じゃない。でも、僕等はこの中学に入学して同じクラスになって、すぐに友達になった。なんというか、波長が合う、そんな感じだ。
そんなエビラが僕の膝の上に座るようになったのも、かなり前からだ。きっかけは覚えてない。エビラはいつも僕の席に来て、僕の膝の上に座る。僕の席は窓際の後ろから3番目。外を見れば校庭が見えるし、春や秋の天気がいい日はぽかぽかして気持ちがいい。まあ、「いい席」だとは思う。エビラの席は真ん中近くの僕よりは少し前。校庭も見えないし、その点だけで言えば、僕の席の方がいい。だからといって、休み時間の度に僕の席に来るってほど、エビラの席も悪くはない。だけど、なぜかいつもエビラは僕の席に来る。エビラが来ると、エビラの友達も来る。僕の席の周りが、このクラスの「イケてる奴等」で取り囲まれる。
そんな中にいるからといって、僕は自分を勘違いはしない。僕はエビラとは違って女子にもモテないし、男友達も少ない。それでもなぜか、エビラとだけはすごく気が合うし、こうして他の奴等と一緒にいても、エビラがいるから平気だ。
エビラはいつものように僕の膝の上に座った。
そして、僕はいつものように、エビラのズボンのポケットに手を入れた。



いつからエビラのズボンのポケットに手を入れるようになったんだろう。これもきっかけは覚えていない。いつからか、エビラが僕の膝の上に座るようになり、僕はエビラのズボンのポケットに手を入れるようになった。エビラの太ももを、ポケットの薄い生地越しに触れる。弾力のある、しっかりとした太もも。触り心地がいい。左手だけをもう少し奥に入れる。そこに、ふにゃっとしたアレがある。
エビラの、ちんこが。

たまたま、偶然だった。エビラのズボンのポケットに手を入れるようになって、たまたまその部分に触れてしまった。
「あ」
膝の上に座ったエビラの耳元で僕は小さく声を上げた。
「ごめん」
他の人には聞こえないような、ささやくような小さな声で謝った。
「いいよ」
エビラも僕だけに聞こえるようにささやいた。
(いいよって)
僕が謝ったのに対して、謝らなくてもいいよって言ったのか、それとも、あれに触れてもいいよってことなのか。僕はもう一度、そっと手を伸ばし、エビラのあの部分に触れた。エビラは何も言わなかった。それどころか、何となく両手を股間で組んで、僕がそこを触っているのを他の友達から隠してくれた。僕はそのふにゃっとしたあれの上に手を置いて、その手を微かに左右に動かして、エビラのあれを撫でてみた。エビラは何も言わない。嫌がる素振りもない。僕はそこを撫で続けた。

休み時間がもうすぐ終わる頃、みんな自分の席に戻り始めた。最後まで僕の膝の上に座っていたエビラが、去り際に小さく言った。
「勃ちそう」
一瞬、僕等は顔を見合わせた。エビラは笑顔を見せて、そのまま席に戻って行った。

午後の授業中はずっとそのことを思い返していた。
(いいよって、なんなんだ)
僕にあれを触られて、それでも何も言わずに、いや、いいよって言って、ずっと触らせてくれていた。そして、去り際に言ったあの言葉。
「勃ちそう・・・」
その言葉を、気付かない間に僕は口に出してつぶやいていた。あわてて周囲を見回す。隣の席の山西には聞こえたのか、僕を見ていた。慌てて顔を伏せる。
まぁ、エビラはテニス部だ。部活の仲間で触り合いとかしていて平気なんだろうか。僕は部活には入っていないから、そういうところはよく分からない。でも、こんな教室で、みんながいるところでも平気なんだろうか。エビラの友達もいる。他の奴等もいる。エビラと付き合ってるって噂の山崎さんもいる。そんなところで触られても平気なんだろうか。
(まあ、そういう奴なのかな)
エビラとは気が合うし仲がいい。だからといってあいつのことを良く知っているという訳じゃない。家に遊びに行ったこともないし、僕の家に遊びに来たこともない。それどころか、休みの日に一緒に遊んだことすらない。学校の行き帰りにたまに一緒になったり、こうして教室で話をする程度だ。
(まぁ、いっか)
良くは分からないけど、あいつはそういう奴なんだって思うことにした。
だけど、そう考えると、そんなエビラとこんなに気が合うってのは奇跡みたいなものだと改めて思った。
(あいつも変わってるってことか)
だから、僕と気が合うんだろう。妙に納得した。



「帰ろう」
放課後、エビラが僕に声を掛けてきた。
「部活は?」
「今日はなし」
そう言いながら、僕の膝の上に半ば無理矢理座ってきた。
「海老原、今日部活ないんだろ、帰ろうぜ」
エビラの友達が声を掛けた。
「ああ、ごめん、ちょい用事が」
そう言って、エビラは手を振る。
「用事?」
「うん、用事」
そして、エビラは僕の手を握った。そのままその手をズボンのポケットに入れた。
「帰るんでしょ?」
「うん、ちょっと用事」
「用事って・・・」
僕は手をポケットの奧に入れた。あのふにゃっとした感触。
「これ?」
エビラは何も言わなかった。僕はそれを撫でる。
「勃つ?」
そう言いながら撫で続ける。エビラは俯いて何も言わない。そのまましばらく撫で続けると、そこが少し硬くなってきたように感じた。
「勃ってきた?」
エビラが小さくうなずいた。それをさらに撫でる。エビラが唾を飲み込んだのが分かった。僕は周りを見る。教室には僕等以外には二人残っているだけだった。
「握って」
エビラのちんこに手を乗せて撫でているだけだった僕に、エビラが小さな声で言った。僕は黙って硬くなったエビラのちんこを握った。
「あ」
エビラが小さな声を出した。教室に残っていた二人のうちの一人が、ちらっと僕等を見た。僕は手に力を入れたり抜いたりしながらエビラのそれを揉んでみる。これってなんなんだろう。ただ、エビラは気持ちいいことをされたいだけなんだろうか。他の二人が帰っていく。残っているのは僕等だけになった。
「気持ちいい?」
それでも小さな声でエビラにささやいた。エビラはうなずく。それを合図に、僕はエビラのポケットから手を出した。
「じゃ、帰ろう」
エビラが僕を振り向いた。
「帰るんでしょ?」
エビラが何か言いたそうな顔をした。でも僕はエビラを押しのけて立ち上がった。
「帰ろ?」
エビラがようやくうなずいた。

その日、僕等は一緒に帰った。二人とも何も話さなかった。僕の家が近づき、そろそろ別れる所に来た。
「あの、さ・・・」
そこで初めてエビラが口を開いた。
「ん?」
エビラの顔を見た。
「家、行ってもいい?」
また小さな声で言った。
「別にいいけど?」
まあ、気が合う友達だし、別におかしなことじゃない。
「じゃあ」
僕は家に向かう。エビラが僕についてくる。僕は鍵を取り出し、それをドアの鍵穴に差し込んで一緒に僕の家に入った。
「ただいま」
僕は声を出す。
「お邪魔します」
エビラが大きな声で言った。
「って言っても、誰もいないんだけどね」
そのまま僕の部屋に向かう。
「適当に座って」
エビラはそう言った僕の顔を見る。
「ななちゃんはどこに座るの?」
僕に尋ねた。
「んっと」
そう言いながら、僕はベッドの端に座って、エビラに僕の机の前にある椅子を指差した。
「座って」
エビラが僕を見た。そして、僕の前に立った。
「座っていい?」
エビラはまた僕の膝の上に座りたいんだ。
「なんでだよ」
エビラは俯いた。
「まさか、揉まれたいとか?」
うなずく。
「エビラ、みんなに揉んでもらってるとか?」
すると、エビラは首を左右に振る。
「部活の誰かとそういうのしてるとか?」
また左右に振った。
「ななちゃんだけだよ」
そう言う。その意味が分からない。
「なんで?」
「え?」
「なんで、僕だけ?」
エビラは少し黙り込んだ。
「山崎さんに揉んでもらえばいいじゃん」
そう言うと、エビラはきょとんとした。
「付き合ってるんでしょ? 山崎さんと」
すると、エビラは首を左右に振った。
「付き合ってない」
「え、そうなの? 噂聞いたけど」
「付き合ってない」
改めてエビラが言った。
「好きなんじゃないの? 山崎さん」
山崎さんはきれいだし、時々可愛いし、男子に人気だ。そんな山崎さんはエビラと付き合ってるって噂があった。
「好きでもないし付き合ってもいない」
「へぇ」
少し意外だ。
「じゃ、エビラ、誰と付き合ってるの?」
この流れでエビラが誰と付き合っているのか聞き出そうとした。
「誰とも付き合ってない」
「でも、告られるんじゃないの?」
「告られるけど誰とも付き合ってない。別に好きな奴いないし」
「ふうん」
エビラがやっと僕の横に座った。
「ななちゃん以外は」
小さな小さな声だった。
「えっ」
僕は思わずエビラを見て、そして聞き直した。
「誰って?」
「だから」
立ち上がって、僕の膝の上に座った。
「ななちゃん」
(マジかぁ)
僕は心の中で唸った。



今、僕の膝の上にいるエビラはなんとなくもじもじしている。
たぶん、こんなエビラは初めて見た。いつもはもっと明るくて、どんなことにも前向きで、クラスで、たぶん部活でもみんなを引っ張っていく感じだ。だからかっこいいしモテる。そのエビラが僕の部屋でなんだかもじもじしている。
「なんだかいつものエビラっぽくない」
僕がそう言うと、エビラが下を向く。
「僕、ゲイだし」
「マジ?」
エビラがうなずいた。少し驚いた。
「僕に揉まれたいって、そういうこと?」
エビラはうなずく。
「マジかぁ」
そう言いながらも、僕はエビラのズボンのポケットに手を入れた。
「揉まれたい?」
エビラはうなずく。
「でも僕、ゲイじゃないよ?」
またうなずいた。
「揉むくらいならいつでも揉むけど・・・」
いつものようにエビラのちんこに手を乗せる。ゆっくりと手を動かす。エビラの息をする音が聞こえる。そこを軽く摘まむ。エビラが唾を飲み込んだ。
エビラのちんこが僕の手を少し押し返す。
「勃ってきた?」
「うん」
エビラはうなずいて言った。
「ごめん」
そのごめんはどういう意味なんだろう。僕は硬くなってきたエビラのちんこを握ってみた。
「はぁ」
エビラが小さく溜め息を吐く。
「握られて・・・気持ちいい?」
僕はエビラに尋ねた。
「嬉しい」
「へぇ」
なんだか分かるような、分からないような気がする。
「嬉しいって、どういうふうに?」
あんまりいろいろ尋ねるのは悪い気はする。だけど、知りたい。
「ななちゃんに握ってもらえるのが、嬉しい」
「だから、なんで?」
「だって」
エビラのちんこが完全に硬くなった。
「拒否られると思ってたから」
「いつも触ってるじゃん、エビラのちんこ」
「だけど・・・ゲイって知らなかったでしょ?」
確かにその通りだ。でも、それって関係あるんだろうか。
「別にエビラはいつも通りのエビラだし」
そう言ってから、さっき思ったことを思い出した。
「でも、今日はちょっと違うね。いつもとは」
エビラが僕の太ももに手を当てた。
「だって・・・」
俯き加減だった頭を上げて、上半身を僕にもたれ掛けさせてきた。
「告るの、怖かったし」
(僕、告られてたんだ)
好きだって言われた訳じゃないけど、あれはそういう意味だったんだ、僕以外、好きな奴いないって言ったのは。硬くなったエビラのちんこを握る。
「エビラは友達だよ」
そう言いながら、手を動かす。
「うん、分かってる」
「でも、揉むくらいなら」
「うん」
僕はエビラのズボンのポケットから手を出した。そして、そのズボンのベルトを緩めた。フックを外してチャックを下ろす。ボクブリのゴムの所に指先を入れた。
「待って」
エビラがその僕の手を握った。僕はエビラの顔を横から覗き込む。
「どうしたの?」
「その・・・直接は恥ずかしい」
僕は手をボクブリに押し込んだ。指先に少し毛の感触。でも、少しだけだ。
「生えてるんだ」
こくっとうなずいたエビラのほっぺたが赤くなってる。
「触るよ」
言い終わる前に、指先がエビラのちんこに触れていた。ますます顔が赤くなる。硬くなったちんこを直接握る。
「うっ」
エビラが小さな声を上げた。

エビラのちんこはいつも触っていた。ボクブリと、ポケットの薄い布の上からだけど。だから、直接触ってもそんなに違いはないと思った。でも違った。人のちんこに触っているという感触。それはポケットに手を突っ込んで触っていた時とは全然違った。
考えてみれば当たり前だ。僕だってオナニーするとき、初めは服の上から擦ったりするけど、最後は直接握って扱いてる。服の上から擦るのと直接扱くのとでは全然違う。あれと同じように、エビラは今、僕に直接握られて、その違いを感じてるんだ。
エビラは真っ赤な顔をしている。そして、少し息が荒い。
(興奮してるんだ)
僕に握られてあのエビラが興奮している。なんだか少しドキドキする。
「ねえ、脱いで」
耳元で小さな声で言った。
「嫌だ」
「なんで?」
「恥ずかしいし」
僕はエビラのボクブリから手を引き抜いた。エビラが僕の顔を見た。
「脱がないのなら、もうしない」
エビラは僕の顔を見続ける。
「僕のこと、好きなんでしょ?」
微かにうなずいた。
「僕に触ってほしいんでしょ?」
またうなずいた。
「僕に扱いてほしいんでしょ?」
今度は少し時間があった。でも、エビラはうなずいた。エビラが立ち上がった。ズボンがすとんと床に落ちた。あとはボクブリだけだ。
「脱いで、僕に見せて。エビラの勃起したちんこ」
エビラが僕に向き合った。上半身は学生服のまま、下半身はボクブリだけだ。そのボクブリの前の部分を手で覆っている。
「勃起してるの、恥ずかしい?」
エビラはうなずく。
「部活の奴等と見せ合ったりするんじゃないの?」
知らないけど、きっとするんじゃないだろうか。
「見たり見られたりはするけど、見せ合う訳じゃ・・・」
「じゃ、僕には見せてよ」
エビラは手を動かさない。
「分かった。僕には見せられないんだ」
「あ、待って」
エビラが慌てたように右手を僕に突き出した。
「待って・・・見せるから」
左手をゆっくりと体の横に下ろした。エビラのボクブリの前が突っ張っている。
「脱いで」
エビラがごくっと唾を飲み込んだ。そして、ボクブリに指を掛けてそれを降ろした。

二人とも何も言わなかった。僕はエビラの勃起したちんこを見つめた。エビラは僕を見ていない。きっと恥ずかしいんだろう。
「勃ってる」
そう言うと、一瞬手が動いてそこを覆い隠そうとした。でも、すぐにその手は止まり、体の横に降りていく。
「扱いて」
今までで一番小さな声だった。
(約束だもんな)
僕は手で太ももを軽く叩く。エビラがそこに座った。いつもと同じ体勢。だけど、今、エビラは下半身は裸だ。僕は少し上半身を傾けて、エビラの横から股間を覗き込んで、エビラのちんこに触れた。
「熱い」
それは熱かった。
「うん」
エビラがうなずく。それを握る。ゆっくりと手を動かす。
(エビラの、勃起したエビラのちんこ、扱いてるんだ)
自分以外の勃起したちんこを見るのは初めてだったし、それを握るのももちろん初めてだ。僕は別にゲイじゃない。でも、そういう性的なことをしているんだ。少し興奮する。
「ななちゃんの、当たってる」
僕のちんこも勃起していた。僕の上に座っているエビラのお尻にそれが当たっている。
「なんか、興奮する」
正直に言う。エビラがまた上半身を僕にもたれ掛けさせてきた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
エビラの息が荒い。
「気持ちいいの?」
「うん、気持ちいい」
僕は首を捻って机の上を見た。そこにティッシュの箱が置いてある。
「あれ、取って」
それを指差してエビラに言った。エビラは立ち上がってティッシュの箱を取り、僕に手渡す。その箱をベッドの、僕とエビラの側に置いた。
「イきそうになったら、これで」
「イくまで扱いてくれるんだ」
エビラに言われて、そういうことなんだって気が付いた。エビラが射精するまで扱く。僕がエビラを射精させる。エビラが精液を出す。エビラが気持ち良くなる。
「そういうつもりじゃないから」
でも、僕はエビラのちんこをぎゅっと握って扱き始めた。
「ああっ」
エビラが顔を上に向けて僕の肩に頭を乗せた。エビラの顔がすぐ横にある。エビラの息が聞こえる。小さく喘ぐのが聞こえる。エビラが気持ちいいのが聞こえる。
(僕、何やってんだろ)
そう思うけど、手は止めない。そのまま扱く。すぐにエビラが喘いだ。
「ああ、ヤバい、イくっ」
エビラの手がティッシュを握り、それをちんこに押し付けた。エビラのちんこが脈打った。それが僕の手に伝わる。あのにおいがする。ティッシュからあれが溢れ出て、床に少し滴った。

その後、エビラは床の精液を別のティッシュで拭き取って、床に膝立ちになって僕の顔を見た。
「ななちゃんの、扱かせて」
「やだよ」
僕は断る。
「僕はゲイじゃないし」
エビラが少し悲しそうな顔をし、そして俯いた。
「僕のこと、嫌いになった?」
エビラが小さな声で言った。僕は何も答えない。床に脱ぎ捨てられていたエビラのボクブリと学生ズボンを拾い上げて、エビラに押し付けた。
エビラは顔を伏せたまま、何も言わずにそれらを身に着けた。
「明日、また学校で触ってやるから」
そう言うと、エビラが顔を上げ、僕を見た。
「いつもみたいに友達として、ね」
「うん」
そのエビラの表情からは、エビラの気持ちは読み取れなかった。



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