えびら


翌日、学校に行くと、エビラはもう自分の席に座っていた。
「おはよう」
僕はいつものようにエビラを見て言った。
「お、おはよ」
エビラは僕とは目を合わさなかった。
(昨日のこと、気にしてるのかな)
僕は自分の席に座る。もう一度エビラの方を見る。エビラは誰と話すでもなく、自分の席に一人で座っている。
(やっぱり気にしてるんだろうな)
その背中は、昨日のエビラだ。あのなんとなくもじもじした感じ。背中が小さく見える。でも、たぶんそう思うのは僕だけだろう。だって、他の友達が挨拶すると、エビラもいつものように明るい声で挨拶しているから。

授業の最中、ずっとエビラの背中を見つめていた。
(ゲイなんだよな)
LGBTとか、マイノリティだとかって授業で聞いた。だから知ってる。でも、こんなに身近にそういう奴がいるとは思っていなかったし、こんなに普通にいるとも思ってなかった。そして、エビラがそれだったというのは、ちょっとびっくりした。でも・・・
(やっぱ、エビラはエビラだよな)
背中を見ながら思う。
(他の奴等は知ってるんだろうか。部活の奴等とか)
そんな話は聞いたことはない。でも、そういうことを知って人に言えるかというと、言えない。少なくとも僕はそれを人に言うつもりはない。
(エビラの秘密だもんな)
逆に言えば、僕はエビラの秘密を知った。エビラの弱みを握ったってことになるんだろうか。僕は小さく頭を左右に振った。
(友達だろ、エビラは)
その友達が、大切な僕の数少ない友達が、僕に秘密を打ち明けてくれた。僕以外に好きな奴はいないって言ってくれた。
(きっと、勇気がいったんだろうな)
僕にだって好きな子はいる。このクラスの岡本さんだ。でも、告ったことはないし、告ろうと思ったこともない。だって、エビラみたいなイケてる奴ならともかく、僕みたいな陰キャラなんか相手にしてくれる筈がない。
それに・・・
そもそも僕にはそんな勇気はない。告っても無駄だろうとは思っているけど、心のどこかでひょっとしたらって気持ちもほんの少しある。だって、岡本さんは時々僕に話し掛けてくれる。挨拶もしてくれるし、僕を見てニコって笑ってくれる時もあるんだ。他の女子とは違う気がする。ひょっとしたら、岡本さんも・・・って思える時もあるんだ。
でも、告らない。
いや、告れない。僕にはそんな勇気はない。本当は僕なんか目に入ってないんじゃないだろうかとか、ただ、同じクラスにいるからなんじゃないかとか、ひょっとしたら、本当は僕のことなんてなんとも思ってなくて、告ったらキモい奴認定されるんじゃないだろうかとか・・・なんて思うと、とてもそんな勇気は出ない。
(そうだ。告るのって、勇気がいるんだ)
ましてや、エビラはゲイだ。もし僕だったら、僕がゲイだったら・・・
(絶対言えないよな)
それを言うだけで、みんな口を利いてくれなくなるかもしれない。無視されるかも知れない。いじめられるようになるかもしれない。
(やっぱ、エビラって、すごいんだな)
あの告白。もじもじした感じ。あれはもじもじしてるんじゃなくて、きっと怖かったんだろう。怖かったけど、勇気を出して僕に言ってくれたんだ。
(僕になら言っても大丈夫って思ったのかな)
数少ない友達の一人からそういうことを言われて、もし嫌いになったりしたら、僕にはもう友達がいなくなる。だから、きっとこいつは嫌いだとか言ったりしないって思ったんだろうか。
(そんなことある訳ないだろ)
あんなに怖そうにしながらゲイだって告って、僕以外好きな奴はいないって告って。
僕は、自分の中にそんなエビラの気持ちを否定したい部分があるのに気が付いた。

1時間目の授業が終わっても、エビラは僕の席には来なかった。僕もエビラの所には行かない。なんとなく頬杖をついて、窓から校庭を眺めていた。そして、2時間目が始まる。またエビラの背中を見つめる。
(あのエビラが、あんなこと)
ゲイだなんて。僕が好きだなんて。
(そんなこと、言わないで欲しかった・・・のかな)
いつものエビラ。いつもの僕とエビラの関係。それが少し壊れてしまった。
(あいつがあんなこと言うからだ)
そう思いながらも、一方ではそれは違うということも分かっていた。
(エビラは本気だし、ホントに僕のことが)
でも、そこが引っかかる。
(こんな僕のどこがいいんだ?)
自分でも、自分のいいところなんて一つも思い当たらない。
(はぁ)
時間が戻せたら、昨日の放課後まで戻りたかった。戻って、授業が終わったらさっさと一人で帰れば良かった。
でも、僕はもう知ってしまった。
(やっぱり、このままじゃだめだろうな)
僕は色々考えた。何も答えが出ないまま、授業が終わった。

「ね、エビラ」
授業が終わるとすぐ、僕はエビラの席に行って声を掛けた。
「なに」
いつものエビラの表情から、少し不安げな顔に変わった。
「ちょっと」
僕はエビラの腕を掴んで引っ張っていく。校舎の隅に行って、階段の踊り場で腕を離して顔を見た。
「昨日のことなんだけど」
そう言うと、すぐにエビラはうつむいた。僕は左右を見て、誰もいないことを確認した。
「一応確認だけど、エビラは、その」
分かっていたけど、それでももう一度周りを確認する。
「ゲイで、そういう意味で僕のこと、好きなの?」
エビラは顔は上げなかったけど、はっきりとうなずいた。
「そっか」
僕も少し顔を伏せる。
「怖かった?」
そのまま、小さな声で聞いた。
「なにが?」
「エビラでも、告るの怖かったのかなって」
「当たり前だろ」
(やっぱりそうなんだ)
僕は顔を上げる。エビラはうつむいたままだ。
「あのさ」
少しだけエビラに近づいた。
「僕はゲイじゃないから好きにはなれないけど、でも、エビラは友達として大好きだよ、特別な友達。だからさ」
そして、ズボンの上からエビラのちんこのあたりに手を当てた。
「また、揉ませてよ」
そこを少し揉む。エビラはうつむいたままだ。少し不安になる。
「ダメ?」
屈んでエビラの顔を覗き込む。
「ダメじゃない」
そう言って、顔をあげた。
「そもそもななちゃんとどうにかなるなんて思ってなかったし」
(どうにかってどういう意味だ?)
そう思ったけど口には出さない。
「でも、してもらえたし、嬉しかった」
うっすらと、でも間違いなくエビラが微笑んだ。
「エビラだけだからね」
「うん」
今度は笑う。
「次、部活ない日っていつ?」
すると、エビラが即答した。
「今日」
「そんな訳ないだろ」
昨日の今日だ。それはない。
「いいよ、サボる」
「いいのかよ」
「だって」
またうつむく。
「そんなに僕にされたいんだ」
「当たり前だろ」
急にエビラが、エビラのちんこに当てていた僕の手を握った。そしてすぐに離す。
「ごめん」
顔を見る。赤くなっている。
「しょうがないな」
僕はエビラの手を握る。エビラが僕の顔を見る。
「まぁ、エビラは特別な友達だからね」
エビラが手を自分の股間に押し当てた。もちろん、エビラの手を握っていた僕の手も一緒にだ。
「勃ってる」
そこは硬くなっていた。
「うん」
僕を見たままうなずいた。
「ほんとに、エビラだなぁ」
そう言って、僕等は二人とも照れたように笑った。
「お昼休み、いつもみたいに僕の席においでよね」
エビラがうなずく。その顔を見て少しほっとした。
「話して良かった」
僕は教室に戻る。少し遅れてエビラも戻った。僕等はお互いの席で、お互いの方を見て笑った。

お昼休み、エビラが僕の席に来た。何も言わずに僕の膝の上に座る。僕も何も言わずにエビラのズボンのポケットに手を入れる。エビラの友達も僕の席に集まってくる。みんなと話をしている。それを聞きながら、僕はエビラのちんこを撫でる。すぐに少し硬くなる。それに手を乗せて、軽く力を入れる。エビラのちんこがぴくっと動くのを感じた。



放課後、僕が帰り支度をしていると、エビラが僕をチラチラと見てきた。
(まさか、本気で部活サボるんじゃないだろうな)
僕はカバンを持って、エビラの席に行く。
「あ、帰ろ」
エビラが立ち上がった。
「部活は」
「だから」
エビラが言い掛けたので、僕はそれを遮って言った。
「今日は親いるから」
昨日はお母さんはパートの日じゃない。すると、エビラが「えっ」という顔をする。
「なんだよその顔は」
僕は噴き出してしまった。
「だって」
チラリと周りを見る。まだ多くの生徒が教室に残っている。
「だから、部活行きなよ」
「じゃ、一緒に部室行こうよ」
エビラが僕の手を引く。そのまま、僕はテニス部の部室に連れて行かれた。

テニス部の部室は、校庭の隅にある細長い建物の中にあった。その建物はいくつかに区切られていて運動部の部室が並んでいる。テニス部は端に近い場所だった。
「お疲れ様です」
エビラがドアを開く。中に二人いる。
「お、お疲れ」
その感じは上級生だ。学生服を脱いで着替えている。
「あの、友達入れてもいいですか」
エビラが声を掛ける。僕は中に引き入れられる。
「どっか座って」
適当に、部屋の隅の方の、なんだかよく分からないプラスチックの箱の上に座った。そうこうしている間に、上級生二人が着替え終わって部室から出て行った。エビラが僕の前に立った。
「ね、触って」
まだ学生服のままのエビラの股間が盛り上がっている。
「ここで? 誰か来たらどうすんだよ」
「いいから」
エビラの顔を見た。なんだか僕に目で訴え掛けてくる。
「そんなにされたいの?」
エビラはうなずく。
「誰かに見られてもいいの?」
またうなずいた。
「どうすんだよ、見られたら」
「部室だし、ノリでそんなことする奴もいるから」
僕は溜め息を吐いた。
「分かったよ。どっか、出来るとこ探そ」
エビラが笑顔になって、僕の手を引いて部室を出た。
「なんにも言わなくてもいいの?」
「大丈夫大丈夫」
(ホントに大丈夫かよ)
そうは思ったけど、まぁ、そもそも僕のせいかもしれないし、そのまま黙ってエビラに手を引かれていった。

僕はとあるスポーツ施設に連れて行かれた。
「ここ、たまに使ったりするんだよね」
もちろん、テニスコートもある施設だ。
「テニス?」
「ななちゃんはしないの?」
正直、僕はテニスは人生で2回くらいしかしたことがない。しかも、小学生の頃にただラケットを持って遊んだ程度だ。
「しない。出来たとしても、エビラとはなぁ」
エビラのテニスの腕前は有名だ。そんな奴と僕が試合をしても勝てる訳がないし、そもそも試合にもならない。
「いっしょにやろうよ。教えるからさぁ」
僕の手を引く。入り口を入って受付の前に引っ張られる。でも、入り口に利用状況が掲示されていて、2面あるコートは両方とも利用中になっていた。
「ふさがってるね、残念」
僕は言った。ちっとも残念そうには聞こえなかった筈だ。それでもエビラは残念そうに、僕の手を引いて、金網越しにテニスコートが見える場所に連れて行った。そこでは、たぶん小学生くらいの子達がテニスクラブか何かの練習のようなことをしていた。
「あ、エビラ先輩」
その中の一人がエビラに声を掛けた。エビラは軽く右手を上げた。
「知り合い?」
「小学校の時のテニスクラブの奴等」
(やっぱりそうか)
そして、その声を掛けてきた奴が僕等に近づいて来た。
「お久しぶりです、エビラ先輩」
なんだか凄い笑顔だ。
「ちゃんと練習してる?」
「もちろんすよ」
エビラとそいつが話をしている。僕は横に立っているだけだ。もう二言、三言話をして、その子がコートの方に戻って行く。その背中を見ながら僕はエビラに言った。
「仲いいんだね」
「まぁね」
エビラもその子の背中を見ている。
「かわいい後輩じゃん」
「まぁね」
少し、エビラがその子に気を取られているように感じた。
「あの子に揉んでもらえばいいのに」
すると、エビラが僕の顔を見た。
「なに言ってんだよ」
ほんの少し、怒りが含まれている気がする。
「あ、ごめん、そんなつもりは」
「ただの後輩だよ。僕は、ななちゃん以外は」
それだけ言って、エビラは口を閉じた。
「ごめん」
何気なく言ってしまったのを少し後悔する。
「行こ」
エビラが手を引き、そして僕はトイレに連れ込まれた。

トイレの個室で、僕は便器に座らされた。その僕の目の前で、エビラが学生服のズボンとパンツを下ろす。僕の膝の上に座る。
「ここで?」
エビラがうなずく。
「さっきの子とか、来るかもしれないよ?」
エビラは僕の手を掴んで、自分のちんこに押し当てる。
「いいの?」
またうなずいた。僕はそれ以上何も言わずにエビラの硬くなっているちんこを握る。ゆっくりと扱き始める。
「ん・・・」
エビラが息を漏らす。僕のちんこも硬くなる。
「待って」
エビラが僕の手を掴んで扱くのを止めさせる。立ち上がって、下ろしたままのズボンとパンツを脱いだ。また僕の膝の上に座る。僕はエビラを握り、また扱き始める。
「んっ」
エビラが小さな声を出す。エビラのちんこから先走りが出て、くちゅくちゅと音がし始める。上半身を僕にもたれ掛けてくる。僕は左手をエビラの胸に回して、抱き締めるように力を入れる。ちんこを扱く手にも力を入れる。
「ああ」
エビラがまた声を出す。
「声出したら聞こえちゃうよ」
誰もいないとは思うけど、耳元でささやいた。でも、エビラは声を上げ続ける。
「気持ちいいんだ」
うなずく。クチュクチュという音。僕の指にもエビラの先走りがまとわりつく。皮を根元の方に引っ張って、少し出てきたエビラのちんこの先を指で撫でる。
「ああっ」
エビラが体を震わせた。と同時に、トイレのドアが開く音がした。僕は手を止めた。
人の気配。音。そして、水が流れる音。その間、僕は指でエビラのちんこの先を撫で続ける。
「んっ」
エビラの体が震える。個室の扉のすぐ外に人がいる。そこでエビラは扱かれている。やがて、トイレのドアが開き、閉まる音がした。
「聞こえたかもね、エビラの声」
エビラは何も言わない。僕に扱かれているちんこをずっと見つめている。
「気持ちいい?」
こくっとうなずき、つぶやいた。
「イきそう」
僕は扱き続ける。やがて、エビラのちんこから精液が虹を描くように飛び出した。

「ああっ」
その瞬間、エビラは普通に声を出した。僕の手に、エビラのちんこが脈打つのが伝わってくる。そして、エビラの精液が指に掛かる。
「うわっ」
小さく声を上げた。でも、不思議とそんなに嫌じゃない。僕は自分の手を顔の前にかざして、指にまとわりついたエビラの精液を見た。
「人の・・・初めて見た」
いや、初めてじゃない。昨日、エビラの精液が床に滴ったのを見た。でも、今は僕の手に付いている。暖かくて、白くて、どろっとしたエビラの精液。手のひらを顔の前に掲げて、滴りそうになっているそれを見つめた。
「ごめん」
エビラが謝った。僕はその手を鼻のところに近づけて匂いを嗅いだ。
「おんなじ匂いだ」
僕のと同じ匂いなのが、少し意外な気がした。その手をエビラの顔の前に持って行き、口に近づけた。
「ほら」
僕はそれだけ言った。エビラはチラリと僕を見た。そして、何も言わずにその手に口を近づけた。少しだけ躊躇して、舌を出した。その舌に手を押し付ける。エビラが僕の手に付いた精液を舌で舐める。
「全部舐めて」
エビラを膝の上に乗せたまま、僕は言った。エビラは僕の手に付いた精液を舐めて、それをすすり上げた。



トイレでのあの行為を済ませた後、僕等はもう一度テニスコートを見に行った。まだあのテニスクラブの子達がいる。目であの子を探す。その子は誰かと打ち合いをしている最中だった。
「へぇ、あの子、上手いんだ」
正直、僕には上手い下手はあんまり分からない。でも何なんとなく上手いように見える。
「けっこう上手いよ」
「エビラとどっちが上手い?」
「そりゃあ」
その先は言わなかった。まぁ、もちろんエビラの方が上手いんだろう。
「先輩は、ここのトイレであんなことしてたのにね」
「うん」
もっと何か言うかと思ったけど、エビラはそれ以上言わなかった。
「気持ち良かった?」
「うん」
テニスコートを見ていたエビラが振り向いた。
「帰ろ」
なんだかすっきりした顔をしていた。


      


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