えびら

10

エビラが手を上げ、指差した。
その指は、僕をまっすぐ指していた。

「な、なんで」
エビラを見る。喉の奥から呻き声のような音が漏れ出てくる。後輩君も驚いた顔で僕とエビラを見ていた。
「だって・・・」
男は黙って僕等を見ている。
「だって、なに?」
僕の声が震えている。
「ずっと不安だった」
「なに・・・言ってるの?」
エビラが何かを言い掛けたけど、何のことか分からなかった。
「怖かった。ななちゃんに嫌われるんじゃないかって」
「だから、なんのことだよ」
「お前は少し黙れ」
男が僕を睨んだ。
「最初、ななちゃんはゲイじゃないって言って、僕を好きになってくれなかった」
僕は口を開きそうになった。また男に睨まれて、口を噤む。
「ずっと不安だった。触ってくれるけど、ななちゃんにとってはただの遊びのようなもんじゃないのかって」
「エビラ先輩、辛かったってこと?」
エビラがちらりと後輩君を見た。
「でも」
僕が言い掛けると男が睨む。口を閉じる。
「今はななちゃんも僕を好きって言ってくれるけど、あの時は、触ってもらえて嬉しくて、でも、ゲイじゃないからって言われて、帰ってから不安になって落ち込んで」
僕を見た。
「だから、もっと早く言って欲しかった。最初からちゃんと僕を好きだって。だから」
「だから、僕が悪いの?」
思わず言ってしまった。でも、男は睨まなかった。
「そうじゃない。別に悪くないって分かってるけど、でも・・・」
エビラが顔を伏せた。
「でも、どうなんだ?」
男が言った。
「でも、僕はホントに辛かったから・・・」
「そんなの、エビラの問題じゃん」
少し大きな声で言った。
「僕に扱いて欲しいって言ったのはエビラじゃん。それで僕がすぐにエビラを好きにならなかったからって、それで死ねって」
声が震える。
「そんな・・・勝手なこと・・・」
少し息を吸い込む。
「勝手なこと言うなよ、僕を巻き込んだのはエビラじゃないか」
自分でも驚く程の大きな声で僕は怒鳴った。
「エビラが僕に扱いてほしいって言ったんだろ、エビラが僕を好きだって言ったんだろ」
男が僕等を見ている。
「それで僕がエビラを好きって言わなかったからって、僕に死ねっておかしいだろ」
男はニヤニヤ笑っている。
「お前等、本当に面白いな」
男が何か合図した。別の男達が僕等の後ろに立った。また背中で手錠を掛けられる。
「まあ、これで一番悪い奴は決まった。処刑は明日だ。今日は最後の別れを惜しむんだな」
右手と左手の間は1mくらいの鎖で繋がっている。そして、その鎖はエビラや後輩君の手錠の間の鎖と交差している。つまり、僕等3人はせいぜい1mくらいしか離れられない訳だ。そんな状態で、明日の処刑の前の夜を過ごすんだ。僕を指差した後輩君と、エビラと一緒に。
「いやだ。こいつらと一緒にいたくない」
つぶやいた。
「だからこそだ。最後の夜、本音をぶつけ合えばいいだろ」
男が言う。僕はチラリとエビラと後輩君を見た。なんとなく笑っている気がする。もちろん表情は笑っていない。でも、僕を見て、その目の奥で僕を嘲笑って、自分が選ばれなかったことを喜んでるんだ。
「いいよ、もう、今殺してよ」
もちろん、楽にはしてくれなかった。

男達が建物から出て行く。灯りが消されて真っ暗になる。すぐ近くにいる筈のエビラや後輩君すら見えない。ただ、気配はする。きっと後輩君は僕を見つめているんだろう。ざまあみろとか思ってるんだろうか。エビラだってそうだろう。自分は死ななくて済むんだから。
「売られたらどうなるか分からないし、最後は僕等もきっと死ぬ」
エビラの声がした。
「解放されるくせに」
僕は言う。
「本当に解放されると思う?」
僕は何も答えなかった。後輩君も無言のままだ。
「解放されたとしても、何もされないとは限らない」
こんな目に遭わされて、普通に解放されるって考える方がおかしいようには思う。
「でも、僕は明日殺される。エビラ達は殺されないでしょ、僕と違って」
「僕は・・・殺されなかったとしても、死ぬよ。自殺する」
動く気配。
「死んだら、ななちゃんいるって分かってるから」
チャリ、と鎖の音がした。手が僕の腕に触れた。
「酷い殺され方する前に、僕がななちゃんを殺す」
その手が肩に上がり、首に触れる。
「やめなよ」
後輩君の声だ。
「こいつ殺したら、あいつらになにされるか分からないよ」
「いいよ、別に。殺されてもいい。むしろその方がいい」
手が首に掛かる。
「やめろ」
僕は言った。
「そんなの、エビラの自分勝手だろ」
納得がいかない。でも、エビラが僕を好きでいる気持ちも分かっている。
「さっき、僕はエビラに裏切られた」
またチャリ、という鎖の音。
「だからもう、信じない」
自分で言っていて違和感を感じる。僕は本気でそう思ってるんだろうか。
「いいじゃん、どうせ明日には殺されるんだから」
少し鎖が引っ張られた。
「僕は寝る」
どうやら後輩君が床に横になったようだ。
「ななちゃん」
気が付くと、目の前、ほんの数センチのところにエビラの顔があった。少し目が慣れてきていた。
「信じられないかもだけど、愛してる。本気で」
それは分かっているつもりだ。でも、心がモヤモヤする。
「分かってる。でも、信じない」
自分の心との矛盾。いや、心の中に二人の僕がいる。僕を指差したエビラを憎む僕と、エビラを好きで、本当の事を言っているということを知っている僕。
僕のちんこが何かに包まれた。チャリチャリと音がする。ちんこが勃起する。
「エビラ」
エビラの手が僕の腰を抱き締めようとする。
「引っ張るなよ」
後輩君の声がした。
「お前は黙ってろ」
エビラが僕の腰の辺りで言った。
「もう、分かったよ」
そのエビラの頭を撫でた。
(いつだったっけ、こんな風に撫でたのって)
もう思い出せない。ずっとずっと前のような気がする。エビラの顔に手を添えて僕もしゃがんだ。その口に口を押し付ける。少しの間キスをして、そして言った。
「エビラ、僕を殺して」
エビラは何も言わなかった。ただ、頭が微かに上下に動いた。僕等はお互いの体を抱きしめ合った。その手が少しずつ上がってくる。やがて、その手が僕の首に掛かった。
「後で行くから。待ってて」
その手に力が込められた。
「エビ・・・ラ」
エビラの手が僕の首を絞めた。

その時だった。急に周囲が明るくなった。また手を叩く音がした。今度は何度も繰り返し聞こえる。男が拍手をしながら僕等に近づいて来た。
「本当に、本当にお前等は面白いな」
男が僕等の前に椅子を置いてそこに座った。
「ほら、早く続けろよ」
エビラに向かって言った。
「殺すんだろ?」
男は笑っている。
「見ててやるから、ほら、友達を殺せよ」
首に当てられていたエビラの手から力が抜けた。
「どうした、殺すんだろ?」
男が身を乗り出した。
「出来ない」
小さな声だった。
「え、なんだって?」
「出来る訳ないだろ」
エビラが言った。
「さっきは殺そうとしたじゃないか。そのまま続けるだけだ、簡単だろ」
「こんな・・・見られながら、出来る訳ない」
男が笑い声を上げる。
「お前は人に見られていなければ殺せるって訳か」
「ぼ、僕は・・・」
エビラがすすり泣き始めた。
「本当に、お前等、面白いな」
男が一言ずつ区切って言った。
「お前、死にたいか?」
僕に聞いた。僕は黙ったまま、首を左右に振った。
「こいつになら殺されたいか?」
また左右に振る。
「そうだろうな」
男が僕に近寄った。それを見たエビラが動こうとした。でも動けずにそのまま固まった。
「お前等、俺が言ったこと、覚えてないのか?」
男の顔を見た。
「お前等は売り物だ。そう言ったよな?」
確かに、僕等は人身売買されるって言われたことを思い出した。
「誰が死ぬかで盛り上がって、そんなこと忘れてたか?」
僕の首を掴む。
「つまり、誰かを惨殺する、それはそれで面白いが、そしたら俺達の儲けが減るんだよ」
その手を喉に押し付ける。息が出来なくなる。
「ぐっ」
僕が呻くと、男は僕の体を床に投げ捨てた。
「言ったろ、お前みたいな奴でも客はいるってな」
そして、エビラを見た。エビラの周りに他の男達が集まった。僕等の鎖が外される。
「なかなか楽しい余興だったろ?」
「余興って・・・」
エビラがつぶやいた。
「ああ、余興だ。お前等の出荷準備が調うまでの間のな」
床に座り込んでいた僕に手を差し出した。
「お前等の本性も見えたしな」
僕は男の手に捕まって立ち上がった。そして、握った拳を男の顔に向かって突き出した。
「これも余興か」
男は簡単に僕の拳を手のひらで受け止めた。

作業台のような物が運ばれてきた。
「さて、最後の準備をしようか」
エビラの周りにいた男達が、作業台にエビラの上半身を押さえ付けた。僕と後輩君も作業台の横にひざまずかされる。
「将来有望なテニスプレーヤーだったな」
エビラの右の手のひらを二人で押さえる。一人は薬指と小指を握り、もう一人は中指の先を握る。
「さて」
男が何か折りたたまれている物をポケットから取り出す。それを開く。小さなのこぎりだ。
「な、なにするの」
エビラが震える声で尋ねた。
「なに、人殺しよりはマシなことさ」
そして、男はその刃をエビラの右手の親指の根元に当てた。エビラの悲鳴。後輩君の叫び声。僕はぼんやりとそれを聞いていた。実際に起きている事だとは思えなかった。
「ほら」
僕の目の前に何かが差し出された。血塗れの親指だ。
「次」
また悲鳴。次はエビラの右手の人差し指と中指だ。目の前にそれらが3つ、揃えて置かれている。エビラは左手で右手を覆って床で震えている。後輩君は引きつった顔をしている。僕はぼんやりしている。
「ラケットは持てるが、もうプレイは難しいな」
男が笑う。そして、小型のトーチで切り離された指を炙る。
「ひ・・・」
エビラの喉の奥から音がした。僕の膝の所に暖かい何かが流れてきた。
(漏らしたんだ)
仕方がない。指を切られてその指を燃やされたんだから。もう指が繋がる事はない。まともにラケットを握れない。もう、テニスでトップを目指すこともできない。なぜか僕は冷静にそう思う。
「次はお前か」
男が後輩君に向き直る。
「嫌だっ」
後輩君はそう叫んで、男から逃げようとした。でも逃げられはしなかった。男3人が後輩君の体と右腕を押さえる。左腕側にもう一人。
「お前が大切にしていたのは、大滝組長との繋がりか」
男が後輩君に尋ねた。後輩君は首を左右に振る。
「でも、お前はあの人を愛して、愛されてたんだろ? 愛人だったんだから」
「嫌」
後輩君が小さな声でつぶやいた。男はトーチに火を点ける。
「嫌だ」
後輩君が言った。刺青が入った左の肩に、トーチが近づけられた。
「ぎゃあぁぁ」
変な音がした。何かが沸き立つような、引きつるような音。そして臭い。後輩君は激しく体を捩り、男達から逃げようとする。でも、逃げられない。左の肩から腕に掛けて、焼けただれ、そして黒くなっていく。刺青が入っていたことなど、もう全く分からない。それでも男はそこを炙り続ける。後輩君はすでに気を失っていた。
やがて、男は後輩君の左手を引っ張った。その腕は簡単に体から離れる。それを床に投げ捨て、後輩君の体をあの作業台の上に横たえた。
建物の奥の方から大きな音がした。誰かがチェンソーを持ってくる。それで、後輩君の黒焦げになった肩の辺りを斜めに切り落とした。
「最後はお前だな」
男が僕を見た。

エビラは床にうずくまって動かない。後輩君は作業台の上で気を失っている。そんな後輩君の体を、男は無造作に押しやって作業台から床に落とす。
「乗れ」
僕に命じる。僕は首を左右に振る。
「乗れ」
もう一度言われた。僕は動かない。動けない。
「乗せろ」
他の男が僕を抱え上げ、作業台の上に仰向けにされた。
「こいつはテニスを失った」
作業台の下でうずくまったまま動かないエビラを足で蹴った。
「そいつは好きだった人とのつながりを失った」
作業台の向こうの床で気を失っている後輩君を指差す。
「お前はなにを失う?」
僕に言った。
「お前はこいつを扱くしか能がなかったな」
仰向けにされている僕の腕を触りながら言った。他の男が僕の腕を掴んだ。手が左右に引っ張られる。
「じゃあ、扱けなくしてやる」
チェンソーの音がした。

腕にチェンソーの刃が食い込んだとき、なぜかあまり痛みを感じなかった。体がなんだか無理矢理引っ張られ、そこに何かが食い込んでくる感じ。痛みはその後に来た。
激しい痛み。口を大きく開いて叫ぶ。いや、声が出ない。声も出ないくらいの痛み。僕の右手が肘の少し上くらいで体から離れた。
「扱くくらい、左手でも出来るよな」
次は左手だった。左手にもチェンソーが食い込む。
「はっ・・・はっ・・・」
荒い息をしている。
「まだ気を失うなよ」
男が僕の体の横に立った。
「お前、足でも扱いてたな」
当然のように、僕の足にチェンソーが当てられる。膝の少し上辺り。そして、もう一方の足も同じように。
「これでこいつを扱いてやることは出来なくなったな。もちろんオナニーも出来ないって訳だ」
薄れていく意識の中で、男の声がする。
「まだ口が残ってるが、それくらいは残しておかないと、性奴隷としての価値が下がるからな」
男が笑った気がした。



体が揺れている気がする。いや、僕がいるところが揺れている。なんだか気持ちが悪い。うっすら目を開く。目の前に何人か人がいる。いろんな音が聞こえてきた。誰かがわめく声。笑い声。怒鳴り声。呻き声。そして、ぐちゅぐちゅという音。なんとなく聞き覚えがある音。
「目が覚めたぞ」
誰かが僕の顔を覗き込んだ。知らない顔だった。
「じゃあ、犯ってもいいんだな」
誰かの手が僕の体に触る。僕はその手を払いのけようとした。
「なんだかもぞもぞ動いてるぞ」
「そりゃあ、生きてるんだからな、こんなんでも」
その手を払いのけることは出来なかった。
「やめ・・・ろ」
声が出なかった。それでも絞り出す。
「なにか言ってるぞ」
僕の体が持ち上げられる。
「構わず入れればいいんだよ」
お尻の穴に何かが塗り付けられる。そして、入ってきた。
「うぐっ」
記憶が蘇る。痛み。そして、あの時されたこと。僕は周りを見た。ようやく頭がはっきりしてくる。そうだ、僕は手足を・・・
「やめろぉ」
叫んだ。そして、頭を動かして体を見た。僕の手。肩から10センチくらいのところで包帯が巻かれている。その先は、ない。足は見えなかった。膝を曲げてみる。太ももが見えた。同じように包帯が巻かれていた。そして、膝はなかった。膝の上、こっちも10センチくらいのところから先がない。
「うわあぁぁぁ」
僕はいつのまにか叫んでいた。その僕の口を誰かが塞ぐ。僕の絶望などお構いなしにお尻に入ってくる。短い手足を掴まれ、腰を掴まれ乱暴に扱われる。口にも入ってくる。
「ダルマなんて初めて使う」
「見るのも初めてだ」
口々に言いながら僕を使う。
「ペニスは付いてるんだな」
誰かがそれを握る。
「射精はするのか?」
「するだろ、男の子だし」
扱かれる。扱かれ、突き入れられ、しゃぶらされる。
「おお、なかなか気持ちいいもんだな」
やがて僕の中に射精される。僕も射精させられる。そして、別の男が入ってくる。またイチから繰り返される。

何度かそうやって使われて、ようやく少し状況が理解できてきた。
ここはたぶん船の中の広い部屋。ひょっとしたら荷物とか置かれるような場所かも知れない。揺れているのは船がどこかに向かっているということだろう。
そして、僕の周りの男達以外に、その部屋にはあと2つ人だかりがある。よくは見えない。男が何人か、誰かに群がっている。見えないけど誰に群がっているのかは分かる。一方はエビラ、もう一方は後輩君だ。時々呻き声やわめき声が聞こえる。僕と同じようなことをされているんだろう。
(結局、誰も死ななかったんだ)
犯されながらほっとした。
(結局、僕等、一緒にいられるんだな)
いつまでかは分からない。でも、少なくとも今は僕等三人は一緒にいる。一緒にいて、同じように犯されている。それが分かって安心した。安心しながら、男に犯され続けた。
そして、僕は悟った。エビラのちんこを扱くくらいしか能がなかった僕。その僕に今、男達が群がっている。男達が僕を犯している。手も足もなくなった僕を。
(僕にもやっと、取り柄が出来たんだ)
それに気付いた時、僕の視界がすっと暗くなった。僕は頭を振る。
「何だこいつ、嫌がってるのか?」
「その割には勃起してるけどな」
男の声がする。そして、その声が小さくなっていく。僕の視界が暗くなる。
やがて、僕は闇に飲み込まれた。





とあるアジアの国。
人通りの多い商店街を抜けた先に、小さな裏路地があった。あまり身なりの良くない男が数人、その裏路地の入り口辺りに突っ立っている。
その裏路地の奥を覗くと、何人かが固まって立っていた。彼等は皆、ほとんど全裸で、お互いの体が鎖で繋がっている。皆、少年だ。身体付きを見るに、恐らく10歳から15歳くらいだろう。
そんな裏路地に一人の男が入ってきた。入り口に立っている男の一人と何やら話をし、二人で奥にやってくる。男は品定めするかのように少年を順番に見ていく。すぐに次の少年に目をやる事もあれば、少し時間を掛ける場合もある。その間、少年達の多くはまるで媚びを売るかのように男に愛想笑いを見せる。中には足を上げて見せたり、股間を覆っていた小さな布を少し捲って見せたりする者もいた。一人の少年が男の目に留まった。他の少年達と同じように、薄汚れ、ボサボサの髪の毛ではあったが、それでも彼の顔立ちは男の目を引いた。整ったきれいな顔。時間を掛けてその少年を見る。が、その少年は他の少年達のように男に媚びを売ることはなかった。それどころか笑顔も見せず、視線も合わせようとしなかった。
そんな少年の足下に別の少年がうずくまっている。いや、違う。うずくまっているのではない。そう見えたのは、その少年に手足がないからだ。手足のない少年は、虚ろな目をしていた。男が顔を近づけても、男の顔を見ようともしない。どこも見ていない目だった。その目が、体が男の興味を引いたのか、男は手を伸ばした。が、顔立ちの整った少年が、まるで庇うかのように体を前に出し、男を遮った。
男は彼の顔を見る。もう一度体を見る。少し筋肉が付いた体。その体に男が手を這わせる。少年は逃げなかった。下から手足のない少年が虚ろな目で見上げている。股間の小さな布の奧に手を伸ばす。そこにはそれくらいの年齢のそれくらいの身長の少年なら、きっとこのくらいの大きさだろう、と思える様な大きさのペニスがぶら下がっていた。それを握ると少年は小さな、まるで溜め息のような声を漏らす。男の手の中でそれは硬さを増す。男が少年の顔を見る。少年は微かに赤面し、目を逸らした。
隣にいる少年は、左肩が欠損していた。彼も目を合わそうとしない。いや、彼は強い意志を持って目を合わせないようにしているのが感じ取れる。男が急にその少年の首の後ろに手を回して無理矢理キスをした。
少年は抗い、男の唇から逃れる。すぐに男は隣の整った顔立ちの少年の首に手を回し、その頭を引き寄せ、キスをした。そのキスはしばらくの間続いた。彼等の下では、あの手足のない少年が焦点の合わない目でぼんやりとそれを見上げている。
男が少年の顔を離し、もう一度それを見る。入り口に立っていた男を呼び寄せ、何事か話をする。やがて、男との交渉が成立したのか、整った顔立ちの少年の鍵が外された。男は少年の手を握る。その時、初めて少年の右手の親指、人差し指、中指がないことに気が付いた。が、男はそのまま少年の手を引き、路地裏から出て行こうとする。
「あぁぁ」
その光景を見て、手足のない少年が声を出した。男に手を引かれた少年は、彼を振り返り、手を伸ばす。
が、男は強引に少年の手を引っ張り、引きずるようにして裏路地から消えていった。
「いやぁぁ・・・」
手足のない少年が呻いた。
しばらくすると、別の男が裏路地に近づいてきた。入り口の男に金を渡し、床にうずくまっていた少年を抱え上げ、壁にその体を押し付けて犯し始める。
「あああ・・・」
犯されながら、少年は呻く。短く切断された手足を動かしながら体を捩り、ペニスを勃起させながら喘いだ。

やがて、少年のペニスから、精液が飛び散った。
「ひあっ」
少年の口から、小さな声が漏れた。いやらしい笑顔を浮かべながら、ビクビクとペニスを揺らしながら。

<えびら 完>


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