ななちゃん

11

「ぐぼぁ」
気が付いた途端、死ぬ、と思った。
エビラは僕の喉を使っていた。奧の奧までちんこを差し込んで僕の髪の毛を掴んで頭を動かしている。頭を動かされる度に、ブチブチと髪の毛が抜ける音が頭に伝わる。
僕はエビラを突き飛ばした。その場に手を突いて咳き込んだ。
「なかなか死なないねぇ」
エビラの狂った声。顔には血が付いている。僕は慌てて鼻の辺りを腕で拭う。真っ赤になった。鼻血が溢れているようだ。荒い息を吐く。
「早く死なないと、もっともっと苦しい目に遭わせるよ?」
ニヤついている。これが今のエビラ。僕等の15年の結果だ。
「じゃあ、取りあえず今日はこれくらいにしようか」
僕の首に金属の重い首輪が着けられ、南京錠で固定される。首輪に鎖が繋がれる。
「ほら、ななちゃんの部屋はここ」
ベッドの向こう側にある檻を指差す。僕はそこに向かおうとした。
「なにやってるの。四つん這いでしょ」
もう言い返す気力もない。素直に四つん這いになり、檻の方に這って行く。そんな僕の後ろにエビラが近づく。
「明日はここかなぁ」
僕の穴に指を突っ込んだ。
「ここ、壊してもいいかな?」
(なにが壊してもいいかな、だ)
でも何も言わない。僕はエビラのものだから。そして、穴を壊される、ということに少し期待もしているから。僕にはもうちんこはない。だから、勃起していることに気付かれることもない。もちろん、ないのだから勃起もしないんだけど。
そのエビラの指から逃れるように檻に入る。檻の扉が閉められる。扉にも錠が掛けられる。
「じゃ、続きは明日ね。他にしたいことがあったら考えといてね」
部屋から出て、階下に降りていく。檻の中で少しほっとする。
(あれがエビラ?)
別人じゃないかと思う。でも、確かにエビラだ。それは間違いない。でも、やっぱり僕が知っているエビラじゃない。15年間僕を想い続けて狂ってしまったエビラ。そんなエビラに壊される僕。それを期待している僕。僕も狂ってる。
ちんこがなくなったその部分を見てみる。血塗れで、その真ん中辺りは血が固まりつつある。そこをそっと指で触れてみた。痛みはもちろんある。でも・・・
(エビラにされたんだ)
自分の体に取り返しのつかないことをされて、僕は興奮している。僕は、仮に今死ななかったとしても、一生このままだ。この体にエビラが刻みつけた傷。
ちんこが付いていた根元の部分に穴がある。そこに右手の人差し指を突っ込んだ。激しく痛む。でも、構わずに指を出し入れする。エビラに壊され、エビラに殺されるのを想像する。
「あぁ」
小さなあえぎ声が出る。血で指の滑りが良くなる。クチュクチュと音がする。
「エビラ・・・もっと壊して」
股間で指が出入りしているのを見ながら目を閉じると、そこに僕のちんこが見える。もちろん勃起している。
「エビラ・・・」
これでイけるんだろうか、ふとそんなことを思った。

部屋の入り口にエビラが立って僕を見ているのに気が付いた。
「エビラ」
気が付くと両手をエビラに差し出していた。でも僕は檻の中だ。エビラに抱いてもらえる訳じゃない。エビラは檻の中の僕の前にしゃがんで皿を二つ床に置いた。一つは僕の餌、もう一つは水だった。
「ほら、ななちゃんの分だよ」
エビラが微笑む。優しい笑顔。
僕はまず水を飲もうとした。水の皿は檻の外側に置いてある。僕の頭は檻の狭い鉄格子の間から出せない。エビラの顔を見る。
「どうしたの?」
たぶんエビラも分かってる。だけど、僕に尋ねる。
「飲めない・・・届かないよ」
エビラは何も言わずに水が入った皿を持って立ち上がった。
「口開けろ」
僕に命じる。上を向いて口を開く。檻の外から僕の開いた口をめがけて皿を傾けた。いくらかは口に入ってくる。でも、ほとんどの水は顔や体に掛かり、流れていく。
「ななちゃん、水も飲めないんだ」
空になった皿で檻の格子をがんがん叩いた。
「ホント、駄目だね」
そして、言った。
「口、開け」
開いた僕の口をめがけて唾を垂らす。それを口で受け止める。
「どう、少しは飲めた?」
「はい、ありがとうございます」
僕は檻の中で土下座した。
「ふん」
エビラは鼻で笑う。水の皿を放り投げる。
「じゃ、ね」
餌の皿はそのままにして、電気を消す。
「ああ、そうそう。その檻の鍵、無理にこじ開けようとしたら、僕のスマホに通知来るから」
エビラの顔がスマホに照らされる。
「その時はこうだからね」
体が硬直した。何かが僕の中に流れ込んでくる。その何かが僕の体を駆け回った。と、その何かが止まった。
「今のは最小だよ。死なない程度の電流にしておくから、勝手に死ぬのも無理だからね」
そしてドアを閉めた。

真っ暗なエビラの部屋で一人きりになった。見えるのは、ベッドの上の緑色のLEDの光。たぶん、電気枕だろう。あれで僕は作り変えられた。そういえばエビラも使ってた。
そうだ、あれを使われてから、僕はエビラにいたぶられるのが気持ち良くなった。入院してたときからあの枕は使ってた。ということは、あの時から少しづつ僕は作り変えられてたんだろうか。いろんなことされて、今まではエビラにしてもらえてるから気持ちいいんだと思ってた。でも、あの電気枕でどMに作り変えられたからそう感じるようになったのかも知れない。エビラだって使ってた。エビラだって、急に僕を壊したいとか死んでほしいとか言い始めた。あれを使ってからだと思う。エビラも自分を作り変えたんだろうか、僕を壊すために。僕を壊すのが気持ち良くなるように。

全部エビラの計画だったんだろうか。

あの日誌、今、あれを見たらいろいろと分かるんじゃないだろうか。
檻の中からエビラの机を見てみる。ノートパソコンが置いてあるのは分かるけど、日誌がそこにあるのかどうかは分からない。
首輪に付いている鎖は結構な長さだ。これならたぶん、檻を出て、ぎりぎり机の上に手が届くんじゃないだろうか。だけど、檻の扉を無理矢理開けようとしたら、さっきみたいに電気が流れるんだろう。今はまだその時じゃない。エビラだって今はきっと僕が何かするかも知れないって思ってるだろう。だから、さっきあの檻の鍵の話をしたんだ。
今はまだ、何もせずに我慢しよう。
いつか、その時のために。



ななちゃんを檻に閉じ込めたまま、一人階下に降りる。
(これでいいんだろうか)
少し後悔する。でも、僕は興奮していた。15年間の想い。ずっとななちゃんに抱いていた愛情、性欲、欲望、そして怨み。
僕は首を横に振る。
(怨んでなんかいない。ただ、僕は・・・)
あのことを思い出した。



ななちゃんの頭部を移植したあの日。手術が終わってから、まだ手術室に置かれている首が切断されたななちゃんの体を僕は見ていた。
ななちゃんは目覚めるかどうか分からない。いや、その可能性はとても低い。この体、ななちゃんの体ももう、これで見納めだ。ひょっとしたら、二度とななちゃんとは・・・

僕はメスを握っていた。そして、ななちゃんのペニスを切り落とした。そのペニスをビニール袋に入れて、家に持ち帰った。
もちろん誰にも知られないように、その後、僕がななちゃんの体を焼却処分した。



(あのペニス)
当時、僕は病院近くの分譲マンションで独り暮らしをしていた。そのマンションは今もそのままにしてある。
(あのペニスは・・・)
切り落としてマンションに持ち帰った後、樹脂を注入し、勃起したときのような形を再現させた。そのまま固化させて、クローゼットの奥にしまってある筈だ。それを思い出す。
体が疼く。
僕は家を出た。



マンションに帰ってドアを開く。ここに帰ってくるのは半年ぶり・・・いや、それ以上だ。まっすぐ寝室に向かい、クローゼットの扉を開く。記憶と何も変わっていない。そして、それも記憶通りの場所にあった。
「ななちゃん」
僕はそれを握る。それを咥える。
「ななちゃん」
ずっと欲しかったななちゃん。今のななちゃんには付いてない、本物のななちゃんのペニス。
僕はその横に一緒に置いてあったローションも持って、ベッドに寝そべる。
ズボンと下着をずり下ろす。勃起した自分のペニスと一緒にななちゃんのペニスを握る。今の僕のペニスと比べると、そのペニスは小さかった。
(でも、これが本当のななちゃん)
そのペニスに頬ずりをする。先端は少しだけ亀頭が見えているが、ほとんど皮が被っている。その先の部分にキスをする。
(ああ、ななちゃん)
ずり下ろした服を脱ぎ去り、床に落とす。上半身も脱いで全裸になる。
(ななちゃん、犯して)
アナルにローションを塗る。そして、ななちゃんのペニスを挿入する。
(ああ、ななちゃん、入ってきたよ)
簡単に入る。ゆっくり手を動かしてペニスを出入りさせる。
「ななちゃん」
小さな声でつぶやいた。あの、引き裂いた時の感触を思い出す。今のななちゃんのペニス。本当のななちゃんのペニス。偽物なんかどうでもいい。大切なのは、この、本物だ。
「あぁ」
中学生だったななちゃんのペニス。子供のペニス。今の僕がそれで気持ち良くなれるような大きさではない。でも、特別な、ななちゃんの本物のペニスだ。
(そうだ、明日これでななちゃんを犯してやろう)
アナルでそれを動かしながら思い付く。
(自分のペニスで掘られるなんて、なかなか出来ない経験だろうな)
お尻でななちゃんのペニスを動かしながら、左手で自分のペニスを握る。
「ああ、ななちゃん」
僕は射精した。

しばらくはそのままベッドに寝そべっていた。
(この家でも)
あいつのことを思い出した。
(僕の奴隷・・・今、どこでどうしてるのかな)
あの地震の後から付き合い始めて、最近までずっと僕の玩具だったあいつ。
(あいつもずっと、どMのままなのかな)
少しうとうとした。

インターホンの音がしている。一瞬、ここがどこか分からなかった。さっきから何度もインターホンが鳴っている。
「はいはい、誰?」
そんな独り言を言いながらベッドから降りる。脱ぎっぱなしにしてあった服を身に着ける。その間もインターホンは鳴り続けている。
「はい」
服を着終えてようやくインターホンに対応する。モニターに姿が映る。マンション下のエントランスからだった。
「あ、僕。え、えっと・・・」
(なんてタイミングだ)
そう思った。さっき思い出していたところだ。
「なんの用だよ」
「えっと、その、荷物、まだ置きっぱなしになってるから取りに来た」
僕はインターホンの解錠ボタンを押した。
「あ、ありがと」
モニターが消える。しばらくすると、今度はさっきとは違うインターホンの音がした。玄関のドアのインターホンだ。僕は玄関に行ってドアを開ける。
「あ、えっと・・・久しぶりです」
そいつは僕に軽く会釈をする。
「さっさと用事済ませろよ」
僕はぶっきらぼうに言った。
「分かってるよ」
そいつも僕と目を合わせようとしなかった。



そいつが体を屈めて何かを鞄に詰めている。その尻を僕は見つめる。僕が処女を奪った尻。僕が鞭打った尻。僕が蝋を垂らした尻。僕が拡張してやった尻。
そいつの尻ににじり寄り、ズボンとパンツを一緒に引き下げた。尻が丸見えになる。
「なにすんですが」
そいつが振り向き、驚いたように叫んだ。
「ここに来たってことは、される気はあるんだろ?」
そいつはズボンをずり上げる。
「なにを勝手な・・・」
少しあきれたような顔をする。僕はその頬を平手で打った。
「うっ」
そいつは僕を見る。もう一度頬を打つ。
「どうだ、思い出したか?」
「なにをだよ」
また頬を打つ。僕は片手だけで自分のズボンと下着を下ろす。そいつを後ろ向きにして、尻にペニスを押し付けた。
「お前は僕の奴隷だろ?」
「やめろっ」
そいつは抗った。
「お前とはもう、そういうんじゃない」
構わず僕は腰を押し付け、挿入する。
「うぐっ」
呻き声。しかし、ペニスは奥に入っていく。
「さすがだな。簡単に入るじゃないか」
「お前が・・・そうしたんだろ」
僕はアナルを掘る。グジュグジュと音がする。
「ほら、気持ちいいんだろ?」
掘りながら尻を叩く。そいつは返事をしない。が、明らかに呼吸が荒くなっている。さらに腰を早め、何度も打ち付ける。
「ああっ」
そいつの中に射精した。ペニスを引き抜くと、その尻を蹴飛ばした。
「ほら、早く帰れ」
「エビラ先輩・・・変わってないですね」
そいつが尻から僕の精液を滴らせながら言った。
「そんなこと、もうどうでもいいだろ」
もう一度蹴飛ばそうとした。が、そいつが僕の足を抱き締めるようにして掴んだ。足で僕の足を払う。
「うわっ」
僕はベッドの横に仰向けに倒れた。
「そんなんだから、エビラ先輩は」
そいつが何かを振り上げた。目の前に火花が散った。

頭が痛い。誰かが立っている。
「なな先輩が目覚めなかったからって僕に手を出して、僕をいたぶって玩具にして」
何かが頭に打ち付けられる。
「僕がその気になって一生エビラ先輩の奴隷として生きる覚悟を決めたら、なな先輩が目覚めて、僕を捨てて」
また衝撃。目の前が暗くなる。
「あんたみたいな人は、生きてちゃダメだ」
衝撃。もう痛みは感じない。ただ、頭がくらくらする。
「僕が殺してやる」
そして数回衝撃。更にもう一回。
何も見えなくなった。何も、聞こえなくなった。

真っ暗な闇の中でななちゃんのことを思い出す。
(ああ、戻らないと。飢え死になんて面白くないからね)
でも、体が動かない。
(ななちゃんで、ななちゃんを犯してあげないと)
体に力が入らない。それどころかどんどん力が抜けていく。
(ななちゃん・・・僕のななちゃん・・・)



朝が来ても、エビラは戻って来ない。
「喉渇いたよ、水飲ませてよ」
さっきから何度か叫んでみた。叫んで耳を澄ませた。でも何も聞こえない。誰かがいる気配もない。
「エビラ?」
このまま帰ってこなかったらどうしよう・・・不安が頭をよぎった。僕は鎖で繋がれて檻に入れられている。このままだったら飢え死にだ。
(まさか、僕は捨てられた?)
そんな考えが頭をよぎる。
(あの時、死ななかったから捨てられた?)
喉が渇く。それとも、これも責めの一つなんだろうか。
「こんなの、全然気持ち良くないよ」
しゃがれた小さな声で、僕はつぶやいた。



どれくらい時間が経ったんだろう。数時間か、数日か、数週間か。もう全く時間の感覚がない。体も重くてあんまり動かない。思い切って檻の扉の鍵を外そうとしてみた。最初は恐る恐る。でも何も起きなかった。思い切ってあちこち触ってみると、それはあっけないほど簡単に解錠出来た。
「檻、出ちゃうよ、いいの?」
耳を澄ました。相変わらず何も聞こえない。僕は扉から這い出た。鎖に繋がれたまま行けるところまで行って、飲物を探す。だけど、動ける範囲には飲めそうな物は何もない。
「エビラ、水」
そうつぶやきながら這い回る。檻をぐるりと回って机に近づく。檻と机に寄り掛かって何とか立ち上がる。首を少し檻の方に曲げて、手を伸ばすとギリギリ指が机の端に触れる。机の上に日誌はない。手が届いた引き出しを開けてみる。そこにもない。飲物もない。僕はその場に座り込んだ。もう檻の中に戻る気力が残っていなかった。
「エビラ・・・僕、死ぬよ・・・」
誰もいないのは分かっていた。それでも声に出した。
「僕が死ぬとこ・・・・・見てなくていいの?」
その場に横になる。
「エビラ・・・僕の、こと・・・・・嫌いに、なった?」
目を閉じる。
「僕は、エビラが、好き、なのに・・・・・」
もう、動けない。でも、右手の人差し指を伸ばした。それを股間の、ちんこが付いていたところの穴に差し入れた。
「ほら・・・僕・・・まだ、オナニー、出来るよ」
何も感じない。
「ほら、エビラ、見て」
指を動かし続ける。
「僕は・・・・・」
もう指が動かない。力が入らない。動けない・・・・・

何かが聞こえた気がした。
うっすら目を開けた。だけど、誰もいなかった。何も・・・何も見えなかった。

<ななちゃん 完>


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