アイ・コンタクト


右サイドを駆け上がる。目が合う。アイコンタクトを取り合う。俺は信じていた、ボールが俺の足下に来ることを。そして、その通りになる。そのボールをドリブルしながら周りを見る。頭の中にこの先の動きが見えてくる。左からボールを奪いに来る。軽く右足のアウトサイドでボールを外に振る。外からも上がってくる。体を入れ替えて一旦ボールを止め、フェイントを入れてかわす。ゴールが見える。でもまだ早い。またボールを持って上がる。まるで上から見ているみたいに相手の奴等の配置が見える。ゴールに向かう「筋」も見える。が、俺は少し右に向かう。一人かわす。ゴール前が空いた。右足でシュートの動作。何人かカバーに入ってくる。その動きを止めて、軽く内側にボールをさばく。そして、その位置から今度は左足でボールを送り出す。強くはないがコントロールされたそのボールは、さっきのフェイントで動かされたゴールキーパーの反対側に飛んでいく。何人かは反応した。でも、もう遅い。ボールはゴールに吸い込まれ、その奧のネットを揺らした。
「おぉぉぉ」
後ろで声がした。山下が腰の辺りで拳を握りしめている。誰かが俺に抱き付いてきた。子安だ。俺は軽く手を上げる。その手を安西が叩く。ピッチの外で俺達の試合を見ている奴等に目を向ける。その中に玖翔がいた。玖翔も俺を見ている。俺はそんな玖翔に笑いかける。玖翔が右手の指を三本立てる。そして、1本を残して握られる。
「もう1点」
俺はそうつぶやきながらピッチを走る。今日、俺は既に2点取っていた。あと1点でハットトリックだ。それが今日の俺の目標だった。

試合終了のホイッスルが鳴った。4対1の快勝。俺は2得点、2アシスト。つまり、全ての得点に俺が絡んでいたということだ。
「凄かったね」
試合後のロッカールームに玖翔が来てくれた。そして、手を差し出す。
「ありがと」
俺はその手を握る。
「でも、ハットトリックは惜しかったね」
そう言った。その時、表情が少し変わる。なんというか・・・目から微笑みが消えたようだ。
「うん・・・」
俺が頷くと、玖翔は俺の肩をぽんぽんと2回叩いてロッカールームから出て行った。
「ほんと、惜しかったよな、もうちょっとだったのに」
俺と玖翔の会話を聞いていたのか、子安が声を掛けてくる。
「うん」
俺は少し俯いた。上を脱ぐ。周りをそっと見回す。半分くらいは着替え終わって出て行った。まだ残ってるのは5人・・・6人だ。このロッカールームで俺以外に6人がまだ着替えていた。
俺は目を閉じた。玖翔の目を思い出す。目を開く。もう一度、周りを見回した。
「惜しかったな」
俺は笑顔で大きな声を出した。皆が俺を見た。そして、俺はサッカーパンツとスパッツを一緒に下ろした。
「え、おま、勃ってんじゃん」
子安が言った。
「なんで勃ってんだよ」
誰かが笑う。俺は脱いだ上着で股間を拭った。
「だって、試合で興奮したし」
「それで勃つかよ、普通」
皆が俺を見て笑った。俺も笑った。そのまま、俺は全裸で勃起したちんこを晒し続けた。

(これでいいんだ)
俺は皆の視線を感じながら思った。顔は笑顔。でも、内心は違う。別に、チームの奴等とは合宿で一緒にお風呂に入ったりもしている仲だ。ちんこを見られるのはさほど抵抗はない。でも、勃起したちんこは別だ。そりゃ、一緒にオナニーしたことがある奴だっている。一人だけだけど。でも、今日のこれは・・・
(俺が決めたことだから)
俺は自分に言い聞かせるように心の中で思う。
(もし、1点も入れられなかったら・・・勃起ちんこを晒すだけじゃなくて・・・)
体の奥がむずむずしてくる。慌ててカバンからボクブリを取り出して履く。そして服を着る。さっきロッカールームにいた6人のほとんどはもう着替え終わって出て行った。残りもみんな、着替えは終わっていて、あとは荷物をカバンに突っ込むだけだ。俺は最後の一人になる。ベンチに座って脱いだユニフォームやシューズをカバンに詰め込んでいた。
と、視線を感じた。顔を上げると、ドアの所に玖翔が立っていた。
「見てた?」
俺が尋ねると、玖翔は頷いた。
「ホントに晒すんだ」
玖翔が俺の前に近づく。俺は頭を垂れる。
「ホント、変態だね」
玖翔が俺の頭を撫でた。そのまま無言で俺を見つめる。顔を上げる。目が合った。俺は周りを見回す。俺と玖翔だけだ。少し腰を浮かせてズボンとボクブリをずり下ろした。俺のちんこはずっと勃起している。玖翔の目の前で俺はちんこを握る。そして、手を動かし始めた。

俺達以外誰もいないロッカールームで、くちゅくちゅという音、そして俺の息だけが聞こえている。玖翔が見ている。ちんこを扱くと体から汗の臭いが、そしてちんこからその汗の臭いをもっと濃くしたような臭いが漂ってくる。その臭いを嗅ぐと興奮する。俺は玖翔を見上げる。
「凄い臭い」
玖翔が俺を見下ろしながら言う。俺は大きく息を吸う。この臭いを玖翔も感じている。感じてくれている。俺の臭い。俺の汗と、ちんこの臭い。自分の臭いに興奮する。ちんこを扱いていた手を鼻に近づける。その臭いが強くなる。その手に舌を這わせる。指を1本ずつ口の中に入れる。少ししょっぱいような味がする。きっと、俺の汗の味。もう一方の手で扱き続ける。
「あぁ」
小さな声を出す。もちろん玖翔が聞いている。
「ああ、イきそう」
顔を伏せる。玖翔が俺の顎に手を掛けて、顔を上げさせる。玖翔を見る。玖翔の目を見る。その時が来る。
「ああっ」
俺は玖翔の顔を見ながら、玖翔に見られながら射精した。精液が俺と玖翔の間の床に落ちる。俺の手にも絡みつく。それを顔の前に上げる。玖翔を見る。手に絡みついた精液を舐める。それが終わると、ズボンとボクブリをずり下げたまま四つん這いになって、床の精液も舐め取った。
目の前に玖翔の足がある。その靴ににじり寄る。右側の靴のつま先部分にキスをする。左側にもする。玖翔を見上げる。玖翔は無表情で俺を見下ろしていた。そのまま体を反転させて、ロッカールームのドアを開いて出て行く。ドアは開いたままだ。俺はその奥で、勃起したちんこを握ったまま、玖翔の背中を見送った。

俺と玖翔。同じクラスの友達。でも、たぶん、クラスの奴等は俺と玖翔が友達だということを知らないんじゃないかと思う。学校ではほとんど口を利かない。俺の周りには部活の奴等とか色々集まってくる。話の中心はサッカーだけど、その他アイドルの話だったりドラマの話だったり。時には女子が加わったりもする。そして、そんな女子からはたまに告られたりすることもある。教室の外から部活の後輩に呼ばれたりもする。俺はみんなと仲がいい。自分で言うのもなんだけど、けっこう格好いい方だと思うし、部活での活躍もかなり格好いいし、女子にもそれなりにモテるし。

一方、玖翔はというと・・・・・
玖翔は大人しい。というか、目立たない。教室では玖翔の笑顔を見たことはない。メガネの奧の目はいつも下を向いている。友達も少ないようだ。背も低いし顔も格好いいとは思わない。いや、むしろ不細工だ。成績は俺と同じくらい。少しだけあっちが上かな。つまり、そんなに頭は良くないって訳だ。スポーツはどっちかというと駄目な方。女子から声も掛けられないし、そもそも全然眼中には入らないような、そんな奴だ。
そんな奴なんだけど・・・・・

俺はそんな玖翔に惹かれている。なぜなのか・・・それはたぶん、俺にしか分からない玖翔の魅力。そして、それは俺だからこそ感じる玖翔の魅力だ。
玖翔の目の奧に宿る暗い光。その魅力に俺は引きずり込まれた。



部活がない日の学校帰り、俺はいつも少し寄り道をする。玖翔の家だ。一応チャイムを押すけど、いつも返事はない。ドアに手を掛けると、鍵は掛かってない。そのまま玖翔の家に入る。階段を上がって玖翔の部屋に行く。ノックもせずにドアを開ける。玖翔はベッドに横になってスマホを見ている。俺を見たりはしない。俺はベッドの横に座る。正座だ。そして玖翔を見つめる。玖翔はスマホから目を離さない。まるで俺などその場にいないかのようだ。しばらく俺はそうやって正座して玖翔を見つめ続ける。黒縁のどこにでもありそうなメガネ。少し厚めの唇。低い鼻。ずっと見つめても、玖翔は俺を見ない。俺は立ち上がる。学生服の上を脱ぎ、床に置く。シャツを脱いで、Tシャツも脱いで上半身裸になる。次に靴下を脱ぐ。ズボンを脱いで、そしてボクブリも脱いで全裸になる。脱いだ服をひとまとめにして、また俺は床に正座する。一瞬だけ、玖翔が俺を見た。ほんの一瞬だ。俺は手のひらを太ももの上に置いたまま、ずっと動かない。玖翔だってそうだ。スマホで動画を見ているだけ。動画が終わると少し操作して、また別の動画を見る。そんな玖翔を見つめる。玖翔の髪の毛、耳、唇、手、指。やがて、その指がスマホを操作した。

小さな喘ぎ声が聞こえる。玖翔のスマホからだ。俺は玖翔から目を離さない。しばらくすると、玖翔の手がゆっくりと下に移動する。股間に手を当てて、ゆっくりとそこを擦る。そこが盛り上がってるのが分かる。しばらくそうして盛り上がった部分を撫でた後、玖翔は体を横に向ける。俺に背を向けた姿勢で少し体を浮かせ、ズボンをずり下げた。ボクブリが見える。こちら側から見えるのはボクブリの腰の辺りだけ。でも、向こう側ではちんこを出して扱いているのは分かっている。ここから見える肘の辺りが小刻みに動いている。ときどき腰の辺りも動く。見たい。でも、俺は動かない。正座したまま、向こうを向いて扱いている玖翔の背中を見つめる。しばらくそうやって扱き続ける。その時が来る。
玖翔が体を上に向けた。玖翔の股間から、玖翔のちんこが突き出ている。それを扱いている。もうスマホは見ていない。目を閉じて、あそこを扱き続ける。息が漏れる。俺はそんな玖翔の表情を注視する。
「ん・・・」
小さく呻く。玖翔の手の中で、ちんこが見え隠れしている。大きくはないけど太いちんこ。手を下ろした時に、亀頭が見えている。
(そろそろかな)
タイミングを見計らって、俺は玖翔ににじり寄る。玖翔は俺を見たりはしない。目を閉じて、少し眉間に皺を寄せながら扱き続ける。
(そろそろだ)
俺は膝立ちになって、玖翔のちんこの前に顔を差し出し口を開いた。
「んぁ」
小さな声を漏らした。俺はその瞬間、玖翔の亀頭に口を当てた。その口の中に玖翔の精液が飛び込んでくる。それを口で受けて、少し口を開いて玖翔の亀頭に押し付け、吸い上げる。数回、玖翔は射精する。その精液を全て口で受け、吸い、そして全部を飲み込んだ。
玖翔が絞るようにちんこに添えた手を動かす。舌でその先を舐め取る。玖翔は手を離す。俺も玖翔の亀頭から口を離し、さっきの場所に戻ってまた正座する。玖翔はボクブリとズボンを引っ張り上げて、また俺に背を向けてスマホをいじり始めた。
その様子をしばらく見て、俺は立ち上がって服を着て、玖翔の家を出た。
俺の家に帰る途中で、口の中に残る玖翔を感じた。玖翔の亀頭を思い出し、あの時の感触を思い出す。目の前にあった玖翔のちんこ。でも、それに触ることは出来ないし、亀頭以外に口を付けることも出来ない。ただ、玖翔の亀頭から精液を吸い出し、飲み込んで、それが終わったら玖翔の視界から消える。まるで射精する瞬間だけちんこに押し当てられて、精液を拭き取ったら丸めてゴミ箱に捨てられるティッシュペーパーみたいだ。俺は玖翔にとってはオナニーの後処理用のティッシュペーパーでしかないんだ。
それでも俺は勃起した。


俺と玖翔がそんな関係・・・一方的な関係・・・になったきっかけ。
俺はサッカー部で、レギュラーで、けっこう活躍している。後輩からも慕われてて、そして、ゲイだ。
部活が終わった後、俺はわざとゆっくり着替えて、部室で最後の一人になる。そしてそこでオナニーする。これが俺の習慣だった。
部室の鍵は掛けない。そんなの掛けたら面白くもなんともなくなる。誰かが入ってくるかもしれない、見られるかもしれない。そういうスリルを感じるのがいい。
一度、俺がしている最中に、後輩が部室のドアを開けたことがある。そいつはドアを開けて俺を見て固まっていた。その後輩の腕をつかんで部室に引き入れ、俺はしゃぶらせた。口の中に出して飲ませた。気持ち良かった。
それから俺は、部室以外でもオナニーするようになった。帰り道の脇道の少し奥まったところや、誰もいない校舎の階段の隅とか、ひょっとしたら誰か来るかもしれないような、そんなところで。
放課後、ほとんどの生徒がもう帰った後、俺は校舎の一番隅のトイレで全裸になってオナニーしていた。まあそれ自体はいつものことだ。でも、いつもと違ったのは、そのトイレに人が入ってきたことだ。それが玖翔だった。
最初は焦った。見られそうなところでするというスリルと快感。でも、それと実際に見られるのとは違う。特に、同じクラスの陰キャラに見られるのは。
玖翔はトイレに入ったところで少し固まったように見えた。
(あ、ヤバ)
俺は手で股間を覆った。頭の中では言い訳を考えた。でも、玖翔は俺に近寄ってきた。そのまま何も言わずに俺の目を見る。眼鏡越しの陰気な目。その目で俺を見る。俺の顔を見て、そして俺の股間を見る。そして、また俺の顔を見た。
俺は動けなかった。声も出せなかった。玖翔の目。暗いその目。その目の奥に、何か、黒く光るものが見えた。玖翔は無表情だった。その目が下を向く。俺の股間に向く。俺はそこを覆っていた手を体の横に下ろした。目は玖翔の顔を見たままだ。でも、俺のちんこが興奮してびくびく揺れているのは分かっていた。玖翔の目が俺の目を見る。俺はちんこを握る。玖翔の目がまた俺のちんこの方に向けられた。俺はゆっくりと扱く。玖翔の目の前で、玖翔に見られながら扱き、そして射精した。
射精した後も、俺はそのままの格好で玖翔に見られていた。ちんこからは精液が滴っている。手にも精液が付いている。玖翔が俺の手を見た。そして俺の目を見た。その目が少しだけ下に下がる。俺の口を見ている。俺は手を顔の前にかざす。精液が付いていることを玖翔に見せ、そしてそれを口で舐める。ちんこから滴っていた精液も指に絡め取って舐める。それが終わると、玖翔は無言のままトイレの小便器に向かう。俺の中で何かが弾ける。俺は玖翔と小便器の間に割り込み、玖翔の前にしゃがんだ。玖翔は俺を無視してチャックを降ろしてちんこを出した。俺はそれに口を近づけ、開いた。玖翔は俺を無視しておしっこをし始めた。そのおしっこは俺の開いた口の中に入ってくる。それを口で受け止め、飲み込む。体に玖翔のおしっこがかかる。それを手で体中に塗り広げながら、口の中の玖翔のおしっこを飲み込む。おしっこが終わると、玖翔は普通にトイレから出て行く。トイレットペーパーで体を拭き、服を着る。まだ勃起したままだ。手洗いで手を洗う。口を濯ごうかと思ったが、なんだかもったいないと思って止める。そして、教室に行く。教室では玖翔が一人、座っていた。
俺は玖翔の前に立つ。玖翔が立ち上がって鞄を持つ。玖翔の後ろについて歩く。トイレに玖翔が入ってきてからずっと、俺達は一言も話してない。でも、俺は玖翔について行く。玖翔の家に行く。玖翔の部屋に入る。そして、ベッドに横になった玖翔の横に、俺は全裸になって正座する。その瞬間、俺は玖翔のティッシュペーパーになった。



玖翔の目。その目に見つめられるだけで俺は勃起する。その目で見つめられると、俺は俺の中の何かに突き動かされる。それは、俺に恥ずかしいことをさせる。でも、その何かは俺の奧にある欲望だ。玖翔に何か言われる訳じゃない。ただ、俺は玖翔に見つめられると、俺の中の欲望の沼に沈んでいくんだ。
あの時だってそうだ。サッカーの試合で、ハットトリック達成出来なかったらみんなの前で全裸になって、勃起させたちんこを晒す、もし1点も入れられなかったら、みんなの前で全裸でオナニーする。それは玖翔の目に見つめられながら、俺が自分で決めたことだ。そして、それを実行したまでのことだ。
だから、普段は玖翔には近づかないようにしていた。教室なんかであの目で見つめられたら、俺はきっとその場で何かしてしまうから。
そんな玖翔と俺は別に性的な関係という訳ではなかった。俺は玖翔のティッシュペーパーだけど、ほとんどそれだけだ。



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