ホントの気持ち

15.ホントの気持ち〜エピローグ

それから、康弘は洋輔のお母さんに電話して、みんな無事であることを伝えた。僕達3人は、その夜を一晩森の中ですごした。あのときのような明るい月明かりの中で、僕らは話し合った。
「僕・・・なんかすごくくやしかったんだ。洋輔が公彦と仲良くしてるの見て。ほんとに、そんな心配しなくて良いんじゃないかとは思ったけど、でも、なんか悔しくて、もう、僕の事なんかどうでも良いんだとか思っちゃって・・・洋輔に裏切られたみたいな気がしたんだ」僕は顔を伏せたまま言った。
「僕がちゃんと、公彦のことたっちゃんに話せばよかったんだ。話さなくてもわかってると思ってた。でも、違うんだよね。わかってるんだけど、ちゃんと言って欲しいんだよね。僕も、たっちゃんが、公彦と、その・・・」洋輔がちょっと言いよどんだ。
「つきあってるって聞いたとき、ちゃんとたっちゃんに説明して欲しかったんだ」洋輔が言葉を選んで言った。
「あん時は、ほんと、ごめん。僕、あんなこと言っちゃだめだってわかってたのに、なんだか洋輔傷つけるような事ばっかり言って・・・ほんと、ごめん」ちょっと涙ぐむ。
「お互い様って感じだなぁ」ずっと聞いていた康弘が口をはさんだ。
「結局、お前ら嫉妬しあってたんじゃないのか?」
「そうかもしれない・・・」僕は康弘に答える。
「ちゃんと話してれば、こんなことにならなかったんじゃないのか?」康弘が、僕らの顔を交互に見る。
「そう・・・思う」洋輔が言う。
「なんで、ちゃんと話できなかったんだ?」
「それは・・・」なぜなんだろう、僕は考える。
「僕は、たぶん・・・たっちゃんのこと、好きだから。好きだから、疑いたくなかったし、変なこと聞きたくなかった。でも、好きだから、一回疑い始めると、どうしようもなくなっちゃったんだと思う」
「そうだよね。好きだから、疑っちゃうってとこ、あったよね」正直に言う。
「それに、僕は、たっちゃんに裏切られたって思って、死のうなんて思って・・・」どきっとした。
「ごめん」それしか言えなかった。
「そんなつもりで言ってるんじゃないよ。ただ、そう思っちゃうと、それ以上そんな気持ちになりたくなかったから、話も聞かなくなっちゃったし、無視しちゃって・・・ごめんね」洋輔が僕を見ている。
「でも、無視されるものつらいだろうけど、無視するほうもつらかったんじゃないの?」康弘が言う。
「うん・・・」
「洋輔・・・ほんと、ごめん」死、という言葉が今だ僕を捕らえていた。
「僕のほうこそ・・・ごめんね、たっちゃん。結局、僕は自分と同じようにたっちゃんを苦しめた・・・」「二人で謝りあっててもしかたないじゃん」重苦しい空気を払うように康弘が言った。
「それより、これからどうするの?」
「僕は、本当に愛してるのは洋輔だけだってわかったから・・・前みたいに戻りたい。洋輔が許してくれるなら・・・」僕は洋輔を見つめた。
「洋輔は?」
「僕も、ひどい事言っちゃったけど・・・たっちゃんを失いたくない」洋輔も、顔をあげて僕を見る。
「じゃ、決まりだ。これまでのごたごたは忘れて、二人のホントの気持ちでつきあうって」
「うん。僕のホントの気持ち・・・洋輔といつも一緒にいたい。洋輔にそばにいて欲しい」
「僕も。ホントの気持ち、たっちゃんを絶対に離したくない」
「よし。お互い、ホントの気持ち、絶対忘れんなよな」
「うん」二人、同時に言った。
「じゃ、誓いのキスを」康弘が冗談っぽく言った。
「えぇ〜やだよ、恥ずかしいもん」洋輔は恥ずかしがった。でも、僕は・・・洋輔の頬に手を添える。
「ちょ、ちょっと、たっちゃん」もう片方の手を洋輔の肩にかけて引き寄せる。洋輔は恥ずかしいといってるわりには抵抗しない。僕の唇と洋輔の唇が重なった。康弘が、僕と洋輔の肩に手をまわして、二人を抱きしめた。僕と洋輔の気持ちが、そして僕らを思ってくれている康弘の気持ちが一つになった。

翌日、僕と洋輔は公彦の家に行った。公彦の家で、またいろいろ話した。そして、明日からまた3人で一緒に学校に行こうって約束した。

康弘がアメリカに戻る日、僕らは見送りに行った。今度は、3人とも笑顔で握手して別れた。



それから数ヶ月が経った。

公彦から、また転校するって聞かされた。そして、公彦のホントの気持ちを聞いた。
「寂しかったんだ、ずっと。いつもこう。友達が出来るとすぐまた転校。みんな、最初は電話とか手紙とかくれるけど、すぐにこなくなっちゃう。だから、二人をみて、すごくうらやましかった。僕も、君達みたいになりたかった。離れていても、ずっとつながっていられるような、そんな友達が欲しかったんだ・・・」「ホントに、ごめんね。僕のせいでいろいろ迷惑かけて。もう、僕の事なんか忘れて、二人で仲良くして欲しい・・・」
「公彦のこと、忘れないよ。だって、友達だもん」そう洋輔が言った。僕が続きを話す。
「僕らと康弘は、日本とアメリカにいても、ずっと親友だよ。あ、そうか、公彦は康弘知らないんだっけ」「いつもメールやり取りして、離れてても、いつも話が出来る。いつでも、康弘を近くに感じていられるんだ。公彦とも、そうなりたい、と思う」
「そうだね。そうなれたら・・・うれしい」公彦が、ちょっと涙ぐみながら言う。
「感謝してるんだよ、公彦に。僕らのホントの気持ち、わかりあえたのは公彦のおかげだもん」洋輔が言った。そのとおりだと思った。

数日後、公彦はこの街を去っていった。僕らは、いつかまたどこかで会おうって約束して、笑顔で別れた。



あれからさらに数ヶ月が経っていた。僕は、康弘にメールを送る。公彦からメールが届いていた。新しい学校で、友達が出来たって。君達みたいになれたら良いなって思ってるって。僕は公彦に返信する。「僕らは相変わらずです。またみんなと会える日を楽しみにしてます」送信・・・洋輔が僕の肩に腕をまわす。「送信完了」の表示を横目で見ながら、僕は洋輔にキスをした。
<ホントの気持ち 完>




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