ホントの気持ち
14.想い出の場所 |
康弘は冷静だった。まず、洋輔の母親に事情を説明した。そして、車に載せていって欲しいと頼んだ。しかし、彼女は車の運転が出来なかった。タクシーを呼んでもらう。洋輔の母親は、とりあえず財布と携帯電話を康弘に預ける。康弘は到着したタクシーに乗りこみ、洋輔のあとを追った。じきに洋輔に追いつき、洋輔は自転車を捨てて、タクシーに乗りこんだ。そして、あの湖に向かった。タクシーの中で、洋輔はなにも言わなかった。ただ、こぶしを握りしめているだけだった。 達也は森の中に入っていった。最後に愛し合ったあの場所を探した。そこは、あの時と変わらずにそこにあった。達也はそこに横になった。あの時と同じように。でも、洋輔はいない。代わりに、二人の写真を胸に抱きしめた。 康弘と洋輔は、湖のそばでタクシーを降りた。 「どっちだ?」 「あっち、あの湖」二人は湖に向かって急いだ。 湖畔には達也はいなかった。 「どこだ、達也は?」康弘があせったようにつぶやく。 「・・・森、あそこ」洋輔が走り出す。あとを追う康弘。そして、洋輔が急に立ち止まった。 「や、康弘、あ、あれ・・・」 「遅かった・・・」洋輔の指差す方向に、達也が横たわっていた。洋輔が2、3歩あゆみ寄る。 「た、たっちゃん・・・」洋輔が、横たわる達也の傍らにしゃがみこむ。 「たっちゃん、ごめん、僕、僕・・・」 「僕のほうこそ、ぜんぜんたっちゃんの気持ち、わかってなかったね。たっちゃんがこんなに僕のこと好きでいてくれたのに、僕、全然わかろうとしなかった」洋輔の目から涙があふれだした。 「ごめん、僕が悪かったのに。僕が、たっちゃん苦しめてたのに。それなのに、こんな・・・」 「洋輔、おい、洋輔」康弘が洋輔の肩をゆさぶる。 「ほっといてよ」洋輔は言う。 「落ち着けよ、よく見ろ」康弘は達也の胸を指差した。達也の胸が・・・ 「え?」小さく、しかし規則正しく上下していた。康弘が笑い出した。 「こいつ、寝てんだよ。死んだように寝てやがるんだよ」 「たっちゃん・・・」洋輔の涙が頬を伝って達也の顔に落ちた。 だれか、なんか笑ってる。僕の名前、呼んでる。洋輔? なんか、顔に落ちてくる。水みたいな・・・ 達也は目を覚ました。最後に想い出の森の想い出の場所で横になって、そのまま寝入ってしまっていた。目を開けると・・・ 「洋輔?」目の前にいた。いっぱい涙を流していた。 「なにやってんだよぉ、心配させんなよぉ」泣きながら、顔をくしゃくしゃにしながら洋輔がいう。 「死んじゃったかと思ったじゃないか」 「え? 夜になったら・・・」 二人のそばで、康弘の笑い声が響いた。 「お前ら、ほんっと人騒がせだな。俺、あっちにいるから、二人でゆっくり話して、これからどうするか決めてくれよ」康弘は笑いながらそう言うと、湖畔のほうに歩いていった。 「なんで、ここにいるの? 洋輔も、康弘まで」 「なに言ってんだよ、終わりにするとかメール出したのどいつだよ」 「終わりにするつもりだったけど」ほとんど聞き取れないような小さな声で達也がつぶやいた。 「そんなの、絶対許さないから。僕のたっちゃんを、もう二度と離さないから」 「え?」洋輔は、状況が把握できていない達也に、康弘の帰国から今までのことをかいつまんで話した。そして、言った。 「たっちゃんを失うかも知れないって思ったら、すごく怖かった。わかったんだ、僕が好きなのはたっちゃんだけだって。だから・・・もう一回、二人で・・・やり直したい」 「洋輔・・・」 「たっちゃん」 そして、僕らはあの日のようにキスをした。今度は、僕が洋輔の首の後ろに手をまわして、洋輔を引き寄せた。 「ほんとに、世話がやけるなぁ・・・」康弘は二人のキスを見つめていた。そして、湖畔に腰をおろした。「まぁ、いっか。ひさしぶりにあいつらに会えたんだし。どうやら仲直りもしたみたいだし」 夕日が湖を金色に染めていた。 |