ホントの気持ち
2.キャンプの夜 |
僕は洋輔とずっと一緒だった。幼稚園のときから。兄弟みたいに育ってきたんだ。ひょっとしたら、父さんよりも、洋輔と一緒にいる時間の方が長いのかもしれない。だって、父さん、週に2、3回くらいしか顔あわさないし・・・ 僕が洋輔のこと、好きだって気が付いたのは、みんなと好きな子の話をしたとき。たしか、5年生の時だったと思う。夏休みに塾の先生、大学生の人なんだけど、その人がみんなをキャンプに連れてってくれたんだ。いつも一緒に遊んでる子たち、僕、洋輔、祐ちゃんと康弘の4人。夜はテントで寝た。僕は洋輔と一緒のテント。なんとなく眠れなくてテントの外に出てみたら、もう2人起きて来てた。みんな眠れないって。なんか、いつもと違うことしたから、興奮しちゃったのかな、って思った。「あと、洋輔だけだね」なんて言ってたら、その洋輔まで起きてきて・・・4人が輪になって座って・・・で、みんな自分の好きな子を教えあおうってことになったんだ。順番に言ったんだけど・・・僕の隣の康弘が一番最初に言って、そのまま順番に。僕は一番最後。僕の左となりに祐ちゃん。洋輔は康弘の次。洋輔の順番がきた。洋輔って、誰が好きなのかな、そのときはそんなことしか思わなかった。 洋輔はなかなか言わない。ふと、僕と目が合う。洋輔、うつむいちゃった。顔が真っ赤になってた。なんだか、僕も顔が真っ赤になった。どきどきした。洋輔が誰を好きなのか、すごく聞きたくなった。僕の心の中のなにかに火がついたみたいに、顔が熱くなる。そして、洋輔がやっと小さな声でいった。「僕、たっちゃんが好き」 そう言って欲しいと思ってた。僕のこと、好きでいて欲しいと思った。それまでそんなこと考えたことなかったけど、そのとき始めて洋輔を好きでいる自分に気が付いた。たぶん、洋輔も同じなんだと思う。洋輔はちらっと僕を見て、すぐ目を伏せてしまった。 「ずるいぞ、洋輔。ちゃんと女の子の名前言わなきゃ」康弘が言う。 「好きな女の子、いないもん」 「じゃ、だれかいいなぁって子は?」 「だから、たっちゃん」 「もう、しょうがねーな」康弘は、洋輔にそれ以上言わせようとはしなかった。洋輔には好きな女の子はいない、ということになった。 そして、祐ちゃんが言って、僕の番がきた。どきどきした。 「じゃ、最後、たっちゃん」 「僕も、洋輔が好き。女の子に好きなのいない」思ったよりすんなり言えた。洋輔は少しびっくりしたような顔で僕を見る。顔が熱い。 「なんだお前ら、好きな子いないのかよ」康弘がちょっと不満そうにいう。 そのあとは、みんなの好きな子の話で盛り上がった。僕と洋輔を除いて。僕と洋輔は、お互い意識しあって、話の輪に入れなかった。このあと、テントに戻ったとき、なんて言おう・・・そればかり考えていた。 「なんだ、たっちゃん、眠いの?」無口な僕に、康弘が尋ねた。助かった、正直そう思った。 「うん、ごめん、僕、もう寝るね」僕はそういうと、洋輔が口を開かないうちにテントに戻ろうとした。 「じゃ、僕も」洋輔がいった。二人でテントに戻った。どきどきした。 テントの中で、なんとなく座って、でも二人とも黙っていた。しばらくたって、ほかの二人もテントに戻っていく気配が感じられた。僕は口を開いた。 「うまくごまかせたね」そんなふうに思っていないのに、なぜかそう言った。 「ごまかしたりしてないよ。僕、たっちゃん好きだもん」 「僕だって、洋輔のこと、好きだよ」 「好きな女の子って言われて、一生懸命考えたんだ。でも、女の子の中に好きな子見つからなかった。で、たっちゃんのことが浮かんだんだ。僕、女の子なんかより、たっちゃんが好き」 「洋輔が、誰を好きっていうか、すごくどきどきしてた。僕のこと好きって言ってくれて、すごくうれしかった。僕も、洋輔以外に好きな子いないよ」 それから、僕と洋輔は横にならんで、そして自然に寄り添って、キスをした。始めはお互いのホッペタに。そして、唇に。いやじゃなかった。ぜんぜん。すごくうれしかった。 その夜は、一晩中手をつないで、二人とも眠らなかった。 |