ホントの気持ち

3.康弘のこと

それから、お互いのことが好きだってはっきりわかってからの僕らは、ほんとにいつも一緒だった。一番最初に、あのキャンプの夜に言ったことを信じてくれたのは、やっぱり康弘だった。康弘は日本で生まれて、小さいときにアメリカに住んでいて、2年くらい前に日本にきたんだ。だから、かどうかはわからないけど、なんていうか、スカッとした性格で、僕らのリーダーって感じだった。僕と洋輔のことも、べつにおかしなことなんて思ってなくて・・・
「そっか。お前らホントに好きなんだ。いいなぁ、なんか。うらやましいって」そう言ってくれた。

キャンプのときの友達はみんなわかってくれた。正直言って、ヘンタイとかって言われるかもって思ってたんだけど・・・
でも、学校じゃやっぱりヘンタイっていわれたりもしたよ。僕らが二人でいると、必ずどっかで誰かが「ヘンタイ」とか「オカマ」なんて言ってきた。始めはつらかった。洋輔と二人でいたかったけど、いられなかった。泣いちゃったりもした。でも・・・

「いいかげんにしろよな、俺の友達ヘンタイ扱いすんなよ」いつも、康弘が助けてくれた。僕らの中で、一番からだが大きくて、大人っぽい康弘。康弘を怒らせるようなやつは誰もいなかった。康弘は上級生とけんかしても、負けたことがなかった。そんな康弘が味方してくれて、そのうち僕らのこと変に言うやつはいなくなった。でも、僕らは知ってるんだ。康弘は、めったに怒ったりしないって。優しくて、友達思いで・・・ 康弘が上級生とけんかしたのも、いじめられてたクラスのやつを助けるためだった。そんな康弘に、僕らはある意味あこがれていたかもしれない。

でも、康弘と別れるときがきた。またアメリカに行くことになったんだ。あいつの父さんの仕事の都合で。
康弘は、アメリカに「帰る」って言ってた。それが、僕らの心を少し締め付けた。
「アメリカに帰ることになったんだ。父さんの仕事の都合で。今度は5年くらいは日本に来ることはないって」康弘は笑いながらそう言った。笑顔の奥になにがあるのかはわからなかった。でも、僕達との別れを悲しんでいるのはわかった。だって・・・涙があふれそうになってたんだもん。
あとから聞いた話なんだけど、康弘、アメリカに「帰る」話を聞いたその日、一晩中泣いてたんだって。人前で涙を流したことなんかない、僕らのリーダーが・・・

空港に見送りにいったとき、康弘は言ったんだ。
「おまえら、ほんとに愛しあってんなら、変なこと言われても、負けるなよ。絶対」
そう言い残して、康弘はエスカレーターの向うに消えていったんだ。
たぶん、涙を流しながら・・・その後ろ姿を見ながら、僕は洋輔の手を強く握った。洋輔も握り返してきた。
洋輔が、小さな声でいった。
「僕らが別れなきゃならないときなんて、こないよね」
「うん」それだけ答えるので精一杯だった。涙をこらえるのに必死だったから・・・
小学校6年の、9月のことだった。


        


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