巨大少年物語
おおきくなりたい
6.巨大少年の孤独、そして・・・


「おなか、空いたな・・・」そうつぶやいた。ごろっと寝返りをうつ。体育館が体の下敷きになった。(みんな、どこかに逃げたんだろうな)誰かを潰しちゃったかも、とは思ったけど、気にしないことにした。だって・・・仕方ないじゃない。なんとなく、そのままうとうとしちゃった・・・
目が覚めると、目の前に小さな山があった。よく見てみると・・・ハンバーガーが山盛りになってた。僕は、それを口に運んだ。包みのまま、口の中に放り込んだ。満腹するにはぜんぜん足らなかったけど・・・少しだけ空腹が満たされた。そしたらまた眠くなって来ちゃった・・・・

目が覚めると、すでにあたりは真っ暗だった。遠くの方で、犬の遠吠えが聞こえる。それ以外は・・・物音一つしなかった。しかし、視線を感じていた。(見張られてるんだ・・・)仕方がない、とは思った。しかし、同時に寂しさも感じた。昼間はそれどころではなかったけど、今、こうして夜の闇の中で一人っきりでいると、余計孤独を感じた。
(お母さんやお父さん、どうしてるんだろな・・・ 僕のこと、心配してるかな・・・それとも・・・)
今日一日のことを思い出す。(家を、道路を、デパートを、駅を・・・そして学校を壊しちゃった。そして、人も・・・殺しちゃったかも知れない。何人か・・・それとも何十人か・・・ひょっとしたら何百人か・・・)
急に怖くなった。(これからずっと、このままだったら・・・大きい体のままだったら・・・友達も、誰も相手にしてくれない。学校にもいけない。食べ物だってどうすれば良いのか分からないし・・・服だって・・・)
「ねぇ・・・誰か・・・助けてよ・・・・お願いだから、僕を助けてよ・・・」いつの間にか、少年はすすり泣いていた。そして、心の底から、静かに悲鳴をあげた。
その巨大な少年の静かな悲鳴に応じようとする者は誰一人としていなかった。誰一人・・・彼の両親も含めて、誰一人・・・・

やがて泣き疲れたのか、少年は再び眠りに落ちていった。

(願いをかなえてやったというのに・・・なぜお前は悲しむ?)
その声には聞き覚えがあった。あの声、夢の中の声・・・僕を大きくした声!!
(僕は・・・僕は大きくなんかなりたくない!)
(それはお前が望んだことだ)
(僕は・・・大きくなりたかった。でも、それは、普通におおきくなりたかっただけだよ。こんなに、むちゃくちゃ大きくなんかなりたくなかった!)
(お願いだから・・・元に戻してよ。こんなに大きいのなんて、いやだよ、小さくしてよ!!)
(もう一度だけ願いを聞いてやる。しかし、これっきりだ)
(小さくなれれば、それでいいよ。もうなにも望まないよ)
(それでは、もう一度だけ、お前の望みをかなえてやろう・・・)
(あなたは、誰なの? 神様なの?)
(そう呼ぶ者もいる。悪魔と呼ぶ者もいる。私が誰なのかは、お前達次第だ・・・)


目が覚めた。すでにあたりは明るくなってきていた。ヘルメットをかぶって銃をかまえた男の人が、僕を・・・・見下ろしていた。僕は・・・学校の校庭で寝ていたんだ。そして、夢の中でまたあの声がして・・・
別の顔が、さっきの男の横に並んだ。何人かの男が僕を取り囲み、見下ろしていた。僕は、元に戻ったんだ!!!

男が僕に、銃口を向けた。たぶん、僕は逮捕されるんだろうな。でも、あのまま、ずっと大きいままよりは、ずっといいと思った。みんなと同じ大きさで、みんなと一緒にいられるのであれば、逮捕されてもいいと思った。

でも・・・

その銃口は異様に大きかった。ふと、彼らがすごく高いところから見下ろしているのに気がついた。回りを見渡す。巨大な靴が、僕を遠巻きに取り囲んでいた。いや、靴だけじゃなかった。その靴からのびる巨大な足、そびえ立つような体、その上から見下ろす顔・・・

男が僕の方に手を伸ばした。その男の手のひらは、僕を包み込めるほどの大きさだった。

(小さくしてよ!!)夢の中で叫んだことを思い出した。
(ま、まさ・・・か・・・)
僕は走り出した。走りながら回りを見た。学校の校庭のはずだったが・・・僕にはとてつもなく広く感じられた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」僕は走りながら叫んだ。もう二度と、夢の中の声に望みをかけたりしないことを心に誓った。


その後、その少年の姿は誰も見ることはなかった。

<巨大少年物語「おおきくなりたい」 完>

 


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