電車のボックスシートに僕たち五人は座っていた。前にはクラスメートの二人、義幸と光輝、そして、僕の横には少し小さめの同じ顔が二つ。僕のいとこで二つ下の陽輔と雄輔だ。つまり、僕と陽輔と雄輔は、二人掛けのシートに無理矢理三人で座っている。まぁ、別にかまわないけど、でも少し窮屈。その上、この二人が窓の外をみてはしゃぐ度に、となりの雄輔の体が僕の体にぶち当たる。結局、僕はシートの端っこで小さくなって座っている。そんな僕等を義幸は興味深そうに見つめている。メガネの奥の目は、なんだか冷たく感じる。でも、こいつの目はいつもそんな感じだったからそんなに気にならない。そして、光輝は・・・
こいつだ、陽輔と雄輔がはしゃぐ原因は。さっきから馬鹿なことを言い続けて、二つ年下のこいつらといっしょになってはしゃいでいる。正直、誰かなんとかして欲しい、そう思わないでもない。でも、こんなやつらでも一緒にいると楽しい。だから、この連休に、陽輔と雄輔の二人でちょっとした旅行に行くのに、一緒に誘ったんだ。
ある日、突然おばさんから電話がかかってきて、僕は陽輔と雄輔の面倒を見るよう頼まれた。母さんは反対しなかった。二人は僕になついているし、僕は二人の面倒をよく見ている・・・と思われていたから。
この同じ顔をした双子の二人は、ちょっとおっさんくさい趣味を持っていて、日本中のあちこちの温泉を回ることを楽しみにしていた。でも、まぁ小六なので、たいしたとこには行っていない。今回も、少し電車に乗ったら行けるような温泉旅館を勝手に予約して(って、予約はおばさんがしたんだけど)、僕がその話を聞いたときにはすでに決定済みだったってわけで・・・
で、僕はこの二人につきあわされるはめになった。端から見れば、だけど。
正直、この二人の相手を僕一人でするのは体力的に無理だった。なにせ、この二人、はしゃぎすぎる。ただの小学生とはとても思えないくらい、一週間くらい寝ずにはしゃぎ続けても平気なんじゃないかと思えるくらいにはしゃぐんだ。だから、助っ人・・・といえば聞こえはいいけど、この二人の相手を押しつけられる奴を連れていかないと、僕が死んでしまう。そんな訳で白羽の矢が立ったのが、光輝って訳だったんだけど・・・
その光輝が陽輔と雄輔以上にはしゃいでいる。
(失敗した・・・)
僕はまだ電車に乗って十分もしないうちから後悔した。でも、それは僕等の温泉一泊旅行の、まだほんの始まりに過ぎなかった。
となりに座る雄輔が、僕の膝の上においた鞄と僕の体の間に手を突っ込んでくる。顔は光輝の方を見たまま、光輝とずっとしゃべったまま。それが僕の股間に届く。そこを軽く握る。僕はそれとなくその手を払いのける。そして、そこをガードするように、鞄をきゅっと抱きしめる。顔を上げると、義幸が窓の外の方を見ていた。けど、僕が顔を上げた瞬間に目をそらしたような気もする。
(やば・・・見られたかな)
まぁ、いとこなんだから、ときどきふざけてあんなことするんだって言えば納得はしてくれるんじゃないか、とは思うけど。
雄輔が僕の足をそれとなく蹴飛ばした。
(だって、仕方ないじゃん)
そう思ったけど、今は言えなかった。
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