ケンジには親はいなかった。もちろん、生物学的な意味での父親、母親はいるはずだ。だが、ケンジの父親が誰なのかはわからない。母親は、今のケンジと同じようなこと・・・売春を主としていたが・・・をしていた。そのため、彼女と関係を持った男は何人もおり、その中で誰がケンジの父親であったのかはわからなかったし、それを分かる必要もなかった。
ケンジの母親は、ケンジを産み落とすと、自分を売春させていた組織から逃げ出した。生まれたばかりのケンジを残して。
その後、彼女がどうなったのかは分からない。生きているのか、死んだのかも。
だから、ケンジは母親を知らない、組織も母親のことなどケンジに告げるはずもなく、生まれたばかりのケンジを将来の金儲けの道具として扱った。当然、ケンジは戸籍に入れられず、出生の届けもされていない。そういう意味で、「生きていない」のだった。
組織はケンジをレンタルするという事業を始めた。そのためだけにケンジは生かされ、教育された。従って、ケンジは学校に行ったことは無い。文字すら読み書きできなかった。
「お前、契約書類の説明してただろうが」
「あれは・・・教えられて覚えた通り説明しただけです」
俺は少し考え込んだ。
「じゃ・・・ひょっとして、名前も・・・」
ケンジに名前を尋ねたとき、こいつはしばらく考え込んでいた。それはひょっとすると・・・
「ありません」
(やっぱり)
「じゃ、ケンジという名前は?」
「あれは、映画でそんな名前があったから」
映画くらいは見る自由はあるってことか。
「映画、好きなのか?」
「お客様に連れて行かれただけです」
(そうか・・・それもレンタルの仕事でか)
この子は誰かに金儲けの道具として生かされているだけなんだ。そのために、必要最低限のことしかされていない。この子に自分の時間はない。自分の意志はない、そいういうことなのか。
「俺に殺されるだろうってことは分かっていたよね」
「はい」
「怖くなかったのか?」
「怖い・・・というのがあまりよくわかりません」
「でも、ペニス切られるときに怖いって感じたんじゃないのか?」
「あれが・・・怖い・・・ですか?」
感情すら知らないのか、この子は。
「なぜ殺されるとわかっていたのに逃げなかった? スーパーに行く途中とか、いくらでも逃げられたのに」
「お客さんが殺したいというなら、殺されるのが僕の仕事ですから」
俺は何も言えなくなった。この子にとって、命すら自分の物ではないのだ。
「でも、ホリさんといるのはなんだかよかったです」
「よかった?」
「頭なでてくれたから」
俺は処刑台ににじり寄って、磔にされているケンジの頭をなでた。
「うれしい・・・」
ケンジの目には涙が溜まっていた。
「愛情って言うんだよ。知ってる?」
「いえ・・・」
しばらくの間、二人とも口を開かなかった。
「俺を恨んでるか?」
次に口を開いたのは俺だった。
「なんで?」
「お前をこんなにしたからさ」
ケンジのぼろぼろの体を見た。腹に「ドレイ」という火傷の跡、黒焦げになったペニス、ここからは見えないが腫れ上がった睾丸と引き裂かれたアナル・・・
「恨んでませんよ、そういう契約だから」
力なく笑った。昨日の笑顔とは全く違っていた。
「そういう契約じゃなかったとしたら?」
ケンジはしばらく黙り込む。
「ホリさんにされたの、嫌じゃなかったですから」
またケンジは笑った。
俺は立ち上がった。ケンジは、俺の奴隷はもう口を閉じていた。
「処刑の時間だ」
さっき同じことを言ってから、もう4時間くらい経っている。
「はい、ご主人様」
俺はさっきこの奴隷のペニスを切断した包丁をもう一度握る。
「いろいろ苦しかったろう。死ぬのがうれしいか?」
「はい・・・ホリさん」
俺はケンジの腹に包丁を突き立てた。血があふれ出した。
包丁の背に手を添えて、ゆっくりと手前に引く。ケンジの腹が徐々に裂かれ、黄色い皮下脂肪があらわになり、その奥に内臓が見える。俺は勃起していた。
「ホリさん・・・」
ケンジが口を開く。
「もう何も言うな」
俺は手を止めなかった。包丁はケンジの臍を切り裂き、まばらな陰毛のすぐ上まで来ていた。俺は包丁を脇に置き、ケンジの足を固定していた釘を引き抜いた。自由になった両足を持ち上げる。そして、ケンジのアナルに勃起したペニスを押し込んだ。
「ご利用・・・あり・・・がとう・・・ござい・・・ま・・・した」
「この期に及んでそれかよ」
俺は少し笑った。そして、ケンジの切り開かれた腹の中に右手を突っ込んだ。ぬるぬるした感触。内臓をかき分ける。そして、ケンジの直腸の上から自らのペニスを掴んだ。
「またの・・・・ご・・・り、よ・・・う・・・」
右手で俺のペニスとケンジの大腸を掴み、ケンジの腹の中でしごき始めた。
「おまち・・・」
「ケンジ・・・」
ヌチャヌチャと音がする。血が飛び散る。ケンジが・・・俺の奴隷が今・・・
「し・・・・て・・・・・・ま・・・・」
「ケンジ!」
俺は息絶えたケンジの中で射精した。
「クリスマス、カミさんにねだられて高い買い物させられたよ」
「俺は彼女とホテルでディナー、金かかりますよね」
「でも、その後ちゃんとすることはしたんだろ?」
「そりゃ、ねぇ」
クリスマスも終わり、俺は平穏な日常に戻っていた。俺はまた、周りの奴らの家族サービスの話やら、彼女とのノロケ話を聞かされていた。
「堀内さんはどうされてたんですか?」
「別に何にもしてないよ」
「寂しいっすね、クリスマス何もなしなんて」
後輩が偉そうに言ってくれる。
「そうでもないさ」
「何かあったんすか?」
「秘密だよ」
いつもの会社、いつもの会話、いつもの風景、何も変わったことはない。
ただ、俺の家の冷凍庫には、まだあれが入っていた。
<Rent-a-BOY 完>
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