「旦那様、到着したようです」
「うむ」
ダイニングルームで広いテーブルに一人座った男が、傍らに立つ少し年配の男に答えた。テーブルの上では料理が湯気を立てている。男はワイングラスを傾ける。
「様子は?」
赤ワインを喉に流し込み、尋ねる。
「大人しいものです」
「そうか」
男の元にローストされた肉が運ばれてくる。男はフォークとナイフを手に取り、肉を切り分ける。
「風体は?」
「上の下と、上の上かと」
男は顔を上げる。
「二人いるのか?」
年配の男は答える。
「兄弟でございます」
「そうか」
男は肉を頬張り、そしてワインを味わう。少し考えごとをしているように見える。
「上が13の上の下、下が11の上の上といったところです」
「そうか」
男はワイングラスを手にする。
「そうか」
男は再び言った。
「なにかお迷いですか?」
年配の男が少し心配そうに言った。
「いや」
それだけ言って、ワイングラスを口に運ぶ。途中でその手を止め、グラスを掲げ、ワインの色を見る。
「まるで・・・」
その後は何も言わなかった。そして、男はゆっくりと、優雅に食事を続けた。
やがて、男は食事を終え、席を立つ。年配の男が男の傍らに寄り添う。
「如何致しますか?」
「うむ。会おう」
年配の男は、軽く頭を下げ、男の横に立って歩き始めた。
広い屋敷の奥のその部屋は、小さいが手の込んだ装飾が施してある。その部屋の小さなソファに彼等は二人並んで座っていた。
二人にはどこか気品のようなものが感じられた。白い肌、少し茶色がかった髪の毛、細い首、長い指。そんな、ガラス細工のように簡単に壊れてしまいそうな見た目。しかし、その奥に強さを秘めている、そう感じさせる何かを彼等は持っていた。
彼等の身なりは整えられてはいるが少し古びていた。まるで、この日のために、何年か前にあつらえた服を引っ張り出してきたかのようだった。それは、彼等兄弟が、今は決して良い暮らしをしている訳ではないということを物語っていた。
「兄様」
並んだ二人のうち、幼い方の少年が、もう一方の年長の少年に声を掛けた。彼等はすでにこの部屋で3時間ほど待たされていた。
「待つんだ」
年長の少年は短く答えた。彼は背筋を伸ばし、凜としたたたずまいで、ただ待っている。幼い方の少年はそんな彼を見て、姿勢を正す。
兄はそんな弟の様子を横目で見て、少し安心する。
(そう。今日は僕等の・・・)
兄は心の中で呟く。そして、弟に気付かれない程度に膝に置いた拳に力を入れた。
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