なぞのむぅ大陸
10万Hit記念作品
<第1部>
白い部屋の中で、少年は一人テレビを見ていた。いや、見ているというよりは、ただ眺めているだけだった。白い長袖のTシャツに白いズボン、靴下ははいていなかった。その部屋は壁も天井も、今少年が座っているソファもすべて白かった。テレビのキャビネットさえも白で統一されていた。 その部屋には少年以外誰もいなかった。少年は一人ソファにすわり、目の前のテレビに目を向けていた。その目は・・・死んでいた。テレビの画面が明るく切り替わる度に、彼の目にその光景が映り込んでいたが、しかし、その目が自ら光輝くことはなかった。 少年がおもむろにソファの前のガラステーブルに手を伸ばした。そこにあったガラスのコップをつかみ、口に運んだ。中に入っているミネラルウォーターを飲むのと同期して、少年の小さな喉仏が上下した。少年はミネラルウォーターを飲み干すと、また光のない目をテレビに戻した。 どこかで小さな音がした。凛と澄んだその音を聞くと、少年はソファから立ち上がり、白いズボンを下ろした。下着は身に付けていなかった。まだ子供臭さが残る顔とは不釣り合いなほど、少年の性器は大きく発達していた。しかし、陰毛はまだまばらだった。少年は再びソファに座り、性器を握りしめた。 白い壁に小さくうがたれた穴が、その光景を見つめていた。 やがて、少年の性器をもてあそぶ手がリズミカルに動き出した。勃起した性器は、さらに大きさを増した。少年は時々手を止め、そしてまたゆっくりと動かす。彼の性器を覆った皮が剥きおろされ、亀頭が露出した。また手の動きが速まっていく。少年は目を半分閉じ、その行為に没頭しているようだった。 と、白い部屋の白いドアが開いた。白衣の男が入ってきた。少年はそれでも手を止めない。男は少年の傍らでしばし彼の様子を眺めると、手に持っていた太めの試験管のようなものを少年に手渡した。 「・・・ん」少年の口からかすかなあえぎ声が漏れた。やがて、少年は男から受け取った試験管を性器の先端にあてがった。 「あぁ・・・」少年は小さくふるえると、精液を放出した。精液は少年の持つ試験管のなかに流れ込む。そして、彼はそれを男に渡した。男はそれを受け取ると、無言のまま部屋から出ていった。 少年は性器を勃起させたまま立ち上がると、Tシャツを脱ぎ、全裸になった。そのまま部屋の隅にあるドアに向かって歩く。そして、少年はドアを開け、バスルームに入っていった。 「ごくろうさまです」いくつも並んだモニターの前に座っていた男が振り向いた。 「いつものように分析に回してくれ」白衣の男は、別の男にそう言うと、持っていた試験管を手渡した。中には先ほどの少年の精液が入っていた。 「はい、わかりました」試験管を受け取った男は、モニター室から出ていった。 モニター室に並んだいくつものモニターには、あの白い部屋が写っていた。そして、ここであの少年のすべてが監視されていた。 「さて、いつものショータイムだ」白衣の男はそう言うと、一つのモニターを指さした。モニター室にいた他の二人もその画面に見入った。 少年は、こうやって生活のすべてを支配され、管理され、監視されていた。すべては彼らの決めたスケジュールに従い、例外は認められていなかった。すべての場所に監視用のカメラがあり、日常生活の一部始終が、トイレでの排泄行為に至るまで監視されていた。 彼らのスケジュールに従って目を覚まし、変化のない一日を過ごす。自慰行為も決められた時間に監視カメラの前で行い、精液は採取される。少年はそんな人形のような生活を繰り返していた。 人間ではないのだから、それも仕方がないことなのかも知れない・・・ここに連れてこられてから2年間、すでに少年はあきらめていた。 そんな少年にも、ほんの一時だけ彼らの目から逃れられる時間があった。 バスルームにある小さな湯船に張られた湯の温度を手で確かめると、少年は湯につかった。 「ふぅ・・・・・」彼らの話では、このバスルームにだけはカメラは設置していない、ということだった。湿気でカメラが壊れてしまうから、というのがその理由だと聞いていた。 湯につかって、少年は目を閉じた。そして、いつものようにあの頃を思い出す。まだ、自分がクローンであることを知る前、パパとママと住んでいたあの家のこと。そして、あの12才の誕生日、雨の朝の出来事・・・あれからもう2年が過ぎていた。 「かしはら・・・・の、のぶ・・・・・ひこ・・・」そう少年はつぶやいた。すでに自分の名前さえ忘れかけていた。あの雨の朝、両親の元から引き離されてここに連れられてきた。それ以来「柏原信彦」という名前は一度も使われなかった。柏原信彦は2年前に死んだ、そうあの男達には言われていた。あの日から、少年の名前は「2005RX1-23J9008」になった。それが少年の製造番号だった。 少年は手のひらで後頭部を触った。髪の毛を指先でかき分けて、頭皮を触る・・・そこに彼の製造番号が刻まれているはずだった。 少年は目を開けた。先ほどとは違う光が宿っていた。少年の手が湯船のなかで性器をつかんだ。そして、少年は湯船を出た。 「始まった」モニター室の男達は画面の前に集まっていた。試験管を届けに行った男も戻り、今は4人がそのモニターを見ていた。モニターの中では、先ほどの少年が洗い場でしゃがみ込んでいる姿が映し出されていた。少年の性器は勃起していた。少年は片手でそれを扱きながら、もう片方の手でアナルをまさぐっていた。このバスルームにもカメラが設置されていることを知らない少年の、赤裸々な姿が画面一杯に表示されていた。 「く・・・」少年は、自分の唾液でしめらせた人差し指をアナルに入れていた。第二関節くらいまで挿入すると、その指をくねくねと動かしてみる。そして、また、さらに奥の方へと挿入する。 いったん指を引き抜くと、今度はボディーシャンプーを少し手にとり、それを泡立てた。そして、アナルに塗りつける。少し刺激があるが、もうその刺激にも慣れていた。人差し指を一気に根本まで入れてみる。少しの痛みと・・・快感。毎日繰り返す単調な日々のなかで、毎日繰り返し行う、唯一どきどきする瞬間だった。 「まず1本」モニターを見ながら、誰かが言う。 性器を扱いていた手をアナルの方に滑らせる。人差し指が入っている穴に、もう一方の手の人差し指も入れる。そして、両方の手の中指をあてがう。 「ん・・・」少年の顔が少し苦痛にゆがむ。が、それでも中指は少しずつ少年の中に入っていく。やがて、少年のアナルには2本の人差し指と中指の3本が根本まで入っていた。 「昨日はここまでだったっけ」 「今日はどうするかな」モニター室の男達は、その光景を薄笑いを浮かべながら見ていた。 もう片方の手の中指を人差し指に沿わせるようにして入れてみようとしていた。 「いっつ・・・・」しかし、少年のアナルはなかなかそれを受け入れない。少年は一旦すべての指をアナルから引き抜き、そしてもう一度ボディシャンプーを手のひらに取り、指とアナルに塗りつけた。再びしゃがみ込み、そして、片手の人差し指と中指を挿入する。それはもう、抵抗なく入っていく。そして、あと2本・・・ 「入った、4本だ」 「俺の勝ちだな」モニター室の男は、金を受け渡ししていた。今日は何本入れるか賭けていた。 「あ、あ・・・」少年は、見られているとも知らずにオナニーに没頭していた。今は右手でペニスをしごきながら、左手の指を3本入れていた。指を引き抜き、またさし込み、抜き、入れ・・・やがて少年は絶頂を迎えた。先ほどとさほど変わらぬ量の精液がバスルームに飛び散った。果てた瞬間、少年の目から光が消えた。わずかな自分の時間が終わり、また彼らに管理され、監視される生活に戻った。 バスルームから出てきた少年は体を拭き、そして準備された服を着ると、またソファに座ってテレビを眺め始めた。 「オリジナルが同じでも、こうも変わるものなのかね」白衣の男がモニターを見ながら言った。 「そうですね、いわば正反対・・・・性癖について言えば、ですが」モニターの前に座っていた男が言った。 「それで十分だろう、同じオリジナルから作られたクローンであっても、同じにはならないことを立証するには」白衣の男は、手にしていたクリップボードになにか書き付けた。 「まぁ、浅間チーフの意向でこうなったって気もしますが」別の男が少しふざけた口調で言う。 「なんにせよ、こいつら2つは別々の進化を遂げているってことだ」白衣の男は、手にしていたボールペンでモニターとその反対側を指し示した。 「進化ですか・・・アナルオナニーがね」そう言って4人は笑った。 モニター室の反対側にも、同じようにいくつものモニターが並んでいた。そこには、アイボリーの壁に囲まれた部屋が映し出されていた。そちらのモニターでも、少年がソファに座ってテレビを眺めていた。先ほどの少年と外観は全く同じだった。ただ、こちらの少年は灰色の服を着ており、先ほどの少年に比べると皮膚の色が少し白かった。 「こっちとあっちを組み合わせてみたいものですね」モニターを見つめながら、男が言った。 「こっちのはでかいですからね」 「環境の違い・・・というところだな」白衣の男が言う。 「まぁ、いずれ組み合わせてみるのも面白いかもしれん」そう言って、白衣の男はモニター室から出ていった。 「環境の違いったって・・・浅間さんの趣味なんじゃないの?」 「しっ、聞こえるぞ」 男達は口を閉じ、またモニターに向き合った。 「かわいそうに・・・」誰かがつぶやくのが聞こえた。 アイボリーの部屋に、白衣の男が現れた。灰色の服を着た少年は、それに気付くと黙って立ち上がり、ズボンを脱いだ。白い部屋の少年と同じように、下着は身につけていなかった。その性器は驚くほど大きかった。少年は、足を開いて性器を軽く握って持ち上げた。少年の陰嚢が露出する。白衣の男は、注射器を取り出し、性器の根本、陰嚢の付け根あたりに注射針を差し込んだ。少年の顔に少し苦痛が影を落とす。白衣の男は注射器に入っていた薄い青の液体を少年の体に注入した。 白衣の男が去っていくと、少年はズボンを履き、何事もなかったかのようにテレビを眺めた。 「チーフ」アイボリーの部屋から出た白衣の男に別の男が呼びかけた。白衣の男は立ち止まった。 「所長がお呼びです。緊急とのことで」 「すぐに行く」白衣の男はそう言って、歩き出した。 「忙しいところすまんな」豪華な作りの部屋の奥に置かれた、大きな机の向こうで男が言った。 「緊急の用件だと聞きましたが」白衣の男が尋ねた。 「ついに処分が決まったよ」机の向こうの男は重々しく言った。 「処分? あれを処分するというのですか?」白衣の男は一歩机に近づいた。 「クローン廃止法が全面施行された以上、いつかはそうなることは君も分かっていたろう?」 「しかし、あれはいまや世界で2体しか現存しない、貴重なセカンドコピーですよ?」白衣の男は、大きな机に手をかけて、身を乗り出して反論した。 「クローンそのものが禁止されたんだ。セカンドコピーと言えど、すでに用済みなんだよ」 「しかし・・・」 「国が決めたことだ。我々国に仕える者は従わざるを得ないんだよ」 「それは分かっていますが・・・」 「なら、処分のことはよろしく頼む。期限は2日後だ。分かったね、浅間チーフ?」これ以上議論する余地はない、そう感じた浅間はあきらめてその命令に従うことにした。 「はい、わかりました」浅間は所長室を後にした。 所長室から出た浅間は、自分の部屋まで歩きながらこれまでのことを思い返していた。 2004年、最初のクローンであるFirst-1が15才になったことをきっかけとして、クローンの再コピー、つまりセカンドコピーの実験が浅間を中心としてこの研究所で極秘裏に行われた。First-1からさらに5体のクローンを生成する実験が開始された。 2005年、セカンドコピー5体が誕生した。それぞれ、個体番号にセカンドコピーを示す「-2」を追加し、「2005RX1-21J9006」、「2005RX1-22J9007」、「2005RX1-23J9008」、「2005RX1-24J9009」、「2005RX1-25J9010」と命名された。Second-1からSecond-5の誕生であった。 セカンドコピーは研究所内で育成され、当初、その生育においてなんの問題もないものと思われていた。が、2007年、突然Second-2が死亡した。解剖し、死因を突き止めようとしたが、健常体との差異は全く見られず、原因不明のまま処分された。この報告を受けた政府は、これ以降、セカンドコピーの生成を禁止した。 その後、2009年にも、Second-1、Second-4が死亡した。Second-2と同じく原因は分からなかった。未知のウイルス、あるいは2度のクローニングにより生じたDNA異常による生命機能停止等、様々な原因が考えられたが、どれも推測の域を出なかった。政府は、この時点で生き残っているセカンドコピー、すなわちSecond-3、Second-5を5年間研究所内で厳重な観察下に置くことを命じた。 しかし、この2体のクローンには、その5年間なにも起こらなかった。観察期間終了に伴い、Second-3は一般の家庭に預けられ、飼育されることとなった。一方、Second-5はそのまま研究所内で飼育され、この両者の生育は常時モニターされ、比較されるようになった。 そして、それから3年後の2017年、柏原家に預けられていたSecond-3の飼育契約が終了し、この研究所に回収された。身体機能をチェックされ、Second-5との比較データをさらに蓄積するため、その後、Second-3とSecond-5は研究所内で別々に飼育されることとなった。 Second-3が研究所に回収されたその日、浅間は彼を犯した。小麦色に焼けたその肌を、適度に発育した筋肉を浅間はむさぼった。アナルに指をねじ込み、自らのモノで犯した。 研究員は皆、浅間の異常性を知っていた。しかし、その才能は唯一無二と高く評価され、異常性は事実上黙認されていた。浅間がなぜSecond-3を襲ったのかはだれにも分からなかった。おそらく、浅間自身もなぜSecond-3だったのかと問われると答えることは出来なかったであろう。 しかし、そんな浅間の行為が、この後のSecond-3、Second-5の違いを促進することになった。二体の同じクローンをオリジナルとするセカンドコピーのもっとも大きな違い、それは彼らの性癖に現れた。 浅間は、さらにその違いを加速させた。ときどきSecond-3を犯し、Second-5には性器を増大させる処方を施した。彼らは、いわば浅間の玩具となっていた。 クローン廃止法が部分施行された時、この2体のクローンには政府から生存許可証が発行された。生存許可番号2および3であった。この段階では、政府の許可証を持ったクローンを処分することは禁じられていた。この2体は現存する、世界でたった2体のセカンドコピーであったため、研究対象として保護された。 政府の許可証は、結局この2枚と、一番最初のクローンであるFirst-1用の1枚の合計3枚しか発行されなかったという噂だった。 そして今年、クローン廃止法は全面施行され、政府の生存許可証は無効となった。が、Second-3とSecond-5の2体は研究所内で飼育され続けた。研究試料としての価値を浅間が主張したため、特例的に許されていたのである。なお、First-1は、クローン廃止法が全面施行された2019年1月1日に処分された。 「もう、ここまでか・・・」浅間は自室の机に広げたセカンドコピーの資料を乱暴に閉じた。椅子の背もたれに体を預け、目を閉じた。 翌日の午後、研究所内の浅間の部屋で、初めてSecond-3とSecond-5が引き合わされた。それまでは、同じ研究所内で、通路を挟んで向かい合った部屋で飼育されてはいたが、2体が顔を合わせることがないように、厳重に管理されていた。しかし、この2体の処分が決まった今、もうその必要はなかった。 Second-3は、自分と全く同じSecond-5を見て、ショックを受けたようだった。一般社会の中で飼育された経験があるSecond-3には、自分と全く同じ存在があることを容易に受け入れることは出来ないようだった。一方、この研究所から一歩も外に出たことがないSecond-5にとっては、自分が物であり、自分と同じ物があることは周知の事実だった。 「こ、これ・・・・クローン?」Second-3の間の抜けた質問が、彼のショックの大きさを物語っていた。 「お前と同じクローンだよ、『これ』は」浅間が「これ」を強調した。 「もちろん、お前達二つとも人間じゃないことはわかってるな?」浅間は追い打ちをかける。明らかにこの状況を楽しんでいた。 「さて・・・最後に楽しませて貰おう。お前ら、服を脱げ」浅間がにやりと笑った。 浅間は椅子に座っていた。浅間の股間にSecond-3が顔を埋めていた。勃起した浅間のペニスをSecond-3は口に含み、浅間に命じられるまま、頭を動かしていた。全裸のまま浅間のペニスを舐めているSecond-3のアナルを、Second-5の巨大なペニスが貫いていた。Second-5は激しく腰を動かし、その度にSecond-3は声を上げていた。苦痛の、いや、それだけではない、別の感情が含まれた声を。しかし、浅間に頭を押さえつけられ、喉の奥までペニスをくわえさせられたSecond-3の口からは、うめき声がもれるだけだった。 Second-3の口にたっぷりと精液を放出した後、浅間はまだ射精に至っていないSecond-5をSecond-3の体から引き剥がし、まだ誰も挿入したことのないSecond-5のアナルを無理矢理犯した。Second-5の悲鳴に浅間はさらに激しくその穴を突き上げた。痛みのために萎えたペニスをSecond-3に舐めさせ、しごかせた。さらに、Second-3の尻に手をかけ、アナルに人差し指を根本まで一気に差し入れた。 「いっ」Second-3が痛みのため、Second-5のペニスから口を離す。浅間はそれを押さえつけ、Second-5のペニスに押しつける。そして、またSecond-3のアナルに指を入れる。2本、3本、そして4本を付け根まで。浅間はずっと薄笑いを浮かべたままだった。Second-3とSecond-5の悲鳴に酔いしれていた。 行為が終わったのは、日付がかわったころだった。全裸のまま、浅間はソファに、2体のクローンは床に横たわっていた。 「お前ら、今日、処分される」浅間は何気なくそう言った。 「こ、殺されるの?」床に寝そべっていたSecond-3が体を起こした。 「なんで、なんでなんですか?」浅間の方に這い寄った。Second-5は身動きすらしなかった。 「あいつはわかってるようだぜ?」浅間はSecond-5を指さした。 「クローン廃止法、知ってるな」Second-3の顔を見た。 「でも、僕等は」Second-3の目に、あの部屋で飼われていたときにはなかった光があった。 「もうだめなんだよ。お前らも、今日処分されることが決定したんだ」浅間がSecond-3から目をそらした。 「そ、そんな・・・」 「あきらめろ」浅間はそう言って、服を着た。床に落ちていたSecond-3とSecond-5の服を彼らのそばに投げた。そして、小さな声でぽつりと言った。 「逃げろ」 浅間は窓に向かった。 |