「彰(しょう)〜」
あれから、ずっと俺は休みの度に、駅前のマックのあたりをうろうろしていた。彰が、また山野さん・・・あの男と会うのを邪魔しようと思っていた。ずっとそうやって見張っていた。そして今日、彰があの駅前のマックに入ろうとしているところを俺は呼び止めた。
「智・・・どうしたんだよ」
彰が少し驚いたような顔をした。
「ん〜・・・」
会ったときにどう話するかとか、全く考えてなかったことに気がついた。
「あの・・・別に暇だったから」
もうちょっとましな言い方あったろうに・・・そう思ったけど、でも口から出てきたのはこんなつまんない言葉だった。
「ふ〜ん・・・僕、ちょっと待ち合わせてるから」
明らかに、彰は俺とは会いたくなかったという雰囲気を漂わせている。
「山野さんと?」
考えるより前に言葉が口をついて出た。
「え・・・あ、まぁ、そうだけど」
「山野さんとなにするの?」
だんだん自分が深みにはまっていくのが分かっていた。でも、なぜか止められない。これ以上言っちゃだめだと思うと、それ以上のことを言ってしまう。
「智には関係ないことだから・・・今日はだめなんだって」
もう、ほんと、迷惑って顔してる。でも、その顔が、あのホテルで、あんな顔になるんだって思うと、ほんとに・・・
「俺、知ってるよ」
ほんとに・・・俺、なにを言ってるんだ!!
「な、なにを?」
「お前がホテルでしてること」
自分で自分が壊れてるって思った。もう、頭で考えてることと、口から出てくることが全然ばらばらだった。
「山野さんと待ち合わせて、ホテルでなにしてるかってことだよ」
そう言ったとき、俺の肩を誰かがぎゅっとつかんだ。俺はぎょっとして振り向いた。
そこには山野さんが立っていた。
「来い」
山野さんが一言だけ言って、俺の肩をつかんだまま、体を引っ張っていく。あのホテルに入る。山野さんはフロントを素通りして、そのままエレベータに俺の体を押し込んだ。無言のままボタンを押す。そのままエレベータは上がっていく。彰が少しおびえた表情をしている。そして、たぶん俺は、もっとおびえた顔をしているんだろう。
エレベータが12階に着いた。俺は山野さんに後ろから押されながら廊下を進む。そして、突き当たりの部屋の前に立たされる。山野さんが鍵を開ける。背中を押される。でも、俺は動かない。俺が動かないんじゃなくて、俺の足が動かない。山野さんが背中を強く押した。俺は倒れ込むように部屋に入った。そして山野さんが、最後に彰が部屋に入り、がちゃりと鍵をかけた。
「お前、どういうつもりだ?」
山野さんが俺に聞く。今まで聞いたことがないような声だった。
「あ、あの・・・」
山野さんが時計を見る。そして、ベッドの脇に置かれた鞄を開き、中からローションとディルドを取り出すと、それを彰に渡して言った。
「隣の部屋で客が待ってる。先に行って始めてろ」
でも、彰も動かない。
「ほら、早くしろ」
「智はどうなるの?」
彰が小さな声で山野さんに尋ねる。
「さぁな。こいつ次第だ。行け」
彰はもう一度おびえた顔で、でも心配そうな目で俺を見た。そして、ディルドとローションを抱えて部屋から出ていった。
「さて・・・」
ようやく山野さんが俺の肩をつかんでいた手を離した。俺はその場にへたりこんでしまった。
「ほんとに、どういうつもりだ? お前は」
俺はなにも言わなかった。
「すべてぶちこわしにするつもりか?」
しばらく黙って、俺の返事を待つ。でも、俺がなにも言わないでいると、俺の前にしゃがんで、髪の毛をつかんで顔を引き寄せた。
「彰から嫌われてもいいのか? あんなとこ見られたって知ったら、もう二度と口も聞いてもらえないぞ?」
「でも・・・」
ようやく、声が出た。小さな小さな声だったけど。
「でも、何だ?」
「でも、それを見せたのは山野さんでしょ?」
山野さんが俺の髪の毛から手を離した。
「こんな馬鹿だとは思わなかったよ」
そして、山野さんが俺の腕をつかんだ。
「まぁいい。お前も来い」
そして、俺を立ち上がらせようとした。
「いやだ!」
俺はその腕を振り払った。
「ふん・・・俺に逆らうとどうなるか、思い知らせてやるよ」
山野さんの拳がお腹に突き刺さった。
「ぐふ・・・」
俺は体を二つ折りにして、床に倒れ込んだ。
「ふん、手加減してやったつもりだがな・・・本気で殴られないうちに、言うこと聞いたほうがいいぜ?」
そして、また俺の腕をつかんでそのまま俺を立ち上がらせようとした。
「彰といっしょにいたいんだろ?」
「い・・・いや・・・」
俺は必死で逆らった。逆らって、そして、めちゃめちゃに手を振り回す。
「分からない奴だな」
山野さんが俺の腕を離した。自由になった俺の腕は、テーブルの上に置いてあった灰皿をつかんだ。そして、そのまま腕を振り上げた。
「ぐああぁ」
叫びながら灰皿を山野さんめがけて振り下ろした。鈍い音がした。灰皿は山野さんがあげた腕に当たっただけだった。俺はもう一度灰皿を振り上げる。もう、どうなってもかまわない、殺してもいいと思った。しかし、俺の腕はあっさりと山野さんに捕まれ、灰皿は床の絨毯の上に落ちた。
「いい加減にしろ!」
そして、山野さんの手が俺の頬を打った。
「こ、殺してやる!」
俺はすっかり逆上していた。腕を捕まれたまま足でめったやたらと蹴ろうとする。でも、すぐに山野さんにベッドの上に押し倒され、手足を押さえつけられた。
「ほんと、お前、馬鹿だよな」
「うるさい! この野郎!!」
「いい加減にしろ」
今度は手は飛んでこなかった。
「俺を殺してどうするつもりだ。え?」
俺の体に馬乗りになって、俺の手を押さえながら、山野さんが言った。
「そのあとどうなるのか、考えてんのか?」
そして、少し息を整える。
「俺を殺して、彰を自分のものにしたいんだろ、え?」
山野さんが俺の体をゆさぶった。
「彰を独り占めしたいんだろ?」
俺の体から少しずつ力が抜けていく。その通り、俺は彰を自分だけのものにしたかった。山野さんみたいにあいつを他の男に抱かせたりしたくなかった。だから・・・
「それであいつがお前のものになると思うのか? 自分のものにしたとしても、あいつはそれで満足できる奴じゃないことくらい、お前にも分かっているだろ?」
山野さんの言ったことが痛かった。さっき頬を打たれた時よりも、この山野さんの言葉の方が数倍が痛かった。そうだ、そうなんだ・・・あいつは・・・
「あいつは、特定の相手との普通のセックスで満足するような奴じゃないんだよ」
分かっていた。そんなこと分かっていた。でも・・・
「そうしたのはお前じゃないか!」
俺は反論する。彰をあんなことに引き込んだのは山野さんだ。
「そうかもしれない。でも、それはあいつが望んだことだ。あいつはああいうプレイが大好きなんだよ。今、まさにこの隣でしているように見せ物になるのが大好きなんだよ」
俺の体から力が完全に抜けた。
「でも・・・でも・・・」
俺の腕を押さえていた手からも力が抜けた。その手は肩に移動し、今度は俺の両肩がベッドに押さえつけられた。
「お前が彰と一緒にいたいのなら、選択枝は4つ。いままで通り、なにも知らずに友達として振る舞うか、俺のようにあいつを誰かに抱かせる側になるか、あるいはあいつを抱く誰かの一人になるか、それとも・・・あいつと一緒に見せ物になるか、だ」
そして、山野さんが俺の上から降りる。
「よく考えろ」
それだけ言い残して、部屋から出ていった。
智のことで思わぬ時間を食ってしまった。俺が隣の部屋に移ったときは、まさに彰がマワされている最中だった。部屋のドアのすぐ内側で、その様子を眺める。彰の気持ちよさそうな表情が見える。男達の欲望に満ちた顔が対照的だった。
(一人でもうまくやったんだ)
一人で客達の前に立たせたのは初めてだった。俺がなにも言わなくてもちゃんとできるかどうか少し不安だったが、どうやらそんな心配は杞憂だったようだ。彰はこうして客を引きつけ、客の前でみだらな姿を晒していた。
と、ドアがノックされた。俺は確認もせずにドアを開ける。誰がそこに立っているのか、確信があった。俺はそいつを部屋に招き入れた。男達はそんなことにも気付かずに、彰の体をむさぼっていた。
智は少し躊躇した。が、服を脱ぎ始めた。そう、こいつは決断したんだ。どんな決断なのか、俺は期待を込めて智を見守った。
やがて、男達と彰の間に、トランクス姿の智が割って入った。男達は少し引き気味にしてその少年を値踏みするかのように見つめた。彰が智のトランクスに手をかけた。
「恥ずかしい・・・」
俺は小さくつぶやいた。
「大丈夫だよ」
彰も小さくささやく。彰の手がトランクスの中に入ってくる。俺のペニスにふれる。体がびくっとなる。男達の視線が、俺のトランクスに集中する。まるで、トランクスが透けて、その中が見えているんじゃないかと思うくらいにじっとそこを見ている。顔がまっ赤になるのを感じる。彰の手が、少しずつトランクスをずらしていく。心臓が激しくどきどきする。やがて、ずり下がった俺のトランクスからペニスが見えそうになる。俺はそこを手で隠そうとした。でも、彰が俺の手をどける。一気にトランクスが下げられ、ついに男達にペニスを見られてしまう。
「や・・・だ」
「大丈夫だよ」
彰が俺の太股の内側をなで回す。体に入っていた力が少しずつ抜けていく。彰は俺の足をつかんで持ち上げる。男達に、俺のペニスと玉とアナルが丸見えになる。彰の指が俺のアナルに触れ、そこを中心に円を描くように指先でなで回す。
「ん・・・」
男達の視線がそこに集中する。彰の指が、アナルのしわの1本1本をほぐすようにゆっくりと動く。人に見られたことがない俺のアナルが、今、こうして人前に晒され、見せ物になっている・・・
「好きだよ」
彰が俺の耳元でささやいた。それは俺だけにしか届かない、本当に小さな声だった。その声で、俺の体から力が抜ける。彰は俺の足を抱えて、おむつを替えるような恰好で男たちの前に晒した。
(見られてる・・・彰が俺を見せ物にしてる・・・)
胸の奥に、なにか妙な感じがした。それは少しずつ、熱く、大きくなっていく。
(どくん・・・)
心臓の鼓動がなんだか大きく聞こえた。
(どくん・・・どくん・・・)
体が火照る。自分でも気が付かないうちに勃起していた。彰の指が俺のアナルに入っていた。男達が、それをずっと見つめていた。
「ん・・・」
声が自然に出てきた。
俺達は男達の前で一つになった。大好きだった彰と一つになれたことを幸せに思った。たとえ、それが見せ物であったとしても。
俺と彰は、男達に見られながら、初めて一つになり、お互いを求めあった。やがて、二人だけの見せ物に、男達が加わった。彰と一緒に男達に犯され、彰を犯し、犯された。大好きな彰と一緒に、あいつが大好きなことをされているのが、俺も大好きになりそうな予感がした。
「彰(しょう)〜」
駅前のマックに、いま、まさに入ろうとしている彰が見えた。俺は手を振って、あいつに駆け寄った。店内は比較的すいている。俺達は、ハンバーガーのセットを注文して、道に面した窓際の席に座った。
注文したハンバーガーを食べる彰を見ていた。ハンバーガーをつかんでいる彰の手を見ていた。
(あの手で・・・俺は晒される・・・)
何かが体の奥でうずいた。勃起した。
「ん?」
彰がハンバーガーをほおばりながら俺に尋ねようとしているのがわかった。
「んん、何でもない」
俺は自分のハンバーガーをほおばった。
やがて、店の入り口から山野さんが入ってくるのが見えた。俺は笑顔で山野さんに手を振った。そして、残りのハンバーガーを大急ぎで平らげた。
<SHOW 完>
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