「彰(しょう)〜」
俺は、帰ろうとして靴を履き替えている彰を呼び止めた。振り返った彰の顔に、一瞬うんざりとした表情が浮かぶ。すぐにその表情は消える。
「あのさ、明日、あいてる?」
明日の土曜日、また彰と一緒に過ごしたかった。
「あ、明日、だめ」
「なんで〜?」
思いっきり不満そうな声を出す。
「用事あるんだよ」
「えぇ〜」
でも、彰の表情は変わらない。
(これは、無理だな)
俺はそう悟った。
「ちぇっ・・・」
すねたふりをしても効果はない。
「部活行こっと」
俺は彰に背中を向けた。
きっと彰には脳天気なやつって思われてるに違いない。けど、俺はそんなに馬鹿じゃない。いや、馬鹿だけど・・・でも、あいつが一瞬見せる表情に気が付かないほどの馬鹿じゃない。俺が彰を呼び止めると、あいつは一瞬嫌な顔をする。嫌・・・ちょっと違うかな。でも、いい顔はしない。そんなこと、ずっと前から気が付いていた。
でも、彰に嫌われているわけじゃないことも間違いないと思ってる。ちょっと嫌がるけどキスだってさせてくれ・・・ないけど、無理矢理キスしても、怒ら・・・れるけど、そんなに嫌がってる感じじゃない。二人でいる間は二人とも楽しいのは確かだ。
でも、あいつは俺をどこか避けている。
たぶん・・・
あいつは俺のこと、嫌いじゃない。っていうか、好きか普通か嫌いかって分けたら、好きってとこに入るはず。でも、あいつには誰か他に好きな人がいるんじゃないかと思う。俺以外に好きな人がいるから、俺とも付き合ってくれるけど、でも、キスとかそういうことはしたくないんだ、と思ってる。
そして、あの人があやしいんじゃないか・・・最近はそう思うようになった。
あの人・・・山野さん。彰が同じ携帯を選び、そして番号を指定番号割引にしているあの人・・・間違いないと思う。
でも、あの人は、彰が俺のこと好きだって言ってた。俺に協力するって言ってた。ひょっとしたら、彰と山野さんは付き合ってるとかってわけじゃなくて、ただ、彰が一方的に山野さんのことを好きでいるだけなのかも知れない。
確かめてみたい・・・そんな気持ちがずっと心の中にあった。そして、その気持ちの通り、行動してみようと思った。
翌日、俺は彰の後をつけた。こんなことするなんて、我ながら馬鹿だと思う。だけど、もう気持ちが押さえられない。ずっと彰のことが好きで、あいつも俺のこと嫌いじゃないのに微妙に避けられていて、そんなことに気が付いてない脳天気な馬鹿を演じるのも限界だった。もし、山野さんにはその気がないんだったら、強引にでも・・・そんなことすら考えていた。
彰が駅前のマックに入っていく。少し離れた店内が見えるところからその様子を伺う。すぐに山野さんが姿を現した。
(やっぱり・・・今日の用事って、デートなんだ・・・)
店の中で二人はなにか話をしている。でも、少しなんか違う感じがした。
(二人とも、笑ってない)
そう思った。デートなら、特に彰は山野さんが好きなんだから、もっとニコニコしててもいいはずなのに・・・俺なら絶対そうする。でも、二人はそんな感じとは違っていた。そして、席を立ち、店から出てきた。
(これからどっか行くんだ)
二人に見つからないように隠れながら後を追う。二人は道を渡って、ホテルに入っていった。
(ホテル・・・)
そういうこともあるかもしれないとは思ってたけど、やっぱりショックだった。好きな人とホテルに入ってすることといったら・・・
(もう、どうでもいいや)
そう思った。そう思ったけど、その場から立ち去ることができなかった。なにも出来ないまま、俺はずっとその場にいた。
(山野さん、俺に協力するって言ったくせに・・・)
(あいつも本当は俺のことが好きなんだって言ったくせに・・・)
涙が出そうになるのをこらえた。
(やっぱ、俺って馬鹿だよな)
でも、こらえきれなかった。道の片隅で泣いている俺を何人かがいぶかしげに見ながら通り過ぎていった。
(確かめよう)
あきらめきれない俺は、ホテルに向かった。山野さんに裏切られたって思ってた。逆恨みだってことはわかってるけど、そうでも思わないと頭がおかしくなりそうだった。
ホテルのフロントまで言って、なんて言うか全然考えてなかったことに気が付いた。
「如何いたしました?」
フロントの男の人が馬鹿丁寧な態度で俺に尋ねる。
「あ・・・あの・・・」
俺は一生懸命考える。
「あの、お父さんが宿泊してるはずなんですけど・・・」
「お父様ですか・・・失礼ですが、お名前は?」
男の人は俺をじろじろと見る。
「あ、あの・・・山野です」
そんなとっさの嘘が通用するものなのかどうかわからなかったけど、そう言うのがやっとだった。
「山野様・・・しばらくお待ち下さい」
フロントの人が電話をかける。そうだ、当たり前じゃん、電話して確認するなんて・・・
(失敗した)
そう思って逃げ帰ろうとした。
「今、降りてこられるので、ロビーでお待ち下さいとのことです」
意外だった。ロビーでどきどきしながら待っていると、すぐに山野さんがエレベータから出てきた。
「智・・・お待たせ」
山野さんはそう言うと、俺をエレベータホールに促した。
「え?」
「ツインルームだから・・・フロントにはさっきの電話で言ってあるから」
そのまま、俺はエレベータに乗った。
「よくここがわかったな」
エレベータで二人きりになると、山野さんが尋ねた。
「その・・・たまたま見かけたから」
「たまたま・・・ね」
山野さんが意味ありげに笑う。
(もう、全部ばれちゃってるんだろうな)
でも、ばれてるとしたら、なぜ彰がいる部屋に俺を連れていくのか・・・そもそもなんで俺を部屋に入れるのか・・・いっぱい分からないことがあったけど、とりあえずなにも言わなかった。山野さんもなにも言わずに部屋まで歩いた。
「どうぞ」
山野さんに促されて部屋に入った。でも、そこには誰もいなかった。
「あれ、彰は?」
「やっぱり、二人で入るところを見ていたんだね?」
(しまった・・・)
「あ、あの・・・」
なにも言えなかった。俺はうつむいた。
「君はたぶん勘違いしているよ。俺と彰が付き合ってるって思ったんだろ?」
言葉が出なかった。その代わりに、俺はうつむいたまま頭を縦に振った。
「君はなにも知らないんだな・・・あいつのこと」
山野さんが俺をベッドに座らせた。その横に山野さんも座る。
「あいつはね・・・誰かと付き合ったりしないと思うよ」
俺は顔を上げて山野さんを見た。その言葉の意味が分からなかった。
「もし、君に相応の覚悟があるなら、本当の彰を見せてやる。ただし、たぶん後悔する事になると思うけどね」
山野さんが俺の顔を見る。
「後悔って・・・」
「人は誰でも他人に知られたくない部分がある。君にもそういうの、あるだろ? それを友達に知られたら、友達はどう思うかな?」
山野さんが立ち上がった。今度は俺の前にしゃがみ込んで、下から俺の顔を見上げる。
「そして、それを知られたことで、君とその友達の関係はどうなるか・・・考えてみたら、後悔するってことの意味が分かると思うけど?」
(そんなことになったら、もう、友達じゃいられなくなる・・・)
自分の心の奥の暗い部分・・・たとえば今日、彰の後をつけることにしたのも、そういう部分があったからだ。こんなことを彰に知られたら、絶対俺は嫌われるだろう。
「もし、君が望むなら、彰のそういう部分を君に見せてやる」
見たい・・・でも、見たくない。どうすればいいのか分からなかった。
「お、俺・・・彰が山野さんとHしてるんじゃないかって思って・・・それで、その・・・山野さん、協力してくれるって言ったのに・・・嘘言うから・・・」
「まぁ、半分当たってる。でも、半分は間違ってる。彰とHはした。でも、俺と彰は君が思ってるような関係じゃない。君に協力するってのも嘘じゃない。君がその気になれば、彰と付き合うこともできる。ただし・・・本当の彰を知って、それを受け入れられたら、のことだけどね」
(彰とHはした)
その部分が頭の中で何回も繰り返し聞こえた。
「本当の彰って・・・」
「それを知って、受け入れることが出来たら、俺達は最高のパートナーになれると思うけどな」
山野さんの言葉が、俺にとって希望なのか絶望なのかわからなかった。でも、もう引き返すことはできなかった。俺は山野さんに言った。
「俺、本当の彰を知りたいです」
「条件が二つある。一つは今日ここで見たことは絶対に誰にも話さないこと」
「はい」
山野さんが俺の肩に手を置いて言う。
「もう一つは、今日は隠れて見ていてもらう。途中で出てきたり、声を出したりしないこと。もし君が見ていることが彰にばれたら、二度と友達には戻れなくなる。いいね?」
「はい」
俺は覚悟を決めた。彰のことならどんなことだって受け入れられる自信はあった。どんなことでも受け入れる覚悟もあった。でも・・・不安もあった。
「よし。じゃ・・・2時間くらい隠れていてもらう。いいか?」
俺はトイレに行き、そして山野さんの指示通り、クローゼットの中に隠れた。クローゼットの扉の隙間からベッドが見える。
「じゃ、みんなをこの部屋に連れてくるから・・・なにがあっても出てこない、声を出さないって約束を忘れるなよ」
「はい」
ドアが開く音がした。山野さんがいなくなった部屋のクローゼットで俺は息を潜めて待った。
(みんな? みんなって・・・・・)
そう思ったときに、部屋のドアが開く音がした。声はしない。まもなくクローゼットの前を誰かが通る。一人・・・二人、三人。三人目が山野さんだ。山野さんのあとに彰がいる。彰がベッドに上がった。山野さんはベッドサイドの椅子に座る。もう一つの椅子に一人、もう一人は床に座った。ベッドの足下の方にも誰かがいた。俺をのぞいて合計5人。彰と山野さんと知らない人が三人。
「じゃ、第2部ということで・・・場所を変えて始めましょうか」
山野さんの声だ。その声に反応して、彰がベッドの上でもぞもぞと動き始める。服を脱いでいた。上半身裸になる。そして、下も。
クローゼットの中で、俺は唾を飲み込んだ。その音がみんなに聞こえるんじゃないかと思った。全裸になった彰のペニスは勃起していた。それをしごく。ゆっくりと・・・まるで見せつけるように。
やがて、彰はベッドの上に仰向けになって、膝を抱えた。アナルや金玉が丸見えだ。そして、彰はそこに指を当てる。指で自分のアナルをつついている。男がベッドに近づいて座り直した。彰は、男達に自分のアナルを見せていた。自分で指を入れる。そして、指でアナルを広げる。彰のアナルが広がる。
(すげぇ・・・)
そう思った。あんなにアナルが広がるとは思わなかった。そこを男がのぞき込む。
(彰が、お尻の穴の中を他人に見せている・・・)
なんだか、俺のお尻の穴もむずむずした。勃起していた。
彰のアナルに男の指が入っている。それを他の男が見ている。別の男と交代して、また指を入れている。男が彰のアナルに指を2本、3本と入れていく。
「ん・・・あぁ」
彰のあえぎ声が聞こえる。
(気持ちいいんだ・・・)
山野さんが何かを彰に手渡した。でっかいディルドだ。男が彰のアナルから指を引き抜く。彰はディルドをアナルに入れる。でっかいディルドが彰の中に入っていく。俺はまた唾を飲み込んだ。
彰は、そのでっかいディルドを根本まで押し込むと、手を離した。男の一人がそのディルドをつかんで動かし始める。
「あぁ・・・」
彰の声。ディルドがずるずると引き出され、そしてまた根本まで押し込まれる。徐々にそれが早くなり、激しくずぼずぼと動かす。
「ん・・・ん・・・ん・・・」
ディルドの動きに合わせて彰の声が聞こえる。ぐちょぐちょという音も聞こえる。
「すげえな、こいつ」
男の誰かが言った。彰は男にディルドで犯されながら、勃起したペニスをしごいている。それを見ながら、俺もズボンの上からペニスをさすっていた。
彰が男の手からディルドを奪い返す。足を上げ、両手でディルドを持って、激しく動かす。大きな音がする。あえぎ声も聞こえる。そして、ずぼっと引き抜いた。
「んあ!」
彰のアナルがぽっかりと開いていた。男達はまたそれをのぞき込んだ。彰の勃起したペニスがびくびくと上下に揺れていた。
(すげぇ・・・)
どきどきしていた。ペニスがはち切れそうだった。俺は、チャックを下ろしてペニスを引っぱり出した。
一人の男がベッドに上がった。男はいつの間にか、全裸だった。他の二人も服を脱いでいた。彰がその男の勃起したペニスをくわえる。他の男もベッドに上がり、彰の体に覆い被さる。男達が、彰の体をむさぼり始める。彰はそんな男達のペニスに手を伸ばし、そして、それを自分のアナルに導いていた。男が彰に背中から抱きついた。男が腰を動かすと、彰があえぐ。別の男がそんな二人のつながっている部分をのぞき込んでいた。
3人の男に代わる代わるアナルを掘られながら、彰はあえいでいた。こんなに気持ちよさそうな彰は初めて見た。3人とも彰の中で終えると、山野さんが皿をベッドに置く。彰がその上にしゃがみ込む。彰のお尻から、3人分の精液が出てくる。
彰はそれを脇にどけると、壁に背中を押し当てて、足を大きく開いてオナニーを始めた。片手でしごき、空いているもう片方の手でアナルを触り、指を入れる。
「あぁ、イく!!」
大きく叫ぶと、彰はあの皿の方を向いて、そこに溜まっている3人の精液の中に自分の精液を出した。手に付いた精液を舐め取る。皿を男達の前に置く。そして、四つん這いになって皿を舐める。どろっとした精液が、彰の舌から糸を引く。舌で皿をこするように、何度も何度も舐め取った。
きれいに皿をなめ回したあと、ベッドの上に彰が正座した。
「今日は回して頂いてありがとうございました」
そう言って、ベッドに頭をすりつけるように土下座した。
そんな彰を見ながら、俺は手のひらの中に射精した。
男達が部屋から出ていったあとも、彰は全裸でベッドの上にいた。俺はクローゼットから出ることも出来ず、ずっと体を堅くして扉の隙間から見ていた。
「今日はどうだった?」
山野さんが彰に尋ねた。
「ちょっとね・・・もっと激しくされたかったかも」
彰は笑顔でそんなことを言っている。
「お前、ほんと変態だもんな。マワされるの大好きだし」
これが本当の彰・・・
「ねぇ・・・今日はしないの?」
彰が山野さんに尋ねる。
「ああ、今日はちょっと・・・な」
「ちぇ・・・」彰は不満そうな声を出す。そそくさと服を着た。
「ほら、今日の分だ」
山野さんが彰にお金を手渡した。
「うん」
彰は、それをそのままズボンのポケットにつっこんだ。
「今度はいつ?」
「また連絡する」
そして、彰が部屋から出ていった。
「もういいぞ」
山野さんがクローゼットの扉を開いた。
「どうだった?」
俺の顔をのぞき込む。まともに目を合わせられなかった。
「後悔するって言ったろ?」
山野さんが俺の体をベッドのほうに押しやった。俺はベッドの端に座る。
「後悔・・・はしてないと思う・・・たぶん」
自分のつま先を見ながら言った。
「びっくりはしたけど・・・でも、なんか・・・」
「なんか・・・何だ?」
山野さんに促される。たぶん、分かってたんじゃないかと思う、俺がそう感じたことを。
「すごかった」
「すごかった・・・か。勃起したのか?」
俺は答えられなかった。
「彰が見せ物になっているのを見て、勃起したんだろ?」
俺は仕方なく頷いた。
「そして、オナニーもしたんだろ?」
また頷く。隠しても仕方がない。
「お前もそういう奴なんだよ。友達が見せ物になるのを見て、あいつがかわいそうとか思う前に、興奮するような奴なんだよ」
「違う!」
そうはいったけど、本当に違うのか・・・勃起したのも、見ながらオナニーしたのも事実だ。本当に、俺は、あいつを・・・
急に山野さんが俺を押し倒した。
「お前がどんな奴か、試してやる」
そして、俺の服はあっと言う間に山野さんに脱がされた。
「やめろ!」
「本当にやめて欲しいのか?」
そして、山野さんは勃起した俺のペニスをつかんだ。
「これがお前の本性だよ」
そして、山野さんが俺に覆い被さってきた。彰が男達にされたように、俺は山野さんに犯された。初めての挿入は、痛くて痛くて悲鳴をあげたかったけど、山野さんの手で口をふさがれて、声も出せなかった。涙がぽろぽろと流れ落ちた。
でも・・・勃起してた。
俺がホテルを出たころは、もう薄暗くなっていた。山野さんに犯されたアナルが歩く度に痛かった。悔しくて涙が出そうだった。あんな奴とあんなことをしている彰にすら、少し腹が立っていた。
(絶対・・・絶対・・・)
絶対、なにをどうしたいのか・・・自分でもわからなかった。でも、俺はつぶやき続けていた。
(絶対・・・絶対・・・)
続きます・・・念のため(^^; |