「彰(しょう)〜」
俺は無意識に体を隠した。彰のあとを追って、少年が店から出てきた。彰と同じくらいの歳で、あいつより少し体が大きかった。
何事か話をして、そして二人で歩き去った。二人が手をつないでいるのを、俺ははっきりと見た。
彰と出会ってから、まだ1年も経たない。たまたま立ち寄ったトイレにあいつがいた。最初はそれだけ。でも、あいつはペニスを勃起させていた。他に誰もいないトイレの小便器の前で、あいつは勃起したペニスを人に見せるようにして立っていた。
そんな少年とそれなりの仲になるのにあまり時間はかからなかった。それから1ヶ月もたたないうちに、俺は彰とセックスした。さらに1ヶ月もすると、俺はあいつの性癖を理解した。たまたま遅い時間にか会えないとき、あいつの塾帰りに待ち合わせた夜の公園で、俺は本当のあいつを知った。
時間がなく、公園の暗がりで俺達はセックスした。そのとき・・・初めは屋外で全裸になることに消極的だったあいつが、いざ脱いでしまうといつもとは全然違う積極的なセックスを求めた。いつもなら横たわり、愛撫されることを待つあいつが、自分から四つん這いになり、くわえ込み、自ら受け入れた。その変わり様に俺は驚かされた。"人に見られるかもしれない"ことが、あいつを興奮させるということがわかってから、俺はあいつの使い道を考えて、そして実行に移した。ネットで集めたギャラリーの前でオナニーさせ、セックスし、そしてギャラリーともさせる。それであいつは満足し、俺は金を受け取る。俺にしても、こんなガキが見知らぬ男達の前でみだらな行為をし、そしてマワされるのを見るのがけっこう気に入っていた。
そうそう簡単にギャラリーは見つからなかったが、それでも月に1回くらいはあいつを使ったショーができるくらいにはなった。そのたびに結構な小遣い稼ぎができる。あいつには1万渡す。何人相手をしても1回1万円というのは決めていた。あいつはそれ以上欲しがらなかった。金をもらうことで得られる満足よりも、見られながらすることによる満足の方が大きいんだろう、というのは、あいつの様子を見ればよくわかる。
だから、あいつも積極的にショーをやりたがった。俺が困るくらいに。
ショーはだいたい駅前のホテルでやっていた。ギャラリーはそれぞれ自分で部屋を取ってもらう。俺達は2部屋予約する。一室は控え室兼荷物置き場。そして、もう一室でショーを行う。場合によっては、ショーが終わったあと、あいつを1晩貸し出すこともある。もちろん、別料金だが。
ホテルに行く前の待ち合わせには、やはり駅のそばにあるマックを利用していた。そのため以外には使ったことはない。いつもはあいつが先に来ていて、ハンバーガーを頬ばっている。俺は店の外からあいつが来ていることを確認してから、コーヒーだけを注文して、あいつの待っている席に行く。そして、食べ終わったらホテルに向かう。
その日は、たまたま小腹が減ったときにそのマックの前を通りかかった。
(たまには・・・あいつが食ってるハンバーガーを俺も食うか)
そう思って、店の前に行こうとしたときだった。その声が聞こえた。
「彰〜」
俺は無意識に体を隠した。店からあいつが出てきた。そして、そのすぐあとからもう一人の少年が姿を現した。俺は二人に気付かれないように見つめていた。
あいつともう一人の少年は、何かを話していた。そして、二人で歩き去っていった。
(友達とマックか・・・)
普通なら、興味を引くようなことではない。あいつだって、友達と来ることもあるだろう。だが・・・俺は、はっきりと二人が手をつないでいるのを見た。
(中学生だよな、あいつ・・・小学校の低学年ならいざしらず、中学生で男同士で手をつなぐか?)
二人の関係が気になった。しかし、すでに二人はどこかに消え去ったあとだった。
俺はあいつの学校も住所も知っていた。なにしろ学校から帰る途中にショーをしに来るようなやつだから・・・だから、あの少年のことも簡単に調べられるだろうと思った。きっとあんな性癖のやつの相手なんだから、あの少年もそれなりに・・・そして、俺はあの二人がセックスしているところを想像する。
(俺達のショーに新しい出し物が増えるかもな)
俺はちょっと興奮した。
思っていたほど簡単にはことは進まなかった。
当然ながら、直接学校に問い合わせるようなことはできない。時々、あいつの下校時間に学校を見張ってみたが、空振りに終わった。
じゃ、登校時になら・・・ということで張ってみたら、あいつら二人はいつも一緒に登校してくることがわかった。でも、あの少年はいつも彰の家の前で待っている。つまり、二人が一緒に登校することがわかっても、あの少年の家は突き止められない、ということだ。名前も住所もわからない少年を、どのように手に入れるか・・・俺は賭をすることにした。
「よう、彰」
あの二人が登校する時間に合わせて、いかにもたまたま通りかかったかのようなふりをして、俺は二人の前に立った。さすがに登校するときは手をつないではいなかった。
「あ・・・」
彰が一瞬固まった。無理もない。今まで、二人一緒にいるところを極力知り合いに見られないようにしてきたのだから。
「友達か?」
俺は、何気ないふりをして、声をかけた。
「あ・・・はい」
彰はとまどっているようだった。
「初めまして。彰がいつもお世話になってます」
俺はその少年の方に手を差し出した。
「彰の親戚の山野弘幸です」
もちろん、本名じゃない。いつもの偽名。でも、少年はまんまと俺の罠にかかった。
「あ、柚木・・・柚木智です」
俺達は握手した。
「じゃ、俺、仕事だから・・・ちゃんと勉強しろよ」
そう言って、その場を離れた。二人から十分離れたのを確認して、俺はあの少年の名前をメモした。
「く・・・ん・・・・」
ベッドの上で彰が声を上げる。今日の客は3人、3人ともさっきからしつこく彰の体をむさぼっていた。目隠しをされたままの彰は、口に触れる物はなんでも舌を這わし、くわえ込んでいた。俺は3人の好きなようにさせていた。一応のルール、体に跡が残るようなこと、怪我するようなこと、流血するようなことはNG。それは3人とも心得ているはずだった。
彰が、彼らが行為に夢中になっている間、俺は携帯をいじっていた。それは、彰の学生服のポケットに入っていたものだ。今までにもこうしてこいつの携帯で時間つぶしをしていたことはあった。でも、今日は目的があった。俺はこいつの携帯で、"智"を探していた。確か見た記憶があった。そして、それは簡単に見つかった。
智とのメールのやりとりが残っている。他のメールは残っていないが、智とのメールのやりとりだけは、かなり古い物まで残っている。俺はそれを見る。智は彰のことが好きなんだということがはっきりとわかる。彰はあまり積極的ではない。そんなことが保存されているメールから見て取れる。俺はアドレス帳で"智"を探す。その少年のメールアドレスと電話番号をコピーして、俺の携帯宛にメールする。そして、今、俺が送ったメールと送信履歴を削除した。
これであの少年、智の連絡先は手に入れた。あとはあの少年そのものをどうやって手に入れるか、だ。
彰に知られないように手に入れるには・・・俺は彰の携帯をあいつの学生服のポケットに戻した。ベッドの上で、目隠しされたまま一人のモノをくわえ、一人のモノに掘られ、そして一人にくわえられている彰を見ながら俺は考え始めた。
そして、もう一度、彰の学生服を手にとって、あいつの携帯を取り出しメールを送信した。もちろん、そのあと削除したのはいうまでもない。
ショーが終わったあと、俺は一人でマックにいた。やがて、入り口に智が姿を現した。俺は席を立って、智のほうに歩み寄った。
「智君だったよね?」
智は固い表情で俺を見上げる。
「ほら、この前会った、彰の親戚の・・・」
「ああ、はい」
智は思い出したのか、少し表情をゆるめた。
「彰に晩飯おごってやろうと思って、君も一緒にって誘ったんだけどさ」
「彰からメールもらいました」
それは俺が送ったメールだった。
「彰は?」
智がマックの店内を見回す。もちろん、彰はいない。このことを知らないんだから。
「なんか、携帯に電話かかってきて、帰るってさ・・・電話の相手、君じゃなかったのかい?」
「俺じゃないです」
「そうか・・・」
そして、俺は少し考えるふりをする。
「じゃ、せっかくだし、晩飯はともかくとして・・・ハンバーガーくらいおごってやるよ」
そう言って、智の肩を押して、カウンターの前に連れていく。
「いや、いいですよ」
「遠慮するな」
そして、半ば強引に注文させ、一緒にテーブル席に座った。
「ありがとうございます」
そういって、智が軽く頭を下げた。
「なにもせずに帰したら、彰に怒られるからな」
俺はそう言って笑った。智もようやく笑顔を見せた。
「じゃ、いただきます」
しばらくは他愛のない話をしていた。学校のこと、ゲームのこと、音楽のこと・・・そして、頃合いを見計らって、俺は切り出した。
「智君は彰が好きなんだろ?」
急にそんなことを言われて、智は驚いたような目をした。
「え、いや、別に・・・友達だから」
そんな言い訳めいたことを口にする。
「ごまかさなくてもいいよ。彰から聞いてるよ、君にキスされたって」
智はなにも言わなかった。無言のまま、うつむいてしまう。
「ああ、俺、そういうの理解あるつもりだし。別に隠さなくても大丈夫だよ」
そう言っても、智はなにも言わない。
「でも、あいつはいまいち積極的になれないんだよな・・・あいつも君のことが好きなのにさ」
ようやく、智が顔を上げた。
「君も気付いてるだろ? 彰も本当は君のことが好きだってことくらい」
「ええ、まぁ・・・たぶん、そうだと思います」
ようやく、会話にのってきた。
「でも、あいつはそういうのに臆病なんだよ。君が好きだし、君にキスされたりするの、嫌じゃないくせに嫌だって言ってしまうんだよな」
「そういうの、ほんとに嫌なんだと思います」
俺はテーブル越しに智に顔を近づけた。
「君は・・・どうなりたいんだ?」
智は少し赤くなった。
「一緒にいたい・・・」
小声で言った。
「でも、あいつ、俺がそういうことするの嫌いだから」
またうつむいた。
「協力しようか?」
「え?」
智には意味がわからないらしい。
「要するに、取り持ってやろうかってことだよ」
「取り持つって?」
「たとえば・・・あいつがその気になるように、けしかけるとかさ」
「そんなこと、できるんですか?」
智の目が少し輝く。
「まぁ、これでも俺はあいつの相談とかにいろいろ乗ってるし、あいつの性格とかよく知ってるから・・・なんとかできるかもな」
相談にのったことはないが・・・あいつの性格、正確に言えば性癖をよく知っているのは嘘じゃない。
「でも・・・」
俺はテーブルの上のトレイを持って立ち上がった。智は少し驚いたようだった。
「あんまり遅くなると、ご両親心配するだろ?」
そして、俺達はマックを出た。
「もしよかったら、携帯のアドレスと番号を教えてくれたら、メールでいろいろ相談出来ると思うけど?」
歩きながら、俺は智に言った。智は携帯を取り出して操作し、画面を俺に見せた。
「これです」
俺はそれを自分の携帯に登録するふりをした。もちろん、すでに彰の携帯を見て登録してあったが。
「じゃ、メール送ってみるよ」
俺は、自分の携帯番号を入力してそれをメールで送る。智の携帯に着信する。
「それが俺の番号。その番号とアドレス登録しておいてよ」
こうして、俺は智と直接つながる手段を得た。
「それから、今日のことは彰には秘密な」
「なんでですか?」
急に怪訝そうな顔をして、智は俺を見上げた。
「君も彰の性格知ってるだろ? 俺と君が会ってこういう話してるって知ったら、あいつはどんな反応すると思う?」
「怒る」
智は考えるまでもなく答えた。
「わかってるじゃないか。だったら会わなかったことにしておいた方がいいんじゃないか?」
智は少し考え込んだ。
「ん・・・・・わかりました」
俺は智に笑顔を見せた。それは、表面だけではなく、心からの笑顔だった。これでとりあえずOK。今日の目的は果たした。俺は智と別れた。この先、どうするか、それを考えると、自然と顔に笑みが浮かびそうになる。それを押さえながら、俺は駅に向かって歩いた。
「彰〜」
いつものように智の声がした。僕はあわてて鞄を持って靴を履く。玄関のドアを開けると、智が待っている。
「おはよ〜」
そして僕達は一緒に歩き出す。智が妙に機嫌がいいのにすぐに気が付いた。
「昨日、どうしたんだよ?」
「昨日?」
僕は一瞬何のことかわからなかった。でも、すぐにショーの後であの人が言っていたことを思いだした。"お前がやってる最中に携帯に着信あったぞ"って。
「ああ、ごめん、取り込んでたんだ」
「そっか」
智はそれで納得したみたいだった。そう言えば、あの人はそう言ってたけど、携帯には着信の表示はなかったんだっけ。電源も切れてたから、またバグったのかな・・・前からたまに電話が途中で切れたり、急に電源切れたり登録してあったデータが消えたりするから・・・
「ね、今日は部活は?」
「あるけど?」
「そっか・・・」
「なに?」
智の目が爛々としている。こりゃ、失敗したかも・・・
「携帯、最近よくバグるみたいだし・・・機種変しようかと思ってさ」
「今日?」
「うん、一旦家に帰って、親に言ってからだけどさ」
「お金は?」
「結構貯めてるから」
あのショーでもらうお金が結構溜まっているのは確かだった。あれを使えば、一番新しいのだって買える・・・と思う。
「やった! ワンセグ見れるやつな」
「僕の携帯だよ?」
「だから、ワンセグ!」
ったく・・・智が盛り上がり始めている。この様子だと・・・
「俺も行く」
やっぱり・・・・・
「部活あるんでしょ?」
「サボる!!」
なに笑顔で宣言してんだ、こいつは。ま、予想してたことだけど・・・
「いいのかよ・・・こないだもサボったばっかでしょ」
「いいの。お前が優先」
「はいはい・・・」
まぁ、智はけっこう携帯に詳しい・・・といっても、どうでもいいことばっかだけど・・・から、一緒に来てくれるのはありがたいかな、とも思う。
「んじゃ・・・放課後ね」
智が勧める機種も悪くないんだろうとは思うけど、でも、僕はもう決めている機種があった。あの人と同じのが欲しいと思っていた。あの人もこないだ替えたばっかりだったから、最新機種のはず。でも、それがワンセグが見られる携帯だったってことは、ショップで智に言われるまで知らなかった。
「これ!」
ショップに入るなり、僕は智が何か言う前にディスプレイされている見本を握りしめた。
「お、いいセンスしてるねぇ」
智が冷やかし半分に言う。
「最新だし、ワンセグ見られるし、まぁ合格だな」
「へぇ、これ、ワンセグ見られるんだ」
僕は手の中の見本をいじりまわす。
「何だよ、知らなかったのかよ」
智が同じ携帯の別の色の見本を手にとって、説明を始めた。
「ほら、ここにあるでしょ、TVってボタンが・・・」
こうなると、30分くらい機種説明が止まらなくなる。だから、僕は智の説明を無視して店員に機種変更してもらうためにカウンターに行き、椅子に座る。横にはしっかりと智が座る。
「あの、これに機種変更お願いします」
手続きの間、僕はほとんどなにも言わなかった。僕のかわりに横から智があれこれいって、店員さんに対応する。僕は時々智に聞かれて答える程度。なんというか、楽なんだけど・・・ねぇ。
「色はどうされますか?」
「シルバー」
って、なんで色まで智が決めてるんだよ・・・僕はあわてて訂正した。
「青にしてください」
「なんでだよ・・シルバーの方が渋いじゃん」
「いいんだよ」
だって、あの人がシルバーだから・・・僕は色違いにしたいんだ、なんて言えないし。
「それから、指定番号割引は今のままにしといて下さい」
放っておくと、智が勝手に変更しかねないし。店員が申し込み用紙をプリントする。今のプラン、それから表示されている指定番号割引の相手の番号を確認する。智が横からのぞき込んでくる。
「あれ?」
智が小さくぶやいた。
「なに?」
「なんでもない。勘違い」
そう言って、智は僕が申し込み用紙に記入するのを見守った。
彰の書類に表示されている指定番号に見覚えがあった。昨日登録した山野さんの番号だった。
(へぇ・・・指定番号にしてるんだ・・・)
ホントにいろいろ相談とかしてるんだなって、そのとき改めて思った。そして、山野さんも同じ携帯だったことを思い出した。
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