孝典は学級委員だ。
中学2年になってクラス替えがあり、同じクラスに知らない顔が増えた。それでも、クラスの多くは学級委員の投票の時には孝典に票を投じた。その理由は一つ。孝典は優秀だからだ。
中1のときからテストの順位はほとんど1番、悪くても3番だ。去年、試しに中学3年の全国統一テストを受けてみたところ、中1にも関わらず、全国で100番以内に入った。そして、それをきっかけに塾を辞めた。彼には塾で教わることは何もなかった。
しかし、そんな彼にも欠点はある。
一つはスポーツが少し苦手、ということだ。特に球技は苦手中の苦手、野球でフライをキャッチしようとすると、5回に2回は額に瘤ができる。サッカーでパスが欲しくて手を上げている友達に向かってボールを蹴ると、大抵明後日の方角に飛んでいく。それでも、優秀な孝典にとっての致命的な欠点ではない。
二つ目の欠点。
彼の友達は、彼の真面目さ故にオナニーも知らないと思っているようだ。たまにクラスの誰かにスマホでそういう動画を見せられたりすると、孝典は耳まで真っ赤になってしまう。真面目でうぶで性のことなんて何も知らない、クラスの誰もが、女子までもがそう噂していることを孝典は知っていた。が、実際は・・・
孝典は人並み以上に性欲があった。小学校の時にはすでにネットでそういうサイトを見ていたし、オナニーだってずっと前からしている。そんな孝典の一面を、クラスメイトは全く知らない。いや、一人だけ知っている。隣の席の奥本君だ。
あれは中2になってすぐの頃だった。奥本君は中1のときから同じクラスで、たまに言葉を交わしたりはしていたし、孝典がとても真面目で優秀だということは知っていた。しかし、仲良くなったのは、中2になって、席が隣同士になってからだった。ある日、そんな彼が孝典を呼び出した。
「あのさ、頼みがあるんだけど」
奥本君は少し言いにくそうだ。
「なに?」
「勉強教えて」
奥本君だって、そんなに成績が悪い訳じゃない。
「なんで?」
それは素直な疑問だった。
「こないだ、ゲーム機出たじゃん」
孝典はゲームには興味がない。そんな孝典でも、最近新しいゲーム機が発売され、大人気でなかなか手に入らないということは知っている。
「手に入らないんでしょ?」
「うん・・・でもさ」
奥本君が孝典の顔を見る。
「今度のテストで学年で10番以内に入ったら、買ってもらえるんだ」
(そういうことか)
「だからさ、勉強教えてよ」
孝典に別に断る理由はない。もともと面倒見はいい方だし、奥本君のことは嫌いじゃない。
「うん、いいよ」
何より、人に教えるということは、自分の勉強にもなる。
「じゃさ、家行っていい?」
孝典は一人っ子だ。両親は共働きで、夜までは家に誰もいない。
「いいよ」
そして、孝典は次のテストまでの間、学校が終わってから家で奥本君と二人で勉強をするようになった。
奥本君は頭が悪い訳じゃない。孝典の教え方も上手いのか、すぐに理解していく。それは二人にとって楽しい時間でもあった。そんなある日だった。孝典は、時々部屋のパソコンで、ネットから問題を見つけてきて、それを奥本君に解かせたりしていたのだが、奥本君の手がキーボードに触れた時、ふとしたはずみで孝典がよく見に行っているサイトの履歴が表示されてしまった。そこには、別にそのサイトを開いてみるまでもなく、エロサイトだとすぐに分かるような名前が並んでいる。
「えっ」
奥本君が孝典の顔を見る。
「これって・・・エロいやつだよね」
孝典は慌てはしたが、ごまかすことはしなかった。
「これで分かるってことは、奥本君も見てるってことでしょ?」
自信はなかった。
「まぁね。でも、相田君もこういうの、見るんだ」
意外そうな声だった。
「そりゃ、僕だって・・・」
「だよね、中学生だもんね」
奥本君はからかったりしなかった。中学生として、ごく普通に受け止めてくれた。マウスを手にしてその中の一つをクリックする。裸の男女の動画がモニターに映し出される。
「こういうの見て、オナニーしてるとか?」
さすがに孝典は少し顔を赤らめ、頷く。
「だよね。相田君、オナニーも知らないとかって言われてるけど、そんなことないだろって思ってた」
「まぁね」
そして、孝典は勉強に話を戻すために、とある進学塾のサイトにある問題を表示させる。
「ほら、この問題。もうこれくらい簡単でしょ」
奥本君も真面目な顔に戻る。何せ最新のゲーム機が賭かっている。中2の彼には、エロよりゲームだ。
「ああ、うん、分かる」
そして、紙に答えを書く。
「うん、正解」
そして、次のテストの結果、奥本君はそのゲーム機を手に入れた。それ以来、二人は親友と言ってもいい関係になっていた。
だから、奥本君は、噂のように孝典がオナニーも知らない、ということではないのを知っている。でも、彼はそんなことを誰かに話したりはしなかった。だから、そのことを知っているのは奥本君だけだったし、中学2年という年頃を考えれば、それは欠点とは言えないだろう。
そして、3つ目・・・・・それが学級委員の大きな悩みだった。
男が僕を睨んでいる。
どこか知らない家、その男は僕の生徒手帳を握っている。その男の前で、僕は全裸になっている。
「手を後ろに回せ」
男が僕に命令する。
「な、何するんですか」
僕は怯える。
「お前が万引きしたことをちゃんと反省したかどうか、確認するんだよ」
そして、別の男が入ってきた。僕はこの二人の前で、全裸でオナニーをする。その様子を二人はビデオに撮影している。
やがて、男が僕の玉を握る。
「さあ、やっちまおう」
玉を指で摘まむ。その指に少しずつ、力が込められる。
「いっ」
声を上げれば、こいつらはますますそういうことをするだろう。それは分かっていた。でも、その痛みは我慢出来ない。
「やめてっ」
「やめてって言われてやめるんなら、初めからこんなことしねーよ」
そして、指に更に力が込められる。
「いぃぃぃぃ」
目に涙がにじむ。
「痛いだろうな」
男が笑う。笑いながら力を込める。
「お前、いつもオナニーしてんだろ? 1日どれくらいやってんだ?」
玉が潰れそうなくらいに力が込められている。
「答えろ」
答えなければどうなるのか・・・徐々に指に力が入っていくのが分かる。
「に、2回」
「ほぉ、学級委員の孝典君は、1日2回オナニーしてるんだ」
ふっと、玉を摘まんでいた指から力が抜ける。
「ひ、ひぃ」
僕は大きく息を吐く。
「『学級委員の相田孝典は、変態です』って言ってみなよ」
そして、また指に力が込められた。つまり、言えってことだ。僕は少しずつ激しくなっていく痛みに耐えながら言う。
「学級委員の相田孝典は変態です」
「次は『オナニー大好きです』」
「オナニー大好きです」
玉が痛む。その痛みを体全体で感じている。
「『もっと変態にしてほしいです』」
僕はその通り言う。痛みでもう、考えることも出来ない。
「『玉潰して下さい』だ」
「玉潰して下さい」
僕の中の奧の方で、今まで感じたことがないような痛みが炸裂した。
「おぃ・・・あぃ・・・」
何かが頭に当たっている。そして、声。
「おい、相田」
その声は頭の上から聞こえている。そして、何かが頭に当たる。
「相田、大丈夫か?」
僕は顔を上げた。誰かがくすくす笑う声が聞こえる。
「体調でも悪いのか?」
先生が、僕の頭の上に教科書を置いていた。さっきから当たっていたのは教科書だ。つまり、僕は教科書で頭を叩かれていたんだ。
そして、僕は周囲を見回した。僕等の教室。そして、僕の席だ。
「大丈夫か?」
また先生の声がした。
「あ、え、は、はい。大丈夫です」
またくすくすと笑い声がする。
「うなされてたよ」
隣の席の奥本君が言った。そして、小さな声で付け加えた。
「涎が」
僕は慌てて学生服の袖で口の周りを拭う。今度ははっきりと笑い声が起こった。
「お前が居眠りなんて珍しいな。ほんとに大丈夫か?」
先生が・・・僕等の担任の、数学の佐竹先生が言った。
「はい・・・大丈夫、です」
すると、後ろの方で声がした。
「先生、俺も体調悪いです」
お調子者の山脇君の声だ。
「お前はぴんぴんしてるだろ」
「いやぁ、俺も眠くて眠くて」
「お前はゲームのし過ぎだろ」
「あ、ひっでぇ、差別だ」
笑い声が起こる。みんな、その会話に気を取られた。その間に、みんなの気が先生と山脇君の会話に向いている間に、僕は勃起したペニスの位置をズボンの上から直す。
「トイレで顔洗ってこい」
先生が僕に言った。
「はい・・・」
でも、僕は立ち上がれない。
「俺もトイレ」
また山脇君だ。
「お前は駄目だ」
みんな、また先生と山脇君に注目する。その隙に、僕は立ち上がり、少し前屈みになって教室の後ろの扉から急いで廊下に出た。
廊下には誰もいない。ほっと溜め息を吐く。勃起している。そのまま急いでトイレに入り、お腹を凹ませてズボンの中に手を突っ込んだ。
(ああ、良かった)
ほっとした。そのまま、トイレの個室に入って鍵を掛けた。
いつからか、時々見る夢。悪夢。あの悪夢を見るようになったのは、2、3ヶ月くらい前からだろうか。男達に命令され、彼等の前で全裸になってオナニーして、そして、玉を責められる夢。ただの断片的な夢じゃなくて、ちゃんとその前の部分もある。その続きも。
個室に入ってズボンとパンツを下ろす。
(良かった)
またそう思う。パンツの前の部分は、ほんの少しシミが付いている以外、特に何も変わったところはない。そのまま勃起したままのペニスを絞るようにすると、その先に透明の雫が出来る。トイレットペーパーを手に取って、それを拭う。
あの悪夢・・・あれにはまだ続きがある。
僕は自分で玉を摘まんでみた。その指に力を込める。体の奥に重い痛みを感じる。夢の中でその痛みは少しずつ大きくなり、そして・・・
僕はペニスを握る。左手で玉を摘まみ、その指に少し力を入れる。そして、右手でペニスを扱く。
あの続き。僕はあの男に玉を握られ、徐々に力が込められて、そして最後は・・・
あの夢、ただの夢なんだろうか。あの夢の中でははっきりと痛みを感じる。痛みを感じながら、僕は夢を見ている。
(あっ)
射精した。これまでにも何回も、この悪夢を見て、そして、あの瞬間・・・恐らく、僕の玉が潰れる瞬間、夢の中で強烈な痛みと共に快感が体を走り抜けた。そして目が覚めると、夢精していた。
(教室で夢精しなくて良かった)
心底ほっとした。
(もし教室でいってたら・・・)
男なら、その素振りで射精したって気が付くんじゃないだろうか。それに、精液の匂い。きっと男子ならみんな気が付くだろう。でも、射精はしてなかった。涎を垂らしてうなされていたってだけで十分恥ずかしいけど、教室で居眠りして夢精することに比べたら遙かにマシだ。そうなっていたら、僕の評判はがた落ち間違いなしだ。
「玉、潰して下さい」
男の人がニヤニヤ笑いながら僕を見ている。男の指に力が入る。その指は、僕の玉を締め付ける。
「うぅ」
その痛みに声が出る。
「でも、勃起してるね」
奥本君だった。僕の玉を潰そうとしている。
「い、痛い・・・」
涙目になっている。体の奥の方で痛みが広がる。それでも僕のペニスは勃起している。僕は勃起させながら、期待している。
(何を?)
分からない。僕は何を期待しているんだろう。痛みがどんどん強くなる。玉が潰れそうだ。
(これは、夢だ)
そんなことは分かっている。夢なのに痛い。凄く痛い。そして、その時が来る。
「うぐぁ!」
体の中で何かが爆発する。玉が潰れるのを感じる。それと同時に、射精している。どくどくと、僕のペニスから精液が溢れる。
(はぁ・・・はぁ・・・)
体が痙攣するかのように射精し続ける。
「ああ!」
目が覚めた。孝典は部屋のベッドの上で、上半身を起こしていた。反射的にパンツに手を突っ込んで、玉がちゃんとそこにあることを確認する。そして、いつものようにその手に暖かいヌルヌルした物がまとわりつく。
「はぁ・・・はぁ・・・」
そっと起き上がり、部屋の隅の扉を開けて、替えのパンツを出す。暗い部屋の中でパンツを脱いで下半身裸になる。脱いだパンツで手と、まだ勃起しているペニスの辺りを拭う。そのパンツを丸めて床に置き、替えのパンツを履く。精液まみれのパンツは袋に入れてカバンの横に置く。
(また明日、早起きしないと)
そういう日は、早起きして、朝、学校に行く途中でどこか人のいないところに袋ごと捨てることにしている。親はもちろんこんなことは知らない。でも、パンツが少しずつ減っているのには気付いているかもしれない。でも、何かを言われたことはない。
(ふう・・・)
息を吐きながら、ベッドに仰向けに寝転がる。
(これで何回目かな)
恐らく片手は超えているだろう。悪夢を見て、その夢の中で酷い目にあって、それでも目が覚めると夢精している。なぜあれで射精するのか分からない。でも、なんとなく・・・人には言えないようなこと、それで孝典は興奮する。
少し興奮が治まってきた。もう一度眠ろう、そう思って目を閉じた時だった。
スマホが震える音がした。
|