電子双六 byロケッツ花火さま


第一局面


右のモニターに電気がつく。そうするとモニターには"playerの登録をしてください"と出ていた。
「これってどうするんだ?」
勝が怪訝そうな顔で健太に訊いた。
「プレイヤーを決めるらしいよ。この双六は俺のもんだから俺が1Pで良いか?」
「別に」
純はなげやりな感じで承諾する。庸史も勝もそんなことで文句を言うような奴ではない。健太は"player1"と書いてあるボタンを押した。そうするとモニターに"player1登録完了"と表示され "player2登録してください"と出た。
「2Pは誰やる?」
「う〜ん、ジャンケンで決めよう」
「最初はグー、ジャンケン・・・」
ジャンケンの結果、一番勝ったのが純で次に庸史、次に勝だった。
「俺、2Pね!」
純が声を上げて、2Pボタンを押した。登録完了の画面が出て、3P登録の画面となる。
「ぼくは・・・3Pがいいや」
庸史が3Pボタンを押し、当然勝が4Pボタンを押す。
"登録完了、ゲームスタート"
こうして左半分のモニターに双六のマップと、"start"と書いてあるコマに4つの旗が止まっている。
カラッ!
双六機の真ん中の穴からサイコロが出てきてモニターには"player1、サイコロを振ってください"と表示された。
「おお、良く出来てるな。じゃ早速」
健太はサイコロを投げる。サイコロは元気良く転がってテーブルの上に落ちた。出た目は4。すると、1Pと書かれた旗が移動し、4マス進んだところで止まった。特に何も起こらず、"2player、サイコロを振ってください"と出た。
「次俺だな」
純はサイコロを投げた。今度は"5"の目が出た。2Pの旗が5マス進み、止まる。そこで右上のモニターに命令が表示された。
"髪の毛を一本抜く"
「ハァ?」
その命令の書いてある同じモニターの左下には100秒からどんどん時間が減っていく。
「どうすんだよ」
「単に自分の髪の毛抜けば良いんじゃないか?」
「くだらね〜、しゃあねえな」
純は渋々、長めで薄茶色がかかった髪の毛を抜いた。
すると、時間表示は消え、"player3、サイコロを振ってください"と出た。
庸史はサイコロを投げる。出たのは1。
「ちぇ、1かあ」
3Pの旗は1コマだけ進み、止まる。コマには何も書いてなかった。
勝の番だ。
出たのは6。6マス進むと"3マス進む"と出た。
「やりい!」
一気に9マス進み勝が一歩リードした形となった。
順番は戻って"player1、サイコロを投げてください"と表示された。
健太がサイコロを投げる。出たのは2。
"手の爪を切れ"
「・・・ホント、分け分からない命令だな・・・」
健太は半分呆れていた。
「でも、爪切れって、爪切りなんてあるの?」
「そうだなあ・・・爪切りなんてこの部屋にないし・・・」
その時だった。双六機の真ん中の穴から爪切りが飛び出してきた。とてもこの双六機の穴に入りきるなんて考えられないのに・・・
「すげえ!いったいどういう仕組みになってんだよ!!」
純が感嘆の声を上げる。その爪切りで健太はせっせと自分の手の爪を切った。
健太が爪を切り終わると、その爪切りは吸い込まれるように再び穴の中へ入っていった。興味本位に純は穴に指を入れてみるが、穴の底に触れることは出来ない。
「この中って四次元空間にでもなってんのかなあ。あ、次誰だよ?」
「お前だろ」
健太が呆れた顔でツッコミを入れる。
「悪りい悪りい、忘れてたよ」
サイコロを投げて、出たのは5。
"体に着けているものを一つ脱げ"
この命令には純も少し困惑した。普通は帽子とか手袋とか靴下というところだが、この時間帯、家の中ということで余分なものは一切見につけてなかった。
「ちっ!」
純は上着を脱いでシャツ姿になった。まだこの季節で夜中にシャツ1枚はやはり寒かった。純は両手で自分の体を押さえつける。
今度は、庸史がサイコロを投げる・・・・。

こんな調子で、彼らはサイコロを投げ、時折出る意味不明な命令を渋々実行しながら進む、というループを繰り返した。現在は4回目の健太の番だ。

健太がサイコロを投げ、出た目は2。
"上半身裸になる"
「・・・しょうがねえ」
一気に健太はシャツごと全部脱いだ。まだ脇毛は生えておらず、適度に筋肉がついた肉体が露になる。
純の番だが、彼は何も書いてないコマに止まった。
庸史が投げると、4が出た。
"ズボンを脱ぐ"
「え、ちょっと。やだよ」
庸史はその命令に赤面した。彼の性格からすると、下着姿になるのも恥ずかしいのだ。
「なんだよ、俺たちも脱いだんだから脱げよ」
純が煽りを入れる。
庸史は渋々、恥ずかしそうに下を向きながらズボンを脱いだ。下半身はトランクス一枚となった。庸史は上着を限界まで下げて隠そうとする。
次に、勝が投げた。
"全裸になる"
その命令に周りは沈黙した。普段なら純が冷やかすところだが、さすがにこの命令に対しては馬鹿にする気にはならなかった。
「ふざけんな!ぜってー脱がねーからな」
勝は自分の体を露出するのを極端に嫌っていた。体を他人に見られるのが最も恥ずかしいこの年頃。しかも勝の体は同学年ではるかに発達しており、当然、陰毛もあってそれも既に剥けていた。
ましてやそんな裸を見せるのは絶対に嫌だった。
「良いのか。時間0になるぞ」
「関係ねえ、もうこんなふざけたゲーム辞めてやる」
勝は完全に怒ってそっぽを向いてしまった。
そうしてるうちに、命令の左下の時間はどんどん減っていき、既に30秒を切った。
「ねえ、何か嫌な予感するんだけど・・・」
庸史は時間が減っていくのに不安を隠しきれずに、勝に言った。
「じゃあお前、お前が全裸になれと言われたらなるのか?」
「・・・・・」
庸史は反論出来ずに黙りこくった。
時間は10秒を切った。10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・・・0。
ついに時間が切れてブザーのような音が鳴る。
勝が勝ち誇ったように言うが・・・
「ほら、何もなんないだろ。俺の言った通り・・・う!」
突然、勝は苦しそうなうめき声を上げた。そして、勝の顔がみるみる紅潮していく・・・
「や、やめろお!!!!あああああ!!!!!」
うめき声は絶叫に変わり、手で首を押さえ暴れまわる。
そして、勝はうつ伏せに倒れて、ピクリとも動かなくなった。
「どうした勝!大丈夫か!!!」
健太は勝の体を触った。そして蒼ざめた顔で言った。

「死んでる・・・・・」

「うわあああ!!」
「勝ぅ!!」
三人にはそれは信じられないことだった。ついさっきまで、元気だった勝が一瞬で、死んだのだ。もう、二度と喋ることも動くこともなく・・・
「おい!!ふざけんな起きろ!!」
純は狂ったように勝の死体をひっぱたいている。庸史は蒼ざめた顔で、口をパクパクさせている。
モニターには今はより不気味に見える、無機質な文字が浮いていた。

"player4,gameover"

この時、本当の"電子双六"のゲームは始まった。

   


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