電子双六 byロケッツ花火さま


第三局面


"左手の人指し指の爪を剥ぐ"
これも、恐ろしい命令だった。穴から爪剥ぎ用に千枚通しが出てきた。
健太の知識の中でも爪を剥ぐ=恐ろしく痛いことだということは理解していた。いっそのこと、包丁かなんかで指を切断した方がマシかもしれない。
健太は左手の人差し指と、右手に掴んだが痛みへの恐怖のあまり動かすことの出来ない震える針の先をみつめていた。
爪の間に針の先端を当ててみた。ちくっと痛い。
これを爪の奥まで刺し込んで剥ぐというのだからその痛みは想像できない。 でも、ここまでやってきたんだ。激痛に耐えるためにハンカチを口の中に入れておく。
肉には刺さらないように狙いを定めて・・・持っている手に力をこめて・・・一気に刺す!!!
「・・・!!」
なんとか成功した。指の肉には刺さらずに爪の間に針が半分くらい入った。いや、のめりこんだ。
ピンクの爪の中が紅い血で染まる。健太はそのもの凄い激痛をハンカチを噛みしめて耐えた。
全身に脂汗が流れる。さらに剥がしやすくために、横に動かす。ただでさえ針が突き刺さっていて耐え難い激痛なのに、少しでも動かすと更に痛みが増す。
もう少し、奥の方まで刺して、持っている方を一気に上に上げた。
「!!!!」
わずかな時間だったが、今までの人生で最大の痛みだった。
そして、べきっという音とともに血塗れになった爪の残骸は床にぽたっと落ちた。
そして、爪の消滅した健太の人差し指からは痛々しく血がにじみでていた。
「はは・・・どうだ。やってやったよ!」
健太は痛みに悶える表情を無理矢理笑顔に変えて、双六の方に威張るように言ってやった。
しかし、当然だが双六は何も反応せず無機質に"player2、サイコロを投げてください"と出ただけだった。

「あ、終わったか」
さっきの鞭のダメージが残っている純はかったそうに起き上がった。
「大丈夫か?」
健太はさっき剥いだ指を押さえつけながら、それでも気遣って声を掛ける。
「ああ、大分楽になったよ」
まだ鞭のダメージは相当残っているがあまり心配は掛けまいと純は強がってみせて、サイコロを投げた。"2"
"右乳首に針を貫通させる"
穴から出てきたのは、1本の裁縫用の針・・・
健太は"俺がやろうか?"と言いたいところだったが、さすがにこの命令に対して自分が人にやるという気にはなれなかった。それに指が痛くてそれどころではなかった。
「自分でできるよ・・・」
純も健太も気遣ってそう言った。自分の乳首に針を通すなんて考えもしないことだが、痛みは爪を剥ぐよりはマシ。そう思うことにした。
純は右手に針を取り、左手で乳首を掴んだ。
そして、意を決して、刺す。脳内で"ぐさっ"という効果音が鳴り響いた。
「くぅ・・・」
頭に鳴り響く痛みとともに、乳首に刺さった。
しかし命令は"貫通"させることだ。向こう側に針が出てきて手を放しても状態を維持するようにしなければダメだ。
大丈夫。痛くない痛くない痛くない。必死でそう思い込んだ。
一気にやってしまうことだ。純は、刺さりかけの針を、押し込んだ。ぐいぐい力を込めて。
肉の引きちぎれるような痛みだ。針の先端が純の乳首の両方の横から飛び出し、乳首のピンクに紅い血がにじみ、その上に、銀色の光が輝いた。
「はぁ、はぁ・・・終わった」
純は針の刺さった右乳首を見つめていた。

しかし終わった後、別に自分の体がおかしいことに気づいた。いざ、刺しているときはそれで全く気にならない、というより気にしてる暇なんてなかったが、終わって気持ちに余裕ができるとそれに気づいた。
針を刺してからというものの、自分の股間は精一杯膨張しているのだ。
なんでだろう・・・こんな状況で興奮するわけないし、手で触ったわけもないのに・・・
その原因が、針による乳首の刺激のせいだとは知るよしもなかった。また、彼がそう感づいていてもそれを認めるわけにもいかなかった。

庸史の番になった。彼は前のことで尻が痛かった。そのせいで体全体が重くなった気がしたが、とりあえずまだ動く気力はあった。
投げて"1"
・・・今回は何も出なかった。とりあえず、休める・・・
庸史はさっさとうつ伏せに寝っころがる体勢になった。

健太の番になって"6"
"左手首の静脈を切る"
穴からカッターが飛び出した。
健太に手首なんか切ったら死ぬんじゃ・・・という考えが恐怖を駆り立てた。これは爪剥ぎの時とは違う、苦痛への恐怖ではなく死への恐怖だった。
第一、静脈がどこかなんて何か知らない・・・
一つ、思いついた。健太は庸史とアナルセックスを強要された時のようにヘルプボタンを押してみた。そこには、分かりやすく手首の内部構造の絵と、それに説明も載っていた。
どうやら、手首の静脈とは皮から浮き出てる蒼い血管のことらしい。それで、腱の間あたりに動脈がある。
解説によれば、手首切り自殺はかなり未遂が多い上、動脈さえ切らなければ殆ど命にかかわることはないらしい。健太はそれを見て、少し安心した。
そうして、行動に入る。
まず、カッターを横に軽く引いてみた。表皮に線ができ、ほんの少しの血がにじむ。
今度は本格的に切る。腱や動脈に傷つけないように気を付けて。力を込めて、引いた。
結構深く切れた。痛みもそれなりにあったが、爪剥ぎの激痛に比べれば全然平気だった。まだ静脈には達していないが、この分だと簡単に終わる
と健太も楽観的に考えていたが、そうはいかなかった。
一定の位置に達してからなかなか、切れない。静脈はすぐに見えるというのに、肉がからまって切れない。切るというより、静脈まで肉をえぐって掘っていくという感じだ。何回も刃を当てて、ぐりぐりとえぐっていった。その度に痛覚が刺激される。
暫く、それを繰り返していると、手首からじわじわと黒ずんだ血が流れだした。ようやく、静脈まで切り開いたのだ。

これでいいのか?と健太はモニターに目をやる。
"player2、サイコロを投げてください"
ちゃんと順番が変わっていた。
だが、それより手首が血が大分流れ続いている。健太はとりあえず、教科書通りの応急処置としてハンカチで腕を縛った。
これで大丈夫だろう。多分。

純が投げて・・・"3"
止まったところには何も出なかった。あっさり順番が変わる。 

庸史の番になって、出た目は"3"
"亀頭に針を貫通させ、逆側から抜く"
「そんな・・・もう、やだ・・・」
この命令は、肉体的にも精神的にも参っていた庸史の理性の糸を断ち切るには十分だった。
「庸史・・・俺が手伝う」
庸史は近づいてきた純の手を払いのけた。
「絶対やだ!!こんなのって、信じられない!!」
庸史は狂ったように泣き叫び、壁を叩き始めた。
「落ち着け!!」
その純の声も、全く効果はなかった。
「落ち着けるわけないじゃん!!もう、こんなのって、死んだ方がマシだよ!!!」
庸史は現実から逃げるように壁にひっついた。
「なんで・・・こんなことになっちゃうの・・・夢なんでしょ・・・」
庸史は両手を壁につけ、力なく頭を垂らし、すすり泣いた。
純はそんな庸史の首に手をかけた。
「体の傷は・・・時間が経てば治るんだ。でも、死んだら二度と戻ることはできない」
庸史はその純の意外な言動に、振り返った。
「頼む、生きてくれよ・・・俺、せっかくの好きな人を失いたくないんだ・・・」
「え・・・?好きな人って?」
純は庸史の唇に、自分の唇を押し込んだ。そして抱きついた。
「ん・・・はぁ・・・」
何が分からない庸史はあっけにとられていた。純は舌を入れて絡ませる。そして、一旦を口を離して庸史の肩に手を置き一言。

「庸史のことが好きなんだ」

その時の純の顔は、今まで見せたことのない、限りなく真剣でどこか勇ましい表情。囁くような感じだが、はっきりとした、威圧感のある声。
庸史は戸惑った。でも、その言葉が冗談などではないことはよく分かった。
「でも、何でぼくが?純くん、凄くかっこよくて、きれいで、女の子にモテるのに・・・」
「関係ないさ。お前は、どんな女より可愛いんだ、顔だけじゃない。全部。だから、誰よりも好きだ、愛してるんだ」
純の暖かい両手が庸史の小さな顔の柔らかい頬を包んだ。そして言った。
「受けて・・・くれるよな?」
純粋な笑顔で、ごく自然に答えは返ってきた。
「・・・うん」
「ありがとう」
二人は力強く抱き合った。今度は、両方の意思のもとで。二人とも泣いていた。
暫くして、純は顔を出し健太に向かって言った。
「健太、俺たちのこと軽蔑しないでくれよ」
健太は真面目な顔で答えた。
「そんなん、人それぞれでいいよ。俺にとっては、どうなろうと純も庸史も親友だ」
「ああ、これからもよろしく」
二人にとってこの時間は、絶望的なゲームを忘れることができた唯一の時間だった。出来ることならいつまでもこうやって抱き合っていたい・・・
しかし、この命令には制限時間というものがある。
余儀なく、二人とも現実に戻されるのであった。

   


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