和仁の視線が僕の顔よりも下を向いていた。
(そうか、裸見られるのって、初めてだっけ)
正確には初めてじゃない。小さい頃はよく一緒にお風呂に入ったりもしていた。でも、僕が『任務』をするようになってからは初めてだ。急に少し恥ずかしくなる。僕は股間を手で覆う。
「見せて」
和仁が言った。
少しドキドキする。ゆっくりと手を下に降ろす。和仁の目が僕のその部分を見る。
和仁の唾を飲み込む音が聞こえた。
僕と和仁は幼なじみだ。和仁のご両親もこのキャンプ苫谷に若い頃から勤務していた。当時、僕の両親は結婚と同時にこのキャンプ苫谷に転属してきて、この近くの官舎に住んでいた。そこで和仁のご両親とご近所さんになった。2年後、和仁が生まれ、その数ヶ月後に僕が生まれた。
それからしばらくして、僕のお母さんが亡くなった。正直、お母さんについては何も覚えていない。お父さんの話だと、僕を産んで1年も経たない時に病気で亡くなったそうだ。
それからは、お父さんは時々僕を和仁の家に預けるようになった。そうやって、僕は和仁とずっとこの町で兄弟のように育てられた。
お父さんの中央研究所への転属が決まったのは僕が5才のときだ。和仁のご両親は、僕に官舎で一緒に住むことを提案してくれた。でも、それを断って僕を兵舎に入れることを決めたのはお父さんだ。僕が6才になったのと同時に、お父さんはキャンプ苫谷を去った。
それからしばらくして、僕はクラウスと出会った。お父さんが中央研で開発中の量子AIチップ搭載ぬいぐるみプロトタイプ3体の中の一つ、クラウスを、僕が寂しがらないように、そして僕の面倒を見させるために与えてくれたんだ。恐らく、本当の目的は別にあったと思うけど。
和仁が僕に好意を、いや、普通に友達や兄弟に対する好意以上の感情を持っていることは、ずっと前から気が付いていた。僕だってそうだ。僕にとってはクラウスと同じくらい大切な友人だ。そんな和仁と手を繋いだりキスをするようになったのはたぶん自然な流れだったんだと思う。もちろん、和仁が僕の『任務』について、複雑な思いを抱いていることも知っていた。
「ちょっと・・・恥ずかしい」
僕は小さな声でつぶやいた。
「さっき、入れてたくせに」
和仁も小さな声だった。
「見てたの?」
窓の外にいたということは、そういうことじゃないだろうか。でも、和仁は首を左右に振った。
「見てなかったんだ」
ちょっと意外な気がする。
「見ていられないだろ、将馬が誰かとしてるとこなんか」
そうだ、和仁は僕のことが好きだ。好きな相手が『任務』とはいえ他の人としてるんだ。他の男と。
「ごめん」
小さな声で謝った。
「『任務』なんだろ?」
「うん」
急に和仁が僕の前にひざまずいた。
「『任務』なら、平気なんだ」
僕のペニスに顔を寄せる。近くから僕のその部分をまじまじと見つめている。
「それは・・・」
心の奥がむずむずする。普段、『任務』のときにはこんな気持ちにはなったことがない。その理由は分かっている。今、目の前で、さっきしたばかりの僕を見つめている存在。
「勃ってきた」
和仁に言われなくても、徐々に勃起してきているのは分かっている。
「触ってもないのに、なんで勃つの?」
僕のペニスを見つめたまま、和仁が言う。
「それは・・・」
(決まってるじゃないか)
和仁はその理由を僕に言わせようとしている。でも、僕は・・・・・
しゃがんでいる和仁から離れて、ベッドに仰向けになった。
「和仁に抱かれたいからに決まってるだろ」
そして、足を抱えた。
いつのまにか、窓枠にムサシが座っていた。枕元にはクラウスがいる。二人とも僕等を見ている。二人に見守られながら、僕と和仁は初めて一つになった。
「いつも、窓の下で聞いてたの?」
和仁は無言でうなずいた。
「見てはいないんだ」
「見てたこともある」
(見られてたんだ)
ちょっと恥ずかしい。でも、『任務』なんだから仕方がない、と自分に言い聞かせる。
「言ってくれれば・・・和仁なら・・・」
「『任務』の邪魔しちゃだめだろ」
和仁は僕の『任務』のことを知ってるし、分かってくれている。それが逆に少し辛い。
「今日はもう終わったから」
すると、和仁が僕を抱き締める。お互いの裸の体が重なり合い、お互いの体温を感じる。
「でも、これからも将馬は『任務』があるんだよな」
言っても仕方がないこと。それは和仁も僕も知っている。
「そうだ」
僕は話題を変えるために体を起こし、ベッドの下に手を伸ばした。ベッドの下には非常用キットのケースが置いてある。非常時用のマニュアルとかコンパスやサバイバルナイフ、携帯食だとか水だとか、そんなものが入ったこの非常用キットは、この兵舎の各部屋のベッドの下と、官舎組の家にも配られている。そのケースを横にどけて、その奧から袋を取り出す。
「ムサシ」
ムサシを呼ぶ。ムサシがベッドに上がってくる。
「これ、着てみて」
袋の中身をムサシに手渡した。ぬいぐるみサイズのサンタクロースのコスチュームだった。
「もうすぐクリスマスだし、学校でパーティの時に着てほしいなって」
和仁が袋を手にした。
「まだ入ってる」
それを取り出す。それはトナカイのコスチュームだ。
「そっちはクラウス用だよ。ムサシがサンタでクラウスがトナカイ」
和仁がトナカイのコスチュームを広げた。
「やっぱり、サンタはクラウスだろ、サンタクラウス」
サンタクロースのコスチュームの方を広げる。それをクラウスの体の方に掲げた。
「どっちでもいいよ」
クラウスが言った。
「ありがとう、将馬君、和仁君」
和仁が僕にサンタクロースのコスチュームを手渡した。
「ね、一度着てみてよ」
クラウスはサンタの、ムサシはトナカイのコスチュームを身に着ける。
「うわぁ、最高」
僕と和仁は笑顔になる。思った以上に似合っていた。
クリスマス当日、幼年学校ではパーティが行われていた。
机を並べて、その上にクロスを広げ、兵舎の食堂のおばさん特製のオードブルを並べた。校内のスピーカーからは軽快なクリスマスソングが流れている。教室の隅にはクリスマスツリーまで置いてあって、ツリーにも電飾がピカピカ光っていた。
生徒は皆、赤い帽子をかぶっていた。ぬいぐるみもそれぞれクリスマスっぽいコスチュームを身に着けている。中には雪だるまや、なぜか魔法使いや怪獣のコスチュームのぬいぐるみもいる。
もちろん、クラウスはサンタクロースの、ムサシはトナカイのコスチュームだ。
「じゃあみんな、ハッピークリスマス!」
皆が歓声を上げた。
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