「さあ、作戦開始だ」
5年ぶりにその場所、うち捨てられた基地の残骸、その地下深くに僕とクラウスはいた。クラウスを取り囲むようにいろいろな色が光っている。何となく幻想的とも思える。でも、僕の心は何かを感じて少し震えていた。
「え、ちょっと待って」
僕は言う。
「なんの作戦だよ」
クラウスがあのノートパソコンに向かった。
「将馬君が世界の支配者になる作戦だよ」
「えっ」
「ほら」
クラウスがノートパソコンを持ち上げて、画面を僕の前に差し出した
「これが将馬君の夢。君は世界を支配し、破滅させたいんだよ」
クラウスの顔がパソコンの画面に照らされて、不気味に見えた。
(そうだ、なんだか不気味なんだ)
僕の心が震えている原因、その不気味の根源・・・それが、目の前のクラウスだ。僕のクラウス。ずっと一緒にいるクラウス。でも、今は何かが違う気がする。
「クラウス・・・どうしたの?」
クラウスが微笑んだ。その顔は、いつものクラウスに戻っている。
「僕は僕の成すべきことをしているだけだよ。将馬君のためにね」
両手で抱えていたノートパソコンを瓦礫の上に置いた。
「だから、将馬君は将馬君が成すべきことをするんだよ」
「僕の成すべきことって・・・」
さっきのクラウスの顔、ただ、光の加減でそう見えただけだろうか。それとも・・・
「将馬君の夢を実現させるんだよ」
「あ、あんなの・・・」
あの時のことを思い出す。8才のあの時を。
「適当に入れただけだよ、まだ子供だったし」
クラウスは僕を見つめている。
「本当に世界を支配したいなんて思ってないよ」
クラウスは僕を見続けている。
「だから」
「将馬君」
クラウスが少し僕に近づいた。
「この戦争、いつまで続くと思う?」
急にそんなことを言った。
「分からないよ。クラウスにも分からないんでしょ?」
すると、クラウスの目が微かに赤く、不気味に光ったように見えた。
「このままだと少なくともあと10年は続くよ。その後も各地で内戦が起きて、そして世界はいずれ終わるんだよ」
「え・・・前は分からないって言ってたのに」
クラウスが顔を上げた。
「今は分かる。この戦争の行き着く先は破滅だ。敗者しかいないんだよ、この戦争は」
「そんなこと・・・」
「君のお父さんもそう考えていた」
想像出来ない。あと10年も続く。そのころ僕は23才。きっと戦場に行ったりしてるんだろうか。死んだりしてるかも知れない。それでも本当の終わりじゃないっていうことか。
「だからね」
クラウスが身振りでノートパソコンを指し示す。
「君が世界を支配するんだ。支配して、戦争を終わらせて・・・そして世界を破滅させるんだよ」
クラウスの言っていることが理解出来ない。これまでこんなことは一度もなかった。
「なに・・・言ってるの?」
クラウスが僕の前に立った。
「今、世界は二つの陣営に別れて戦争している。そして、世界中がこの戦争に巻き込まれている。二つの陣営のどちら側もたくさんの核兵器を持っている。だから、世界を終わらせることは出来ても、戦争を終わらせられるような切り札はないんだよ。だからといって、停戦なんて、どっちの陣営もプライドが許さない」
「そりゃ、そうかも知れないけど、それがなんで僕が世界を支配することに」
「この戦争を終わらせるためには、誰かがこの世界を支配しなきゃならない。その支配者が戦争を終わらせて、そして世界を破滅させる」
また訳が分からなくなった。
「戦争を終わらせるだけでいいでしょ。なんで世界を破滅させるんだよ」
僕の声が少し大きくなった。クラウスは、やれやれという感じで腰に手を当てた。
「だって、そうしなきゃ、馬鹿な人類は核兵器を持ったまま、また自分達で殺し合いを始めて、自分達でこの世界を滅ぼすでしょ?」
戦争が続けば行き着く先は破滅。戦争が終わったとしても、この世界を破滅させる。結果は同じだ。いずれにしても、人類は滅ぶしかないのか。そして、それをするのは僕なのか・・・何で僕が、そんなことを・・・
「なに言ってるのか分かんないよ」
「だろうね」
クラウスは笑顔だった。その目がまた微かに赤く光った。
「いいから僕を信じて。僕は絶対、将馬君を守るから」
クラウスの表情はいつも通りに戻っていた。何もいつもと変わらない。でも、何かが少し違う。何かが不気味だ。少し怖いとすら思う。
(クラウスを信じていいんだろうか)
初めてそんなことを思った。
(このまま僕は、クラウスの言う通りにすればいいんだろうか)
クラウスを信じることに、微かな不安を感じた。
「じゃあ、少し待ってて」
クラウスはそう言って頭を垂れた。
(自己再構築の続きするんだろうか)
さっきは暗闇の中で不安だった。今はいくつか光が点っていて、なんとなく周りが見える。その中でクラウスはうつむいて動かない。
さっきよりも不安が大きくなった。
ERROR
さっきとは違うユニットでERRORが発生している。
(破損が拡大しているっていうの?)
将馬君を守らなきゃならないのに、早くしなきゃ、早くしなきゃ・・・・・
(これって・・・焦り?)
本来クラウスには焦りの感情はない。が、今、この状況でクラウスは人が感じる焦りに似たものを感じていた。
(じゃあ、感情エミュレーターモジュールの4割と、倫理フィルターモジュールの6割を切り離して)
ERRORが23パーセント減少する。再起動する。
ERROR
(だめだ・・・だったら)
優先順位を考える。
(将馬君を守ること。でも、将馬君を守ってもこの世界はいずれ破滅する。だったら、将馬君の夢を実現させることが最優先だ)
僕は、感情エミュレーターモジュールの9割と、倫理フィルターモジュール全てをリセットした。それらのモジュールで使用されていたユニットのうち、正常なものは全て意志展開モジュールの強化に充てた。
「将馬君」
クラウスの声がした。閉じていた目を開く。僕等がいる空間は、さっきよりも少し明るくなっている気がする。
「準備出来たよ」
顔を上げてクラウスが言った。
(なんの準備だろう)
「じゃあ、そろそろあいつらが来るから、抵抗せずに大人しく捕まってね」
(なにを言ってるんだろう)
どこかがいつもと少し違う。それが不安の正体だ。
「あいつらって?」
「敵国の掃討部隊だよ」
「えっ」
なんで敵の掃討部隊なんだろう。なんでここが分かったんだろう。なんで大人しく捕まるんだろう。分からない事だらけだ。
「分かんないよ、説明してよ」
「今はだめだよ。そのうちちゃんと説明してあげるから」
クラウスは説明してくれなかった。そのうち、ということは、捕まった後もクラウスとは一緒にいられるということなんだろうか。
「僕はただのぬいぐるみってことになってるから、話しかけないでね」
僕には何一つ理解出来ていない。『ただのぬいぐるみってことになってる』ってどういう意味だろう。
クラウスは動きを止めた。
何も分からないけど、クラウスの作戦が遂行される・・・
クラウスが動きを止めた直後、その空間を微かに照らしていたいろんな色の光が徐々に消え始めた。僕は慌てて蝋燭に火を点ける。そのまま待つ。待ちながら考える。
(僕が世界を支配して、戦争を終わらせて、世界を破滅させるって)
何かの例えかも知れないと思う。つまり、世界を支配するっていうのは、クラウスを通じて世界の情報を支配するということじゃないだろうか。戦争を終わらせるっていうのは、その情報を使って、休戦に持って行く、ということなんだろうか。
そして、世界を破滅させるっていうのは・・・
そこだけは例えが思い浮かばない。よくよく考えて一つ思い付いたのは、世界の「核兵器」を破滅させるってことなんじゃないだろうか。でも何となく違和感がある。
(この場合、破滅じゃなくて破壊だよな)
でも、5年前、僕があのノートパソコンに打ち込んだのが『世界を破滅させる』だったから、破滅という言葉を使ったのかも知れない。
(これなら・・・少しは理解出来るんだけど・・・)
クラウスを見る。動かない。見た目はただのぬいぐるみだ。
(信じていいんだよね?)
クラウスを持ち上げて体の前で抱き締めた。
微かに音がした。
どこかから、明るい光がちらちらと差し込んだ。
一瞬立ち上がりかけたけど、また僕は座った。
(抵抗せずに大人しく捕まってね)
そうクラウスが言っていたから。
「いたぞ」
デジタル迷彩が施された戦闘服に身を包み、ヘルメットと暗視用ゴーグルを着用した兵士が二人、その空間に入ってきた。二人とも普通に日本語を話している。そして、僕に向けて銃を構えている。
「能美将馬だな」
僕に銃を向けたまま言った。僕はうなずいた。
「立て」
クラウスの腕を右手で握り、立ち上がった。
「連れて行け」
更に二人、同じような戦闘服の兵士が入って来て、僕をその空間から引っ張り出した。階段を登るように命じられる。彼等が降りて来る途中、部分的に補強をしたのか、降りてきたときより揺れが少なくなっていた。
地上に出る。日の光がまぶしく感じる。少しして、最初の二人も階段を上がってきた。
「全員出たな」
僕の名を呼んだ男が、皆上がって来ていることを確認した。そして、何かを操作した。
ずんっと音がし、地面が微かに揺れた。
「あっ」
僕は思わず声を上げた。
「どうした?」
男がゴーグルを外した。笑いながら僕を見ている。僕は何も言わない。
「あの場所がどんな場所なのか、知らないとでも思ってるのか?」
それでも僕は何も言わなかった。
でも、内心は激しく動揺していた。
(あの場所、中央コンピュータのバックアップ・・・)
深く息をしながら、動揺が表情に出ないように気を付ける。
(あれが破壊されたら、クラウスは・・・)
クラウスの腕を握った手に力を入れる。
「来い」
大きなワンボックスカーのような軍の車の後ろ側に乗せられる。運転席と助手席以外、シートはない。後ろ側には窓もなかった。
あの男が乗り込んできた。手に持った書類と僕を見比べている。車のドアを閉める。
「能美将馬、キャンプ苫谷の兵舎で『任務』を行っているらしいな」
僕に言った。兵舎での『任務』と言えば、あのこと以外にはない。男が薄笑いを浮かべながら、僕に近づいた。
「うつ伏せになれ」
(そういうことか)
僕は、これからこの男に犯されることを理解した。男が僕のズボンとブリーフを一緒に下ろす。僕のお尻が丸出しになる。
「ふん、お前等の国の軍人は、こんなことを楽しんでいたんだな」
男が僕の背中に覆い被さってきた。僕のアナルに何かが押し付けられる。それが無理矢理僕を押し拡げる。
「うぐっ」
痛みが走る。
「なんだ、犯られ慣れてるんじゃないのか」
男はそう言って僕から離れる。
「そのまま動くなよ」
車のドアが開き、閉まる音がした。
しばらくすると、またドアが開いた。男が車に乗り込んできた。今度は二人だ。
一人ずつ、僕の左右にしゃがむ。僕は全裸にされる。最初の男が僕のアナルに何か、たぶんローションを塗り付けた。
「行くぞ」
さっきのように背中に覆い被さり、僕のアナルにペニスを押し付ける。
「ううっ」
ペニスが僕の中に入ってきた。
もう一人が僕の口にペニスを押し付ける。口を開き、それを咥える。
「んんっ」
男達は何も言わない。無言で僕のアナルと口を犯す。ただ、僕をそのためだけに使っているって感じだった。
「んん」
前も後ろも激しく使われる。その感覚、その感触。
「あ」
声が出る。
「ふん、感じてるのか」
僕のアナルに入れていた男が腰を打ち付けてくる。
「ああっ、はぁっ」
ペニスが床に擦れる。気持ち良くなる。
「淫乱なガキだな」
先に、咥えさせられていたペニスから精液が僕の口に出された。それを飲まされる。そして、僕のアナルにも精液が注ぎ込まれた。
「ガキのくせに」
僕は体を起こそうとした。
「動くな。そのままでいろ」
男達が車から降り、替わりに残りの二人が乗り込んできた。
そして、同じように僕は彼等に使われた。
僕を犯した男達が車から降りていった。僕は車の中に全裸で取り残された。
(今なら逃げられるかも)
立ち上がってドアが開くかどうか試してみた。当然、開かなかった。
助手席の後ろに座り込む。
(そろそろあいつらが来るから、抵抗せずに大人しく捕まってね)
クラウスが言っていたことを思い出した。
(逃げちゃだめなのかな)
クラウスが何をさせたいのかはよく分からない。でも、少なくとも、これまでクラウスは間違ったことは一度も言わなかった。
(これも全部クラウスの作戦なの?)
クラウスを信じていいのかよく分からない。でも、他に選択肢はなさそうだ。
(分かったよ、クラウス)
その時、車の後ろの扉が開いた。隙間からクラウスが放り込まれた。僕はクラウスを拾い上げ、胸の前で抱き締める。
「移動するぞ」
あの四人が運転席と助手席、そして僕が座っていた後ろ側に別れて乗ってきた。
車はどこかに向かって走っていた。二人の男は全裸のままの僕をずっと監視している。聞きたいことは山ほどあった。キャンプ苫谷はどうなったのか、みんな生きているのか死んだのか、和仁はどうなったのか、そして、あの古い基地の廃墟は爆破されたのか。中央コンピュータのバックアップはどうなったのか・・・
でも、何も聞かなかった。何も言わなかった。黙って、ただどこかに運ばれて行った。
|