2.裕弥の場合

駅のロータリーで立ったまま、俺はスマホのメールアプリを立ち上げた。
『少し早く着きました』
そう入力したけど、送信ボタンをタップするのに少し時間がかかった。
(今更、やめるなんてありえないよな)
送信ボタンに伸ばした指が震えている。目を瞑って指を画面に押し付ける。目を開けると、『送信しました』と表示されていた。
急に帰りたくなる。
(帰ってどうすんだ。今日、会う約束したってことは、亮ちゃんも知ってる。逃げ帰ったら亮ちゃんになんて思われるか・・・)
ロータリーの脇に、バスターミナルがあった。そこのベンチに座る。持って来たリュックからペットボトルのお茶を取り出して飲む。
すると、目の前に車が停まった。こっち側の窓が開いて、中から男の人がこっちを見た。
「裕君?」
「あ、は、はい」
俺は慌てて立ち上がる。
「乗って」
男の人はそう言うと、窓を閉めた。俺は車に近づいて、助手席のドアを開いた。
「あ、あの・・・」
「早く乗って。バスが来た」
男の人がルームミラーを見ながら言った。後ろを振り返ると、バスが近づいて来ている。慌てて助手席に座ってドアを閉める。車は静かに走り出した。

「俺も早く着いちゃって、どうしようかなって思ってたんだよ」
運転しながら、男の人が言う。ようやく、ちゃんとその人を見た。サングラスをかけていて、その、ちょっと怖そうな感じだった。
(どうしよう・・・)
正直に言えば、帰りたかった。やっぱりどんな人かも分からずに会うなんて、俺にはハードル高すぎる。でも・・・
「約束通り来てくれて良かった。すっぽかす奴も多くてね」
今、俺もすっぽかした方が良かったかも、なんて思っている。その人の横顔を見て、腕を見て、太ももを見る。筋肉が付いた感じの太い腕と太ももだ。
(怖い人かも・・・)
すっかり怖じ気づいてしまった。なんとか今から断る口実を考えようとした。
「着いたよ」
でも、車は大きな建物の地下の駐車場に入っていく。何回か曲がって、車を停める。
「さあ、行こうか」
男の人が車から降りる。降りたくはなかった。でも、このまま乗っているわけにも行かない。車から降りて、男の人の後についていく。駐車場の隅にあるエレベータに乗り込む。そして、男の人は一番上のボタンを押した。ドアが閉まる。いよいよ、逃げられない。
「緊張してる?」
男の人が声を掛けてくる。俺は無言で頷く。
「こういうの、初めてか?」
また頷く。
「そうか。じゃ、緊張するなって言っても無理だな」
男の人がサングラスを外した。その顔は、意外と優しそうだった。男の人と目が合う。
「ああ、これ?」
サングラスのつるを指の間に挟んで左右に少し振る。
「まぶしいの苦手でね。車運転するときの必需品なんだ」
別に怖い人じゃないかもしれない。ほんの少しだけ、緊張が緩んだ気がした。

最上階でエレベータを降りる。少し歩いて、突き当たりがその人の部屋だった。
「お、おじゃまします」
小さな声でつぶやくように言う。
「どうぞ」
男の人が先に進む。ついていくと、広いリビングだった。大きな窓から明るい日差しが差し込んでいる。
「うわ」
思わず声を上げてしまった。目の前に、視界を遮る物がないパノラマが広がっていた。遠くの方には海が見える。見渡す限り、ここより高い建物はなさそうだった。
「いい眺めだろ? ちょっと自慢なんだ」
いつのまにか、男の人が俺のすぐ後ろに立っていた。そして、そっと腕を胸の前に回して抱きしめられる。
「あ、あの、シャワーとか、いいんですか?」
こういうことをする前にはシャワーを浴びたりするものだと思っていた。
「いいよ。このままで」
そして、俺を抱き締めたまま、俺の身体を押す。そのまま、別の部屋に連れて行かれる。
「ほら。ここからの眺めの方が気に入ってるんだ」
窓の前に、外向きにソファが置いてあった。俺をそのソファに座らせる。窓からはやっぱり海と、そして右の方には少し小高い丘のような所も見える。
(こんな所に住んでるんだから、お金持ちなのかな)
俺はそんな事を考える。
(そういやあの車も、なんだか高そうな感じだったな)
男の人が横に座る。軽く肩を抱かれる。
「初めてだったね」
「はい」
少し俯き気味の俺の顎に手を掛けて、顔を上げさせられた。そして、そのまま顔を近づけてくる。俺は目を瞑る。男の人の唇が俺の唇に重なった。亮ちゃん以外の人とは初めてのキスだ。
「キスも初めて?」
どう答えようか、一瞬迷った。でも、身体が先に頷いていた。
「今までこういうこと、全くしたことない?」
また俺は頷いた。
「女の子とも?」
頷く。
「そうなんだ。モテそうな顔してるのに」
そして、もう一度キスしてきた。
「俺がファーストキスの相手でよかったのかな」
俺は頷いた。本当はファーストキスは既に亮ちゃんとしている。亮ちゃんにとっては最初じゃなかったかもしれないけど、俺に取ってはあれが最初のキスだ。なんでこの人には嘘を吐いたのか、自分でも分からなかった。
「じゃ、ゆっくりしていこうか」
心臓がドキドキ言っている。またキスをされ、今度はそのままソファに押し倒された。

俺は明るい日差しを浴びながら、上半身を裸にされた。その男の人は、俺の身体を撫でて、キスしてきた。腕を持ち上げて脇にもキス。お臍にもキス。俺はどうしたら良いのか分からない。されるがままだ。乳首を軽く抓られる。
「いつっ」
「まだ乳首は感じないか」
その人は俺が痛がると、すぐにやめてくれた。その手を胸から腹に滑らせる。そして、脇腹を撫でる。
「くすぐったいです」
俺は身体をよじりながら言う。しかし、今度はやめてくれない。むしろ、更に触ってきた。
「我慢して。無理せずに受け入れるんだ。気持ち良くなるから」
普通に撫でてるんじゃない。触れるか触れないかの微妙な力加減。それがすっと俺の身体に伝わってくる。くすぐったい。でも、確かにそれだけじゃない気がする。
「力抜いて」
言われる通りにする。手が触れるたびに、くすぐったいような、でも、身体の奥の方に何か熱い物を感じるような感触。勝手に身体が仰け反る。その手が胸の方に移動する。さっきは平気だったのに、今度は脇腹の時と同じようにくすぐったく感じる。ソファの上で腰が持ち上がる。
「あ、あぁ」
呻き声が出る。そのまま身体を抱え込まれる。男の人の手が、ズボンの上から俺の股間に触れた。
「あっ」
一瞬腰を引く。しかし、男の人はそのまま手を押し付ける。
「勃ってるね」
自分でも気が付いていなかった。身体の奥の熱い物の中心がそこだった。俺は更に腰を持ち上げて、男の人の手に股間を押し付ける。
「ああ・・・」
声が漏れる。溜め息のような声。これが喘ぐって事なんだろうか。
男の人の手がベルトを緩める。ジッパーを下ろしてズボンを膝までずらせる。ボクサーブリーフの真ん中が熱く盛り上がっている。びりびりとした感覚が、俺のちんこを中心にして広がっていく。男の人が俺のちんこを軽く撫でる。
「はぁあ・・・」
間違いない。これが喘ぐって事なんだ。勃起したちんこを何かに押し付けたかった。だから、男の人の手に押し付ける。ぎゅっと押し付ける。びりびりが身体に広がる。
「き、気持ち、いい・・・です」
小さな声で言う。ボクブリの上から俺のちんこが握られる。勝手に腰が動く。声が出る。
「なかなかいい感度してるね」
そして、ボクブリに手を入れられた。初めて、他人に直接ちんこを握られた。それだけで身体中に電気が走るみたいに気持ち良い。自分で触るときとは全然違う。痛いくらいに勃起していた。
「脱がせるよ」
耳元で男の人が囁いた。俺が腰を浮かせると、男の人がズボンとボクブリを脱がせた。ソファの上で全裸になった。目の前は窓。あの景色が全裸の俺の前に広がっている。
「恥ずかしい」
小さくつぶやいて、両手で股間を覆った。
「誰も見てない。大丈夫だよ」
男の人が俺の両手を掴む。
「それとも、誰かに見られたい?」
そう耳元で囁かれた。俺の両手を頭の上に引っ張り上げて、頭の後ろに回す。男の人が手を離した。でも、俺はそのまま手を頭の後ろで組んだままにしていた。
「誰に見られたい?」
俺は顔を伏せた。誰に見られたいか、頭の中には一人しか浮かばなかった。そして、それを思い浮かべた途端、俺の顔が真っ赤になっていくのを感じた。
「見られたい人がいるんだね」
囁くように言って、俺から離れた。そして、俺の目の前でその人も全裸になった。ちんこが勃起している。俺のより二回りくらい大きい、大人のちんこだった。
「さて、始めようか」
その人は俺の目の前にちんこを突き出した。
「フェラチオ、出来るよね?」
俺はその人のちんこに手を添えた。初めて他人のちんこに触った。それは勃起していて、固かった。ゴクリとツバを飲み込んで、口を開いた。
それを口に入れるのには少し抵抗があった。でも、今日はセックスするために来ているんだ。目を閉じて顔を前に出した。それが口に入ってくる。思ったほど匂いはしない。口を閉じる。唇がちんこに触れた瞬間、思わず閉じかけた口を開いてしまう。でもすぐにまた口を閉じる。男の人のちんこを唇で感じた。
「舌も使って」
ちんこに舌を押し付ける。亀頭の形を感じる。男の人が俺の頭を両手で押さえて、ゆっくりと前後に動かす。
「もっと舌を使って刺激して」
頭の動きに合わせて舌を動かす。
「そう。いいよ」
そのままちんこに舌を絡めながら、頭を動かし続ける。男の人が俺の口からちんこを引き抜く。そのまま俺の前にしゃがみ込んで、キスしてきた。舌をねじ込まる。さっきのキスとはまるで違うキスだ。自然と俺も舌を絡めていた。その状態で脇腹を撫でられる。さっきと同じようなくすぐったさに加えて、何か違うものを感じる。あの、初めてチンコを触られたときの感じに近い、びりびりしたものを感じる。身体をなで回されながら舌を絡め合う。
「あぁ」
声が出る。いや、出てしまう。しかし、その口をキスで塞がれる。身体を抱き締められ、ソファの前に立ち上がる。そのまま、男の人が俺の前に跪く。今度は男の人が俺のちんこをフェラチオしてくれる。暖かくて、じんわりと包み込まれる感触。舌でちんこの先端や、亀頭の裏を刺激される。
「あっ」
腰が引けた瞬間、男の人の口からちんこが抜けてしまう。
「あ、ご、ごめんなさい」
慌てて腰を突き出すようにする。男の人は俺を見上げて笑う。
「やっぱりいい感度してるね」
また口に含まれる。今度は両手をお尻に回す。お尻を左右に広げられて、お尻の穴を指で突っつくようにして触られる。
「んっ」
今度は腰が前に動く。ぴりぴりした感じが今度はお尻の穴を中心にして広がっていく。男の人が俺のちんこから口を離して、俺の身体の向きを変えさせた。お尻を両手で掴んで開くと、今度はお尻の穴を舐め始めた。
「あぁ」
その感触で、初めはぎゅっとお尻の穴が締まる。そして、男の人の舌を受け入れる様に力が抜けていく。舌が穴に入ってくる。片手がお尻から離れて俺の玉を握る、ゆっくりと、やんわりと玉を握られる。もう片方の手がちんこを握る。穴を舐められながら、ちんこをしごかれる。
「あ、ヤバい」
俺はその手を掴んだ。男の人はしごくのをやめる。お尻から顔を離して俺に言った。
「いきそうになった?」
「はい。気持ち良すぎて」
俺は正直に答えた。
「まだまだこれからだよ」
そして、また両手でお尻を広げて穴を舐め始めた。
「うっ」
そこに舌が触れるたびに、そしてその舌が奧に入ってくるたびに声が出てしまう。男の人は、そんな俺の反応を楽しむように、何度も穴の周りを舐めたり舌を入れたりしてくる。
「ああ、もう、ヤバいです・・・」
少し足が震えていた。つまり、それくらい気持ち良かったってことだ。
「少し、休憩する?」
男の人が俺のお尻の穴から顔を上げた。俺はソファにどさっと座り込んだ。
「舐められるだけでそんなに気持ちいいなら、次はどうなるんだろうね」
そう言って、男の人はその部屋から出て行った。

戻って来た時、両手にグラスを持っていた。
「ほら、コーラ」
「ありがとうございます」
グラスを受け取ると、半分くらいを一気に飲んだ。冷たくて、火照った体に染みこんでいく気がした。張り詰めていた気持ちが少し落ち着く。痛いくらいに勃起し続けていたちんこも少し戻りつつあった。
「本当に初めて?」
俺は頷く。そして付け加えた。
「あの、ホントは、キスは」
「したことあるんだ」
俺は頷く。
「キスだけ?」
「はい」
「そうか。アナル凄く感じるみたいだから、ひょっとしたら経験してるのかと思ったけど」
「あれはホントに初めてです」
なんだか急に恥ずかしくなる。
「君には素質があるんだよ、きっと」
俺の人生で『素質がある』なんて言われたのは、たぶん初めてだ。少し嬉しい。
「じゃ、この後入れるけど、いい?」
『入れる』と言われた瞬間、なんだか胸の奥がきゅんとなる。
「は、はい」
ドキドキしてきた。そして、
「入れるって言われただけで勃つんだ」
また俺のちんこがぎんぎんになっていた。
「・・・はい」
俺は顔を伏せて、小さく答えた。

コーラを飲み終えると、俺は男の人に手を引かれてベッドルームに移動した。
「仰向けに横になって」
言われた通り、ベッドの上で横になる。男の人が俺の足の間に座る。そして、足を持ち上げられた。そのまま、またお尻の穴を舐められる。
「はぁ」
やっぱり気持ち良い。ちんこから先走りが溢れて、俺の腹に滴り落ちている。しばらくそうやって舐めた後、ローションがお尻の穴に塗り付けられた。そのまま指が穴に入ってくる。
「あっ」
指は簡単に俺の穴に入った。そのままゆっくりと手を動かす。
「痛かったら言えよ」
そして、指が2本に増える。俺は目を瞑ってお尻の穴に集中した。指がゆっくりと入ってきて、しばらくそのまま・・・いや、穴の中で、少しぐにぐにと動いている。指が入ってきた時と同じようにゆっくりと抜かれる。また入ってくる。今度は指が左右に回される。そしてまた抜かれる。何度もそうやって繰り返す。目を開ける。男の人と目が合う。そのまましばらく見つめ合う。俺は少し身体を起こして男の人の顔に俺の顔を近づける。男の人が察して俺に顔を寄せる。俺はその口に貪り付くようにしてキスをする。その間もお尻の穴で指が出入りしている。
「はぁ」
キスをしながら息が漏れる。ちんこはずっと勃起したままだ。
「そろそろ入れるよ」
俺は頷く。男の人が俺ににじり寄って、お尻の穴にちんこを押し当てた。

想像では、きっと初めて入れられる時は怖いだろうって思ってた。でも、違ってた。今、俺は全然怖くない。それよりもわくわくしている。入れられるってことに興奮している。
ゆっくりと身体を押し付けられる。
「力抜いて」
言われた通り力を抜く。お尻が広げられる感覚。何かが入ってくる。指とは違う、太くて熱い何か。まさに亮ちゃんが言っていた通りの『なんか入ってくる感じ』だった。それは何かじゃなくて、ちんこだ。今、俺はお尻の穴にちんこを入れられているんだ。
穴が押し広げられて、それが入ってきた。ゆっくりと、俺の身体を占領する。
「あぁ」
俺が声を出すと、男の人がちょっと心配そうな顔をした。
「痛い?」
俺は首を左右に振る。
「・・・気持ちいいです」
男の人は軽く頷いて、更に奥まで入ってくる。
「根元まで入ったよ」
今度は俺が頷く。
「動くよ」
また頷いた。男の人がゆっくりと腰を動かす。俺の中の男の人がゆっくりと動く。その度に、俺の身体の内側にそれが押し付けられ、擦り付けられる。そこからびりびりが身体に広がる。
「あぁ・・・もっと」
無意識だった。でも、実際そうして欲しかった。もっともっと、俺の中をかき回して欲しいと思った。
男の人の腰の動きが徐々に速くなっていく。
「ああぁ」
何だろう、この感じ。気持ち良い、それ以外になんて言えば良いんだろう。俺のちんこがビクビクと揺れている。男の人は更に早く動く。
「き、気持ち、いい・・・」
男の人が俺の足を押さえていた手を離す。そして、俺の腰の辺りを掴んで腰を振る。下半身がじんじんする。俺は足を伸ばして、そして膝を曲げ、男の人を足で抱え込むようにした。男の人が俺の背中に手を回す。そのまま抱え上げられる。俺は足で男の人の腰を強く抱き寄せる。男の人は立ち上がり、俺の身体を揺らす。ちんこが俺の穴を貫く。俺は足で男の人の腰を抱え込んだまま、男の人に抱きかかえられ、ベッドルームからさっきのソファの部屋に戻る。大きな窓の近くで身体を揺らされる。
「ああ、あ、あ」
男の人が入ってくる度に喘ぎ声が出る。
「き、気持ちいい」
何かが身体の奥で大きくなっていく。それは徐々に身体全体に広がっていく。やがて、それはまた小さくなり、でも、鋭い快感になって、ちんこの奥の方で強くなる。
「あ、い、いく!!」
その快感に押し出されるように、俺のちんこから精液が迸った。それは俺の頭の遙か上を弧を描いて飛んでいく。何度もそれは続いた。
「おぉ、凄く締まる!」
男の人も叫んだ。
「俺も、いく!!」
更に激しく身体を揺さぶられた。そして、男の人は俺を抱えたまま少し動きを止め、身体を押し付けてきた。

初めての、そして激しいセックスの後、俺も男の人もぐったりして、二人でベッドに転がっていた。
気持ち良かった。本当に気持ち良かった。こんなに気持ち良いのなら、もっと早く亮ちゃんとするべきだったな・・・まだ心臓はどきどき言っている。
もしこれが亮ちゃんにされたんだったら、もっと、もっと気持ち良いんだろうな・・・そんな事を考えた。
「どうだった?」
「気持ち良かったです・・・すごく」
あの、精液が押し出される感じ。あんなのは今まで感じた事がなかった。
「初めてなのに、トコロテンしちゃったね。すごかったよ」
そう言われて、俺は少し照れ笑いする。
「すごく出たし、すごく飛んでた」
「ホントに・・・すごく気持ち良かったから」
「俺も、君の中で気持ち良かった」
隣で横になっていた男の人が、俺の方を向いた。
「キスはしたことあるんだよね?」
「はい」
「本当にキスだけ?」
「本当です」
疑っている感じではなく、確認している感じだった。
「その相手は、友達?」
「はい」
男の人が俺を見つめる。俺はその顔に顔を寄せた。すると、男の人は顔を背けた。
「その友達のこと、好きなの?」
「・・・うん、好きです。ごめんなさい」
「謝ることはないさ」
男の人が俺の頬を撫でる。
「じゃ、キスはその友達としなさい」
さっき顔を背けたのはそういうことだったんだ。
「君は可愛いし、セックスの相性も良さそうだから、今後も出来れば、と思ったけど」
そして、俺の顔を見た。
「君のセックスの相手は俺じゃない。君もたぶんそう感じたんじゃないか?」
確かに、相手が亮ちゃんだったら、とは思う。でも・・・
「あなたのことも好きかもしれないです」
すると、男の人は笑った。
「それは身体の相性がいいってことを、勘違いしているだけだよ」
そう言って起き上がると、俺の手を引っ張って俺を引き起こした。
「シャワー浴びに行こう」
男の人は俺の前を歩く。俺はその背中に抱き付いた。

二人でシャワーを浴びながら、俺は問われるままに、亮ちゃんとの関係を話した。シャワーを終えると、俺の身体を拭いてくれた。そして、あのソファのある部屋で、少し暗くなってきた景色を見ながら二人で服を着た。
「じゃ、君とはこれで終わりだ。その友達と上手くいくことを祈ってるよ」
服を着終えた俺に言った。
「あの、最後に・・・もう一回キスして下さい」
すると、男の人は首を左右に振る。
「君がキスをする相手は俺じゃない。分かってるだろ?」
そして、二人でエレベータに乗って駐車場に降りる。車で駅まで送ってもらう間、二人とも何も話さなかった。
「じゃ、な」
別れるときもそれだけだった。
「ありがとうございました」
俺はそう言って、男の人の車が見えなくなるまで見送った。

電車が来るまでの間に、俺は亮ちゃんにLINEでメッセージを送った。
『セックスしよ!!』
スマホをズボンのポケットに入れる前に、手をポケットに突っ込んで、勃起したちんこの位置を直した。
 
      


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