I wish
〜怨望〜

えん-ぼう 【怨望】 怨みを抱くこと

.03

1月18日(金) 15:29


(さて、そろそろいいかな)
俺はキャリーバッグからもう一台ノートパソコンを取り出し、起動させる。
「小野」
また小野を指名する。
「ひぃぃ」
小野は床に頭を付け、体を丸める。
「小野、来い」
再び命じた。小野は立ち上がろうとするが、足が震えてそれすら出来ない。俺は机の壁に置きっ放しになっている小野のスマホを掴み、小野に向かって投げた。頭に当たって床を滑る。
「拾え、小野」
もう四つん這いにすらなれず、まるで這うようにスマホに近づく。
「警察に繋げ」
だが、小野が操作しようとしても、スマホは思ったように反応してくれない。いや、小野の指そのものが、小野の言うことを聞かなかった。
「で、出来ません」
震える声で言った。
「菊池、お前掛けろ」
菊池が小野の手からスマホを奪い取る。すぐに警察に繋がる。
「まず俺の要求に逆らったら即こいつらを殺す。もう分かってるよな?」
「早まったことをするな」
いつもの声だ。
「NHRの人間を呼べ」
「は?」
「分かるだろ、NHR。日本放送連盟だ。10分以内に」
それだけ言って、俺は通話を終わらせる。ここの近くにNHRの放送局がある。10分も掛からないはずだ。すぐにスマホの着信音が鳴った。
「なんだ?」
「今連絡したが、どういう用件か教えて欲しい。それによって人選も変わる」
それはもっともな話ではある。
「じゃ、言っておく。これから俺がネットで配信する動画を、そのまま放送させろ。それが出来る人を呼べ」
「分かった。交渉する」
通話が切れた。俺は生徒達に向き直った。
「橋本、お前佐々木と付き合ってたんだよな?」
直接聞いた事はないが、何度もそういう噂は聞いていた。
「はい」
嘘をついても仕方がないと思ったか、それとも嘘をつく余裕もないのか、橋本は素直に認めた。
「橋本、佐々木の手錠の番号を見ろ」
橋本が佐々木の足下にうずくまった。
「そこからその番号の鍵を見つけて、佐々木の手錠を外せ」
佐々木の手錠が外された。
「お前等、ここへ来い」
教室の真ん中に立たせる。
「さて、これからなにが起こるか分かるか?」
と、小野のスマホが鳴った。俺はハンズフリーモードにして電話を受けた。
「NHRの者です」
少しおどおどしている。当然だ。殺人犯と会話をしてるんだからな。
「今から、中学生がセックスするのを全国中継しろ。編集やボカシとかは一切入れずにそのまま放送するんだ。いいな?」
「え、ちょっと待ってください」
電話の向こうで何やら話をしているようだ。俺は天井に向けて発砲する。
「お前等に選択権はない。流さなければ、生徒を殺す」
「わ、分かりました」
俺は2台目のノートパソコンを床に置いた。ネット配信用のソフトを立ち上げる。画面がノートパソコンのカメラの映像に切り替わる。
「橋本、これからなにをどうするのか、分かってるよな」
橋本は佐々木を見る。佐々木はじっと俯いていた。
「全裸になれ」
橋本に命じる。ゆっくりと服に手がかかり、1枚ずつ脱いでいく。その様子を目で追いながら、俺はキャリーバッグからWEBカメラを3つ取り出し、ハブを介してノートパソコンに接続する。
全裸になった橋本が、怯えながら突っ立っている。手でペニスを隠していた。
「手をどけろ」
俺は少し驚いた。橋本のペニスが勃起している。この二人にセックスさせるつもりではいたが、実際には勃起しないだろうから無理だと思っていたのだが・・・こんな状況で勃起させられるとは。あるいは、こんな状況だからこそ勃起しているのか。いずれにせよ、俺の予想に反して面白い展開になっている。
ネット配信ソフトの画面を4分割画面に切り替える。それぞれの画面がノートパソコンのカメラとWEBカメラ3台に対応し、映像を映し出す。
「こっちは準備出来たぞ」
俺は小野のスマホに話し掛ける。
「も、もうちょっと待ってください」
NHRの人間が言う。
「3分待つ。それを過ぎたらこいつらを殺す」
返事はなかった。が、すぐにネット配信に使っているURLを尋ねてきた。URLを教え、タブレットでテレビの映像を確認する。まだ始まっていない。俺はタブレットでツイッターを開く。
『【拡散希望】これからNHRでガチショタ&ロリのセックス放送するって』
そうつぶやいた。テレビの画面に戻る。画面が4分割され、ノートパソコンの画面と同じ映像がテレビに映っていた。
「よし、橋本と佐々木はそこに立て」
まず、ノートパソコンのカメラの正面に立たせた。
「手は体の横。いいな」
銃を向けながら言った。二人は手を下ろした。
「じゃ、まず橋本、自己紹介しろ。名前と学校、学年、住所だ」
「は、橋本一樹。年齢は13才、学校は」
学校名、学年、そして住所をしゃべらせた。そして佐々木にも同じように自己紹介させる。
「佐々木明日香です・・・」
「もっと大きな声でしゃべれ」
ほんの少しの間、佐々木はうつむき、そして顔を上げた。何かを吹っ切ったように、大きな声で自己紹介する。
「お前等付き合ってたよな。もうセックスはしたのか?」
「まだです」
橋本が答える。
「じゃ、橋本。童貞か?」
「はい」
(まあ、そうだろうな)
「佐々木は処女か?」
「違います」
予想外の答えに、橋本が少し驚いた様子を見せる。
「もう経験済みか。橋本以外の奴にされたって訳だな」
「はい」
意外にも、答えにくい筈の質問にも佐々木ははっきりと答える。
「じゃ、初体験はいつ、誰とだ?」
「小学校6年の時、父に犯されました」
誰かが小さな驚きの声を上げる。
「これまで何人と何回くらいしたんだ?」
「相手は父だけです。ほとんど毎週されました」
佐々木はカメラを見ながらはっきり答えた。俺はようやくさっきの佐々木の吹っ切ったような表情の奥にあったものを理解した。佐々木はこの状況を利用して、父親を告発しているんだ、と。今まで誰にも言えなかったことを、今、死を目前にして訴えているんだと。
「橋本は知ってたのか?」
橋本は首を左右に振る。なんとも形容しがたい表情だった。少し、橋本をかわいそうに思う。
「まあ、いい。じゃ、始めろ」
予想外の展開ではあったが、取りあえず予定通りこの二人にセックスさせ、それをテレビで放送させる。意外と橋本は積極的だ。この世での最初で最後のセックスだってことを理解しているかのように、まだ佐々木が濡れる前から無理矢理挿入しようとしている。
「柴田、来い」
柴田を机の壁の外に呼ぶ。WEBカメラを持たせ、セックスしている二人の至近距離から撮影させる。二人の性器、二人が繋がっている部分、表情、息づかいがノーカットでテレビ放送される。世のロリ・ショタマニアにはたまらない映像だろう。
俺はタブレットでネットの巨大掲示板を見てみる。案の定、無責任なネット住民達があれこれと書き込んている。
『マジコレ神じゃん』
『リアル厨房セックス乙』
等々。中にはテレビ放送のスクリーンショットを上げる奴や橋本と佐々木の個人情報を書き込んでいる奴もいる。
それらを音声で読み上げさせ、ネットでの反応を橋本と佐々木にも聞かせる。
『もっとアップ』
そういう書き込みがあると、俺は柴田に指示をする。ネット民の要望通りのセックスが、世に晒されていく。
「あっ」
短くそう叫ぶと、橋本の陰嚢がぎゅっと持ち上がった。
「柴田、アップだ」
橋本が佐々木の中に射精しているところを柴田がアップで捉える。佐々木の股間から橋本の精液があふれ出るところも。
指示もしていないのにセックスを終えた二人の体を柴田が執拗に撮影する。
(恐らく、こいつもこの状況で勃起出来るタイプなんだろうな)
そんな柴田を、この二人の次のターゲットに決めた。
「佐々木、足を抱えてマンコを広げて見せろ」
佐々木は言われた通りに足を抱える。柴田がそこにWEBカメラを近づけ、アップで撮影した。
「どけ」
そんな柴田を少し下がらせる。俺は橋本の精液で濡れている佐々木の陰唇に銃身を突っ込み、そのままかき回すように動かした。
「うっ」
佐々木の顔が歪む。
「気持ちいいか?」
俺が尋ねると、佐々木は首を上下に振った。
「そうか」
俺は銃身を引き抜き、橋本の顔に突きつける。
「舐めろ」
橋本が口を開き、舌で銃身を舐める。
「気持ち良かったか?」
「はい」
その答えが返ってきた瞬間、俺は引き金を引いた。橋本の顔面が吹き飛んだ。
銃身を再度佐々木に突っ込む。佐々木は観念しているのか、身動き一つしなかった。そのまま銃と佐々木の体がほぼ一直線になるまで銃を下げて、引き金を引いた。佐々木の体を貫通した散弾が、佐々木の首の付け根から後頭部あたりを突き破った。
『リアル殺人初めて見た』
『マジ?』
『あり得ね』
ネットの巨大掲示板が騒ぎ立てる。俺はそんな彼等にも分かりやすいように、橋本と佐々木の胸を至近距離で打ち抜いた。

「柴田」
WEBカメラを持ったままの柴田を呼び寄せた。
「次はお前だ、脱げ」
そう言うと、柴田は自分も誰かとセックス出来るとでも思ったのか、いそいそと服を脱ぎ捨てる。案の定、勃起している。俺はそのペニスに銃身を押し当てる。
「こんな時にも元気だな、お前は」
柴田はにやけたような表情をしていた。ひょっとしたら、この状況の中で切れてしまっているのかも知れない、そう思わせる表情だった。
「あの、俺・・・前田がいいです」
一瞬、何を言っているのか理解出来なかった。俺は愕然とした。この状況の中で、こいつは前田とセックスしたい、前田とさせて欲しいと俺に要求してきたのだ。
「そうか・・・前田か」
俺は前田を見る。前田の背中が硬直しているのが分かる。
「お前は元気だな」
もう一度言って、ペニスの根元に銃口を当てた。柴田はにやにやしていた。俺は引き金を引いた。
「ぐぁっ」
吹き飛ぶか、ひっくり返るか、あるいは尻餅をつくかと思っていたが、柴田は立ったままだった。ペニスがあった部分を中心に真っ赤になっている。柴田はそこに手を当て、ペニスがなくなっているのを確認するかのようにうつむく。血に染まった両手を目の前にかざして、そして初めて何が起きたか理解出来たようだった。
「あ、あぁぁ」
うめきだした。そして、俺を見る。裏切られたかのような目をしていた。
「お前、かなりおかしな奴だな」
恐らく本人は何を言われているのか分かっていないだろう。銃身で胸を押すと、そのまま床にひっくり返る。
「お前がこんなやつだったなんて、思わなかった」
銃口を眉間に当てた。そのまま、右耳の横までずらす。そこで引き金を引く。柴田は耳を押さえてのたうち回る。
「あの距離じゃ、耳には弾は当たってないはずだ。鼓膜は破れただろうけどな」
俺は柴田の胸を踏みつける。そして、今度は左耳の横で引き金を引いた。
「おい、柴田。聞こえてるなら両手を上げろ」
左耳に手を当てて体を丸めた柴田に言った。
「上げないと殺すぞ」
しかし、柴田は動かない。俺は笑った。
「さっき、お前は橋本と佐々木のセックスを目の前で見て、聞いてたからな。その報いだ」
本人に取っては筋違いだと文句を言いたいだろうが、聞こえていないから文句も言えない。俺は柴田の背中から脇に手を入れて、床に正座させた。
「人のセックスを見て興奮して自分もしたいなんてよく思ったな、こんな状況で」
俺は柴田の右側に立った。今度は右目から5センチほど離れた所で、目の表面すれすれの位置に銃口を向ける。引き金を引く。柴田が右目を押さえて倒れ込む。また座らせて、今度は左目を撃った。
「もう、お前の目も耳も使い物にならない」
聞こえないのは分かっているが、それでもそう言ってやりたかった。
「橋本と佐々木のセックスが、お前のこの世での見納め、聞き納めだったんだ」
柴田の後ろに回る。後頭部に狙いを定める。
「そして、これで終わりだ」
引き金を引いた。まるで土下座でもするかのように、柴田の上半身が床に突っ伏した。

弾を装填しながら、また人数を確認する。男が残り7人、女が4人。なかなか減らないものだ。
と、教卓の横の机に置いてあるノートパソコンから通知音が鳴り出した。
「客が来たみたいだな」
俺はそのノートパソコンの画面を見る。動きがあった画面が拡大されている。すぐに警察に電話を繋ぐ。
「廊下にいる奴を下がらせろ」
そして、天井に向けて引き金を引く。
「分かった」
ごまかそうとしないところは評価出来る。だが、2回目はない。
「もし、また同じようにここに近づく奴がいたら、全員殺す。分かったな」
警察は答えない。
「分かったな?」
俺は大きな声を出した。
「ああ、分かった。分かったからこれ以上生徒た」
そこで俺は通話終了のボタンをタップした。

「さて・・・」
俺は教室を見回す。
「前田」
さっき、柴田がセックスしたいと言っていた相手だ。前田の体がびくっと動く。
「さっき、柴田がお前とやりたがってたけど、お前はどうなんだ?」
「な、なにが・・・ですか?」
前田が窓の外を向いたまま、震える声で答えた。
「お前は誰とセックスしたい?」
前田は美人とは言わないが、けっこう可愛い方だ。男子にもなかなか人気がある。そんな前田と付き合いたいと思っている男子はクラスにも何人かいるだろう。じゃ、当の前田はどうなんだろう。
「いや・・・です」
首を左右に振りながら前田が答えた。
「クラスの中にはそういう奴はいないのか。残念だったな、お前等」
男子の方を見ながら言った。
「そんなの、したくないです」
さらに前田が言う。まあ、この歳ではセックスすることはあまり考えられないんだろう。
「じゃ、お前とやりたいって言っていた柴田を殺した先生に、ありがとうって言って欲しいな」
しかし、前田は何も言わない。
「せっかくお前のために柴田を殺してやったのに・・・あの時、やらせたほうがよかったかな?」
何も答えない。
「そうか。じゃ・・・」
男子を見回す。
「坂本、前田を犯せ」
坂本が飛び上がるように立ち上がった。
「ぼ、僕・・・」
俺は銃を坂本に向ける。銃口を前田の方に振って、促した。
「嫌です」
この状況ではっきりと拒絶した坂本には、正直驚いた。俺は銃口を坂本に向けた。
「じゃ、死ね」
言葉を翻すかも知れないと、5秒待った。しかし、坂本は何も言わなかった。だから、俺も何も言わずに引き金を引いた。
(ここに来て、死ぬことを覚悟出来てきてるのかな)
佐々木は少し違ったかも知れない。でも、坂本や前田、あるいはひょっとしたら柴田もある意味覚悟出来ていたのかも知れない。
(だったら、その覚悟を試させてもらおうか)
「そうだな・・・」
(もう人間の壁も要らないか)
俺は弾を込めながら考えた。
「井上、出てこい」
机の壁の中から、井上を呼び出した。
「そこの鍵を使って、女子の手錠を全部外せ」
俺が命じると、素直に従う。鍵を見つけるのに少し時間がかかったが、女子の手錠が全て外された。
「女子、こっちを向け」
全裸のまま、全員体の向きを変える。
「じゃ・・・阿部、安藤」
女子の列の一番前と一番後ろの二人を指名した。たまたま離れていたが、この二人は出席番号1番と2番、AAコンビとかダブルAとか言われる仲の良い二人だ。
「こっちへ来い」
教室の中央に立たせた。
俺は二人の顔を観察する。二人とも硬い表情をしている。阿部の頬には、涙が流れた痕が付いている。もう涙は枯れたということだろうか。ならば・・・
俺は安藤に銃口を向けて、阿部に言った。
「阿部、ここから走ってそこの窓から飛び降りて自殺しろ」
ここは4階だ。ひょっとしたら助かるかも知れないが、死ぬ可能性も充分ある。
「お前にそれが出来ないなら、安藤を撃つ」
自殺しなければ、仲の良い友達が死ぬ。が、飛び降りれば自分が死ぬ可能性は高い。そんな状況でどう動くのか。
「自殺したら、舞の命は助けてくれますか?」
はっきりした口調で阿部が言った。安藤の命さえ助かるなら、死んでもいい覚悟のようだ。だが、そう簡単にはいかせない。
「それは俺の気分次第だ。お前が自殺しても安藤を殺すかも知れない」
「じゃ・・・」
言いかけた阿部の言葉を遮って、俺は続ける。
「だが、お前が自殺しなかったら、今、安藤は確実に死ぬ」
「やめてよ、莉奈。そんなこと」
安藤が阿部を止める。
「私もう、殺されるって思ってたから」
一応、安藤にも死の覚悟はあったようだ。
「前田、そこの窓を開けろ」
俺は飛び降りやすいように、前田に窓を開けさせた。
「10数える。その間にお前が自殺したら、ひょっとしたら安藤は死なずに済むかも知れない。が、お前が自殺しなかったら」
そこまで言ったところで、阿部が窓に向かって走り出した。そのままジャンプして窓の外に身を投げた。
「莉奈〜!!」
俺に銃を向けられたまま、安藤が叫ぶ。そして、安藤も阿部を追って走り出した。俺は安藤の背中めがけて引き金を引いた。安藤の体が押し出されるように窓から落ちる。俺は窓際に駆け寄り、身を乗り出して下を見た。阿部のすぐ近くに安藤が倒れている。そして、阿部は安藤に向かって腕を伸ばしていた。俺は二人めがけて2発撃つ。二人が確実に死んだかどうか確かめたかったが、そんなことをしている間に俺が狙撃される可能性があった。すぐに窓際から離れ、教室を見渡す。教室の中の生徒は誰も動いてなかった。俺は銃を構えながら教室の中央に戻った。
あと残りは・・・男子6人、女子2人だ。
俺は残った女子も机の壁の中に入るように指示した。

 【1−C 生徒名簿】
 
       


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