I wish
〜怨望〜

えん-ぼう 【怨望】 怨みを抱くこと

.05

1月18日(月) 19:18


「先生・・・もういいでしょ」
誰かが言った。見なくても声で分かる。吉田だ。
「僕でしょ。僕が悪いんでしょ。だから、もう終わりにしよ」
吉田は立ち上がっていた。
「なぜ今更そんなことを言う?」
俺は吉田に問い掛ける。
「今更そんなことを言っても、この死体は生き返らない。どうせ言うならこいつらが殺される前に言え」
すると、中尾が激高した。
「お前が殺したんじゃないか! 龍聖はずっと自分のせいだって言ってた。自分から先生に殺されに行くって言ってた。俺が止めたんだ。悪いのは先生じゃないか!」
早口でまくし立てた。俺はそんな中尾の顔の横1メートルくらいを狙って引き金を引く。
「だまれ」
俺は静かに言った。
「ねえ、先生。僕が別れるなんて言ったのがいけないんでしょ?」
吉田がすでにほとんど形を成していない机の壁から前に出てきた。
「下がれ」
銃口を吉田の足下に向ける。だが吉田は立ち止まらない。
「下がれ」
もう一度言う。しかし、吉田は下がらない。
「下がらないと、中尾を撃つ」
俺は銃口を中尾に向けた。ようやく吉田が机の壁があったところまで下がった。
「確かに、お前が別れるなんて言うからこうなった。でも、それは理由の一つに過ぎない」
「な、なにそれ、別れるとかって」
井上だった。そうか。まだいたな、こいつ。
「俺と吉田は付き合ってたんだよ」
ここにいる吉田以外の奴等は、俺と吉田が付き合っていたことを知らない筈だ。
銃口を中尾に向ける。
「知らなかったろ、中尾」
中尾が微妙に頷く。
「そ、そんなことで、俺等殺されるのかよ」
井上には納得がいかないようだ。
「だから言ったろ、とんだとばっちりだって」
井上の顔が怒りで真っ赤になる。
「お、お前等の痴話喧嘩じゃないか。そんなことで俺等は・・・」
「まあ聞け」
俺は少し笑いながら言った。
「でも、吉田は俺と別れて中尾と付き合うなんて言い出した。お前等、キスしたんだよな?」
「したさ。それがどうした」
中尾は吉田の腕を引っ張り、自分の方に引き寄せる。
「ま、確かに痴話喧嘩だよな。俺と中尾で吉田の奪い合いだ」
中尾が一歩前に出て、かばうように吉田の前に立った。
「そうだ、井上。お前、吉田の右隣の席だったな」
井上は答えない。しかし、俺の記憶の中では間違いなくこいつは吉田の右隣だ。
「先週の金曜日、こいつらはお前の机の上でセックスしてたって知らなかったろ」
「なんでそれを」
中尾が言ったが俺は無視する。
「お前の机の上で、中尾が吉田のケツの穴にちんこを突っ込んでたんだ。な、そうだろ?」
吉田の顔を見る。
「隼人の机だったかどうか覚えてないけど」
「ほら。こいつらは、お前の机なんて自分達がセックスするための台くらいにしか思ってないんだ」
「僕達、そんなつもりは」
「事実、してただろ?」
吉田が黙り込んだ。
「井上の机の上で中尾にケツを掘られて気持ち良かったんだろ?」
「もうやめろ」
中尾は更に一歩前に出た。
「お前だよ、中尾。俺の吉田を奪って抱いたお前が許せないんだよ、俺は」
銃口を中尾に向け、しっかりと狙いを定める。
「だったら、俺だけ殺せばいいだろ」
「そんなことじゃ俺の気が済まない」
俺は銃口を下げ、中尾の足下に1発放った。中尾は動かなかった。
「全部ぶち壊さないと気が済まないんだよ」
俺は大きく息を吸い込んだ。
(少し落ち着け)
興奮していた俺は、そう自分に言い聞かせた。

「吉田、来い」
吉田は俺に近づこうとする。しかし、中尾が腕を掴んで制止する。
「行かなくていい」
「来いよ、吉田」
吉田が中尾の手を振りほどいた。
「大丈夫だよ。大丈夫」
そして、俺に近づく。
「分かってるよな」
吉田が上着のボタンを外す。シャツを脱ぎ、ベルトを緩め、ズボンを下ろす。ソックスも、ボクブリも脱いで全裸になる。そして、俺の前にひざまずいた。
「先生の、舐めさせてください」
(やっぱり吉田は最高だ)
俺は感心した。ここでこう言えるなんて。俺はペニスを出す。吉田はそれに手を添え、口に含んだ。
「龍聖やめろ!」
中尾が叫ぶ。吉田は中尾をちらりと見て、そのままフェラチオを続ける。
「なにそれ・・・」
井上には今の状況や吉田の気持ちが理解出来ないらしい。
「お前等のせいで、俺、殺されるのかよ。ふざけんなよ」
「井上黙れ」
「お前等みんな、頭おかしいんじゃないの?」
どうしても井上には納得がいかないようだ。
「ま、理解出来ないだろうな。でも、あきらめろ」
井上は近くの机の表面を拳で叩いた。
「あんた、先生だろ。そんなことで先生が生徒殺していいのかよ!」
(うるさい奴だ)
少々辟易する。この際、俺の本音を言っておくことにした。
「俺にとってはお前なんかどうでもいいんだよ、井上」
「はぁ?」
「お前なんか、殺してもなんとも思わないゴミだってことだ」
吉田にフェラチオをさせながら、銃口を井上に向ける。
「むしろ、うざい。死ね」
「やめて」
吉田が顔を上げた。
「もう、殺さないで。先生の言うとおりにするから」
俺は吉田の頭を股間に押し付け、フェラチオを続けさせる。
「吉田は俺に自分を捧げることで、終わりにしようとしてるんだよな」
吉田の頭の動きが速くなる。俺も徐々に気持ち良くなってくる。一旦銃を下ろす。
(やっぱり吉田だ)
俺は吉田の後頭部に手を回して腰を使い始めた。グボッグボッと吉田の口から音が聞こえる。
「やめろよ・・・龍聖」
中尾が悲痛な声を出す。
「そんな奴と・・・やめてくれよ」
涙声になっていた。しかし、吉田はやめない。
「井上、お前の机をここに持って来い」
俺は井上に命じた。井上は動かない。銃口を向ける。それでも動かない。俺は井上の腹の横、30センチくらい離れた辺りを狙って引き金を引いた。ほとんどの散弾は当たらなかったが、数発が井上の腹に食い込んだ。
「ぐあっ」
井上は脇腹を押さえてしゃがみ込んだ。吉田は顔を少し横に向けて井上の方を見る。しかし、それでもフェラチオを続ける。
「持って来い」
井上が立ち上がる。右手で脇腹を押さえながら、机の壁だったところに行き、自分の机を引きずってきた。
「あと2つ、適当に持って来い」
井上に持って来させる。俺は井上の机を一番手前にして机3つを並べる。
「その上に仰向けになれ」
吉田に命じる。しかし、吉田は別の方向に動く。床に転がっていたローションを拾いに行ったのだ。そして、机の上に仰向けになる。
「これ」
仰向けのまま、ローションを俺に差し出す。俺は散弾銃を吉田の体の上に置いて、ローションを受け取った。
その瞬間、井上が近くにあった椅子を頭の上に振り上げ、俺に投げつけた。俺は吉田から離れてそれをかわす。井上に近づき、血に染まった脇腹に回し蹴りを入れる。
その隙に中尾が吉田の上の散弾銃を握った。
「動くな」
銃を俺に向ける。
「撃てるのか、お前に」
俺は中尾に一歩近づく。
「撃つさ。龍聖は渡さない」
ちらりと井上を見た。井上は床の上で脇腹を押さえている。さらに一歩、中尾に近づいた。
「なら撃ってみろ。俺を殺せよ」
「うあぁぁぁぁぁ」
「毅、やめて!」
吉田が叫ぶ。中尾は引き金に指を掛けた。その指に力が入る。しかし、引き金は動かない。
俺は中尾に駆け寄り、股間を思い切り蹴り上げた。中尾は銃を手放して、股間を押さえてしゃがみ込んだ。俺は銃を拾い上げる。
「お前等がなにかしてくるだろうなってことは予想してた」
とはいえ、俺も少し息が上がっている。
「だから、安全装置を掛けておいた」
銃を横にして中尾の方に突き出した。
「ほら、ここ。引き金の後ろにボタンみたいなのがあるだろ? これが安全装置だ」
そして、俺は安全装置を解除する。
「赤いのが見えるだろ? これで引き金が引けるようになる」
銃口を中尾の目の前に突きつけた。
「残念だな。小野だったら知ってたかも知れないのにな」
中尾の顔が引きつった。
「や、やめて、先生・・・お願いだから」
吉田が床に座り込み、俺に嘆願する。
「お願いします。なんでも言うこと聞きますから、お願いします」
吉田は床に頭を擦りつけた。だが、やめるつもりなどない。
俺は引き金に掛けた指に力を込めた。
「ばーん」
同時に大きな声で叫ぶ。
「ひぃぃ」
中尾が悲鳴を上げる。しかし、弾は出なかった。中尾の股間に黒い染みが広がった。俺はそれを見て鼻で笑う。
「もう一つ、保険を掛けておいた」
フォアエンドを掌で叩いた。
「この銃はポンプアクション式って言ってな、このフォアエンドを動かすことで、撃ったあとの空薬莢を排出し、撃鉄を起こして次の弾を装填するようになってる」
ようやく、中尾が顔を上げる。
「映画とかで見たことあるだろ、ここを動かしてるところ」
中尾の表情が変わっていた。リアルで自分が殺される体験をしたんだ。そりゃ、変化もあるだろう。
「さっき井上の腹を撃った後、俺はフォアエンドを動かさずにそのままにしておいた。つまり、今、この銃は前の使用済みの薬莢が入ったままで、次の弾の発射準備が出来ていないんだよ」
そして、フォアエンドを動かす。空薬莢が排出され、床に落ちる。
「知らないよな、そんなこと」
俺は体を屈めて、中尾の顔のすぐ横で言った。
「残念だったな。その程度の知識もなく銃を扱えるなんて思ったか」
中尾の体を足で押すと、中尾は簡単に床に転がった。

「危ないなぁ、井上」
俺は少し離れた所にうずくまっている井上に向き直る。
「学校の備品でそんなことして、いいと思ってるのか?」
まあ、俺が今更言えるような事ではないが。
「そんな悪い奴には罰を与えないとな」
井上に近づく。井上は後ずさる。背中が机に当たると、よろよろと立ち上がる。俺は至近距離から井上の右腕に狙いを定めて引き金を引いた。井上の体が回転する。右腕はもげるかと思ったが、かろうじて体にくっついている。今度は左手の掌辺り。手首も吹っ飛ばなかった。
「意外と威力ないんだな」
俺は弾を込める。そして、右腕にもう一発。さすがに腕が床に転がる。そして、右足首のすぐ前から撃つ。足首はどこかに飛んでいった。井上が床に倒れる。
「全裸になれ」
そう言ったが、言ってから右腕がなく、左手首も打ち抜かれた状態で自分で脱ぐのは無理だと気付く。俺は乱暴に下半身だけ裸にした。
「前から試してみたかったんだ」
俺は井上の両足を開かせた。陰嚢に足を乗せる。体重を掛ける。井上の顔が苦痛で歪む。
「金玉も簡単には潰れないんだな」
俺は足を上げる。そして、力を込めて井上の股間を踏みつけた。
「ぐあぁ」
ぐにゅっという感覚。井上が失神した。
「ほお。玉が潰れたら失神するか、下手したらショック死するって聞いたことあるけど、ほんとに失神するんだな」
俺は井上の左足の太ももに銃口を当てて、引き金を引いた。井上の体が一瞬浮き上がった。
「あぁぁぁぁぁ」
気が付いたのか、井上がうめく。今度は右肩を打ち抜く。そして、左足の向こうずね。左手を踏みつけて、人差し指の付け根に銃口を当てる。引き金を引く。人差し指が飛んでいった。
「おっと、大事な実験道具が」
俺は人差し指を拾いに行く。途中、床に転がっている藤原と目が合った。
「なんだ、まだ生きてたのか」
俺は銃を構えようとしたが、やめる。
「すぐ楽にしてやる・・・させてやるからな」
それだけ言って、井上の人差し指を拾い、教室の中央に戻る。その人差し指を銃口に詰めた。
「漫画や映画では、こうして銃口に指を突っ込んだら、銃が暴発して射手が大けがするってのが良くあるけど」
俺はそのまま銃を窓に向けて撃った。人差し指は窓の外に飛んでいった。
「人間の指くらいじゃ暴発しないんだよ、実際は」
しかし、井上は聞いていなかった。すでに気を失っていた。
「太もも撃ったのがまずかったかな」
太ももからは大量の血がどくどくとあふれ出ている。そのまま放っておいてもすぐに失血死するとは思ったが、顔面にもう一発撃って息の根を止めた。
「ふう」
俺はため息をつく。意外と疲れるものだ。


騒然としている校庭とはうって変わって、校舎内は静まりかえっていた。そんな中、4階にあるその教室だけが、いろいろな意味での生を感じさせた。
教室内には死体がいくつも転がっている。男の死体が7体、女が8体。そのうち、男4体、女5体が全裸だ。校庭にも死体がある。これらは4階の教室から落ちてきたものだ。すでに死亡した状態で落ちてきたもの、落ちて即死したもの、落ちた直後はまだ息があったが、その後死亡したもの、あるいは自分の後に落ちてきたものの下敷きとなって死亡したもの、いろいろだった。

教室の中には生き残っている者もいる。藤原、中尾。吉田の3人。そして、柳田だ。

「さて、中尾。お前にも罰を与えないと不公平だな」
柳田はそう言うと、銃口を龍聖の足下に向けた。
「待て、罰を受けるのは俺だろ!」
毅が叫ぶと、柳田はにやりと笑った。
「もちろんそうさ。だが、お前が俺に逆らったら、吉田を殺す」
「やめろ! 卑怯だろ!」
「卑怯? それがどうした」
今更、柳田にはそんなことはどうでもよかった。
「中尾、そこにぶっ倒れてる藤原をここに連れてこい」
柳田が銃身で藤原の方を指し示す。毅は立ち上がり、藤原に近寄った。
「立てるか?」
藤原はかすかに首を左右に振る。両足首の骨は、柳田に銃床で砕かれていた。毅は藤原の肩に腕を回し、体を抱え上げようとするが、ぐったりとした藤原の体はなかなか持ち上がらない。
「早くしろ」
毅は藤原を抱え上げるのを断念し、両手を持ってその体を引きずった。
「うぅ」
藤原がうめく。
「ごめん、我慢して」
柳田の前まで引きずり、腕を離した。
「こいつはもう、助からない」
柳田は銃口を藤原の胸に近づける。
「それに、だいぶ苦しんだみたいだしな」
柳田は、毅を見る。
「そこで、正義のヒーロー中尾君の出番だ」
そんな柳田の言い方に毅はむっとする。が、何も言わない。
「中尾、藤原を殺せ」
「え・・・」
毅は予想だにしなかった命令に絶句した。
「それがお前への罰だ」
柳田はにやりと笑うと、龍聖の方を顎で指し示した。
「逆らったらどうなるか、よく分かってるよな」
「そんな・・・」
毅は動揺する。
「大丈夫。さっき俺を殺そうとしたじゃないか。中尾なら出来るさ」
毅は銃を凝視する。柳田にはその意図が分かった。手をずらして、安全装置の状態を毅に見えるようにする。ボタンの赤いラインが見えている。安全装置が解除されているってことだ。
(手で持っているところ、動かしてたっけ?)
必死で考える。そんな毅の考えを読んだかのように、柳田がフォアエンドを動かす。空薬莢が床に落ちた。
(飛びかかっても間に合わないか)
龍聖の命と藤原の命。毅にとって、その重みの違いは考えるまでもなかった。
藤原の体に馬乗りになり、両手を藤原の首に掛けた。
「ごめん」
それだけ言って、力を込めようとする。
「気にすんな。痛いの辛いし早く楽にしてくれよ」
藤原がかすかに声を出す。それは毅にしか聞こえなかった。
「ごめん!」
そう叫んで一気に体重を腕に掛ける。
「ぐっ」
最後に藤原がうめいた。

どれくらいそうしていたのか・・・毅はなかなか手を離さない。手を離すのが怖かった。
(もし、手を離してまだ生きてたら・・・)
だが、柳田が毅の体を引きはがす。
「いつまで絞めてんだ」
乱暴に引きはがされ、床に転がった。藤原はもう動かなかった。
「あぁぁぁぁぁ」
毅は床で体を丸めて叫んだ。ずっと、ずっと叫び続けた。

 【1−C 生徒名簿】
 
       


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