陽良(アキラ)さんとハルちゃんは、12月29日から旅行に出掛けた。帰ってくるのは1月2日らしい。
『次は一緒に行こう』
陽良さんがそうメッセージをくれた。ハルちゃんからも同じようなメッセージが届いていた。
(どうせやりまくりなんだろ)
たぶん、あの3人も一緒に行ったんだろう。きっと、旅先で陽良さんやハルちゃん達は一緒にやり合うんだ。少し心の奥が疼く。嫉妬だ。分かってる。
僕の陽良さん、僕の親友のハルちゃん。そんな人達がセックスするのが分かっているこの気持ち。嫉妬するなと言う方が無理だろう。
「はぁ」
僕はスマホの画面を見ながら溜め息を吐いた。

12月30日は穏やかな日だった。
年末、色々とあった。本当に、人生が変わりそうなことが今年は起きた。
陽良さんが僕の家に泊まってくれた。
陽良さんの家に遊びに行った。
陽良さんの息子がハルちゃんだった。
そのハルちゃんの秘密、中村家の秘密を知ってしまった。
ハルちゃんとセックスした。
ハルちゃんにしゃぶらせた。
ハルちゃんが僕のペニスを覚えていた。
ハルちゃんとお互い入れ合った。
(濃い1年だったよな)
今年は陽良さんとハルちゃんとセックスした。陽良さんに入れた。僕の童貞を陽良さんに捧げた。
(陽良さんとハルちゃんばっかだな)
こういう方面の記憶には、冬樹は出て来ない。当たり前だ、冬樹とはそういう関係になっていないのだから。
「なんだか、あいつに悪いなぁ」
冬樹は僕の友達だ。ハルちゃんと同じく、大切な親友だ。
その一方で、ハルちゃんとはセックスまでする仲になってしまっている。
「別に冬樹は望んでないだろうし」
親友だからセックスする訳じゃない。セックスしなくても親友は親友だ。でも、このままハルちゃんとの関係を黙っていてもいいんだろうか。
結論は分かっていた。今は今のままでいいって。
別に冬樹ともっと深い関係になる必要はない。そりゃ、いつかは言わなきゃならない時が来るんじゃないかと思うし、もちろん冬樹がやりたいと言うならやるのは全然構わない・・・と思う。
(それって、僕がしたいだけなんじゃ・・・)
ハルちゃんともセックスした。だから冬樹とも。
(そんな、友達ならみんなセックスしてるみたいじゃん)
僕は頭を左右に振った。
これから僕等はどうなるんだろう・・・
来年、僕等はどうなるんだろう・・・
悶々とした気持ち。ハルちゃんにも電話で相談してみた。
「いいんじゃない? やっちゃえば」
スマホの向こうで喘ぎながらハルちゃんは言う。
(そんなあっさり言われてもな)
そのスマホの奧で行われているであろうことを想像しながら僕は思う。
「ねぇ、シュウちゃんも脱いでよ」
スマホの向こうから突然そんなことを言われた。
「はあ、バカなの?」
今はまだ真っ昼間。僕はコンビニ帰りで道を歩いている最中だ。
「そんなこと言って、シュウちゃんも勃ってるんでしょ?」
「勃ってねぇよ、このエロトが」
なんて言うけど、実際は半分勃起していた。
「じゃあ、勃起させて」
「今、外だっちゅうの」
「いいじゃん、外でも」
また喘ぐ。スマホからがさがさと音がして、ぐちゅぐちゅという音が大きく聞こえた。
(わざわざ聞かすのかよ)
ハルちゃんが掘られている音だ。その奧でハルちゃんの喘ぎ声。さっきより派手に喘いでいる。
「ああ、シュウちゃん」
わざわざ僕の名前を呼んで喘いでいる。
「シュウちゃん、一緒に、イこ」
またガサガサと音がする。
「シュウちゃん」
(ホントにもう・・・)
僕はズボンのポケットに手を入れた。完全に勃起してしまったペニスを押さえる。
「ああ、シュウちゃんに入れられる」
(誰がだよ)
急ぎ足で公園に向かう。
「ああ、シュウちゃんの、気持ちいい」
(だから待てっての)
公園のトイレの個室に入る。ドアを閉めて鍵を掛ける。ズボンとボクブリを一緒に下ろす。
「ああ、シュウちゃん、もっと」
スマホの向こうではハルちゃんが盛り上がっている。パンパンという音も聞こえる。
「イきそうだよ、シュウちゃん」
「待て待て、勝手に行くな」
小さな声で言う。ペニスを扱く。そこにスマホを近づけて、その音をハルちゃんに聞かせる。
「ああ、シュウちゃんも扱いてる」
僕のペニスを扱くクチュクチュという音がハルちゃんにも聞こえている。
「もっと激しくして」
ハルちゃんが喘ぐ。僕は扱く手を早める。
「ああ、シュウちゃんに犯されてる」
イきそうな声。
「ほら、ハルちゃんの中に出してやるよ」
外に声が漏れないように小さめの声で言う。
「ああ、シュウちゃん」
「ああ、ハルちゃん、イくっ」
僕は射精した。スマホの向こうでハルちゃんも大きな声で喘いだ。
「ああ、シュウちゃんの音、聞こえるよ」
僕の精液が飛ぶ音でも聞こえたんだろうか。その精液はトイレのドアに飛び散り、滴り落ちる。
「ああ、シュウちゃん、舐めて」
何を舐めろと言うんだろうか。ハルちゃんを舐めたくても、それはスマホじゃ出来ない。
「シュウちゃんの飛ばした精液、舐めて」
(は?)
つまり、ドアに付いている精液を舐めろってことか。僕はドアに顔を近づけ、舌を出す。
「舐めるよ」
僕はドアに滴っていた僕の精液を舐めた。

射精して、自分の精液を舐めて、そして僕は冷静になる。
(まるでハルちゃんの言いなりじゃん)
ペニスが一気に萎えてしまう。
(そりゃ、ハルちゃんの喘ぎ声が聞けたのはうれしいけど)
「まさか毎日掛けてくるんじゃないだろうな」
「えへへ」
スマホの向こうでハルちゃんが笑った。
「この、エロトが」
急いでトイレットペーパーで体と手に付いた精液を拭い取り、ズボンとボクブリを引っ張り上げて個室から出た。

「シュウ」
トイレから出たところで声を掛けられた。
「あ、冬樹」
「なに、お腹の調子でも悪いの?」
個室から出てきた所を見られていたらしい。
「ああ、実は、その」
冬樹がにやっと笑う。
「なんか、ハルちゃんを呼んでなかった?」
(ヤバッ、聞こえてたかも)
「あ、いや、その、さっきハルちゃんから電話来て」
「ふぅん」
僕を見る。明らかに納得はしていない表情だ。
「じゃ、俺もトイレ行こうかな」
トイレの、僕が入ってた個室に入ろうとした。
「あ、待って、冬樹」
僕は腕を掴んで引き留めた。
「どうしたの、シュウ」
(どう説明しようか・・・)
僕は言い訳を考えながら、冬樹の手を掴んでトイレから離れた。

「で、本当はなにやってたの?」
絶対に聞こえていた顔だ。
「その・・・どこまで聞こえてたの?」
冬樹が僕の顔を見る。顔が熱い。たぶん、僕の顔が真っ赤になっている。
「ハルちゃんイくとか、舐めるとか」
(やっぱり。さて、どう言い訳しよう)
「電話で一緒にオナってたとか?」
まぁ、ほぼ正解だ。正確には僕はオナってただけだけど、ハルちゃんはセックスしてたんだけど。でも、ひょっとしたら僕等の関係のことを話すいい機会なのかもしれない。
「あのさ・・・変なこと言うんだけど・・・」
「ハルちゃんとの関係?」
いきなり冬樹が核心を突いてきた。

「えっ」
思わず大きな声を出してしまった。
「ハルちゃんから聞いた」
「え?」
「付き合ってるんでしょ?」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってよ」
焦った。焦ったしうろたえた。恥ずかしくもなる。顔を両手で覆った。
「なに動揺してんの?」
「そりゃ・・・っていうか、なんで知ってんだよ」
「だから、ハルちゃんから聞いた」
さっきそう言ってたっけ。焦りすぎて頭が回らない。
「な、なんて聞いたの?」
「ハルちゃんとシュウが愛し合ってるって」
「あ、愛し合ってるって・・・そんなことまで言ったのか、あいつは」
今度は冬樹が少し驚いた。
「え?」
「だから、僕等の関係・・・してるってとこまで」
「ええ?」
今度は冬樹が大きな声を出した。
「愛し合ってるって、そういう意味だったの?」
「ええっ そうじゃないの?」
二人とも顔を伏せて黙り込んだ。
(ヤバいヤバいヤバい、要らないことまで言っちゃった)
「いや、だから、その」
「ちょ、ちょっと、話整理しよう」
冬樹も少しうろたえて言った。

それから僕等は話し合った。
まず、冬樹がハルちゃんから聞いたということ。それは僕とハルちゃんが付き合ってて愛し合ってるってことを聞いただけだった。別にそれ以上、具体的なことを聞いた訳じゃない。
「でも、もう二人、そういうことしてるんだよね?」
(ごめんハルちゃん、僕、自爆した)
「うん」
いまさらごまかせないし、嘘も吐きたくない。正直に認めるしかなかった。
「冬樹は気持ち悪いと思うかもしれないけど」
「なんで?」
「いや、だって、男同士だし」
「俺だって男だし」
「いや、そりゃそうだ・・・え?」
「いや、だから、俺だって男が・・・っていうか、もともとハルちゃんからこのことを聞くきっかけが、ホントは俺、シュウが好きだって言ったからなんだけど」
なんだか言ってることが頭に入ってこなかった。僕は聞き直した。
「えっ誰が?」
「俺が」
「誰を好きだって?」
「シュウを」
「それを誰に言ったって?」
「だからハルちゃんに。そしたら、ハルちゃんが自分がシュウと付き合ってるって」
(マジか)
ちょっとこの会話について行けずに押し流されそうになる。それを必死にこらえてるって感じだ。
「いや、待って。ちょっと待って。一旦落ち着こう」
「シュウがね」
「ちょっと黙ってて」
口を噤んで考える。つまり、冬樹も男が好きで、さらに僕が好きらしい。それをハルちゃんに言ったら、ハルちゃんからあいつと僕は付き合ってるって言われた、ということだ。
それは理解した。
で、今、僕は冬樹と二人でいる。この状況は何なんだ?
しかも、さっきハルちゃんと電話しながら射精したのもバレてる。
ここは、何をどうするのが正解なんだろうか。
「あ、あの・・・冬樹の気持ちはうれしい・・・と思う」
「うん。で?」
「で、ハルちゃんと僕が付き合ってるってのもその通りで」
「で?」
「さっき、トイレで・・・」
顔が真っ赤になる。
「ハルちゃんと電話しながらオナってたのもその通り」
少し間があった。
「で?」
「えっと・・・その・・・」
ここから先、何を話せばいいんだろうか。
「ハルちゃんは、3人で付き合えばいいんじゃないって言ってたんだけど」
「ええ?」
また展開について行けなくなりそうだ。
(あいつ、なんてことを)
そりゃあ、ハルちゃんは好きだし、冬樹も好きだ。でもハルちゃんの好きと冬樹の好きは種類が違う。
「あ、あの・・・冬樹は僕とそういうこと、したいの?」
「うんっ」
(はい、いい返事だ)
心の中でツッコんでしまった。
「まじかぁ」
「ハルちゃんは、シュウならOKするだろって言ってたよ」
(あいつめ)
そりゃ、冬樹には僕とハルちゃんの関係はいつか言わなきゃならないかも、とは思ったし、冬樹が僕としたいと言うなら全然OKって思ってた。でも、まさか今日、こんなことになるなんて思いもしなかった。
(だからあいつ、軽〜く、いいんじゃない、とか言ったのか)
「ひょっとして、僕、ハルちゃんに嵌められた?」
「知らない。別の意味では嵌められてるのかもしれないけど」
冬樹にそれを言われると赤面してしまう。
「まさか、さっき、冬樹にもハルちゃんから連絡あったとか?」
「さあね」
冬樹が笑った。
(あったな)
僕は確信した。

ってことで、冬樹には、僕とハルちゃんの関係はあっさりとハルちゃんがバラしていた、ということが分かった。そして、僕とハルちゃんがどういう関係なのかは僕が自爆した。
(むしろこの先、気まずいだろ)
12月30日、公園で二人きり。目の前にトイレがある。ハルちゃんは旅行先でお父さんやあの人達と、まだしているだろう。このまま「じゃあ」とか言って別れていいもんだろうか。冬樹をあのトイレに連れ込んだりするべきなんだろうか。
(いやいやいや)
頭を振る。そんな僕を冬樹がニヤニヤしながら見ている。
「お前、分かりやすいな」
僕に言った。
「シュウは挙動不審になるだろうってハルちゃんが言ってた。その通りだな」
「な、なんだよ、挙動不審って」
「こんな話をされたら、俺と普通に友達でいるべきか、それとも手を出すべきかで悩むってさ」
いや、まぁその通りなんだけど。で、今、悩んでる真っ最中なんだけど。
「でも、ハルちゃんと約束したんだ。年が明けたら3人でデートしよってね」
「デ、デート?」
「そっ、デート。だからそれまではお預けだからね」
いつのまにやら僕がやりたがってるような話になっている。
「ってことで、またLINEするよ。じゃね」
そう言って、冬樹はあっさり背を向けて去って行った。

(なんだったんだ)
しばらく僕は公園のベンチから動けなかった。
(全部知ってたってことかよ)
全部と言ってもハルちゃんとの関係だけだけど。僕がハルちゃんのお父さん、陽良さんと愛し合ってるって話は流石に知らないだろうけど。
でも、なんだかハルちゃんに嵌められた気がする。冬樹の意外な告白。年末の最後の最後にまた予想しなかったことが起きた。
(人生が変わりそうなことが、まだ起きるか)
でも、流石にこれで終わりだろう。
(でも、冬樹と・・・)
その気がなかった筈なのに、冬樹とやりたくなっている。
(だめじゃん、僕)
勃起している。と、ポケットの中のスマホが震えた。ハルちゃんからの電話だ。
「ああ、気持ちいいっ」
電話に出たとたん、ハルちゃんの本気の喘ぎ声が聞こえてきた。
「お前なぁ」
「ああ、シュウちゃん、冬樹に話聞いたって?」
喘ぎ声の合間に話してくる。
「僕等、してるって言っちゃったんだ」
また喘ぎ声。
「やりたいでしょ? 僕と冬樹の3人で」
また喘ぐ。
僕は無言で通話を終了した。

もう一度トイレの個室に入って鍵を閉める。ズボンとボクブリを下ろす。ペニスを掴む。
(そりゃ、あいつらとやれるなら、やりたいに決まってる)
なんだかほんの少し前とは違うことを考えている気がする。
扱く。目を閉じる。ハルちゃんと冬樹が、僕と一緒にオナっているのを想像する。
(ああ・・・)
興奮する。扱く手が早くなる。
「ああっ、冬樹っ」
その瞬間、冬樹の名前を呼んでいた。


      


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