「あの頃は出来なかったこと、やってやるよ」
里田先生のアパートで散々玩具にされた僕は、2日、ひょっとしたら3日の深夜、全裸にあの青いダウンジャケットだけを肩に羽織った格好で、裸足で外を歩かされた。手は体の前で手錠を掛けられている。その手錠を一人の男が握り、また僕の後ろにも別の男がいる。あの注射のせいか、あまり寒さを感じなかった。
「ここは結構有名なハッテン公園だ」
駅近くの公園に入る前に耳元で囁かれる。
「お前を玩具にしてくれる人がたくさんいるといいな」
そう言って、公園の木にロープを掛け、手錠をそのロープに結ぶ。
「ほら、これは返してやる」
里田先生が僕のスマホをダウンジャケットのポケットに入れた。
「さあ、思う存分掘られろ」
すでに何人かが僕等を見ているのを感じる。里田先生が僕から離れた。他の男達も同じだ。
入れ代わるように、知らない男が近寄ってきた。僕のお尻を撫でられる。
「ひっ」
声が出た。その男が僕のお尻から手を離す。でも、また撫でてくる。指が僕の穴に触れる。そこを突く。そこに入ってくる。
「んっ」
さんざん里田先生達に掘られた穴は指くらい簡単に受け入れる。
「いいのか?」
僕のお尻を撫でていた男が言った。
「ご自由に。便器にでもしてやってくれ」
里田先生の声がした。その男のペニスが僕のお尻に入ってきた。
「ああ」
僕は声を出した。いや、声が出た。それが合図のように、公園のいろんな場所からたくさんの男が僕に群がってきた。
あっという間にダウンジャケットは剥ぎ取られ、ペニスを握られ、扱かれ、口に突っ込まれた。もちろんアナルには何本ものペニスが入っては出ていく。
「ああ・・・」
それを気持ちいいと感じている僕がいる。その一方でそれを気持ち悪いと感じている僕もいる。クスリのせいか、僕の心が二つに分かれている。セックスを楽しんでいる僕と嫌がっている僕。でも、楽しんでいる僕の方が今は遙かに優勢だ。僕はどんなペニスでも咥えた。どんなペニスでもお尻に受け入れた。何本入れられても体の奥が疼いた。体が熱い。触られるのが気持ちいい。見知らぬ男に犯されるのが気持ちいい・・・
たぶん何時間か掘られ続けたと思う。
気が付くと、僕を取り囲む人が減っていた。やがて、誰もいなくなった。里田先生もいない。公園で、僕は全裸で手錠を木に縛り付けられたまま取り残された。
しばらく、また男が来て犯してくれるのを待った。さっきまでは男達に取り囲まれ、掘られていたからか、寒さを感じなかった。でも今は寒い。凍えそうなくらい寒い。手錠を木に縛られて身動きが出来ない。体が冷える。体が震える。
(逃げなきゃ)
恐らく、里田先生はしばらくしたら僕を連れ帰りに来るだろう。あいつがこのまま僕を捨てる訳がない。僕を捨てるならもっと使って楽しんで壊してからだろう。それが僕の運命だ。それが分かるくらいには弄ばれた。
(このままじゃヤバい)
ほんの少し空が明るくなってきた気がする。恐らく数時間後には夜が明けて、始発電車が動き出す時間なんだろう。だとしたら、このままここにいる訳にはいかない。
僕は手錠を引っ張ってみた。何回か引っ張ると、少しロープが緩んだ。その状態で指先でロープを解こうとする。でも解けない。さらに何回か力を込めて引っ張ってみる。力を入れた弾みで、お尻の中に入っていた、たくさんの精液がアナルから漏れて太ももを伝って行くのを感じる。ロープの結び目はかなり緩んできたように思う。今度はそこを歯で咥えて解こうとした。
かなり時間が掛かったけど、なんとかロープを解くことが出来た。手錠は嵌まったままだけど、これで逃げられる。木の根元に落ちていた青いダウンジャケットを拾い上げる。ポケットにスマホが入っているのを触って確かめる。とにかくその場を離れる。学校の方に向かう。このまま行くと、あのアパートの近くに戻ってしまうのでかなり大回りして家に帰ろうとした。
寒い。体がガタガタと震える。裸足の足の裏が痛い。一旦立ち止まって、なんとかダウンジャケットを羽織って、手錠が嵌まったままの手で、内側から前のジッパーを上げる。半分くらいしか上げられなかったけど、それでも少しはましだろう。また歩き出す。でも、すぐにまた立ち止まった。
(あそこにいないって分かったら、あいつら、絶対ウチの前で待ち伏せしてるんじゃないだろうか)
そうに決まっている。いや、むしろわざとそうして、僕に逃げられないって分からせようとしてるんじゃないだろうか。家には戻れない。冬樹の家に行ったらあいつも巻き込んでしまうかもしれない。
(やっぱり、陽良さんに助けてもらうしか)
僕は陽良さんのマンションを目指して歩いた。体が酷く震える。歯がガチガチ音を立てる。
(ヤバい)
少し意識が薄れる。道の脇の壁にもたれ掛かって頭を振る。普段なら大した距離じゃないのに、凄く遠く感じる。
(ヤバい)
ようやくあの公園、ハルちゃんに咥えさせたりした公園までたどり着いた。
(ちょっと・・・ちょっとだけ・・・)
体がふらつく。あのトイレに向かう。もう足の痛みは消えていた。いや、完全に感覚が麻痺している。
トイレに入る。洗面所の鏡を見る。
(なに、これ)
他の誰かがいるのかと思った。真っ青な唇。白い顔。少し足が滑る。下を見ると、トイレの床に赤い足跡が付いている。足の裏を見てみようとした。が体が思うように動かず、そこで倒れてしまう。足を触ってみる。ヌルヌルしている。その手を見ると真っ赤だ。足の裏の皮が破れて出血しているようだ。なんとか体を起こす。
(ヤバいって)
ダウンジャケットのポケットを探ってみる。スマホがない。辺りを見回すと、さっき倒れた時にポケットから飛び出したのか、床に落ちている。それを拾い上げた。画面が割れていた。電源を入れてみる。反応しない。
(なんでだよ)
何度も電源ボタンを押したけど全く反応しない。震える手で電源ボタンを長押しすると、バッテリー切れのアイコンが表示された。
(ダメだ)
スマホを返された理由が分かった。洗面所に使い物にならないスマホを置いた。体はその場にうずくまろうとしている。でもそうしたら二度と立てなくなる気がする。周りを見る。狭い個室の方が外の冷気が遮られるんじゃないかと思った。個室に入り、ドアを閉める。
体がガクガク震える。歯がガチガチ音を立てる。壁にもたれる。少し意識が薄れる。頭を振る。立っていられない。僕はトイレの個室の床に倒れ込んだ。
(ヤバい・・・僕、このまま死ぬのかも)
床で体を丸める。
(陽良さん・・・助けて)
いつのまにか体の震えが止まっていた。
(ハルちゃん・・・冬樹・・・助けて)
陽良さん達のことを考えようとした。でも、それすら出来なかった。
(僕は・・・もう・・・)
そのまま意識を失った。
『今日遊べる?』
『お正月から暇してる』
シュウに送ったLINEが既読にならない。
(まぁそういうときもあるかも)
俺はそう思うことにした。でも、今までそんなことがあっただろうか。
(もう少し待ってみよう)
そもそもまだ朝の7時前。きっとまだ寝ているんだろう。
『帰ったよ〜』
ハルちゃんからそうLINEが来たのがお昼過ぎ。それでもまだシュウに送ったメッセージは既読にならない。
(なにかあったとか)
少し心配になる。病気で入院したんじゃないかとか、事故にあったんじゃないかとか悪いことばかり考えてしまう。
『シュウちゃんとはエロいことした?』
ハルちゃんは相変わらずだ。
『してないよ。3人でデートするまではお預けなんでしょ?』
そう返す。
『シュウちゃん、既読にならないねぇ』
ハルちゃんの方でも同じようだ。
『なんかあったんじゃないかってちょっと心配してる』
『お正月だしいろいろあるんじゃない?』
(そうだよな、きっと。親戚が来てスマホ見てないとか)
『かもね』
変なことを考えるのはやめた。
結局、夜になっても既読にはならなかった。
(そんなときもあるさ)
あまり気にせずにベッドに入った。
(冬樹)
シュウが夢に出てきた。
(冬樹・・・)
俺に向かって手を伸ばしている。
(これって夢だよな)
なぜか夢の中ではっきりそう分かっている。
(冬樹・・・・・)
そのシュウは、俺の青いダウンジャケットを着ていた。そして、暗くなって消えていく。
目が覚めた。時計を見ると朝の4時過ぎだった。
(なんだ、あの夢)
妙に心がざわざわした。今までこんな夢を見たことはなかったし、こんな気持ちも初めてだ。もう一度寝ようとしたけど寝付けない。というよりも、ベッドの中でじっとしていられない。
(ああ、もう)
取りあえず起きて着替える。そのまま少し散歩しに外に出た。
空気が痛く感じるほど冷たい。まだ外は暗い。とりあえず気が向くまま歩く。すると、あの公園が見えてきた。
(あそこで、シュウと話したんだよな)
公園に入り、あの時のベンチに座る。
(結果的には告ったみたいなもんだけど)
ぼんやり考えた。
「あれ、冬樹?」
声を掛けられた。びくっとしてそっちを見る。
「ハルちゃん」
こんな時間にまさか誰かに会うなんて思いもしなかった。
「明けましておめでとう」
ハルちゃんが言った。
「明けましておめでとう。今年もよろしく」
俺も言う。
「どうしたの、こんな早く」
ハルちゃんが言った。
「なんだか眠れなくて」
俺が答えると、ハルちゃんがうなずいた。
「僕も、なんだか眠れなくてさ」
と言いながら、俺を見る。
「冬樹、凄い寝癖」
そう言って笑う。
「んだよ」
頭を触ってみる。確かに髪の毛が逆立ってる。寝癖を直そうと、公園のトイレに向かった。
「えっ なにあれ」
洗面所の床に赤い足跡が付いていた。
「お、お化け・・・」
俺は立ち止まる。
「あれ」
ハルちゃんがトイレの洗面所の片隅を指差す。
「え、あれって」
スマホが置いてある。なんとなく見覚えがあった。俺は赤い足跡を避けながら、そのスマホに近づいた。
「これ・・・」
ハルちゃんと顔を見合わせた。
「シュウの」
「シュウちゃんの」
俺達は同時に言った。
「なんで、シュウちゃんのスマホがこんな所に」
ハルちゃんがそのスマホを手に取った。画面がバキバキに割れている。電源ボタンを押しても反応しない。俺はトイレの中を見回す。3つ並んだ個室のうち、一つだけ扉が閉まっている。その個室のドアの下の数センチの隙間から、青い物が少しはみ出ているのに気が付いた。それに近づく。
「あっ」
俺のダウンジャケットだ。あの、シュウに貸したダウンジャケット。
「なんでここに」
それをつまんで引っ張ってみる。何かに引っかかっているのか出て来ない。ドアをノックしてみる。
「シュウ、いるのか?」
反応がない。
「おーい、シュウ」
聞き耳を立ててみたけどやっぱり反応がない。急に不安が押し寄せた。俺は隣の個室に入り、便座に上がって壁をよじ登り、その個室を上から覗いてみた。
「誰か倒れてる」
体を引っ張り上げて壁を乗り越えた。
「シュ、シュウ!」
間違いない。シュウだ。シュウが床に丸まって倒れている。
「え、シュウちゃん!」
ドアの外でハルちゃんが叫んでいる。
「シュウ、おい、シュウ」
俺はシュウの体を抱えた。シュウの体が冷たい。
「シュウ」
ハルちゃんが外からドアを叩いた。鍵を外してドアを開く。
「シュウ、冷たい」
声が震えた。
「死んでるかも」
「まさか、シュウちゃん」
ハルちゃんもしゃがみ込んでシュウの頬に手を当てた。
「冷たい・・・どうしよう」
「とにかく、救急車」
俺はパニックに陥りそうになっていた。
「待って」
ハルちゃんが電話を掛ける。
「お父さん、シュウちゃん死んでる」
ハルちゃんが、震える声でスマホに向かって言った。
電話でハルちゃんが何か話していた。でも、俺の耳には入ってこない。俺は完全にパニクっていた。
「冬樹」
ハルちゃんが呼ぶ。
「冬樹」
俺の体を掴んだ。
「服、脱いで裸になって」
「え?」
「体温で温めろって」
目の前でハルちゃんが服を脱いで全裸になった。
「今はとにかく裸になって抱き締めて体温で温めろって」
「う、うん」
俺も慌てて服を脱ぐ。
「お父さん、すぐに来るからそれまではとにかく」
俺とハルちゃんが全裸になって、シュウを二人で抱き締めた。
「もう付くからな」
ハルちゃんのスマホのスピーカーから声がする。5分もしないうちに人が走り込んできた。
「お父さん」
「秋矢」
ハルちゃんのお父さんがシュウの体に毛布を巻き付けて抱え上げた。
「お前達も早く」
公園の入口の所に車が停まっている。ハルちゃんのお父さんがシュウを抱えたまま乗り込み、すぐに俺とハルちゃんも乗り込んだ。車が動き出す。運転しているのは別の人だった。
「なにが起きたのかはあとで聞くとして、まずは秋矢がどんな状態だったか教えてくれ」
俺とハルちゃんが見たこと全てを話した。ハルちゃんのお父さんがシュウの足の裏を見る。酷い有様だ。
「裸足で歩いてきたんだな」
「それって」
ハルちゃんが聞いた。
「たぶん、どこかから逃げてきたってことだろう」
俺とハルちゃんは顔を見合わせた。
ハルちゃんのお父さんは、そのままシュウを病院に担ぎ込んだ。シュウのお父さんとお母さんも病院に来た。俺の両親も来た。みんなで待合室の椅子に座っていた。誰も何も言わなかった。
「先生」
シュウのお父さんの声だ。
「大丈夫、命に別状はありません」
全員が一斉に息を吐いた。
その後、警察らしい人も来た。ハルちゃんのお父さんが、少し離れたところで対応していた。
想像を含めて経緯を話した、ということだった。その想像というのは、シュウは誰かに誘拐か監禁されていて、そこから逃げてきたんだろう、ということらしい。夜、手錠を嵌められたまま全裸で逃げる状況というのは、恐らく・・・そこで言葉を濁した。でも、シュウのお父さんは性的暴行を受けたのではないかとはっきりと言った。
「あくまで想像ですが、あるいは」
ハルちゃんのお父さんが言った。
その日はシュウの両親が病院で付き添って、俺達は一旦帰ることになった。
ハルちゃんのお父さんの車を運転していた男の人が、ハルちゃんのお父さんと何か話をし、病室の外の椅子に座り込む。
「なにかあったら連絡してくれ」
ハルちゃんのお父さんがその人に言うと、その人は黙って頷いた。
俺はハルちゃんの家に泊めてもらうことにした。というのも、俺が今日はハルちゃんと一緒にいたいと言ったからだ。その理由は、やっぱり俺達三人の中の一人、シュウがあんなことになったということでショックを受けたから。
でも、本当は違う。もちろんショックも受けたけど、それ以上にハルちゃんのお父さんが言ったことが心に引っかかっていたからだ。
「あの、シュウは誰かに誘拐されたって言ってましたよね」
病院を出た後、車の中で、運転しているハルちゃんのお父さんに尋ねた。
「ああ」
「それって・・・誰に」
俺の質問には誰も答えなかった。
「ひょっとして・・・里田先生とか」
少し小さな声で言った。ハルちゃんのお父さんは反応しなかった。でも、なんとなく空気が変わった気がした。
「なんでそう思うの?」
助手席に座っていたハルちゃんが言った。
「年明けてすぐ、俺、シュウと一緒に初詣行ったんだけど、途中でシュウ、帰っちゃったんだよね」
あの日のことを思い出す。
「俺、しばらくシュウを見送ったんだけど、あいつ、誰かと並んで歩いてったんだよ」
「それが、その里田先生って人?」
「たぶん」
確信はない。
「でも、どっかで見た人だなって思ってて・・・さっき思い出した。俺達の小学校のときの担任だった里田先生」
「その話は少し待って貰えるか?」
運転していたハルちゃんのお父さんが言った。
「その話をしながら、冷静に運転出来る自信がない」
その後は皆、黙り込んだ。
ハルちゃんの家に着いて、俺達はソファでホットミルクを飲んでいた。
「これから話すことは、本当は秋矢に許可をもらってから話すべきことだけど」
ハルちゃんのお父さんはコーヒーが入ったマグカップを持って、俺の正面に座った。
「秋矢はその里田先生に、小学校5年生のときにレイプされ、それ以来、性的虐待を受けていたんだ」
「まさか」
そうは言ったものの、少しは心当たりがあった。あの頃、シュウはよく里田先生と一緒にいた。それがこの話と繋がるのかどうかは分からないけど。
「中学に入ってそういうことはなくなったようだけど・・・もし、谷原君が見たのが本当に里田という男だったとしたら」
「俺・・・俺が・・・あの時、シュウを引き留めてたら・・・」
「いや、そんなことをしたら・・・君にも危害が及んでたかもしれない」
ハルちゃんが俺の肩をぽんと叩いた。
「そうと決まった訳でもないし・・・でしょ、お父さん」
「そうだな。あくまでも想像だ」
ハルちゃんのお父さんが立ち上がった。
「想像だが・・・もし想像通りだったら、君も注意が必要だ。分かるな?」
俺に言う。
「シュウが逃げ出したから、次は俺ってことですか?」
「その可能性がある、と言うことだ」
今度はハルちゃんに言った。
「なるべく、谷原君を一人にしないように。夜に出掛けたりとか、人の少ない所にも行かないように、お前が一緒にいてやれ」
「うん」
「俺もなるべく気を付けるようにはする。それから、少しでもいつもと違うことがあったらすぐに連絡してくれ」
「分かりました」
みんな黙り込む。
(シュウが・・・レイプされてた)
気が付かなかった。小学校5年のときだったら、俺と同じクラスのときだ。それなのに俺は何も気付かなかった。
「俺が・・・あの時、気付いてたら・・・」
涙が出てきた。ハルちゃんが肩に腕を回してきた。
「冬樹は悪くないよ。悪いのはその里田って奴だよ」
「それだって、やっぱりあの時、俺がシュウを引き留めてたら」
「晴人の言う通り、君はなにも悪くない。それよりも、本当に注意してくれ。もし君になにかあったら、今度は秋矢が悲しむことになるからな」
「はい」
「それから一つ大切なこと」
ハルちゃんのお父さんが立ち上がって言った。
「恐らく、秋矢は低体温症で意識不明になっていたと思われるって先生がおっしゃっていた。そして、君達が秋矢を見つけるのがあと1時間遅かったら、深刻な状況になっていたかもしれないともな」
ソファの俺達の後ろに回り込んだ。
「つまり、秋矢が今、生きているのは君達のお陰だ。本当に感謝しているよ、ありがとう」
そう言って肩に手を回され、軽く抱き締められた。
「ハルちゃんのお父さんって、シュウのこと、秋矢って呼んでるんだね」
ハルちゃんの部屋で二人になった時に、俺はハルちゃんに尋ねた。
「お父さん、シュウちゃんの恋人なんだよ」
ハルちゃんが真顔で言った。
「マ、マジか」
でも、年末にはハルちゃんがシュウと付き合ってるって言ってたはずだ。
「お前と付き合ってるんじゃなかったの?」
「まぁ、いろいろあるんだよ。お父さんとシュウちゃんも、シュウちゃんと僕も、僕とお父さんもそういう関係」
「マジかっ」
これには驚いた。
「って、親子でとかあり得ないだろ」
「ま、そのうち分かるよ」
ハルちゃんが言った。
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