翌朝、あの担当者という人に起こされた。
昨日、この機械に拘束されてから、ずっとそのままだった。確かに、トイレに行きたいと思うと、どうやってそれを検知するのかは分からないけど、用を足せるように何かが機械から出てきた。食事は顔の部分が下に下がって、その奧からアームとストローが出て来る。アームの先に食べ物があって、口を開くとそのアームが食べ物を口の中に入れてくれる。ストローからは流動食みたいなものを飲むことが出来た。時々、体を反らせるような動きとか、手足を動かすような動きもさせられる。それで良い、とは思わないけど、これは僕等に課せられた義務であり、他の人達もみんな、同じように義務を果たしてきたんだからと我慢するしかない。
「どうですか、慣れましたか?」
担当者が尋ねる。そして、頭の横のカウンターをチェックする。
「初日から9回なんて、この任務に向いてますね。さすがは最後の世代です」
本気なのか、お世辞なのかは分からないけど、それなりに初日の任務はこなせたっていうことだろう。とにかく怒られるよりはマシだ。
「じゃ、今日からはみなさんと同じ部屋でしてもらいますので、移動します」
担当者が奥の大きな扉の横のボックスを開いて何かを操作すると、その大きな扉がゆっくりと開いた。その向こうには、昨日見たあの大きな部屋が広がっている。僕を乗せたままの機械は、自動的にその扉を抜けて、広い部屋に進んでいく。他の人達が首を上げて僕を見る。その中を一番奥の端まで進み、そこで機械が止まった。少し遅れて担当者が来た。
「ここがあなたがこれから3年間過ごす場所です」
そう言い終わったのと同時に、その部屋に音楽が流れた。
「ああ、これが始まりの合図です。12時間後にもう一度鳴りますから、それで終了です。では、頑張って」
そして、担当者と入れ替わりに誰かが僕の後ろに立つ。少し顔を上げて見てみると、他の機械でも同じように誰かがそこに固定されていて、その後ろに誰かが立っていた。
「強制進化促進担当のJJYXC8H19です。よろしくお願いします」
そう言いながら、その人は僕のアナルにペニスを挿入した。最初は少し痛みを感じる。でも、またすぐに痛みは遠のき、意識はふわふわと漂いながら、アナルに挿入されたものを感じていた。
各地で小さなコミュニティが発生し始めてから7年後の2142年、それらのコミュニティを束ねる形で世界統制中央機関が成立した。これによって生き残った者達の秩序が保たれ、人類の未来に明るい希望が点ったかに思われた。
が、人々はその6年後に最終戦争の本当の恐ろしさを知ることになった。女性だけが原因不明の病気により死亡率が急増、さらに女児の出生率が激減した。そのわずか2年後の2150年には、2142年と比較して女性の人口が50パーセントを下回った。世界統制中央機関はこの女性だけが感染する病気を女死病と名付け、その原因究明、対策に多大なリソースを投入したが、原因は判明せず、超兵器によるなんらかの影響であろうと推測されるに留まった。事態は悪化するばかりだった。ついに人類の人口維持のため、世界統制中央機関は人類のクローン作成に乗り出した。2151年のことだった。
「KJYYC8S34です。よろしくお願いします」
もう何人目なのか分からなかった。最初の4人までは数えていたが、そんなことをしても意味がないことを悟り、数えるのを止めた。カウンターの数字は7。まだお昼にもなっていなかった。
しかし、人類の犯した罪は想像以上に重かった。人類が作り出した人間、クローンであっても女死病の魔の手から逃れる事は出来なかった。女のクローンの場合、その平均寿命はわずか3ヶ月、最長でも1年と持たずに次々と死んでいった。さらに追い打ちをかけるように、クローンから採取したDNA及びその他のデータを分析した結果、クローンには生殖能力がないことが判明した。クローンによる人口維持計画の開始から14年後、2165年に世界統制中央機関はその計画を断念した。
「おや、もう痛みはないみたいですね」
ここに来てから何日か経ったころ、担当者が機械の横を見て言った。
「そういうことも分かるんですか?」
「あなたの体のあらゆる状態をモニターしていますからね」
僕はアナルに挿入されながら、そういう会話も出来る程度にここの生活に慣れてきていた。
「初めは痛みがきつい人もいるようで、痛みを緩和する薬を体内に注入するんですが」
そして担当者は機械の横にしゃがみ込んで何やら操作する。
「昨日からもう、その薬は出ていないようですね」
そういえば、最初の頃のあのふわふわした感じ、あれを今日は感じていない。
「それって、ふわふわする感じのやつですか?」
僕のアナルに挿入していた人が交代する。次の人は自分の名前を名乗って、すぐに僕に挿入してくる。
「あまりそこまで感じる人はいないんですけどね。あなたには少し強すぎたのかも知れませんね」
アナルを掘る早さが早くなる。少し喘ぎ声を漏らしてしまう。
「おや、気持ち良くなってきましたか?」
「はい、昨日くらいから、なんとなく」
「それは良かった。薬を入れない方が感じるようですから、その調子で頑張ってくださいね」
確かに、なんとなく気持ち良くなってきたのは昨日からだ。単に僕が慣れて来たからってだけではなかったのかもしれない。そして、アナルに入れられるもの……ペニスによっても感じ方が違うことにも気が付いた。あんまり気持ち良いと感じないのが、お腹の奧の方までがんがんくるタイプのペニスだ。多分、僕の体には長すぎるんだと思う。そして、細いと入るとき楽だけど、気持ちが良いのは太い方だ。そういうことも分かってきた。
この広い部屋のどこかでは、かなり大きな声で喘いでいる人もいる。きっとそういう人は、もう何日も、何ヶ月も、ひょっとしたら1年、2年と入れられ続けているのかもしれない。入れられ続けて、入れられるのが気持ち良くて好きになってしまったんだろう。担当者にそれを尋ねてみたら、
「ほとんどの方は、ここを出られるときにはそういうことをされるのが好きになって出て行かれるようです。中には残りたいって方もおられますよ」
って言っていた。僕もそうなるのかもしれない。いや、たぶん、そうなるんだろうな、そんな予感がした。
そして、アナルに入れる人の中に、なんとなく『ああ、この人だ』って分かる人が出来てきた。アナルに入れる人は、担当者の話だと何百人といて、その中からランダムに人選されて、さらに誰に入れるかもランダムに割り当てられるらしい。だから、そうそう同じ人になることはないんだけど、なぜか、その人はたぶん3回目くらいだと思う。
「HNAKC8S21です。よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
この人がそうだ。
「じゃ、入れます」
ゆっくりとアナルを広げられる。その人のペニスは他の人に比べて太い。僕のアナルがこれ以上は無理ってくらいに広げられる。
「大丈夫ですか、痛くないですか?」
ほとんどの人はそんなことは言わないのに、この人はこういうことを気にしてくれる。
「大丈夫です。やっぱり太いですよね」
「よく言われます。痛いからって嫌がられることも多いんですけど」
その人の太いペニスが入ってくる。
「僕は、このペニス好きですよ。気持ちいいです」
「ありがとうございます」
そんな会話をしながらアナルに挿入される。
「もう……4回目ですよね」
その人が言った。
(この人も覚えててくれたんだ)
なんだか少し嬉しくなる。
「……3回目じゃないですか?」
「いや、4回目ですよ、たぶん」
セックスしながらこんな会話を楽しんでいる。
「姿見えないですよね」
「そこだと全然見えないです」
僕に見える範囲は、せいぜい横か少し前。だから僕に入れてくれている人の姿は全然見えない。
「どうやって私だって分かるんですか?」
「入れられた時に太さ分かりますし、お腹の奧に当たる長さでもないから、ああ、たぶんあの人だなって」
「長くなくてすみません」
「あ、いえ、僕、長いの苦手なんです。お腹の奧が痛くなっちゃうので」
少し慌てて言う。
「そうですか。長いのがいいって人も多いですけどね」
「だから、太さも長さもちょうどいいのかなって、入れてもらう度に思うんです」
「いやぁ、そう言って頂けると嬉しいですね」
顔は分からないけど、そんな会話を交わす程度に仲良くなっていた。
「今度、僕の前の人に入れる時に、顔見せてくださいよ」
前に立って、こっちを見てくれれば、僕にだって顔を見ることが出来る。
「いや、そういうの、禁止されてるんですよね」
「だめなんですか?」
「ええ、規則なんで」
残念ながら、この人がどんな人なのか、知ることは出来なさそうだ。
「本当は、特定の人と必要以上に会話をしたり、その人とする回数を増やしたりするのも駄目なんですよ」
こういう会話も本当はダメなのかもしれない。でも、ここで人と会話をすることなんて滅多にないので、それくらい許して欲しいと思う。
「回数増やしたり出来るんですか?」
「本当はダメなんですけど、交代してもらったりとかは可能なので……」
「じゃあ、僕はなるべくあなたに入れてもらいたいです」
少しだけ沈黙があった。
「あんまりそういうことすると、あなたの担当を外されるかもしれないから」
(そうなのか……)
残念だけど、この人に入れてもらえなくなるのは避けたい。僕はそれ以降は何も言わずに、ただその人のペニスを感じることに集中した。その太さを感じ、頭の中でその形を想像し、その人を想像した。
「あっ」
その途端、僕は射精した。頭の横のカウンターの数字が13に変わった。
そしてもう一人。MJYK7H64さん。
この人に初めて入れられたのは、そうされることが少し気持ち良くなり始めた頃だった。僕の背後から、僕の腰を掴むその手は少し骨張っていて、たぶん痩せ型の人なんだと思う。
「お前、まだここに来てそれほど経ってもいないのに、もう気持ち良くなってるんだってな」
僕に入れながら、顔を寄せてそう囁く。
「俺がガキの頃には、男にケツに入れられて気持ち良くなるなんて考えもしなかったのに」
ずん、ずんと奥まで突き入れてくる。
「うあ、ん……」
喘ぎ声が出てしまう。
「こんなことされて気持ちいいのか?」
僕は何も答えない。すると、またずん、ずん、だ。
「いっ」
この人に入れられると正直痛い。HNAKC8S21さんに入れられるときとは全然違う。一言で言ってしまえば、乱暴なんだ。
「ほら、早く射精しろよ」
ずんずん入れてくる。その勢いで固定されている筈の僕の体が少し動く。僕の体に沿って凹んでいる機械の、壁の所に体が当たる。それが繰り返されて、そこも痛くなってくる。
「い、痛い……です」
抗議をしてみても、この人は聞いてくれない。むしろ、もっと激しく入れてくる。
「痛っ、痛い」
「それが気持ちいいんだろ、ええ?」
耳元でそう言われる。
(たぶん、この人笑ってる)
顔が想像出来た。細い体できっと鋭くて冷たい目をしているんだろうって。
「ほら、早くいけよ」
そう言われながら僕は射精する。
「いったか。気持ち良かったんだろ、え?」
そして、そのまま、またずんずんしてくる。
「ケツふってるんじゃねえよ、この好き者が」
後ろから僕の頭を叩く。いつの間にか、僕はMJYK7H64さんの動きに合わせて体を動かしていた。こんなこと、他の人のときにはしたことがない……と思う。でも、無意識のうちにしているのかもしれない。
「あ、いくっ」
そして射精する。
ここにはいろいろな人がいる。大体は、何も言わずに入れて、時間が来たら次の相手と交代する。でも、HNAKC8S21さんのように、いろいろ話をしたいと思う人もいる。でも、MJYK7H64さんには、出来れば入れられたくなかった。でも、僕には拒否することも、相手を選ぶことも出来ない。MJYK7H64さんの順番が来たら、何を言われても無視して、目を瞑ってただ早く射精する事だけを考えた。
ここでの生活のほとんどはアナルに挿入されることだったけど、月に1回、状況報告会というのがあった。その時間の間、1時間くらいはアナルセックスを中断して、それまでの1ヶ月間に強制進化の兆しがあったかどうか、そして1日の最高射精回数が報告されていた。
その日は、僕がここで任務に就いてから8回目の報告会の日だった。
「今回の強制進化の兆候は、残念ながらまだ見られません」
所長が報告書を読み上げる。強制進化については今までこの報告以外聞いたことがなかった。何をどのように調べて強制進化の兆候があったかどうかを判断しているのかは分からないけど、そもそもそんなに簡単に進化するようなものではないだろう。
「しかしながら、諸君には人類滅亡の阻止という非常に重大な使命があります。これからも頑張って任務に励んで下さい」
そして、次が1日当たりの最高射精回数の表彰となる。
「今回の最高射精回数は……28回です」
回りから『おぉ』と感嘆の声が上がる。28回。僕は今回は今までで一番多くて19回だ。10回近い差がある。この機械に固定されての射精は、これも何か薬を投与されているようで、そのため1日の回数も、そして精液の濃さも普通とは全然違う。それでも28回なんてのは今まで聞いてことがない。ひょっとしたら、19回の僕が今回の最高になれるかもしれない、そう思っていたくらいだ。
「28回を達成した者には、褒美として出来たての料理をご馳走しましょう」
また回りから『おぉ』という声が上がる。この生活、あまり不満はないけど、やっぱり食事だけは物足りない。小さな食べ物のかけらと流動食。どちらも冷たいかぬるいかで、確かに出来たての料理が欲しくなる。僕もその褒美の内容を聞いて、ゴクッとツバを飲み込んだくらいだ。
顔を上げると、かなり離れたところでワゴンを押して歩いている人が見えた。
(ああ、あれが出来たての料理なんだな)
うらやましく思う。首が痛くなるまで頭を上げ続けて、その様子を見る。出来たての料理を食べることが出来るといっても、食べ方はいつもとあまり変わらないようだった。機械に固定されたまま、エプロンを着けた給仕らしい人が、食べ物を口に運んでくれているようだ。それでもやっぱりうらやましい。
「他の諸君は、次回、最高射精回数となるよう、頑張って下さい」
そして報告会が終了する。アナルへの挿入が再開される。この瞬間は正直あまり好きじゃない。普段は聞き慣れてしまって気にもならない『入れているときの音』があちこちから一斉に聞こえてくる。もちろん、僕のアナルからも。それが少し嫌だった。
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