最近、また少し変わってきた。僕に入れる人は新しい人や、今まであまりここには来てなかった人が増えてきた。HNAKC8S21さんは相変わらず来てくれるけど、HNAKC8S21さん以外の人は結構入れ替わったって感じだった。
そして、また回数が減った。1日のうちで誰も来ない時間がかなり増えていた。そんな時は、僕はベッドの上でぼんやりとしている。これから先、自分はどうなるのか、どうするのか。将来のことを考えるようになっていた。
きっかけはやっぱりHNAKC8S21さんだ。僕のような、特別な精液を出せる人が少しずつだけど増えてきているらしい。そういう人は、みんな世界統制中央機関のどこかの建物で任務を続けているということだ。今のところは一つの建物に一人だけ。かつて、雌が絶滅寸前になったときに、人工受精するために必要な卵子を採取して保管する施設を作ったらしい。実際にそこでたくさんの卵子を冷凍保存していたんだけど、ある日、その施設が爆破された。犯人は雌の尊厳を守るとかって主張していたらしいけど、当然処刑された。でも、そのためにせっかく集めていた卵子が全て駄目になった。それと同じことを繰り返さないために、人類の宝である僕等は分散して保護されている、というのがHNAKC8S21さんの話だった。でも、ずっとこのまま中央に保護され続けるのかは分からない。人類の絶滅を回避出来る、進化した新しい世代が生まれるようになったら、僕等はもう要らなくなるかもしれない。僕は神の子だから別かもしれないけど。そんなふうなことをHNAKC8S21さんに言われた。それで、僕はこの先どうなるんだろうって考えるようになった。
そして、もう一つのきっかけ……MJYK7H64さんが部屋にやって来た。
「久しぶりだな、元気そうだな」
相変わらず、鋭い目つきをしている。嫌いな目だった。僕は何も言わない。任務だから仕方がないけど、さっさと終わって欲しかった。
「そんな顔するなよ」
そういう気持ちが表情に出ていたかもしれない。
「こう見えても、お前のことが気に入ってるんだぜ」
そして、僕をベッドの上に押し倒す。素直にベッドに俯せになる。これは任務なんだし、逆らっても仕方がない。MJYK7H64さんは、僕の足を広げ、入ってくる。
「久しぶりだな。神の子を味わうのは」
そして奥までずんっと入れてくる。
「お前も嬉しいだろ、俺に掘られて」
(そんな訳あるかよ)
心の中だけで反論する。腰が僕のお尻に打ち付けられる。お腹の奧の方が痛くなってくる。
(早く終わって欲しい)
目を閉じて、それだけを考える。
「目を開けろ」
MJYK7H64さんが言う。別に従う必要もない。でも、それでまた何か言われるのは嫌だった。僕は目を開けた。
「ほら、仰向けになれよ」
僕に入れていたペニスをずるっと抜くと、僕の体を反転させる。
「足上げろ」
言われる通り、足を上げる。その足をMJYK7H64さんが両手で抱える。そして、アナルに入ってくる。ずんずんと突いてくる。
「今日はあのクローンはいないんだな」
僕を突きながら、辺りを見回してMJYK7H64さんは言った。
「部屋……かも」
僕がそう言うと、MJYK7H64さんは足を抱えた手をそのまま伸ばして、僕の背中に回した。体が折りたたまれたようになる。乱暴に僕のペニスに付いている精液採取用の管を引っ張って取り外す。
「腕を俺の首の後ろに回せ」
僕がそうすると、MJYK7H64さんは僕の体を抱えたまま立ち上がった。僕の体の重みで、お尻がMJYK7H64さんのペニスに押し付けられるようになる。奥まで入ってくる。お腹の奧が痛い。その状態でMJYK7H64さんが腰を使う。僕の体はMJYK7H64さんに抱えられたまま飛び跳ねるように動く。その度にMJYK7H64さんのペニスが僕の奧を貫く。その痛みを紛らわせるのと、少しでも体が動くのを抑えるために、僕はぎゅっとMJYK7H64さんにしがみついた。
「そうか。そんなにいいのか」
MJYK7H64さんはにやっと笑う。そして、そのまま部屋のドアの方に向かった。ドアを開いて廊下に出た。廊下でMJYK7H64さんに体を揺さぶられる。幸い、廊下には誰もいない。MJYK7H64さんは僕を抱えて、腰を動かしながら、隣の部屋のドアを開けた。そこがクルムの部屋だ。
「なんだ、いないのか」
クルムの部屋には誰もいなかった。クルムのベッドに僕を下ろす。ずんずんと奥まで入れてくる。激しく、早く突いてくる。
「あぁ」
クルムの部屋で、クルムのベッドの上で、僕は気持ち良くなってしまう。
「ここが気持ちいいんだろ、知ってるよ」
そのままずんずんと突いてくる。もう我慢が出来なかった。
「ああっ」
僕は射精した。僕の精液は頭を越えて、クルムのベッドに飛び散り、シミとなった。それでもまだMJYK7H64さんは動くのを止めない。僕はすぐに2度目の射精をした。それもまた、クルムのベッドのシミになる。
MJYK7H64さんはまた僕を抱きかかえ、僕の部屋に戻る。クルムのベッドのシミを拭くこともさせてくれない。そのまま3度目の射精。そして、ようやく精液採取の管を取り付ける。
「これを外してたからな。さっきまでのはノーカウントだ」
MJYK7H64さんは僕のアナルに入れたまま、一度も抜かずに動き続けている。
「せっかくお前の気持ち良さそうな顔を、あのクローンに見せつけてやろうと思ったのにな」
クルムはこのMJYK7H64さんが好きじゃない。はっきり言えば嫌っている。僕だって好きじゃない。前に入れられた時も、確かクルムは途中で部屋を出て行った。それを覚えてるんだろう。だから、クルムの目の前で僕に入れたかったんだろう。
「それとも、もう食料になっちまったか?」
クルムはクローンだ。そして、クローンは食料だ。それは僕も知っている。でも、しばらくは忘れていた。それを思い出すのは、MJYK7H64さんに思い出させられるのは嫌だった。
「クルムは違う」
反論しても、MJYK7H64さんを喜ばせるだけだ。この人は、言葉で僕を追い詰めて楽しんでいるということは分かっているのに、それでも反論してしまった。
「なにが違うだ。クローンだろ? しかも一期の」
クルムは僕の2才年下だ。クローンが作られ始めたのは僕が生まれた次の年。最初にクローンが誕生したのがその1年後。つまり、クルム達だ。それが一期だという意味だ。
「一期のクローンは、全員、食用許可下りたらしいぞ」
MJYK7H64さんはわざわざ僕の耳に顔を寄せて言った。
「あいつもクローンだろ? 例外じゃない」
耳を塞ぎたかった。MJYK7H64さんの言うことを信じた訳じゃない。でも、クローンがそうなることは僕も知っている。クルムがそうなるのかどうかは別として。MJYK7H64さんは、僕のアナルに入れたまま、動きを止めた。そして、両手で僕の肩を押さえ、今度は僕の顔を正面から見下ろした。
「もう、食料になっちまったんじゃねぇか?」
そして、僕に尋ねた。
「お前、昨日の晩飯……なに食ったんだ?」
(……肉だ)
僕はMJYK7H64さんの体を乱暴に押しのけた。MJYK7H64さんがベッドに転がった。
「そんなこと、ある筈ないだろ!」
僕は叫んだ。そして、手近にあったもの……枕とか、本とか……をMJYK7H64さんに投げつけた。
「そ、そんな……そんなこと……」
しかし、MJYK7H64さんは僕の手を掴む。僕をベッドに押し付け、そのまま、また入れてきた。
「嫌だ、やめろ!」
僕は抗う。でも、MJYK7H64さんも軍人だ。僕は簡単に押さえ付けられる。足を持ち上げられ、奥までずんずんと入れてくる。
「クローンなんて食料だ。そうだろ?」
力任せに奥まで入ってくる。お腹の奧が痛い。
「やめ、やめろぉ」
でも、僕はまた射精していた。MJYK7H64さんに押さえ付けられ、無理矢理入れられて、3回も。
その日の夜は眠れなかった。そして、クルムは帰って来なかった。
あの紙を提出してからもう2週間が過ぎていた。今のところ、まだ何の連絡もない。僕等、食用許可証が発行されたクローンは別の施設に集められ、他のクローンとは区別された。そこで、食料となるための注意事項を教えられる。例えば健康にはくれぐれも注意しろだとか、体調を崩したからと言ってうかつに薬を飲むなだとか、肉が固くなるのであんまり筋肉を付けるなとか。そして、週に一度は健康チェックを受ける。入浴して、マッサージも受ける。肉が軟らかくなるらしい。そんなチェックをされる日は、みんなの状態次第で時間がかかることもある。その日も結局夜遅くまでかかってしまった。他のみんなは施設で飼われているからそれでも構わないけど、僕は別に家がある。でも、その日はみんなと一緒に施設に泊まることにした。
僕は自分の運命を受け入れた。あの畑の作物の代わりになることを。他のみんなはどうなんだろう。たぶん、僕のように別れたくない人がいる訳でもないから、ただそれを使命として受け入れているだろう、そう思っていた。そして、みんなと一緒に泊まった機会に、みんなの気持ちを聞いてみた。
「それが僕等の任務だから」
案の定、みんなそう言う。本心なのかどうかは分からない。でも、嘘を言ってもなんの得もないし、きっと本心なんだろう。食料になることが僕等の任務なんだから、そのために命を失うことも僕等に取っては当たり前のことなんだ。つまり、僕がおかしいんだ、クローンとして。
もし、運命を受け入れられる前にこんな話をしていたら、僕はどうなっていただろう……みんなの気持ちが理解出来ずに、一人泣きわめいていたかもしれない。そんな恥ずかしいことにならなくて良かった。みんなと一緒に飼育施設で横になって、なんだか少し安心した。やっぱり僕はクローンなんだ。ここにいるみんなと同じクローンなんだ。だから、食料になるのが当たり前なんだ。それが確認出来て、本当に良かった……
僕は天井を見つめていた。見覚えのある天井……お父さんの家の天井だ。見慣れたその照明は、食堂の天井だ。なんで僕はそんなところで天井を見上げてるんだろう……そして、見上げているのではない、ということに気が付いた。僕は天井をまっすぐ見ていた。僕は寝ているんだ。顔を横に向ける。兄ちゃんがいる。兄ちゃんは、ナイフとフォークを持って、僕を見ていた。僕は声を出そうとした。でも、出なかった。体を動かそうとした。でも動かなかった。兄ちゃんがナイフとフォークを僕に近づける。フォークが僕の右の肩に突き刺さった。不思議と痛みはない。そして、ナイフが僕の肉に食い込み、そこを一口大の大きさに切り取った。兄ちゃんは、フォークに突き刺さった僕の肩の肉を口に運んだ。そして、血が滴る僕の肉を口の中に入れる。それをかみしめて、そして飲み込んだ。
(どう、おいしい?)
すると、兄ちゃんが笑顔になって頷いた。
(そっか。良かった)
僕は幸せを感じていた。兄ちゃんに食べてもらう幸せ……たぶん、クローンとしてそれ以上望むべくもない幸せ。そう、僕は……
目が覚めた。夢で感じた幸せは、まだ僕の心を満たしていた。でも、現実は違う。僕は兄ちゃんには食べてもらえない。きっと兄ちゃんは僕を食べることは出来ない。そんなことしたら、きっと兄ちゃんは……
急に嗚咽がこみ上げてきた、僕は口に手を当ててそれをこらえた。
みんなは、他のクローン達は静かに寝息を立てている。微かに嗚咽を漏らした僕以外は。
「クルム?」
朝早く、施設から家に戻った僕を、兄ちゃんが呼び止めた。僕は兄ちゃんを起こさないように、足を忍ばせて兄ちゃんの部屋のドアの前をそっと通ったのに。
「ごめん、起こしちゃった?」
僕はドア越しに囁いた。
「こっちに来て」
兄ちゃんが言う。僕はドアを開けて、兄ちゃんの部屋に入った。あの夢を思い出した。部屋の中で、微かな光が兄ちゃんの姿を浮かび上がらせる。兄ちゃんはベッドの端に腰掛けていた。
「昨日の夜、どこに行ってたの?」
なんて答えればいいのか、すぐに思いつかなかった。本当の事は言えない。それは僕が食料になるってことを言うのと同じだから。そして、すぐに答えられなかったということは、たぶん、何を言っても嘘だって気付かれる。僕は口を噤んで何も言わなかった。
「なにか、隠してない?」
しばらくの無言の後、兄ちゃんが小さな声で言った。そして、まっすぐ僕を見る。僕は首を左右に振る。
「ホントに?」
もう一度、同じようにする。
「クルムは、一期目だよね?」
今度は、縦に首を振る。
「一期目のクローンは全員……」
「僕はクローンなんです」
兄ちゃんを遮って僕は言った。
「クローンは、人類の食料になるために作られたんです。それがクローンの存在理由なんです」
「でも、クルムは」
兄ちゃんが何か言いかけても僕は話し続けた。
「僕等一期のクローンは全員、食用許可が下りました。だから、もう、僕は兄ちゃんの弟じゃないんです。食料なんです」
「そ、そんなこと、お父さんが」
兄ちゃんの声が震えている。僕の声も震えそうになる。でも、今言わないと、もう絶対に言えない。そして、言うのならちゃんと言わないと。
「お父さんとも話をしました。僕の許可証にサインもしてもらいました」
僕は兄ちゃんの前の床に座る。そして、頭を下げた。
「僕は飼育施設に戻ります。今まで、クローンの僕を弟にしてくれてありがとうございました」
そのまま動けなくなった。頭を上げるのが怖かった。兄ちゃんの顔を見るのが怖かった。
突然、ドアが開き、そして閉まる音がした。慌てて頭を上げると、そこに兄ちゃんはいなかった。立ち上がって、ドアを開けて廊下を見た。早足で歩いて行く兄ちゃんの背中が見えた。そのまま、廊下の向こうへ歩いて行く。その先は、お父さんの部屋があるところだ。
「待って」
僕は兄ちゃんを追いかける。でも、兄ちゃんは立ち止まらない。そのまま警備の人の前を通り過ぎ、お父さんの部屋に入っていった。僕が追いついたのと同時に、お父さんの部屋のドアが閉まった。そして、内側からがちゃりと鍵が掛かる音が聞こえた。
ドアの外にはほとんど音は漏れて来ない。だから、中で兄ちゃんとお父さんがどういうことを話しているのかは分からなかった。僕は廊下の反対側、ちょうどドアの真正面の床に座り込んで、兄ちゃんが出て来るのを待った。たぶん、兄ちゃんは僕のことでお父さんに話をしに行ったんだと思う。僕を食料にする許可証にサインしたこととか、きっとそういうことをお父さんに言いに行ったんだ。でも、僕は僕のことで兄ちゃんとお父さんの仲が悪くなるのは嫌だった。だから、この家を出るにしても、ちゃんともう一度兄ちゃんに話をしなければならない。僕だって、兄ちゃんとはこのままで別れたくないんだ。
どれ位時間がたったんだろう。ようやくお父さんの部屋のドアが開いて、兄ちゃんが出てきた。僕が廊下に座っているのに気が付くと、すぐに目を反らして兄ちゃんは走り出した。
「待って」
僕が追いつく前に、兄ちゃんは部屋に戻って鍵を掛けた。
「兄ちゃん」
僕は兄ちゃんの部屋のドアを叩いた。でも、兄ちゃんは僕を入れてくれなかった。僕はまた、廊下に座り込んだ。考えた。ずっと、考えた。そして、僕は僕の部屋に戻った。自分の荷物をまとめるために。飼育施設に戻って、食料になる時を待つために。
もうこのまま兄ちゃんとは一生会えないことを覚悟した。意外にも涙は出て来なかった。
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