その後、僕等はいくつかの廃墟を転々とした。こっちの世界に来てから、たぶん、もう2週間位になる。最初に持って来た食料はとっくになくなっていたけど、HNAKC8S21さんは食べられる植物とかを知っていた。そして、こっちの世界では、どこでも植物が生い茂っていた。HNAKC8S21さんとクルムが食べ物を調達しに行っている。僕は一人留守番だ。いや……
僕は役立たずだった。あの発作は日に日に酷くなっていった。今の僕は、ずっと勃起し続けていて、夜も眠れず、身体が震えて立ち上がることさえ出来なかった。そんな僕を、HNAKC8S21さんは背負って移動する。その最中でも、僕は勃起したペニスをHNAKC8S21さんの背中に擦り付けている。荷物は全部クルムが運んでくれている。一度にそんなにたくさんは持てないので、時には半分だけ運んで、その後一旦戻ってもう一度運んだりしていた。二人には本当に申し訳ないと思っていた。こんな僕が、二人の足手まといになっている。動物に襲われたのも2度や3度ではない。その度に、僕はHNAKC8S21さんやクルムに助けられて生き延びていた。
(ごめん……)
心の中では何度も何度もそう繰り返していた。でも、それを口には出来なかった。今の僕はまともにしゃべることも出来ない。身体が震えて、口から泡を吹いていた。まともに出せる声は喘ぎ声だけだ。毎夜毎夜、二人は僕に入れてくれる。それが終わると僕は気を失う。そして、震える体を運んでもらう。
恥ずかしい話だけど、排泄も自分の意思通りには出来なかった。何度も服を汚し、その度にHNAKC8S21さんやクルムが洗ってくれた。やがて、僕の下半身はすぐに脱がせられるように布きれで前と後ろを覆うだけになった。しかし、それはもう一つの問題に繋がった。その布を捲り上げ、入れて欲しいとわめく。簡単にお尻を出せるようになった分、僕の発作がより激しくなった。HNAKC8S21さんに背負われながら、腰を下ろしながら、横になりながら、僕はお尻を覆う布を捲り上げ、入れてくれとせがみ続けた。
(こんなんじゃ、だめだ)
そう心の中では思っていても、体はそれをせがみ続けていた。
「こんなになるとはな」
そんな僕の様子を見ながら、HNAKC8S21さんが言った。僕等は何ヵ所目かの廃墟で夜を明かそうとしていた。クルムが夕食を作り、その横でHNAKC8S21さんが何か木を削っている。
「きっと、もうすぐ治るよ」
「だといいけどな」
声をひそめて話している。そんな会話を勃起させ、体を震わせながら僕は聞いている。
「もう、どれ位になるのかな」
クルムの問いかけに、HNAKC8S21さんは胸のポケットから手帳を取り出し、開いた。
「今日で18日目だ」
二人の会話が途絶える。やがて、クルムが小さな声で言う。
「お父さん……大丈夫かな」
さすがに僕等が逃げ出したことはもう分かっているだろう。お父さんはひょっとしたら逮捕されているかもしれない。
「君達を育てることを任されたくらいに信頼されていたようだからな……それがどっちに転ぶか、だな」
かちゃかちゃと食器の音。やがて、僕のそばにクルムが近づいて来た。
「兄ちゃん、出来たよ」
クルムが体を起こしてくれる。いつも、一番最初に僕に食べさせてくれる。クルムが口に運んでくれる食べ物を食べながら、僕は涙を流す。
「大丈夫だよ、兄ちゃん。きっと良くなるから」
そう言って頭を撫でてくれる。
僕が食べ終えると、クルムはHNAKC8S21さんと一緒に自分の分を食べる。
「さっきの話だけど、お父さんは信頼されてたから、大丈夫かもしれないってこと?」
「その可能性もあるけど、むしろ、信頼されてたが故に、重い処罰を喰らうかもしれない」
「でも、一度も誰も追いかけて来ていないし、ひょっとしたら、誰も気付いてないってことはないかな?」
(それは絶対ないだろうな)
HNAKC8S21さんが僕が思った通りに答えた。すると、クルムはポケットからあの封筒を取り出し、写真を見つめた。
「なにか思い出したか?」
すると、クルムは首を横に振る。
「そうか」
あの写真……僕は考える。体はおかしくなっているけど、頭までおかしくなっている訳じゃなかった。
雌は2168年に絶滅した。学校でもそう習ったし、みんなそう言っている。でも、あの写真。2170年って書いてあった。その写真にお父さんと、雌と、クルムが写っている。たぶん、クルムが産まれてすぐの写真だ。
雌は2168年に絶滅した。この写真が本当に2170年に撮られたんだとしたら、雌は写ってる筈はない。じゃあ、この雌はなんなんだろう……
「あっ」
クルムの声がした。僕はその声の方に目を向ける。火のそばで、HNAKC8S21さんがクルムに覆い被さっている。HNAKC8S21さんはクルムの口に口を押し付けている。クルムは片手をHNAKC8S21さんの頭の後ろに回していた。
僕がおかしくなってから、二人は時々こうやっていた。するなら僕にしてほしい。でも、きっと違うんだ。二人は僕の相手をするのに疲れ切ってるんだ。僕の発作にうんざりしてるんだ。だから、こうやって、二人で気持ちのいいことをするようになったんだろう。クルムがHNAKC8S21さんの胸をはだけ、そこに口を押し付けている。HNAKC8S21さんはそんなクルムの髪の毛をかき回す。クルムは少しずつ体をずらして、やがてその太いペニスを口に含む。そこは既に固くなっている。クルムが体を起こす。HNAKC8S21さんの胸の上に座り、固くなった太いペニスを口に含む。HNAKC8S21さんはクルムのお尻に両手を掛けて、そこに顔を寄せる。
「うんっ」
アナルを舐められて、クルムが声を出す。HNAKC8S21さんはじっくりと舌で舐め回して、そして指を入れる。
「ああっ」
HNAKC8S21さんの体の上でクルムが仰け反った。
「入れて、入れて、入れてぇ」
僕は二人を見ながら既に2回射精していた。二人を邪魔しちゃいけないと思うけど、体が言うことを聞かない。二人に這い寄り、勃起したペニスをHNAKC8S21さんの腕に擦り付ける。
「兄ちゃん」
クルムが僕のペニスに手を伸ばした。でも、HNAKC8S21さんがその手を払いのける。
「我慢させるんだ」
意地悪で言ってるんじゃないってことは分かっている。この発作を治すためにも、僕は我慢しなきゃならないんだ。でも、頭では分かっていても、体は分かっていない。ペニスをHNAKC8S21さんに押し付け、キスをしようとする。でも、HNAKC8S21さんはそんな僕の顔を押し戻す。
「自分でコントロールするんだ」
きつい口調で言った。それは分かってる。分かってるけど……
すると、HNAKC8S21さんがさっき削っていた木を僕に差し出した。それは、ペニスの形をしていた。
「それを使って自分で落ち着かせろ」
その木のペニスはHNAKC8S21さんのペニスと同じような大きさ、太さだった。僕はそれを自分のアナルに押し込んだ。
「はあぁ」
押し当てただけで射精した。
「ああ、兄ちゃん……」
HNAKC8S21さんの本物のペニスが、クルムに入っていた。クルムは口を半分開いて僕を見ていた。僕は自分のアナルの木のペニスを動かす。体がガクガク震え、何度も射精する。
「気持ちいいよね、兄ちゃん」
クルムを太いペニスが突き上げる。
「ああ、兄ちゃん!」
そして、クルムのペニスから精液が噴き出した。同時に僕も射精する。そのまま自分でしごき続ける。更に4回射精して、僕は気を失った。
「ホントは兄ちゃんとしたいんだよ」
ぼんやりとした頭に、そんな声が聞こえた。
「早く良くなってよ、兄ちゃん」
誰かが僕の髪の毛を撫でている。目を開く、僕はクルムに膝枕されて、髪の毛を撫でられていた。
「クル……ム」
「あ、兄ちゃん、起きた?」
クルムの膝に手を当てる。暖かい。そのままもう一度目を瞑る。
「兄ちゃん、お休み」
久しぶりに熟睡した。
目が覚めた。HNAKC8S21さんとクルムは荷物をまとめ、別の場所に向かう準備をしていた。
「あ、兄ちゃん、おはよう」
クルムが明るく声をかけてくれる。
「お、おは、よう」
口の周りの泡を袖で拭いながら僕は言った。
「トモロ!」
HNAKC8S21さんが少し驚いた様子で僕に近づいた。ここしばらく、僕はまともな言葉を口に出来ていなかったからだ。
「少し良くなったか?」
それでもやっぱり勃起している。アナルには、昨日HNAKC8S21さんがくれた木のペニスが入ったままだ。僕は首を左右に振る。
「兄ちゃん、お水」
クルムがカップを差し出す。僕は少し震える両手を差し出し、それを受け取った。すると、クルムとHNAKC8S21さんが顔を見合わせて笑った。
「良かった」
「兄ちゃん」
HNAKC8S21さんが言い、クルムが僕に抱き付いた。
「や、やめろって……またおかしくなる」
クルムは僕から離れる。
「でも、良かった」
なんとなく雰囲気が明るくなった。
「立てるか?」
僕は立ち上がろうとする。膝が震える。まだあまり体に力が入らない。HNAKC8S21さんが手を貸してくれる。
「少し歩いてみるか?」
僕は頷く。
「足手まといでごめんなさい」
ずっと思っていたことをようやく伝えられた。
「そんなこと思ってないよ」
クルムが笑顔で言ってくれた。
「さあ、移動だ。3人一緒にな」
HNAKC8S21さんも明るい声だった。でも、木のペニスは僕のアナルに入ったままだ。
その日は、みんなゆっくりと歩いた。僕のペースに合わせて歩いてくれていた。僕はずいぶん久しぶりに自分で歩いていた。だから、すぐに疲れてしまう。すると、みんなで休憩する。でも、みんな明るかった。特にクルムは楽しそうだった。休憩をむしろ楽しんでいた。僕の横に座って、でも僕の発作が起こらないように僕には触らないようにして、色々と話をした。クルムはあの本、空や雲のことが書いてあったあの本を持って来ていた。その本に書いてあったこと、地平線、緑の木々がたくさん生い茂った森、そして、海。それらは、下の世界では全部空想だと思ってた。それが今、目の前に広がっている。でも、まだ海は見たことがない。だから、僕等は今、海を目指して歩いていた。本には地図も載っていた。本に書いてあったことは全て本当だった。だから、その地図もたぶん本物なんだろう。それによれば、このままずっと東に行けば、海が広がっている。そこまでどれ位時間がかかるのかは分からない。でも、僕等はそこを目指して進んだ。
上の世界に来て、2ヶ月くらいが過ぎていた。僕等は相変わらず海を目指して歩き続けていた。ここまでの道中、地図に書かれていたことは大体正しかった。このまま歩けば、たぶん、あと1ヶ月もしないうちに海にたどり着きそうだった。
僕の発作もかなり良くなっていた。数日に1回の発作の時を除けば、普通にクルムを抱き締めることも出来るし、HNAKC8S21さんに抱き締められても平気になっていた。そして、発作も前ほどは酷くなくなってきていた。大体、誰かに入れてもらわなくても、HNAKC8S21さんにもらった木のペニスで我慢出来た。僕がそれで発作に耐えているのを、クルムとHNAKC8S21さんは見守っていてくれる。僕の発作が治まると、二人は僕を抱き締めてくれる。僕の発作の原因にならないように、最近はHNAKC8S21さんとクルムも二人で入れたりはしていない。だから、僕がもう大丈夫ってなるのを楽しみに待っていてくれている。そんな二人に僕は感謝していた。
そして、この上の世界での生き方にも少し慣れて来た。僕等を襲う獣にも、食べ物の調達にも、水の調達にも。
やがて、僕等はついに海にたどり着いた。上の世界に来てから、3ヶ月が過ぎていた。
初めて見る海。ずっと遠くまでそれは広がっていた。
本にはその水は塩辛いと書いてあった。クルムが試しにその水を飲んでみた。激しく咳き込む。すぐに汲んできていた水を飲ませる。
「おえぇ、辛いよ」
酷い顔だ。僕等は笑った。海はずっと遠くまで青くて、その向こうには空があった。他の所みたいな緑や土色の地面はない。
「この先って、どうなってるのかな」
地図には海から先は書いてない。
「さあな。ここから先には行けなさそうだし、確認する術はないな」
HNAKC8S21さんが僕の隣で言う。HNAKC8S21さんも海を見るのは初めてだ。僕等は3人で座って、海を見つめ続けた。
「さあ、今日の寝場所を見つけないと」
HNAKC8S21さんが荷物を持って立ち上がった。僕とクルムもそれぞれの荷物を持つ。ここまで来る途中、いくつも廃墟があった。取りあえず、一番近い廃墟に戻ることにした。
「そろそろ、居場所を決めないとな」
廃墟で火をおこし、食事を終えた僕等は話し合っていた。
「本にはなにか書いてある?」
僕はクルムに尋ねた。今や、あの本は僕等にとって行き先や行動を決めるための大切なものとなっていた。
「海に近い所は、湧き水とかは塩分が含まれてるから避けた方がいいって」
「じゃ、もっと戻った方が良さそうだな」
僕等は今まで見かけた廃墟の中で、どこが良いか話し合った。あの地下の世界からの出口からはある程度離れていて、水と食料がそれなりに手に入る場所……僕等の中ではそれは3ヶ所に絞られた。ここから1週間くらい戻ったところあたりだ。
「でも、誰も追いかけて来ないね」
クルムが言った。確かに、地下の世界から僕等を捕まえに来そうなのに、誰にも会っていない。
「なんでだろう……」
HNAKC8S21さんが口を開いた。
「クルムは何人もいる……その……」
少し口ごもった。
「クローン?」
僕がその言葉を言う。
「うん。それはクルムだけじゃないから、わざわざ危険を冒して捕まえには来ないのかもしれない。それに」
「それに?」
HNAKC8S21さんが僕を見た。
「もうトモロは特別じゃなくなったのかもしれないし……」
そういえば、HNAKC8S21さんは僕のような特別な子が何人か現れたって前に言っていた。
「だったら、もう、怯える必要はないってこと?」
クルムが言う。
「分からないけど、捕まえに来る可能性は思ってたより低いのかもな。上がどうなっているのかも分かってないだろうし」
僕とクルムは無言で頷いた。しばらくして、クルムがつぶやいた。
「お父さん、大丈夫かなぁ」
それには僕も、HNAKC8S21さんも答えられなかった。正直に言えば、たぶん、無事じゃないと思う。
「あの写真、持ってる?」
僕が尋ねると、クルムはポケットから写真を取り出し、僕に渡した。僕はそれを裏返す。
『クルム 2170年』
前にも見た、雌が絶滅した2年後の年。そして、写真にはお父さんと、クルムを抱いた雌が写っている。
「ねえ、一つの可能性として聞いて欲しいんだけど」
僕はずっと考えていたことを、クルムとHNAKC8S21さんに話し始めた。
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